95 / 153
2章
95話
ディーンはわたしの言葉に、驚いたように目を丸くした。それから、ふっと優しく表情を緩ませると、ぽんっとわたしの頭に手を伸ばして撫でた。
「アクアはいい子だなぁ」
「なにそれ」
「そう思ったから」
くすくすと笑うディーンに、思わず怪訝そうな視線を向けた。いい子って。わたし十五歳なんですけど? と抗議するように。……でもまぁ、正直善悪の判断って人によって違うから、本当に『いい子』になるのは大変だと思う。
――それにわたし、そんなに『いい子』であるとは思ってないし。記憶を取り戻して、最初に感じたのは懐かしさ。そのあと、どうしてお母さまたちが死ななければならなかったのかという疑問と、命を奪っていった人たちへの憎悪。……わたしだって、憎悪くらい感じるって。
「ほら、マドレーヌ食べなよ。美味しいよ」
「ディーンたちも食べたの?」
「うん。っていうかそれお土産。ササとセセから」
「……はい?」
いつの間にコボルトたちが外に出ていたのか……、あ、違うな。今日の買い物当番がササとセセたちだったのだろう。コボルトの嗅覚によって選ばれたお菓子か。それはとっても美味しいだろうな。
そう考えてぱくりと食べる。バターたっぷりで濃厚な味。ほんのりオレンジを感じる。……そういえば、コボルトたちって人間たちと同じ食事をしているけれど、大丈夫なのかな。犬にネギを食べさせちゃダメって、誰かがいっていたような気がする。
……ああ、でもコボルトって魔物の一種なんだよなぁ……。
コボルトたちを考えながらもぐもぐ食べていると、ふと元瘴気の森に棲んでいるという魔物たちが気になった。あの森には人に害をなさない魔物がって聞いたし、それは一体どういう魔物なのか……。コボルトたちと一緒に共存しているのだろうか。……後でコボルトたちに会いに行こうっと。……うーん、スーザンのことはともかく、他の用事は全部ルーカス陛下の誕生日が終わってからになりそうね……。
「うん、美味しいマドレーヌね!」
「コボルトたちって食材の見分け方も得意のようだよ。どれが熟れているのか、どれが新鮮なのか、買い物当番の日に教えてくれる」
「想像以上に馴染んでいるわね……」
正直にいえば、この屋敷に住んでいる人たちが、コボルトたちと仲良くなるのがこんなに早いとは思わなかった。
もっと時間が掛かるものだと思っていたから、これは予想外だったわ。でも、共存成功例といえるのでは? とも思うから、仲良くなってくれるのは嬉しい。やっぱりみんなあの肉球とモフモフに惹かれるのかしら……?
「コボルト音楽隊も盛り上がっているしね」
「ね!」
一度体験すれば忘れられないし、また見に行きたくなる。そんな魅力がコボルト音楽隊にはあると思う。うんうんと同意するようにうなずくと、ディーンがわたしの頭から手を離して、目元を細めた。
「そういえば、ルーカス陛下の誕生日プレゼントは間に合いそう?」
「……なんとか……? いや、絶対なんとかする!」
「……ダラム王国では刺繍ってあまりしなかったの?」
「たまーにしていたくらい。なんせ他の仕事量が……仕事量だったから……」
……思わず遠い目。あの書類の山を想像するだけでゾッとする。全部こっちに回って来ていたから、やっぱりおかしかったのよ、うん。
こっちに来てからは仕事に追われることなく……っていうかそもそも仕事してないな、わたし……。……未だにどんな職に就きたいのかよくわからないのよね……。わたしが出来ることって限られているし。……メイドはもう出来ないだろうし! 思えばメイドの仕事も結構楽しかったなぁ……。神殿で聖女として過ごすのも嫌だ。絶対に面倒なことに巻き込まれるのがわかるもん。
「……今のわたし、自由な時間が多くてなぁ……」
「……今までたくさん働いて来たんだから、ゆっくり休むことも大事だよ……」
「もう充分休んだ気がするけどね」
肩をすくめてそういうと、ディーンがゆっくりと首を左右に振った。
「こっちに来てからだって、コボルトたちの面倒を見たり、外に出た時に怪我人がいたら治したりしていたじゃないか」
「……それは、だって、人助けだもん……」
「悪いと言っているんじゃないよ。でもね、アクアはひとりで頑張りすぎるところがあるから。……神さまからの祝福を、オレたちだって受けたのだから、もう少し頼っていいんだよ」
「……充分頼ってると思うんだけどなぁ?」
「まだまだ!」
そういって楽しそうに笑うディーンに、わたしはそんなに頼ってないかなぁ? と首を捻った。……頼りまくっていると思うんだけどなぁ。ルーカス陛下には甘えているとも思うし……。うーん、ディーンのいう頼る、ってどこまでのことをいっているのかしらね……?
