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2章
74話
神官長から昔聞いたおばけの話。夜中に壁をすり抜けて金縛りにするっていう……そして金縛りにした人の魂を抜いていっちゃうっていう……っ! ああ、今思い出しただけで怖いっ!
ぞぞぞ、と背筋に悪寒が走って思わずココをぎゅっと抱きしめると、起きたココから「く、る、しい……っ」とバシバシ腕を叩いて来た。
「わぁ、ごめんっ」
「きゅ、急にどうしたの、アクア?」
「いや、ちょっと……えへへ。えーっと、誰からかな?」
適当に笑って誤魔化し、鳥に触れると文字が浮かび上がる。やはりというか、まぁ、わたしに連絡をくれるのはルーカス陛下くらいよね、と思いながら文章を読んだ。ディナーのお誘いだ。
あの屋敷で暮らし始めて二ヶ月、週に三~四回はこうして誘われる。ランチだったりディナーだったり、結構バラバラだけど……。断る理由もないし、最近ではルーカス陛下との食事も楽しめるようになった。素晴らしい変化だと思わない?
返事の文章を書いて、ぎゅっと手の中に包み込む。鳥になり、ルーカス陛下の元に飛び立った。……天井をすり抜けて。
……せめて窓からにしてくれないかな……。
二ヶ月で大分慣れて来たと思う。この暮らしにも、人間関係にも。
みんなきちんと朝起きたら礼拝堂でお祈りしてくれているしね。あんなに澄んだ空気なのだ、居心地がよく感じるのも当然だろう。日に日に、朝のお祈りの時間が長くなっている人たちがいる。
「大聖女ステラって、結婚して引退したの?」
「子どもを産むまでは現役だったって聞いていたけど……」
「じゃあ、ルーカス陛下が持っている剣って、いつ神力を……?」
素朴な疑問はいくつも出て来る。大聖女ステラに関してはかなり噂が広がっているけれど、その家族については良く知らないし。……っていうか、聖女や聖者って力を失うまで神殿で暮らすものだと思っていたから、この国のように割と自由に動いているのを見て本当に驚いた。
七人集まって結界を維持しているってわけではないみたいだし……。そりゃあ一日中力を使うのもきついだろうけど……。
「いつだろう……。おばあさまが生きている頃だろうけど……」
「だよね……、でもさ、結婚して子どもを産んだら聖女ではないんだよね……?」
「……あ……」
なにかを思い出したのか、バーナードがぽつりと呟いた。わたしたちが彼に視線を向けると、彼は緩やかに首を左右に振る。話すつもりはない、ってことか。
「ディーン、後で話がある」
「わかった」
「……バーナードの、ディーンへの態度もよくわかんない」
最初のほうは『隊長』と呼んで、割と敬語を使っていた気がするけど、気付いたら呼び捨てで砕けた口調になっているし……。いや、ふたりは幼馴染だから、こっちのほうが普通なのかも?
「こっちが素だよ、バーナード」
「うん、だろうね」
「お前ら相手にかしこまるほうが疲れると気付いただけだ」
もしもディーンが本当にルーカス陛下のお兄さんの子だとしたら、わたしとディーンは王族の血を引いているってことだから、バーナードのような態度を取ってくれる人は少ないだろう。……ああ、そっか、だからディーンはバーナードの言葉遣いを指摘しないのね。こうして、普通に喋ってくれる人が貴重だから。
「……いいなぁ」
「……? なにが?」
「わたしにも友達欲しいなぁ……」
「え、オレ、アクアの友達じゃなかった?」
「友達だけど、ディーンとバーナードのような関係が羨ましいなぁって」
ふたりは顔を見合わせて、それからゆっくりと息を吐いた。息ぴったりね、このふたり……。幼馴染って似るのかしら?
「そんなに友達が欲しかったら、学園に通うって手もあるんじゃないか?」
「学園?」
「そ。貴族が通う学園があるんだよ」
「……ふたりは通ってた?」
「いや、オレは通ってない」
「俺も」
……通っていないふたりがなぜ、友達が出来るといえるのか……。じとーっとした視線を向けると、ふたり揃って顔を背けた。そういうところもそっくり。
……まぁ、顔の系統は違うけど。ルーカス陛下とディーンを並べると、なるほど確かにちょっと似ていると思うくらい。バーナードは……顔は結構イケメンだと思うけれど、基本仏頂面だから勿体ない気がする。ああ、わたしたちと話している時はそれなりに表情豊かかもしれない。
「婚約者の話に戻るけどさ」
「あ、うん……」
「学園に通っている生徒たちにもいるもの?」
「いるヤツにはいるんじゃね?」
……そうだろうけど……。想像できないなぁ、婚約者のいる学園生活。そもそも学園に通ったこともないしね。
「……婚約者ねぇ……。やっぱり想像の出来ない話だわ」
「こんやくしゃ? ってなに?」
「この人と結婚しますよーっていう約束?」
ココに尋ねられて、わたしは少し考えてそう答えた。間違ってはいないハズだ。そういえば、コボルトにもあるのだろうか、そういうの。
「番い?」
「番い……ってなに?」
「おとうさんと、おかあさん!」
夫婦のことを番いって呼んでいるのかな? わたしが「そう、そういう感じ!」とココの頭を撫でると、ココは嬉しそうに尻尾を振っていた。
「コボルトはどうやって番いを見つけるの?」
「んっとねー……、匂い? いい匂いのするコボルトと番うよ!」
いい匂いのするコボルト……。匂いでわかるのか、鼻が良いんだろうだぁ。
「人間は?」
「好きになった人とか、家柄とか……?」
「……婚約者のいないオレらに聞かれると、返答に困るね……」
「だな……」
ぞぞぞ、と背筋に悪寒が走って思わずココをぎゅっと抱きしめると、起きたココから「く、る、しい……っ」とバシバシ腕を叩いて来た。
「わぁ、ごめんっ」
「きゅ、急にどうしたの、アクア?」
「いや、ちょっと……えへへ。えーっと、誰からかな?」
適当に笑って誤魔化し、鳥に触れると文字が浮かび上がる。やはりというか、まぁ、わたしに連絡をくれるのはルーカス陛下くらいよね、と思いながら文章を読んだ。ディナーのお誘いだ。
あの屋敷で暮らし始めて二ヶ月、週に三~四回はこうして誘われる。ランチだったりディナーだったり、結構バラバラだけど……。断る理由もないし、最近ではルーカス陛下との食事も楽しめるようになった。素晴らしい変化だと思わない?
