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2章
81話
玄関まで行くと既に馬車が到着していた。わたしはディーンにエスコートされながら馬車に乗り、目的地を告げる。バーナードがひらひら手を振るのが見えた。ディーンも馬車に乗り扉を閉めると、すぐに馬車が走り出す。流れる風景を眺めながら目当ての刺繍糸があることを祈る。あ、でも歩きたいからちょっと遠いところで降ろしてもらおうかな。
そんなことを考えながら、街まで向かう。
ディーンに歩きたいと伝えると、すぐにバーナードに合図を送った。近くに馬車を停めて、ここからは歩いていく。馬車でばっかり移動していたら、折角の景色も楽しめないしね。馬車の窓から眺める風景も好きだけどさ。
「ここら辺で馬車を預かってくれるところに行って来るから、先に行っていていいぞ」
「じゃあそうしようか」
「うん、バーナード、また後で」
ん、とバーナードが小さくうなずくのを見て、わたしたちは先に目的地に向かう。目的地は逃げないから、ゆっくりと歩きながら街並みを堪能する。
「……あっという間の二ヶ月だったなぁ……」
「そうだね。大分落ち着いて来た?」
「なんとなくね。しっかし、本当に大聖女ステラの話ばかり聞いている気がする!」
「こっちに顔を出す頻度が少なかったからじゃない? シャーリーさまに関しては」
「……前の陛下ってどんな人だったか、聞いてもいいもの?」
ルーカス陛下のお父さんが、前国王だったんだよね。亡くなったらしいけど。ディーンはちょっと考えるように視線を巡らせて、「うーん」と唸ってしまった。
「ええと、体調が悪くなってからは悪政だったかな」
「それって」
「多分、陛下の指示ではないことが行われていた。……体調が崩れてからはあっという間に寝たきりになったし」
……これは本当にわたしが聞いても良い話なんだろうか……冷や汗が出て来たぞ!
「あ、アクアの屋敷にはちゃんとわかっている人たちしか入れていないから、安心してね」
「安心するところなの、それ……?」
「見たことのない人がうろうろ歩いていたら怖くない?」
「いろんな意味で怖いよ!」
想像してゾッとした。そりゃあほら、王城はいろんな人が働いているし、いろんな人が出入りしているから、わたしたちが住んでいる屋敷では徹底的に厳選……というのも変だけど……しているってことかな。
「コボルトたちの嗅覚のおかげで助かっているよ」
「……え、どういうこと?」
「コボルトたちが知らない匂いの人を教えてくれるからね」
「ありがとう、コボルトたち!」
思わずぐっと拳を握ってそう叫んだ。街行く人たちがびっくりしたようにこっちを見たので、慌てて頭を下げる。その様子を見たディーンが肩をすくめて、わたしを宥めるようにぽんぽんと肩を叩いた。
「――なに叫んでるんだよ……」
「あ、バーナード。早かったね」
「馬車預かってもらうだけだからな」
そういってディーンとは反対側を歩く。真ん中に挟まれたわたしはふたりを見上げて小さく息を吐いた。視線が痛い。
「……ここら辺の街並みも大分良くなったよなぁ……」
「陛下の努力の結晶だねぇ……」
しみじみと呟くふたりに首を傾げる。とても綺麗な街並みだと思っていたけど、こんなに綺麗になるのにはいろいろあったみたい? よくわからないけれど……。
「ふたりってさ……」
「うん?」
「生まれも育ちもここ?」
わたしの問いに、バーナードはディーンをじっと見つめた。……なんでそんな苦しそうな表情でディーンを見るんだろう。
「一応、そのハズだけど……」
「ハズ?」
「いやほら、どこで出産したかは聞いていないし……」
「あ……」
そうだ、ディーンの出生ってよくわからない感じだった! ハッとして「ごめん!」と謝ると、ディーンは「気にしなくて良いよ」っていってくれた。呆れたようなバーナードの視線も痛い。
「……ちなみに俺は生まれも育ちもこの国」
「西から移住してきたってのは?」
「さぁ? 本当なんじゃないか。領地西寄りだし。……なんで?」
「今朝ディーンに、シャーリーさまが暮らしていた街のこと聞いたから」
ああ、と納得したように首を縦に動かすバーナード。自分の母親だとは理解しているけれど、ついシャーリーさまと呼んでしまう。記憶がないから、そうなのか……それとも、わたしがそういう人なのか……。
「ふたりともここが故郷なんだなぁと思って……」
「……まぁな」
「そうだね。でも、ここがアクアの故郷にもなるんだよ」
「……そうね」
正直にいえば、故郷と聞いて思い浮かぶのはダラム王国の神殿だ。
でもきっと、このままこの国に住み続けていたら、ここが故郷だと胸を張っていえるようになるのだと思う。それがどのくらいの期間住んでからになるのかは、わからないけど。
「アルストル帝国広いから、いろんなところを見るには計画を立てないとダメよね……」
「旅にでも出るの?」
「それも良いなぁと思いまーす!」
明るい声でそういうと、ディーンとバーナードはなにかを考えるように目を伏せて、それからゆっくりと息を吐いた。……いけたらいいなって感じなんだけど……。
