恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

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2章

68話

 楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、音楽の時間は一時間くらいで終了。「また来週ね!」と元気に手を振るコボルトたちを見て心の中がほわほわと温かくなる。だってみんな楽しそうだったから。
 音楽の日を見届けたわたしたちは、そのまま街を歩くことにした。こういう時でもないと歩けないしね。ちゃんとお金も持って来ているし! 花瓶のひとつでも買って帰ろうかな。この二ヶ月、慣れない生活に慣れるまで、部屋のインテリアとルーカス陛下へのお礼とか考える暇がなかったからね。……ルーカス陛下の誕生日がそろそろらしい。誕生日には貴族たちが集まってお城でお祝いするんだって。わたしもひっそり参加予定だ。顔を隠すヴェールを使うらしい。
 ヴェールって結婚式の時に花嫁が被っているあれよね? あれって顔を隠す効果あったっけ……? と首を傾げたけど、そういう魔法が掛かっているんだって。すごくない? この国の魔法技術……。
 お忍びでというか、まだ社交界デビューしていない貴族の女性が身に着けるらしい。もうよくわからない……。

「それで、アクアはどこに行きたいの?」

 ディーンに問いかけられてわたしは「うーん」と唸る。なんとなく街を見てみたかっただけで、どこに、とは考えていなかった。

「ただ単にいろいろ見てみたかったんだけど……」

 目的がないとダメだったかな? とディーンとバーナードを見ると、ふたりは少し、なにかを考えるように腕を組んでいた。

「……ディーン、買い物ってしたことあるか?」
「……ほとんど家に来ていたよね……」

 ……ああ、なるほど。このふたりは貴族だ。街を歩いて買い物をしたことがないのだろう。……わたしもそうだけど。

「じゃあ、みんな一緒に見回ろうよ。帝都の人たちがどんな風に暮らしているのかを見るのも、大切なことじゃない?」
「……お前本当に平民よりな考え方だよな……」
「そりゃそうよ、わたしに爵位はないし」

 肩をすくめてみせると、ディーンとバーナードは肩をすくめてそれからゆっくりと息を吐いた。てくてく歩きながら、帝都の人たちの顔を見る。マジマジ見ているわけではないから、許して欲しい。
 ……この帝都に暮らしている人たち、結構生き生きしているように見えるのよね……。それはきっと、この場所が安全だと思っているから。七人で結界を守っているんだ、それもそうだろう。
 守られているという実感があるかどうかわからないけれど……。

「音楽の日が出来て、メリハリも出来たのかもね」

 周りを見渡しながら、ディーンがそういった。わたしは同意するように小さくうなずく。コボルトの奏でる音楽が、帝都の人たちに受け入れられた。その日を楽しみに仕事をがんばっている人もいるとフィロメナに聞いた。そのうち、コボルトと人間のセッションも聞けるかもしれないね!

「……ところで、一体なにが欲しかったんだ?」

 あてもなく歩いているからか、バーナードが聞いて来た。わたしは「花瓶やハンカチ」と答えると雑貨店を探すことになった。なんでそのチョイスなんだ、と聞かれたけど、思い付いたのがそれだけだったのだ。ダラム王国で暮らしていた時は、聖女の仕事が多くて部屋のインテリアなんて考える余裕なかったし、誰かにプレゼントすることもなかった。
 土魔法のゴーレムはあげたことあるけど……、あれはタダだし……。お礼には使えないだろう、多分。

「ハンカチは渡されているんじゃない?」
「プレゼントとしてのハンカチが欲しいのよ。ルーカス陛下の誕生日プレゼント」
「……ああ、そういう……」

 わたしが自分で使う分はちゃんと持っている。……というか、いつの間にか用意されていた。

「……あれ?」

 目の前をすっと横切ったのはスーザンさんだ。思わずわたしは大きな声で彼女の名を呼ぶ。わたしたちに気付いたスーザンさんは一瞬目を瞬かせ、それからすっとスカートを持ち上げてカーテシーをした。

「おはようございます! 買い物ですか?」
「……アクアさま。私に対し、敬語はおやめください」
「えっ?」

 スーザンさんは穏やかな口調で、それでもきっぱりとそういった。いきなりのことに目を瞬かせると、ちらりとディーンへ視線を向ける。ディーンは頬を掻いていた。

「良いですか、アクアさま。あなたは高貴な血が流れているお方なのです。それを忘れてはいけません」

 ……わたしに王族の血が流れているって話、どこまで広がっているんだろう……?

「……ええと、ちょっと待ってください。誰から聞いたんですか?」
「もちろん、ディーンさまから」

 そういえばわたしにお給料くれたのってもしかしてスーザンさんだったり……するのかな? それなら、この態度もなんとなく納得がいく。

「……ディーン、一体どんな説明をしたの……?」
「見たままを話したよ」
「……そう」

 上流階級のことはよくわからないけれど……、わたしがスーザンさんよりも偉いってわけでもないんだけどなぁ……。目上の人に敬語を使うのは普通のことじゃないのか……ディーンとバーナードには敬語使っていないけど……。彼らはわたしの中で友達の分類だからね! バーナードがどう思っているか知らないけれど!

「簡単に経緯はお聞きしました。リネットさま」
「……え、もしかして、あなたもわたしを知っていたの!?」
「……知っていたもなにも、私は元々シャーリーさまの侍女でしたので……」

 ぽかんと口を開いてしまった。だって、その言葉はあまりにも意外だったから。思わず、彼女の手をがしっと掴んだ。

「そ、そこら辺、詳しく教えてください!」

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