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2章
89話
自分の部屋に戻って、今度こそとばかりに白いハンカチと刺繍道具を取り出す。
いろいろあったけど、ルーカス陛下の誕生日プレゼントは用意しなくっちゃ。お祝い、お祝い……刺繍……。
前にスケッチした絵を取り出して、その中からどんなものが良いかなぁと考える。
ひとりになって、椅子に背を預けるように座る。……うーん、こういう刺繍って、もしかしたらあの人が詳しいかもしれないなぁ。
そう考えて、わたしはスラスラと文字を書いてぎゅっと手の中に入れた。連絡鳥を飛ばして、返事を待つ。すると、思ったよりもすぐに返事が来た。
午後から伺います、とのことだ。
それじゃあ、それまでどんな絵にしようか考えておこうっと。ルーカス陛下をお祝いする気持ちが一番だし、どうせなら綺麗に刺繍したハンカチを渡したい。
「あ、お客さまが来ること伝えておかないと!」
お茶やお茶菓子の準備もお願いしないといけないからね。椅子から立ち上がって自室から出て、近くにいたメイドに話し掛けると、快く引き受けてくれた。
それからまた自室に戻り、どんな刺繍にしようか考えていると、あっという間に約束の時間になった。
わたしが話し掛けたメイドが門番にも伝えてくれていたらしく、スムーズに彼女が入ることが出来た。
「――ごきげんよう、アクアさま」
にこり、と微笑む綺麗な女性――聖女、リリィ。
そう、わたしが呼んだのは彼女だったのだ。
「ごきげんよう、リリィさま。急に呼んでしまって申し訳ありません」
「いいえ、一度このお屋敷に入ってみたかったので、嬉しいです」
「……? この屋敷に、ですか?」
「はい、大聖女ステラの住んでいた場所ですから……。とても澄んでいて、心地の良い場所ですね」
「うん、わたしもそこ気に入っています」
わかってくれるのが嬉しくて思わずにこにこと笑みを浮かべてしまう。それに気付いたリリィは小さく口角を動かす。うーん、優雅、という言葉がぴったりな表情ね。
「アクアさま、どうか敬語を使わないでください」
「え?」
「わたくしは、アクアさまの事情を知っていますもの」
胸元で手を組んでそういう彼女に納得した。……そっか、そうだよね。彼女はあの時居たんだもの。
「……わかった。じゃあ、こっちに来てくれるかな?」
わたしは彼女を応接間に連れて行った。応接間につくと、彼女を座らせて、お茶とお茶菓子の準備をメイドにお願いする。メイドは既に準備をしていたようで、素早く渡してくれた。プロとはこのことか。
「……それで、わたくしに御用とのことでしたが、いかがなさいました? 神殿で暮らす決断でもなされましたか?」
「いや、この屋敷で暮らしているから……神殿に行くことは考えてないな」
そうですか……、とちょっと残念そうに眉を下げるリリィに、肩をすくめてみせる。メイドが淹れてくれたお茶を飲んでから、わたしは真剣な表情でリリィを見つめた。
「……リリィは、刺繍得意?」
「刺繍、ですか? そうですね、得意なほうだと思います」
その言葉を聞いて、わたしはぱっと表情を明るくした。良かった!
「あのね、わたし……ルーカス兄さまの誕生日に刺繍のハンカチをプレゼントしようと思うんだけど……」
「ルーカス、兄さま……?」
「あ、ああ、記憶がね、戻ったの」
「……まぁ、そうだったのですね。それは……」
リリィは辛そうに表情をしかめた。彼女も、知っているということか、わたしの家族のことを……。どんな結末だったかのかを含めて。だから、そんなに悲しそうなのだろう。
「……申し訳ありません、アクアさま……いえ、リネットさまのほうがおつらいのに……」
「えっと、うん。正直混乱はしたけど、いろいろあって……。ええと、そこは割愛するとして、誕生日プレゼントにこんな感じの刺繍を入れたいのだけど……」
リリィに話す内容ではないだろうな、と思いながら話を元に戻す。リリィも、少し滲んできた涙をハンカチで押さえてからわたしが描いた刺繍の絵を見る。
「可愛らしいですね」
「ルーカス兄さまが持つにはちょっと変かな……?」
「どうでしょうか……。ルーカス陛下なら、喜んで受け取ると思いますが……」
まぁ、わたしもそれは思った。ルーカス陛下、わたしに甘いから。甘やかされている気がするもん。それがいいのか悪いのかと聞かれるとちょっと……いや、かなり返答に困る。
「そうだとは思うんだけど、綺麗なものを渡したいのよ……」
「良い心掛けだと思います」
「それともうひとつ、リリィに聞きたいことがあったの」
「聞きたいこと、ですか?」
こくりとうなずくと、リリィは不思議そうに首を傾げた。