「別に今すぐってわけじゃないよ?」
「わかってる」
「うん……そうだね、いつか、行けたら良いね……?」
ふたりの複雑そうな表情を見て、当分旅は無理そうだなぁと思った。
そんなことを考えながら、街まで向かう。
ディーンに歩きたいと伝えると、すぐにバーナードに合図を送った。近くに馬車を停めて、ここからは歩いていく。馬車でばっかり移動していたら、折角の景色も楽しめないしね。馬車の窓から眺める風景も好きだけどさ。
「ここら辺で馬車を預かってくれるところに行って来るから、先に行っていていいぞ」
「じゃあそうしようか」
「うん、バーナード、また後で」
ん、とバーナードが小さくうなずくのを見て、わたしたちは先に目的地に向かう。目的地は逃げないから、ゆっくりと歩きながら街並みを堪能する。
「……あっという間の二ヶ月だったなぁ……」
「そうだね。大分落ち着いて来た?」
「なんとなくね。しっかし、本当に大聖女ステラの話ばかり聞いている気がする!」
「こっちに顔を出す頻度が少なかったからじゃない? シャーリーさまに関しては」
「……前の陛下ってどんな人だったか、聞いてもいいもの?」
ルーカス陛下のお父さんが、前国王だったんだよね。亡くなったらしいけど。ディーンはちょっと考えるように視線を巡らせて、「うーん」と唸ってしまった。
「ええと、体調が悪くなってからは悪政だったかな」
「それって」
「多分、陛下の指示ではないことが行われていた。……体調が崩れてからはあっという間に寝たきりになったし」
……これは本当にわたしが聞いても良い話なんだろうか……冷や汗が出て来たぞ!
「あ、アクアの屋敷にはちゃんとわかっている人たちしか入れていないから、安心してね」
「安心するところなの、それ……?」
「見たことのない人がうろうろ歩いていたら怖くない?」
「いろんな意味で怖いよ!」
想像してゾッとした。そりゃあほら、王城はいろんな人が働いているし、いろんな人が出入りしているから、わたしたちが住んでいる屋敷では徹底的に厳選……というのも変だけど……しているってことかな。
「コボルトたちの嗅覚のおかげで助かっているよ」
「……え、どういうこと?」
「コボルトたちが知らない匂いの人を教えてくれるからね」
「ありがとう、コボルトたち!」
思わずぐっと拳を握ってそう叫んだ。街行く人たちがびっくりしたようにこっちを見たので、慌てて頭を下げる。その様子を見たディーンが肩をすくめて、わたしを宥めるようにぽんぽんと肩を叩いた。
「――なに叫んでるんだよ……」
「あ、バーナード。早かったね」
「馬車預かってもらうだけだからな」
そういってディーンとは反対側を歩く。真ん中に挟まれたわたしはふたりを見上げて小さく息を吐いた。視線が痛い。
「……ここら辺の街並みも大分良くなったよなぁ……」
「陛下の努力の結晶だねぇ……」
しみじみと呟くふたりに首を傾げる。とても綺麗な街並みだと思っていたけど、こんなに綺麗になるのにはいろいろあったみたい? よくわからないけれど……。
「ふたりってさ……」
「うん?」
「生まれも育ちもここ?」
わたしの問いに、バーナードはディーンをじっと見つめた。……なんでそんな苦しそうな表情でディーンを見るんだろう。
「一応、そのハズだけど……」
「ハズ?」
「いやほら、どこで出産したかは聞いていないし……」
「あ……」
そうだ、ディーンの出生ってよくわからない感じだった! ハッとして「ごめん!」と謝ると、ディーンは「気にしなくて良いよ」っていってくれた。呆れたようなバーナードの視線も痛い。
「……ちなみに俺は生まれも育ちもこの国」
「西から移住してきたってのは?」
「さぁ? 本当なんじゃないか。領地西寄りだし。……なんで?」
「今朝ディーンに、シャーリーさまが暮らしていた街のこと聞いたから」
ああ、と納得したように首を縦に動かすバーナード。自分の母親だとは理解しているけれど、ついシャーリーさまと呼んでしまう。記憶がないから、そうなのか……それとも、わたしがそういう人なのか……。
「ふたりともここが故郷なんだなぁと思って……」
「……まぁな」
「そうだね。でも、ここがアクアの故郷にもなるんだよ」
「……そうね」
正直にいえば、故郷と聞いて思い浮かぶのはダラム王国の神殿だ。
でもきっと、このままこの国に住み続けていたら、ここが故郷だと胸を張っていえるようになるのだと思う。それがどのくらいの期間住んでからになるのかは、わからないけど。
「アルストル帝国広いから、いろんなところを見るには計画を立てないとダメよね……」
「旅にでも出るの?」
「それも良いなぁと思いまーす!」
明るい声でそういうと、ディーンとバーナードはなにかを考えるように目を伏せて、それからゆっくりと息を吐いた。……いけたらいいなって感じなんだけど……。
「別に今すぐってわけじゃないよ?」
「わかってる」
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