66 / 153
2章
66話
――あれから二ヶ月が経過した。時間の経過ってあっという間。
二ヶ月の間、色々あった。まずはそれこそ貴族教育! 言葉遣いから始まって、国の歴史とか、ダンスとか、身分が高い人が受ける教育……。
王族の血が流れているわたしには、それが必要なんだって。そのうちに社交界デビューも待っているようなことをいわれた。……わ、わたしが社交界デビューって……。ちなみにデビュタントは成人してから、らしい。
わたしの誕生日はあのカードに記載されていた。『リネット』の誕生日。来年までに完璧な……は無理だろうけれど、それなりになってくれたら良いとのこと。
デビュタントでダンスを踊るパートナーに、ルーカス陛下が立候補していた。良いのか、それで……と思ったけれど、楽しみがないとつまらないといわれたのでうなずいた。
そんなわけで来年のわたしの誕生日は、デビュタントになりそう。そして驚いたことに、神殿に拾われた日と『リネット』の誕生日は同じだった。
つまりわたしは、五歳の誕生日にダラム王国の人たちに攫われたということ。
コンコンコン、とノックの音が聞こえた。
「はーい」
「おはよう、今日はコボルトの音楽の日だよ」
「うん、楽しみ!」
ディーンの声が聞こえた。
ディーンはわたしがダラム王国から追放された後に知り合った最初の人。そして、わたしにとって最初の友達。
元々魔物討伐隊の隊長だったらしい。そこら辺の事情はよく知らない。元魔物討伐隊の人たちは、今ではわたしと一緒に暮らしてくれている。二ヶ月経過したけど、結構仲良くやれているんじゃないかな、と思う。
あと、ディーンはわたしの護衛、らしい。もうひとり、バーナードって人も正式にわたしの護衛。元魔物討伐隊の人たちは護衛というか……屋敷警備? を任せている。
バーナードとディーンは幼馴染なんだって。小さい頃から一緒に過ごしていたみたい。ディーンは公爵家、バーナードは伯爵家の子息。最初はわたしに対してあんまりいい顔をしなかったバーナードだったけど、最近は態度が軟化している気がする……。
まぁ、ギスギスしているよりは良いよね! と前向きに考える。ディーンも待たせているし、そろそろ行こうっと。
扉を開けるとココがぴょんぴょん跳ねながら挨拶をしてきた。
「アクア! おはよう!」
「おはよう、ココ。今日も可愛い~」
思わずデレデレになっちゃうくらいに、毛がモフモフで肉球がぷにぷにのココ。
ココはコボルト。犬みたいな顔をしていて、二足歩行の魔物。人間のことは襲わない、可愛い種族! わたしのお勧めは肉球だ。触るとぷにぷにしていてとっても気持ちが良いの! もちろん、モフモフの毛をブラッシングするのも楽しいし、可愛い。とにかく可愛いとしかいえない。だって可愛いんだもん。
ココは子どもだけど、この屋敷には大人のコボルトたちも暮らしている。
特に目立つのはコボルトの戦士かな。名前をササとセセ。腕相撲でディーンとバーナードに負けてから、彼らに弟子入り? したみたい。とりあえず、ココを抱っこしてそのモフモフを楽しみながらディーンに顔を向けた。
「今日はいい天気ね」
「そうだね、コボルトたちのお祈りのおかげかな」
朝起きたら、礼拝堂で神に祈りを捧げる。それがこの屋敷でのルールだ。起きる時間はみんな一緒ってわけじゃないから、身支度が出来た人から礼拝堂でお祈りすることになっている。……ちなみに、わたしはもうすでに祈りを捧げて来た。
ダラム王国の聖女として暮らして来た十年の月日で、日の出とともに起きることが習慣になってしまっているのだ。わたしと合わせようとしてくれたメイドたちもいるけれど、それは丁重に断った。申し訳ないもん。
正直、ダラム王国で暮らしていた頃にいろいろ教えてもらったから、ひとりで着替えられるし料理できるし、掃除だって出来る。自分のことは自分で、がモットー。……さすがにドレスはひとりじゃ無理だけど。そのドレスだって週に一回だもんね! まだ我慢できる。
コルセットでウエストを細くしてドレスを着るって、ものすっごく苦痛。綺麗なドレスには多少憧れてはいたけど、憧れのままで良かったのかもしれないと思っている。ハイヒールも苦手だしね。
じゃあ現在どんな格好かといえば、聖職者のローブを着ていたりする。ずっと着ていたのだから、楽なんだよね……。
ダラム王国で聖女をしていたから、この格好でもまぁ良いだろうと勝手に思っているの。……いや、そのダラム王国はこの国――アルストル帝国に下ったんだけど。