「大聖女ステラのことを、教えて欲しいの」
いろいろあったけど、ルーカス陛下の誕生日プレゼントは用意しなくっちゃ。お祝い、お祝い……刺繍……。
前にスケッチした絵を取り出して、その中からどんなものが良いかなぁと考える。
ひとりになって、椅子に背を預けるように座る。……うーん、こういう刺繍って、もしかしたらあの人が詳しいかもしれないなぁ。
そう考えて、わたしはスラスラと文字を書いてぎゅっと手の中に入れた。連絡鳥を飛ばして、返事を待つ。すると、思ったよりもすぐに返事が来た。
午後から伺います、とのことだ。
それじゃあ、それまでどんな絵にしようか考えておこうっと。ルーカス陛下をお祝いする気持ちが一番だし、どうせなら綺麗に刺繍したハンカチを渡したい。
「あ、お客さまが来ること伝えておかないと!」
お茶やお茶菓子の準備もお願いしないといけないからね。椅子から立ち上がって自室から出て、近くにいたメイドに話し掛けると、快く引き受けてくれた。
それからまた自室に戻り、どんな刺繍にしようか考えていると、あっという間に約束の時間になった。
わたしが話し掛けたメイドが門番にも伝えてくれていたらしく、スムーズに彼女が入ることが出来た。
「――ごきげんよう、アクアさま」
にこり、と微笑む綺麗な女性――聖女、リリィ。
そう、わたしが呼んだのは彼女だったのだ。
「ごきげんよう、リリィさま。急に呼んでしまって申し訳ありません」
「いいえ、一度このお屋敷に入ってみたかったので、嬉しいです」
「……? この屋敷に、ですか?」
「はい、大聖女ステラの住んでいた場所ですから……。とても澄んでいて、心地の良い場所ですね」
「うん、わたしもそこ気に入っています」
わかってくれるのが嬉しくて思わずにこにこと笑みを浮かべてしまう。それに気付いたリリィは小さく口角を動かす。うーん、優雅、という言葉がぴったりな表情ね。
「アクアさま、どうか敬語を使わないでください」
「え?」
「わたくしは、アクアさまの事情を知っていますもの」
胸元で手を組んでそういう彼女に納得した。……そっか、そうだよね。彼女はあの時居たんだもの。
「……わかった。じゃあ、こっちに来てくれるかな?」
わたしは彼女を応接間に連れて行った。応接間につくと、彼女を座らせて、お茶とお茶菓子の準備をメイドにお願いする。メイドは既に準備をしていたようで、素早く渡してくれた。プロとはこのことか。
「……それで、わたくしに御用とのことでしたが、いかがなさいました? 神殿で暮らす決断でもなされましたか?」
「いや、この屋敷で暮らしているから……神殿に行くことは考えてないな」
そうですか……、とちょっと残念そうに眉を下げるリリィに、肩をすくめてみせる。メイドが淹れてくれたお茶を飲んでから、わたしは真剣な表情でリリィを見つめた。
「……リリィは、刺繍得意?」
「刺繍、ですか? そうですね、得意なほうだと思います」
その言葉を聞いて、わたしはぱっと表情を明るくした。良かった!
「あのね、わたし……ルーカス兄さまの誕生日に刺繍のハンカチをプレゼントしようと思うんだけど……」
「ルーカス、兄さま……?」
「あ、ああ、記憶がね、戻ったの」
「……まぁ、そうだったのですね。それは……」
リリィは辛そうに表情をしかめた。彼女も、知っているということか、わたしの家族のことを……。どんな結末だったかのかを含めて。だから、そんなに悲しそうなのだろう。
「……申し訳ありません、アクアさま……いえ、リネットさまのほうがおつらいのに……」
「えっと、うん。正直混乱はしたけど、いろいろあって……。ええと、そこは割愛するとして、誕生日プレゼントにこんな感じの刺繍を入れたいのだけど……」
リリィに話す内容ではないだろうな、と思いながら話を元に戻す。リリィも、少し滲んできた涙をハンカチで押さえてからわたしが描いた刺繍の絵を見る。
「可愛らしいですね」
「ルーカス兄さまが持つにはちょっと変かな……?」
「どうでしょうか……。ルーカス陛下なら、喜んで受け取ると思いますが……」
まぁ、わたしもそれは思った。ルーカス陛下、わたしに甘いから。甘やかされている気がするもん。それがいいのか悪いのかと聞かれるとちょっと……いや、かなり返答に困る。
「そうだとは思うんだけど、綺麗なものを渡したいのよ……」
「良い心掛けだと思います」
「それともうひとつ、リリィに聞きたいことがあったの」
「聞きたいこと、ですか?」
こくりとうなずくと、リリィは不思議そうに首を傾げた。
「大聖女ステラのことを、教えて欲しいの」
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