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2章
87話
「……でもほら、無事だったし。というか、あの人なんでナイフ振り回していたの?」
「……それがな、わからないんだとよ」
「……は?」
「覚えてないそうだ」
……わたしは多分、ものすごくイヤそうな表情を浮かべたと思う。また記憶の話題だ。記憶に関する話題は、今日はもうおしまいでお願いします。頭の中が混乱してるから!
「その話題はまた後でな、今日はもう休んどけ」
「そうする……」
再びベッドに横になると、毛布を掛けてくれた。
「……明日には、多分大丈夫になってるから」
「ああ、おやすみ」
くしゃりと頭を撫でられて、わたしはそのまま目を閉じた。
☆☆☆
そして翌日、昨日散々泣いたからかなんだかスッキリした感じがする!
早起きしてしまったので、申し訳ないけれどセシリーを起こしに行った。セシリーの部屋まで行って、扉をノックするとセシリーが「はい?」と返事をした。……あれ、早いねセシリー、と思いつつ、声を掛けるとバタバタ足音が聞こえて勢いよく扉が開いた。
びっくりして目を丸くすると、セシリーがわたしの姿を見てぎゅうっと手を握って来た。
「良かった、アクアさま……」
「心配かけちゃったね、ごめん、ありがとう。……それでね、あの、相談があるんだけど……」
わたしは眉を下げて微笑む。昨日泣いたから、目がまだ腫れぼったい。だから、セシリーにそれを誤魔化すための化粧をお願いしようと思っていたのだ。
「えっと、ちょっといろいろあって、目が腫れぼったくなったから、化粧で誤魔化してくれないかな~って」
「……まずは、冷やしタオルを用意しますね。それからにしましょう」
「じゃあ、部屋に戻っているね」
すぐに向かいます、と丁寧に一礼してからセシリーは微笑んだ。わたしは「うん」とうなずいてから部屋に戻った。部屋に戻って、椅子に座っていると本当にすぐにセシリーが来てくれた。
セシリーはてきぱきとタオルを濡らして冷やし、ぎゅっと絞ってからわたしの目元に置き、それを数度繰り返してから今度はマッサージを始めた。心地良い適度な力加減でマッサージされて、メイドってこんなことも出来ないとダメなんだろうかと一瞬考えた。それから、今度はスキンケアが始まり、メイクが始まった。
彼女の手によってどんどんと綺麗になっていく。自分で自分のことを綺麗っていうのも変だけど、メイクしたわたしは別人のように見えるからなぁ……。
「出来ました、いかがですか?」
「わ、ありがとう、バッチリ!」
目の腫れをカバーしてくれたし、今朝起きてびっくりした顔色の悪さもカバーされていた。ほんのりとチークが塗られているから、それでカバーしてくれたのかな? ごめん、化粧の仕方よく知らないから合っているかどうかわからない。
聖女としての公務をする時は別の人が担当してくれていたし。そりゃあ、わたしも女性だし、綺麗になるのは嬉しかったけど……毎日出来るかといえば……ね?
「本当ありがとう、セシリー! 助かった!」
「いいえ、お役に立てたのなら光栄です」
酷い顔で礼拝堂に行くのもなんだし、セシリーに綺麗にしてもらってから祈りに行こうと思っていた。彼女も誘って礼拝堂へ向かうと、既に数人が祈りを捧げていた。びっくり。
……まだ朝早いのに……、と思いつつ、わたしたちも中に入って祈りを捧げ始める。
――記憶を取り戻しました。きっと、わたしの家族が神の御許にいると思います。どうか、彼らのことをよろしくお願いいたします――……。
返事のように身体が温かくなる。
ルーカス陛下の誕生日が過ぎたら、花を捧げに行くね、と心の中で呟いた。
祈りを捧げ終わると、みんながわたしを見ていた。「どうしたの?」と首を傾げると、ココが飛びついて来た。
「アクア! 具合、もう平気?」
ああ、そっか、心配してくれているのか。
「うん、もう大丈夫! 元気だよ!」
安心させるように微笑み、ココの頭を撫でる。ココは「本当? 本当?」と不安そうに聞いて来た。
「本当、本当。もう大丈夫! ……それでね、改めてみんなに話したいことがあるから、集めてくれないかな?」
ココの頭をもう一度撫でてから、顔を上げてみんなを見る。みんな、それぞれ不思議そうだったり心配そうだったりしたけど、こくりとうなずいてくれた。
すぐに礼拝堂を出て行き、他のみんなを起こしに行く。そして、それから数分後に礼拝堂に全員が集まった。早い。
わたしはみんなを座らせると、ひとりだけ立ち上がり、前のほうへと歩く。くるりと身体を反転させてみんなの顔を見た。
「……わたしね、五歳くらいから前の記憶がなかったの。その記憶が、……戻ったの」
わたしはなるべく淡々とした口調で話す。昨日散々泣いたから、大分落ち着いているし……。
心配そうにわたしを見るみんなに、わたしは一瞬目を伏せた。それから、すっとカーテシーをしてからもう一度みんなを見て、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「……シャーリー・ヴィヴィアン・ウィルモットの娘、リネット・アンジェリカ・ウィルモット。改めて、みんなに挨拶を。……とはいえ、アクア・ルックスとして生きてきた時間のほうが長いし、呼ばれ慣れているアクアって呼んでね」
――もう一度、ここから始めよう。『アクア』と『リネット』、そのどちらも、正しく『わたし』であるから。
みんなが息を飲んだ音が聞こえた。……きっとみんな、あの事件を伝聞で知っているのだろう。
「……それがな、わからないんだとよ」
「……は?」
「覚えてないそうだ」
……わたしは多分、ものすごくイヤそうな表情を浮かべたと思う。また記憶の話題だ。記憶に関する話題は、今日はもうおしまいでお願いします。頭の中が混乱してるから!