返事の文章を書いて、ぎゅっと手の中に包み込む。鳥になり、ルーカス陛下の元に飛び立った。……天井をすり抜けて。
……せめて窓からにしてくれないかな……。
二ヶ月で大分慣れて来たと思う。この暮らしにも、人間関係にも。
みんなきちんと朝起きたら礼拝堂でお祈りしてくれているしね。あんなに澄んだ空気なのだ、居心地がよく感じるのも当然だろう。日に日に、朝のお祈りの時間が長くなっている人たちがいる。
「大聖女ステラって、結婚して引退したの?」
「子どもを産むまでは現役だったって聞いていたけど……」
「じゃあ、ルーカス陛下が持っている剣って、いつ神力を……?」
素朴な疑問はいくつも出て来る。大聖女ステラに関してはかなり噂が広がっているけれど、その家族については良く知らないし。……っていうか、聖女や聖者って力を失うまで神殿で暮らすものだと思っていたから、この国のように割と自由に動いているのを見て本当に驚いた。
七人集まって結界を維持しているってわけではないみたいだし……。そりゃあ一日中力を使うのもきついだろうけど……。
「いつだろう……。おばあさまが生きている頃だろうけど……」
「だよね……、でもさ、結婚して子どもを産んだら聖女ではないんだよね……?」
「……あ……」
なにかを思い出したのか、バーナードがぽつりと呟いた。わたしたちが彼に視線を向けると、彼は緩やかに首を左右に振る。話すつもりはない、ってことか。
「ディーン、後で話がある」
「わかった」
「……バーナードの、ディーンへの態度もよくわかんない」
最初のほうは『隊長』と呼んで、割と敬語を使っていた気がするけど、気付いたら呼び捨てで砕けた口調になっているし……。いや、ふたりは幼馴染だから、こっちのほうが普通なのかも?
「こっちが素だよ、バーナード」
「うん、だろうね」
「お前ら相手にかしこまるほうが疲れると気付いただけだ」
もしもディーンが本当にルーカス陛下のお兄さんの子だとしたら、わたしとディーンは王族の血を引いているってことだから、バーナードのような態度を取ってくれる人は少ないだろう。……ああ、そっか、だからディーンはバーナードの言葉遣いを指摘しないのね。こうして、普通に喋ってくれる人が貴重だから。
「……いいなぁ」
「……? なにが?」
「わたしにも友達欲しいなぁ……」
「え、オレ、アクアの友達じゃなかった?」
「友達だけど、ディーンとバーナードのような関係が羨ましいなぁって」
ふたりは顔を見合わせて、それからゆっくりと息を吐いた。息ぴったりね、このふたり……。幼馴染って似るのかしら?
「そんなに友達が欲しかったら、学園に通うって手もあるんじゃないか?」
「学園?」
「そ。貴族が通う学園があるんだよ」
「……ふたりは通ってた?」
「いや、オレは通ってない」
「俺も」
……通っていないふたりがなぜ、友達が出来るといえるのか……。じとーっとした視線を向けると、ふたり揃って顔を背けた。そういうところもそっくり。
……まぁ、顔の系統は違うけど。ルーカス陛下とディーンを並べると、なるほど確かにちょっと似ていると思うくらい。バーナードは……顔は結構イケメンだと思うけれど、基本仏頂面だから勿体ない気がする。ああ、わたしたちと話している時はそれなりに表情豊かかもしれない。
「婚約者の話に戻るけどさ」
「あ、うん……」
「学園に通っている生徒たちにもいるもの?」
「いるヤツにはいるんじゃね?」
……そうだろうけど……。想像できないなぁ、婚約者のいる学園生活。そもそも学園に通ったこともないしね。
「……婚約者ねぇ……。やっぱり想像の出来ない話だわ」
「こんやくしゃ? ってなに?」
「この人と結婚しますよーっていう約束?」
ココに尋ねられて、わたしは少し考えてそう答えた。間違ってはいないハズだ。そういえば、コボルトにもあるのだろうか、そういうの。
「番い?」
「番い……ってなに?」
「おとうさんと、おかあさん!」
夫婦のことを番いって呼んでいるのかな? わたしが「そう、そういう感じ!」とココの頭を撫でると、ココは嬉しそうに尻尾を振っていた。
「コボルトはどうやって番いを見つけるの?」
「んっとねー……、匂い? いい匂いのするコボルトと番うよ!」
いい匂いのするコボルト……。匂いでわかるのか、鼻が良いんだろうだぁ。
「人間は?」
「好きになった人とか、家柄とか……?」
「……婚約者のいないオレらに聞かれると、返答に困るね……」
「だな……」
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