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2章
92話
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というわけで、呼んでみました、バーナード。夜遅くに呼ぶのはどうかと思ったので早朝に呼び出してみた。礼拝堂に。この時間ならあんまり人は居ないだろうし。早朝に呼び出すのも悪いかなぁとは思ったんだけど、日中だと絶対ディーンも一緒だろうしね。
出来ればディーンにはこのまま生きていて欲しい。護衛として、騎士として、しっかりとわたしをサポートしてくれているのは感じているし、そもそも彼に出会ってなかったら帝都アールテアに入れていたのかも怪しい。ディーンにもらった恩は返したいもん。ダラム王国を追放された時はこっちに恩を返せと思ったけど。
早朝ということもあり、扉を開けると音のない世界のようだ。誰も起こさないようにそうっと抜け出して、浮遊魔法を使い足音を消す。礼拝堂まで飛んで行って、扉を開けた。わたしが呼び出したのだから、遅れるわけにはいかない――と思っていたのに、バーナードは既に来ていたようだ。静かに扉を閉めて、彼に近付く。
「ごめん、待った?」
「いや、今来たとこ」
そんな会話をしてから、まずは朝のお祈り。しっかりと祈ってから、バーナードに声を掛ける。
「……昨日ね、聖女リリィと話したの」
「ああ、そうみたいだな。神殿の馬車が見えた」
「うん。それでね、リリィから大聖女ステラのことを聞いたの」
「……そ。なにか知りたいことがあったのか?」
「……うん、まぁ。それで――」
昨日のことをかいつまんでバーナードに伝えると、バーナードはとってもわかりやすく表情を歪めた。
「……なにを考えているのかさっぱりわからん」
「良かった、わたしだけじゃなかった」
そうよね、わからないのが普通よね! ホッと胸を撫でおろすと、バーナードが言葉を続けた。……というより、独り言に近い気もした。
「……そういえば塔に近付くなって言われたことがあったな……」
「……え、まさか……生きている……?」
「……亡霊だったりして」
「やめて!」
おばけは絶対に会いたくないのよ! 絶対に近付かないでおこう。そうしよう。
「しっかし、この国いろいろすごいな……」
「人体実験って感じよねぇ……。……ステラは、結婚相手のことどう思っていたんだろう」
「……シャーリーさまを溺愛していたってことも気になるよな。それに、誰も大聖女ステラ並みの力は得なかったようだし。……むしろそのすべてをお前が引き継いでいるように見えるし」
「……ステラはわたしが産まれる一年前に神力を手放した。今、ルーカス陛下が使っている剣はステラが神力を注いだ剣で、神の祝福を受けた」
「……は?」
驚いたような、呆れたような声だった。そういえば聖剣セイリオスって、ルーカス陛下公表してないな。……そして、ルーカス陛下のいっていた、わたしとの『約束』。これに関してはもう思い出せていた。
「小さい頃ね、ルーカス兄さまが約束してくれたことがあるの」
「約束?」
「その頃のわたし、ものすっごく人見知りだったのよね。まともに話せるのは家族とルーカス兄さまくらい。だからかな、多分、とても心配してくれていたのだと思う。わたしが望んだことを叶えるって言ってくれたのよ」
わたしが望んだこと――この屋敷に暮らすことや、わたしが選んだ人たちを屋敷に住ませること。コボルトのことに対してもそうだ。彼は、わたしの願いを叶えてばかり。……わたしも、彼の願いを叶えられたら良いのだけど……。もちろん、わたしに出来る範囲で。
「今のお前から到底思えない過去だな……」
「それはまぁ、わたしもそう思うけど……。でも事実よ。よくお母さまの後ろに隠れてたもん。知らない人が怖かったし、あれ、考えてみれば瘴気がずっと見えていたのかも……」
わたしの目に視えた黒いもや。幼心に怖いと思っていたあの頃。……そうだ、お母さまに相談したことがある。どうしてみんなに黒いものが視えるの、と――……。お母さまはそれを聞いて、驚いていたし、「……まさか」と呟いていた。そしてぎゅっと抱きしめてくれた。
『大丈夫よ、リネット。お母さまが傍にいるでしょう?』
――そういって、安心させてくれたのだ。……うう、思い出すと勝手に涙が出てきた。ハンカチを取り出そうとする前に、目の前にハンカチが現れた。ずいっとバーナードが差し出していたのだ。
それを受け取って涙を拭く。
「ありがとう」
「記憶を取り戻してすぐなんだから、あまり無理するな」
「……うん……」
涙を拭いて、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。少し、気持ちが落ち着いた。
「泣いてばかりね、わたし……」
「それだけ、お前にとって大事な家族だったんだろ」
「……そうだね。うん、……大切な、人たちだったの……」
人が目の前で傷つくのを見るのはイヤ。失いたくない人たちがたくさんいる。
「感情がごっちゃ混ぜになってる感じ。……あんまり良くないね、ぐるぐるして」
「良いんじゃねぇの、別に。一日二日で整理できるもんでもねぇだろ?」
「それはそうだけど……」