元ダラム王国の貴族や王族は現在、娯楽もなにもない田舎で農作業をしているとかしていないとか、開拓しているとかしていないとか……、どうやらルーカス陛下はわたしにあまりそういう話をしたくないようで、詳細は教えてもらえなかった。ただ、これだけはいえる。自分らが見下していた平民よりも悪い暮らしを強いられている、と。自業自得……なんだろうけど。
聞いた話によれば、国王であったザカライア陛下と王太子だったオーレリアン殿下は貴族たちにぼっこぼこにされたそうだ。……負の感情を押し付ける相手が欲しかったんだろうなぁ……。
あれだけ腫れあがると元の顔面にならないんじゃないか、という報告を受けたらしい。……人の負の感情って本当に怖い。そんな負の感情を持って、瘴気は大丈夫なんだろうかと考えてしまうのは、元の職業病なのかもしれない……。
「今日はどんな音楽かなぁ」
「気分が晴れるのだと良いね」
「……わたし、そんな顔をしていた?」
こくりとうなずくディーンに、わたしは肩をすくめた。
屋敷の外に出ると、既に馬車が待っていた。バーナードも腕を組んで待っていた。
ま、人生いろいろということで! 聖女をやめた……やめさせられた? わたしは新しい人生を満喫することに決めたのだ。
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
売られたケンカは高く買いましょう《完結》
アーエル
恋愛
オーラシア・ルーブンバッハ。
それが今の私の名前です。
半年後には結婚して、オーラシア・リッツンとなる予定……はありません。
ケンカを売ってきたあなたがたには徹底的に仕返しさせていただくだけです。
他社でも公開中
結構グロいであろう内容があります。
ご注意ください。
☆構成
本章:9話
(うん、性格と口が悪い。けど理由あり)
番外編1:4話
(まあまあ残酷。一部救いあり)
番外編2:5話
(めっちゃ残酷。めっちゃ胸くそ悪い。作者救う気一切なし)
【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね
との
恋愛
離婚したいのですか? 喜んでお受けします。
でも、本当に大丈夫なんでしょうか?
伯爵様・・自滅の道を行ってません?
まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。
収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。
(父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる)
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
32話、完結迄予約投稿済みです。
R15は念の為・・
夫に欠陥品と吐き捨てられた妃は、魔法使いの手を取るか?
里見
恋愛
リュシアーナは、公爵家の生まれで、容姿は清楚で美しく、所作も惚れ惚れするほどだと評判の妃だ。ただ、彼女が第一皇子に嫁いでから三年が経とうとしていたが、子どもはまだできなかった。
そんな時、夫は陰でこう言った。
「完璧な妻だと思ったのに、肝心なところが欠陥とは」
立ち聞きしてしまい、失望するリュシアーナ。そんな彼女の前に教え子だった魔法使いが現れた。そして、魔法使いは、手を差し出して、提案する。リュシアーナの願いを叶える手伝いをするとーー。
リュシアーナは、自身を子を産む道具のように扱う夫とその周囲を利用してのしあがることを決意し、その手をとる。様々な思惑が交錯する中、彼女と魔法使いは策謀を巡らして、次々と世論を操っていく。
男尊女卑の帝国の中で、リュシアーナは願いを叶えることができるのか、魔法使いは本当に味方なのか……。成り上がりを目論むリュシアーナの陰謀が幕を開ける。
***************************
本編完結済み。番外編を不定期更新中。
婚約破棄の日の夜に
夕景あき
恋愛
公爵令嬢ロージーは卒業パーティの日、金髪碧眼の第一王子に婚約破棄を言い渡された。第一王子の腕には、平民のティアラ嬢が抱かれていた。
ロージーが身に覚えのない罪で、第一王子に糾弾されたその時、守ってくれたのは第二王子だった。
そんな婚約破棄騒動があった日の夜に、どんでん返しが待っていた·····
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について
夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。
ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。
しかし、断罪劇は予想外の展開へ。