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2章
69話
まさかこんなに近くに知っている人がいるとは思わなかった……!
わたしの母である『シャーリー』。どんな人だったんだろう、とこの二ヶ月たまに考えていたのよね。スーザンさんは懐中時計を取り出して、緩やかに首を振った。
「本日は用事があるので……、後日、お話ししましょう」
「本当っ?」
私が目をキラキラと輝かせてそういうと、スーザンさんは目元を細めて小さくうなずいた。
「連絡はディーンさまに。それでは、失礼いたします」
「うん、楽しみにしてるね!」
砕けた口調でそういうと、スーザンさんは小さく口角を上げて頭を下げ、その場から去って行った。……その動きの優雅さに思わず息を吐く。スーザンさんっていつも背筋がピンとしていて、格好良いなぁ……!
「……シャーリーさまのことが気になるの?」
「だって大聖女ステラの話は耳にするけど……」
その子どもたちの話は耳にしないんだもん……。もしかして、記憶を失ったわたしに遠慮しているのかなぁとも考えたんだけど、『シャーリー』のことについて、誰も話題にしないのも不自然な気がして……。
「……記憶を取り戻したいか?」
「……ん~、なんとも言えないかな。思い出したら、わたしはわたしでいられるかどうかわからないし」
まぁ、『リネット』の記憶なんて五年分……いや、人の記憶って三歳くらいからだっけ? ってことは、二年分の記憶しか持っていないわけで……。あとは『アクア』として過ごしてきたからね! わたしはわたしのままでいられると思うけど……、どうなるのかわからないから、ちょっと怖いよね。
だって本当にきれいさっぱり忘れているんだもの。
記憶喪失ってこんなにもきれいさっぱり忘れて、思い出せないものなんだろうか。ルーカス陛下が月に一度検診を受けるようにって、お医者さん(女性)を紹介してくれたけど、健康だってお墨付き。
記憶を取り戻す可能性はあるけれど、それがいつになるかはわからないっていわれている。すぐに戻る人もいれば、戻らない人もいる。わたしの場合十年も戻っていないから、このままのような気がしないでもない。
でも、失った記憶の中になにか、大事なことがあるんじゃないかって不安になることがあるの。
「……君にとって、つらいことだとしても?」
ディーンの窺うような声に、わたしは肩をすくめてみせた。それからディーンに向けて首を傾げる。
「わかんない」
それが素直な気持ちだ。
ただ、両親のことを知りたいなって思った。
大聖女ステラの子どもたち。長女、長男、次女の三人。わたしの母である『シャーリー』は末っ子だったみたい。
そして、長女がノースモア公爵夫人。長男は亡くなったとのこと。……つまり、大聖女ステラの子どもは、ノースモア公爵夫人以外、命を落としたということ。……ルーカス陛下は十五歳で帝国を背負うことになった。……きっと、いろいろ大変だったろうなぁと思う。
十五歳の少年がこの帝国をまとめるなんて……わたしには想像がつかない。
元老院とのいざこざもありそうだし……。そもそも、ルーカス陛下の父親がなぜ亡くなったのか……。想像するといろいろ怖いよね! 王家のいざこざって! 気になって調べたら、わたしも消されるんじゃないかってたまに思う。
だけどさ……、気になってしまうのは仕方のないことだと思うのよ。謎が多すぎるんだもん。どうしてタイミングよくわたしを攫えたのか、両親たちはどうなったのか……。元老院のおじいちゃんの中に、瘴気の浄化を拒む人がいたとか……!
そのおじいちゃん、神の祝福を受けていなかったけどね。わたしには視えた。浄化も祝福もダメってことは……おじいちゃんは神の存在を信じていないのかな。それとも……なにか理由があるのかな。
一度話してみたいけれど、元老院のおじいちゃんって中々会わない! 会ってなにを話すんだって聞かれても、ちょっと困るけれど……。とりあえず、無難に天気の話題から入ろうかな?
「――とりあえず、そこの店にでも入ってみるか? ここで立ち止まっているのも……迷惑だろうし」
「……そうね、そうしましょ」
バーナードにいわれて、道端でじっと動いていないことに気付いた。バーナードが指差したお店に入ってみることに。雑貨店だ! わたしが考え込んでいる間に、バーナードは雑貨店を探してくれたみたい。
……うーん、こういうのって自分で選んだことあんまりないから、自分のセンスが良いのか悪いのか悩むわね……。とはいえ、わたしの部屋飾りがなーんもないから、花でも飾りたいのよね……。
花があると少しは殺風景もマシになるかなって。絵画とかは壺とかはさっぱりわからないし……。あ、でも自分が良いなって思えるものに出会えたら、飾ってみたいかな。
「あ、これ綺麗!」
わたしが手にした花瓶を見たディーンが、「うん、すごく綺麗な青色だね」と感心したように呟いた。
「一目惚れしたなら買ったほうが良いぞ。次に来た時はないかもしれないし」
「そういうこともあるのか……。ええと……値段は……うん、買える金額だわ!」
思わずぐっと拳を握る。あとはハンカチ……。練習用に白いハンカチが欲しいのよね。なんの練習って刺繍だ。淑女には必須らしいよ。貴族の考えってよくわからない。
ルーカス陛下にプレゼントするなら、こういうのが良いのかなぁと思ったの。だって既製品じゃつまらない。……面白がってどうするんだってちょっと考えたけどね!
それでも、既製品をプレゼントしてお礼にするのは、なんか違うなぁって……。それなら、今現在家庭教師もいることだし、習ってしまおう! そう思ったのよ。ルーカス陛下の誕生日までに完成できるかどうかは不安が残っているけどね!
