恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

文字の大きさ
93 / 153
2章

93話

 感情がいろいろ混ざってよくわからない感覚になるけれど、大丈夫。バーナードには悪いけれど、わたしの事情を知っている人に話せるのは、心の整理に繋がるから。

「……妹がいるから、慰めるの慣れてる?」
「それもあるけど……、まぁ、最初に悪いことしたな、とは思っていたから」
「……敵意あったもんね」

 ダラム王国から瘴気の森に飛ばされたあと、バーナードと初めて会った時を思い出して小さく笑う。不審者を見る感じだったもんね。

「王族と同じ色の髪と瞳を持つ女なんて、怪しく見えて当然だろ……」
「ノースモア公爵邸でそこら辺突っ込まれなかったけどなぁ」
「ディーンが連れて行ったからだろうな」

 ……確かに、それはあるかも。ディーンの事情を知っている人たちの中で、どうしてノースモア公爵家の人たちは彼を育てることを決めたのだろう。……謎ばかりが増えていくわね。……ディーンがここで魔物討伐隊に就いていたのも、それが関係していたりするのかな。

「……ディーンって、どういう環境で育ったの?」
「どういう……って、そうだな、ノースモア公爵たちがこの帝都に来るまでは、事情を知らない人たちに育てられていたはずだけど……」
「……そうなんだ? ノースモア公爵家の人たち、わざわざこっちに引っ越してきたの?」
「元々、長男が継ぐこと決定していたからな。隠居生活するってこっちに来たらしい」

 ……じゃあその長男は現在ひとりで領地を治めているってこと?

「ディーンとその人は面識あるの?」
「ある。興味深そうにディーンを見ていた」
「……ディーンがルーカス兄さまの兄の子だっていう噂は、どこから……?」
「ルーカス陛下が流した」

 ……ディーンが作られた人間だということを隠すための噂だったのかな。……だとしても、すごい噂だ。

「ルーカス兄さまに兄は居なかったと思うけど……」
「いろいろもみ消すのが得意なんだろうな」
「……王族の闇に触れている気分だわ」

 眉間に皺を刻んでそう呟くと、「俺も」とバーナードが肩をすくめる。わたしたちはゆっくりとため息を吐いた。……そうだよねぇ……。暴かなくても良いことを気にしているような気がする。
 好奇心って怖いな……。

「……そういえば、元老院が仲間割れし始めたらしいぞ」
「――仲間割れ?」

 もしかして、わたしが瘴気を浄化したのが原因だったりするのだろうか……。
 ……あの時、わたしの浄化を拒んだのは……。

「……元老院のひとりは、大聖女ステラの弟だ」
「ステラって弟いたの!?」
「ああ。神殿で司祭していたらしい」
「司祭……。今も?」
「さぁ……?」

 ……ステラの弟がいたとは……。しかも司祭とは……。
 恐らく、ではあるけれど、ステラの父は大司教か枢機卿だったのだろう。大聖女ステラの威光でそうなった可能性もある。……ああ、枢機卿は司祭でもなれるか……。……あれ、でもこの国ではどうなんだろう。ダラム王国の神殿しか知らないや。他の国の聖職者と話す機会なんてなかったし……。

「……神殿と王族って今、どのくらいの力の差がある?」
「大聖女ステラが亡くなって、神殿のほうが押され始めている感じだな」

 ……やっぱり神殿に行かなくて正解だったかもしれない。王家の血を引くわたしが行けば、バランスが崩れる。

「……そう。……あ、でも一度神殿には足を運ぶつもり」
「お前行きたいところどんどん増やしてないか?」
「付き合ってね、護衛さん」

 にっこり笑ってそういうと、バーナードが「そんくらい軽口叩けるなら平気そうだな」と呆れたようにいわれた。……そうね、思ったよりもわたし、立ち直りが早かった。……まぁ、バーナードと話して、ちょっと心に余裕が出たのかもしれない。

「……バーナードがいてくれて良かった」
「……なんだよ、急に」
「だって、ひとりで悩んで抱え込むなんて、したくないもん。……バーナードも、少しは楽になった?」

 ディーンのことを言外に伝えると、彼は一瞬目を大きく見開いて、それからくしゃりと自分の髪を握ってふっと笑った。

「まぁ、確かに楽にはなったかもしれないな。ルーカス陛下にはおいそれと話し掛けられないし、秘密を抱えたままってのは、結構きつい」
「……だよねー……」

 共通の友人、ディーンの秘密。……きっとバーナードは、ずっとディーンの傍に居たのだろう。長い間一緒にいることで、友情が芽生えたのかもしれない。……そして、それと同時にディーンに真実を話せないという負い目も感じていたのかもしれない。

「しっかし、バーナードの一族って一体……」
「俺に聞くな、良く知らない」
「……一族なのに?」
「逆に尋ねるが、お前は王家のことがわかるか?」

 わかりません。……確かに、わからないな……。西のほうから来たというバーナードの一族を迎えいれた理由もわからないし……。……その技術を欲していた……としかわたしには想像出来ないや。
 緩やかに首を左右に振るわたしを見て、「ほらな?」と言い聞かせるように肩をすくめる。世の中わからないことだらけだ。

あなたにおすすめの小説

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

売られたケンカは高く買いましょう《完結》

アーエル
恋愛
オーラシア・ルーブンバッハ。 それが今の私の名前です。 半年後には結婚して、オーラシア・リッツンとなる予定……はありません。 ケンカを売ってきたあなたがたには徹底的に仕返しさせていただくだけです。 他社でも公開中 結構グロいであろう内容があります。 ご注意ください。 ☆構成 本章:9話 (うん、性格と口が悪い。けど理由あり) 番外編1:4話 (まあまあ残酷。一部救いあり) 番外編2:5話 (めっちゃ残酷。めっちゃ胸くそ悪い。作者救う気一切なし)

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

夫に欠陥品と吐き捨てられた妃は、魔法使いの手を取るか?

里見
恋愛
リュシアーナは、公爵家の生まれで、容姿は清楚で美しく、所作も惚れ惚れするほどだと評判の妃だ。ただ、彼女が第一皇子に嫁いでから三年が経とうとしていたが、子どもはまだできなかった。 そんな時、夫は陰でこう言った。 「完璧な妻だと思ったのに、肝心なところが欠陥とは」 立ち聞きしてしまい、失望するリュシアーナ。そんな彼女の前に教え子だった魔法使いが現れた。そして、魔法使いは、手を差し出して、提案する。リュシアーナの願いを叶える手伝いをするとーー。 リュシアーナは、自身を子を産む道具のように扱う夫とその周囲を利用してのしあがることを決意し、その手をとる。様々な思惑が交錯する中、彼女と魔法使いは策謀を巡らして、次々と世論を操っていく。 男尊女卑の帝国の中で、リュシアーナは願いを叶えることができるのか、魔法使いは本当に味方なのか……。成り上がりを目論むリュシアーナの陰謀が幕を開ける。 *************************** 本編完結済み。番外編を不定期更新中。

婚約破棄の日の夜に

夕景あき
恋愛
公爵令嬢ロージーは卒業パーティの日、金髪碧眼の第一王子に婚約破棄を言い渡された。第一王子の腕には、平民のティアラ嬢が抱かれていた。 ロージーが身に覚えのない罪で、第一王子に糾弾されたその時、守ってくれたのは第二王子だった。 そんな婚約破棄騒動があった日の夜に、どんでん返しが待っていた·····

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。