「その話題はまた後でな、今日はもう休んどけ」
「そうする……」
再びベッドに横になると、毛布を掛けてくれた。
「……明日には、多分大丈夫になってるから」
「ああ、おやすみ」
くしゃりと頭を撫でられて、わたしはそのまま目を閉じた。
☆☆☆
そして翌日、昨日散々泣いたからかなんだかスッキリした感じがする!
早起きしてしまったので、申し訳ないけれどセシリーを起こしに行った。セシリーの部屋まで行って、扉をノックするとセシリーが「はい?」と返事をした。……あれ、早いねセシリー、と思いつつ、声を掛けるとバタバタ足音が聞こえて勢いよく扉が開いた。
びっくりして目を丸くすると、セシリーがわたしの姿を見てぎゅうっと手を握って来た。
「良かった、アクアさま……」
「心配かけちゃったね、ごめん、ありがとう。……それでね、あの、相談があるんだけど……」
わたしは眉を下げて微笑む。昨日泣いたから、目がまだ腫れぼったい。だから、セシリーにそれを誤魔化すための化粧をお願いしようと思っていたのだ。
「えっと、ちょっといろいろあって、目が腫れぼったくなったから、化粧で誤魔化してくれないかな~って」
「……まずは、冷やしタオルを用意しますね。それからにしましょう」
「じゃあ、部屋に戻っているね」
すぐに向かいます、と丁寧に一礼してからセシリーは微笑んだ。わたしは「うん」とうなずいてから部屋に戻った。部屋に戻って、椅子に座っていると本当にすぐにセシリーが来てくれた。
セシリーはてきぱきとタオルを濡らして冷やし、ぎゅっと絞ってからわたしの目元に置き、それを数度繰り返してから今度はマッサージを始めた。心地良い適度な力加減でマッサージされて、メイドってこんなことも出来ないとダメなんだろうかと一瞬考えた。それから、今度はスキンケアが始まり、メイクが始まった。
彼女の手によってどんどんと綺麗になっていく。自分で自分のことを綺麗っていうのも変だけど、メイクしたわたしは別人のように見えるからなぁ……。
「出来ました、いかがですか?」
「わ、ありがとう、バッチリ!」
目の腫れをカバーしてくれたし、今朝起きてびっくりした顔色の悪さもカバーされていた。ほんのりとチークが塗られているから、それでカバーしてくれたのかな? ごめん、化粧の仕方よく知らないから合っているかどうかわからない。
聖女としての公務をする時は別の人が担当してくれていたし。そりゃあ、わたしも女性だし、綺麗になるのは嬉しかったけど……毎日出来るかといえば……ね?
「本当ありがとう、セシリー! 助かった!」
「いいえ、お役に立てたのなら光栄です」
酷い顔で礼拝堂に行くのもなんだし、セシリーに綺麗にしてもらってから祈りに行こうと思っていた。彼女も誘って礼拝堂へ向かうと、既に数人が祈りを捧げていた。びっくり。
……まだ朝早いのに……、と思いつつ、わたしたちも中に入って祈りを捧げ始める。
――記憶を取り戻しました。きっと、わたしの家族が神の御許にいると思います。どうか、彼らのことをよろしくお願いいたします――……。
返事のように身体が温かくなる。
ルーカス陛下の誕生日が過ぎたら、花を捧げに行くね、と心の中で呟いた。
祈りを捧げ終わると、みんながわたしを見ていた。「どうしたの?」と首を傾げると、ココが飛びついて来た。
「アクア! 具合、もう平気?」
ああ、そっか、心配してくれているのか。
「うん、もう大丈夫! 元気だよ!」
安心させるように微笑み、ココの頭を撫でる。ココは「本当? 本当?」と不安そうに聞いて来た。
「本当、本当。もう大丈夫! ……それでね、改めてみんなに話したいことがあるから、集めてくれないかな?」
ココの頭をもう一度撫でてから、顔を上げてみんなを見る。みんな、それぞれ不思議そうだったり心配そうだったりしたけど、こくりとうなずいてくれた。
すぐに礼拝堂を出て行き、他のみんなを起こしに行く。そして、それから数分後に礼拝堂に全員が集まった。早い。
わたしはみんなを座らせると、ひとりだけ立ち上がり、前のほうへと歩く。くるりと身体を反転させてみんなの顔を見た。
「……わたしね、五歳くらいから前の記憶がなかったの。その記憶が、……戻ったの」
わたしはなるべく淡々とした口調で話す。昨日散々泣いたから、大分落ち着いているし……。
心配そうにわたしを見るみんなに、わたしは一瞬目を伏せた。それから、すっとカーテシーをしてからもう一度みんなを見て、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「……シャーリー・ヴィヴィアン・ウィルモットの娘、リネット・アンジェリカ・ウィルモット。改めて、みんなに挨拶を。……とはいえ、アクア・ルックスとして生きてきた時間のほうが長いし、呼ばれ慣れているアクアって呼んでね」
――もう一度、ここから始めよう。『アクア』と『リネット』、そのどちらも、正しく『わたし』であるから。
みんなが息を飲んだ音が聞こえた。……きっとみんな、あの事件を伝聞で知っているのだろう。
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