わたしの母である『シャーリー』。どんな人だったんだろう、とこの二ヶ月たまに考えていたのよね。スーザンさんは懐中時計を取り出して、緩やかに首を振った。
「本日は用事があるので……、後日、お話ししましょう」
「本当っ?」
私が目をキラキラと輝かせてそういうと、スーザンさんは目元を細めて小さくうなずいた。
「連絡はディーンさまに。それでは、失礼いたします」
「うん、楽しみにしてるね!」
砕けた口調でそういうと、スーザンさんは小さく口角を上げて頭を下げ、その場から去って行った。……その動きの優雅さに思わず息を吐く。スーザンさんっていつも背筋がピンとしていて、格好良いなぁ……!
「……シャーリーさまのことが気になるの?」
「だって大聖女ステラの話は耳にするけど……」
その子どもたちの話は耳にしないんだもん……。もしかして、記憶を失ったわたしに遠慮しているのかなぁとも考えたんだけど、『シャーリー』のことについて、誰も話題にしないのも不自然な気がして……。
「……記憶を取り戻したいか?」
「……ん~、なんとも言えないかな。思い出したら、わたしはわたしでいられるかどうかわからないし」
まぁ、『リネット』の記憶なんて五年分……いや、人の記憶って三歳くらいからだっけ? ってことは、二年分の記憶しか持っていないわけで……。あとは『アクア』として過ごしてきたからね! わたしはわたしのままでいられると思うけど……、どうなるのかわからないから、ちょっと怖いよね。
だって本当にきれいさっぱり忘れているんだもの。
記憶喪失ってこんなにもきれいさっぱり忘れて、思い出せないものなんだろうか。ルーカス陛下が月に一度検診を受けるようにって、お医者さん(女性)を紹介してくれたけど、健康だってお墨付き。
記憶を取り戻す可能性はあるけれど、それがいつになるかはわからないっていわれている。すぐに戻る人もいれば、戻らない人もいる。わたしの場合十年も戻っていないから、このままのような気がしないでもない。
でも、失った記憶の中になにか、大事なことがあるんじゃないかって不安になることがあるの。
「……君にとって、つらいことだとしても?」
ディーンの窺うような声に、わたしは肩をすくめてみせた。それからディーンに向けて首を傾げる。
「わかんない」
それが素直な気持ちだ。
ただ、両親のことを知りたいなって思った。
大聖女ステラの子どもたち。長女、長男、次女の三人。わたしの母である『シャーリー』は末っ子だったみたい。
そして、長女がノースモア公爵夫人。長男は亡くなったとのこと。……つまり、大聖女ステラの子どもは、ノースモア公爵夫人以外、命を落としたということ。……ルーカス陛下は十五歳で帝国を背負うことになった。……きっと、いろいろ大変だったろうなぁと思う。
十五歳の少年がこの帝国をまとめるなんて……わたしには想像がつかない。
元老院とのいざこざもありそうだし……。そもそも、ルーカス陛下の父親がなぜ亡くなったのか……。想像するといろいろ怖いよね! 王家のいざこざって! 気になって調べたら、わたしも消されるんじゃないかってたまに思う。
だけどさ……、気になってしまうのは仕方のないことだと思うのよ。謎が多すぎるんだもん。どうしてタイミングよくわたしを攫えたのか、両親たちはどうなったのか……。元老院のおじいちゃんの中に、瘴気の浄化を拒む人がいたとか……!
そのおじいちゃん、神の祝福を受けていなかったけどね。わたしには視えた。浄化も祝福もダメってことは……おじいちゃんは神の存在を信じていないのかな。それとも……なにか理由があるのかな。
一度話してみたいけれど、元老院のおじいちゃんって中々会わない! 会ってなにを話すんだって聞かれても、ちょっと困るけれど……。とりあえず、無難に天気の話題から入ろうかな?
「――とりあえず、そこの店にでも入ってみるか? ここで立ち止まっているのも……迷惑だろうし」
「……そうね、そうしましょ」
バーナードにいわれて、道端でじっと動いていないことに気付いた。バーナードが指差したお店に入ってみることに。雑貨店だ! わたしが考え込んでいる間に、バーナードは雑貨店を探してくれたみたい。
……うーん、こういうのって自分で選んだことあんまりないから、自分のセンスが良いのか悪いのか悩むわね……。とはいえ、わたしの部屋飾りがなーんもないから、花でも飾りたいのよね……。
花があると少しは殺風景もマシになるかなって。絵画とかは壺とかはさっぱりわからないし……。あ、でも自分が良いなって思えるものに出会えたら、飾ってみたいかな。
「あ、これ綺麗!」
わたしが手にした花瓶を見たディーンが、「うん、すごく綺麗な青色だね」と感心したように呟いた。
「一目惚れしたなら買ったほうが良いぞ。次に来た時はないかもしれないし」
「そういうこともあるのか……。ええと……値段は……うん、買える金額だわ!」
思わずぐっと拳を握る。あとはハンカチ……。練習用に白いハンカチが欲しいのよね。なんの練習って刺繍だ。淑女には必須らしいよ。貴族の考えってよくわからない。
ルーカス陛下にプレゼントするなら、こういうのが良いのかなぁと思ったの。だって既製品じゃつまらない。……面白がってどうするんだってちょっと考えたけどね!
それでも、既製品をプレゼントしてお礼にするのは、なんか違うなぁって……。それなら、今現在家庭教師もいることだし、習ってしまおう! そう思ったのよ。ルーカス陛下の誕生日までに完成できるかどうかは不安が残っているけどね!
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