恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

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2章

76話

 ……それにしても、本当にすごいなぁ。セシリーたちのセンス。聖職者のローブくらいしか着なかったから、こういうドレスってどんなものが似合うのかわからない。それをセシリーたちはきっちりとわたしに似合うドレスを選び、メイクして、ヘアスタイルまで変えてくれる。

「出来ました」
「ありがとう……」

 ……コルセットはやっぱり苦手だけど。ハイヒールも苦手だけど……。姿見で自分の姿を確認して、思わずほう、と息を吐く。別人みたい。髪もきっちりと結い上げてもらっている。

「アクア、用意出来た?」
「出来たよ!」
「それじゃあ向かうか」

 扉の外から声が掛かる。ディーンとバーナードだ。わたしは返事をしてから、セシリーたちにもう一度お礼をいって、「行って来るね!」と軽く手を振った。セシリーたちは微笑みを浮かべてから「行ってらっしゃいませ」と頭を下げる。
 正直まだハイヒールで歩くのには慣れないけれど、最初に歩いた時よりはマシになったと思う。
 支えられなくても歩けるくらいにはなったしね!
 ディーンとバーナードと一緒に王城へ向かう馬車へ乗り、ルーカス陛下の元へと向かう。この距離で馬車を使うのって贅沢よね……。なんて考えながら、ゆっくりと深呼吸をした。
 慣れたとはいえ、この格好で歩くと王城の人たちが振り返る。ディーンとバーナードもいるからだろう。一緒に暮らしてみて、そしてディーンたちのことを知っている人たちから話を聞いて、元魔物討伐隊の話を聞いたりもした。コボルトたちも参加して、いろんな話をしたのよね。
 王城について、馬車から降り、歩き出す。もう門番たちとも顔見知りだ。

「お待ちしておりました、アクアさま」
「ルーカス陛下がお待ちです」

 そういって扉を開いてくれる。ルーカス陛下と食事をすることが多くなったからか、それともただ単にわたしのことが珍しいのか、視線はちくちく刺さる。王城で暮らしている人々の視線。二ヶ月経つのにそれは減らない。むしろ増えているような気がする。来年の誕生日が過ぎたらもっと視線が刺さる気がする……。
 ルーカス陛下の待っている食堂へと歩いていく。慣れて来たとはいえ、ハイヒールで歩くのは思っていた以上に時間が掛かる。
 食堂につくと、既にルーカス陛下が席に座っていた。彼はわたしたちに気付くと目元を細めてこっちへ来いと手招いた。わたしがルーカス陛下の近くに座ると、食事が運ばれて来る。今日も美味しそうな料理だ。
 ディーンとバーナードも一緒に食事をすることが許可されているので、一緒に食べる。みんな貴族の教育を受けているからか、食べ方が綺麗なのよね。そのことに感心しつつ、自分の食事に集中する。正直にいうと料理名って全然わからない。こういうところで食べる料理だと余計に。
 そんなことを忘れさせてくれるくらい、美味しいんだけどね。
 食事をしながら、今日のことを話した。
 コボルトたちの音楽を、楽しみにしてくれている人たちが増えたことや、魔物に関しての話。ラシードの魔王についての話は、ルーカス陛下も興味深そうに聞いていた。

「魔王か……」
「西のほうにはいるらしいです」
「……だろうな」

 肩をすくめてみせるルーカス陛下に、わたしは首を傾げる。ルーカス陛下、魔王についてなにか知っているのかな?
 そう考えたけど、考えただけで終わった。

「街の様子はどうだった?」
「瘴気は多少あったけど、気にならない程度でした」

 思ったよりも長く、浄化の力が作用しているなぁって印象。わたしが浄化してからそれなりに時間が経過しているのに、多少の瘴気が視えるくらいだもん。
 人が暮らしていれば、どうしたって瘴気は生まれてしまう。
 が、これだけ人が多い帝都なのに、生まれて来る瘴気の量は少ない。不思議だ。

「……瘴気はどういう風に視える?」

 ルーカス陛下に問われて、わたしは少し考えた。

「黒いもやが視えます。濃かったり、薄かったり」

 ちなみに濃いのはすぐに浄化しないとダメだ。瘴気に飲まれてしまうから。

「……最初に視た、この国はどうだった?」
「ん~……と……中間……?」

 目を閉じて思い出してみる。濃いところもあれば薄いところもあったような気がする。でも、どうして今それを聞くのだろう?

「ダラム王国は?」
「そこそこ? ああ、でもここよりは人口が少ないから、結界を張り直すの四年に一回で良かったのよね……」

 あ、敬語外れちゃった。恐る恐るルーカス陛下を見ると、ちょっと嬉しそうに口角を上げている。

「その喋り方で良いのに」
「だってルーカス陛下は一番偉い人だから……」
「アクアの身内だが?」

 それはそうかもしれないけれど……。うーん。

「身内といえばディーンもそうでしょ?」

 ディーンはルーカス陛下に敬語を使っているし、わたしが使っていてもおかしくないと思う。ちらりとディーンに視線を向けると、困ったように微笑んだ。
 そしてそんな会話を聞いていたバーナードは呆れたような表情をしていた。

「使い分ければいいのでは?」
「使い分ける?」
「人前では敬語、身内だけの時は砕けた口調」

 バーナードの案に、ルーカス陛下はなるほど、と呟いた。……え、もしかしてその案採用?

「しかし中々身内だけになる時がないからな……」

 とても残念そうに息を吐いたのを見て、もしかして心の拠り所が欲しいのかなとも思った。上に立つ人ってどうしても孤独になりがち……な気がするし。
 そりゃあね、寄って来る人たちは多いと思う。思うけど……、その人たちを信頼出来るかどうかは別だもんね……。

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