……なんでこういう時に限って優しくするんだろう。また涙腺が緩むじゃないか。ちょっと八つ当たり的なことを考えつつ、わたしはもう一度涙を拭った。
出来ればディーンにはこのまま生きていて欲しい。護衛として、騎士として、しっかりとわたしをサポートしてくれているのは感じているし、そもそも彼に出会ってなかったら帝都アールテアに入れていたのかも怪しい。ディーンにもらった恩は返したいもん。ダラム王国を追放された時はこっちに恩を返せと思ったけど。
早朝ということもあり、扉を開けると音のない世界のようだ。誰も起こさないようにそうっと抜け出して、浮遊魔法を使い足音を消す。礼拝堂まで飛んで行って、扉を開けた。わたしが呼び出したのだから、遅れるわけにはいかない――と思っていたのに、バーナードは既に来ていたようだ。静かに扉を閉めて、彼に近付く。
「ごめん、待った?」
「いや、今来たとこ」
そんな会話をしてから、まずは朝のお祈り。しっかりと祈ってから、バーナードに声を掛ける。
「……昨日ね、聖女リリィと話したの」
「ああ、そうみたいだな。神殿の馬車が見えた」
「うん。それでね、リリィから大聖女ステラのことを聞いたの」
「……そ。なにか知りたいことがあったのか?」
「……うん、まぁ。それで――」
昨日のことをかいつまんでバーナードに伝えると、バーナードはとってもわかりやすく表情を歪めた。
「……なにを考えているのかさっぱりわからん」
「良かった、わたしだけじゃなかった」
そうよね、わからないのが普通よね! ホッと胸を撫でおろすと、バーナードが言葉を続けた。……というより、独り言に近い気もした。
「……そういえば塔に近付くなって言われたことがあったな……」
「……え、まさか……生きている……?」
「……亡霊だったりして」
「やめて!」
おばけは絶対に会いたくないのよ! 絶対に近付かないでおこう。そうしよう。
「しっかし、この国いろいろすごいな……」
「人体実験って感じよねぇ……。……ステラは、結婚相手のことどう思っていたんだろう」
「……シャーリーさまを溺愛していたってことも気になるよな。それに、誰も大聖女ステラ並みの力は得なかったようだし。……むしろそのすべてをお前が引き継いでいるように見えるし」
「……ステラはわたしが産まれる一年前に神力を手放した。今、ルーカス陛下が使っている剣はステラが神力を注いだ剣で、神の祝福を受けた」
「……は?」
驚いたような、呆れたような声だった。そういえば聖剣セイリオスって、ルーカス陛下公表してないな。……そして、ルーカス陛下のいっていた、わたしとの『約束』。これに関してはもう思い出せていた。
「小さい頃ね、ルーカス兄さまが約束してくれたことがあるの」
「約束?」
「その頃のわたし、ものすっごく人見知りだったのよね。まともに話せるのは家族とルーカス兄さまくらい。だからかな、多分、とても心配してくれていたのだと思う。わたしが望んだことを叶えるって言ってくれたのよ」
わたしが望んだこと――この屋敷に暮らすことや、わたしが選んだ人たちを屋敷に住ませること。コボルトのことに対してもそうだ。彼は、わたしの願いを叶えてばかり。……わたしも、彼の願いを叶えられたら良いのだけど……。もちろん、わたしに出来る範囲で。
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「それはまぁ、わたしもそう思うけど……。でも事実よ。よくお母さまの後ろに隠れてたもん。知らない人が怖かったし、あれ、考えてみれば瘴気がずっと見えていたのかも……」
わたしの目に視えた黒いもや。幼心に怖いと思っていたあの頃。……そうだ、お母さまに相談したことがある。どうしてみんなに黒いものが視えるの、と――……。お母さまはそれを聞いて、驚いていたし、「……まさか」と呟いていた。そしてぎゅっと抱きしめてくれた。
『大丈夫よ、リネット。お母さまが傍にいるでしょう?』
――そういって、安心させてくれたのだ。……うう、思い出すと勝手に涙が出てきた。ハンカチを取り出そうとする前に、目の前にハンカチが現れた。ずいっとバーナードが差し出していたのだ。
それを受け取って涙を拭く。
「ありがとう」
「記憶を取り戻してすぐなんだから、あまり無理するな」
「……うん……」
涙を拭いて、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。少し、気持ちが落ち着いた。
「泣いてばかりね、わたし……」
「それだけ、お前にとって大事な家族だったんだろ」
「……そうだね。うん、……大切な、人たちだったの……」
人が目の前で傷つくのを見るのはイヤ。失いたくない人たちがたくさんいる。
「感情がごっちゃ混ぜになってる感じ。……あんまり良くないね、ぐるぐるして」
「良いんじゃねぇの、別に。一日二日で整理できるもんでもねぇだろ?」
「それはそうだけど……」
……なんでこういう時に限って優しくするんだろう。また涙腺が緩むじゃないか。ちょっと八つ当たり的なことを考えつつ、わたしはもう一度涙を拭った。
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