「アクアはいい子だなぁ」
「なにそれ」
「そう思ったから」
くすくすと笑うディーンに、思わず怪訝そうな視線を向けた。いい子って。わたし十五歳なんですけど? と抗議するように。……でもまぁ、正直善悪の判断って人によって違うから、本当に『いい子』になるのは大変だと思う。
――それにわたし、そんなに『いい子』であるとは思ってないし。記憶を取り戻して、最初に感じたのは懐かしさ。そのあと、どうしてお母さまたちが死ななければならなかったのかという疑問と、命を奪っていった人たちへの憎悪。……わたしだって、憎悪くらい感じるって。
「ほら、マドレーヌ食べなよ。美味しいよ」
「ディーンたちも食べたの?」
「うん。っていうかそれお土産。ササとセセから」
「……はい?」
いつの間にコボルトたちが外に出ていたのか……、あ、違うな。今日の買い物当番がササとセセたちだったのだろう。コボルトの嗅覚によって選ばれたお菓子か。それはとっても美味しいだろうな。
そう考えてぱくりと食べる。バターたっぷりで濃厚な味。ほんのりオレンジを感じる。……そういえば、コボルトたちって人間たちと同じ食事をしているけれど、大丈夫なのかな。犬にネギを食べさせちゃダメって、誰かがいっていたような気がする。
……ああ、でもコボルトって魔物の一種なんだよなぁ……。
コボルトたちを考えながらもぐもぐ食べていると、ふと元瘴気の森に棲んでいるという魔物たちが気になった。あの森には人に害をなさない魔物がって聞いたし、それは一体どういう魔物なのか……。コボルトたちと一緒に共存しているのだろうか。……後でコボルトたちに会いに行こうっと。……うーん、スーザンのことはともかく、他の用事は全部ルーカス陛下の誕生日が終わってからになりそうね……。
「うん、美味しいマドレーヌね!」
「コボルトたちって食材の見分け方も得意のようだよ。どれが熟れているのか、どれが新鮮なのか、買い物当番の日に教えてくれる」
「想像以上に馴染んでいるわね……」
正直にいえば、この屋敷に住んでいる人たちが、コボルトたちと仲良くなるのがこんなに早いとは思わなかった。
もっと時間が掛かるものだと思っていたから、これは予想外だったわ。でも、共存成功例といえるのでは? とも思うから、仲良くなってくれるのは嬉しい。やっぱりみんなあの肉球とモフモフに惹かれるのかしら……?
「コボルト音楽隊も盛り上がっているしね」
「ね!」
一度体験すれば忘れられないし、また見に行きたくなる。そんな魅力がコボルト音楽隊にはあると思う。うんうんと同意するようにうなずくと、ディーンがわたしの頭から手を離して、目元を細めた。
「そういえば、ルーカス陛下の誕生日プレゼントは間に合いそう?」
「……なんとか……? いや、絶対なんとかする!」
「……ダラム王国では刺繍ってあまりしなかったの?」
「たまーにしていたくらい。なんせ他の仕事量が……仕事量だったから……」
……思わず遠い目。あの書類の山を想像するだけでゾッとする。全部こっちに回って来ていたから、やっぱりおかしかったのよ、うん。
こっちに来てからは仕事に追われることなく……っていうかそもそも仕事してないな、わたし……。……未だにどんな職に就きたいのかよくわからないのよね……。わたしが出来ることって限られているし。……メイドはもう出来ないだろうし! 思えばメイドの仕事も結構楽しかったなぁ……。神殿で聖女として過ごすのも嫌だ。絶対に面倒なことに巻き込まれるのがわかるもん。
「……今のわたし、自由な時間が多くてなぁ……」
「……今までたくさん働いて来たんだから、ゆっくり休むことも大事だよ……」
「もう充分休んだ気がするけどね」
肩をすくめてそういうと、ディーンがゆっくりと首を左右に振った。
「こっちに来てからだって、コボルトたちの面倒を見たり、外に出た時に怪我人がいたら治したりしていたじゃないか」
「……それは、だって、人助けだもん……」
「悪いと言っているんじゃないよ。でもね、アクアはひとりで頑張りすぎるところがあるから。……神さまからの祝福を、オレたちだって受けたのだから、もう少し頼っていいんだよ」
「……充分頼ってると思うんだけどなぁ?」
「まだまだ!」
そういって楽しそうに笑うディーンに、わたしはそんなに頼ってないかなぁ? と首を捻った。……頼りまくっていると思うんだけどなぁ。ルーカス陛下には甘えているとも思うし……。うーん、ディーンのいう頼る、ってどこまでのことをいっているのかしらね……?
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
売られたケンカは高く買いましょう《完結》
アーエル
恋愛
オーラシア・ルーブンバッハ。
それが今の私の名前です。
半年後には結婚して、オーラシア・リッツンとなる予定……はありません。
ケンカを売ってきたあなたがたには徹底的に仕返しさせていただくだけです。
他社でも公開中
結構グロいであろう内容があります。
ご注意ください。
☆構成
本章:9話
(うん、性格と口が悪い。けど理由あり)
番外編1:4話
(まあまあ残酷。一部救いあり)
番外編2:5話
(めっちゃ残酷。めっちゃ胸くそ悪い。作者救う気一切なし)
【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね
との
恋愛
離婚したいのですか? 喜んでお受けします。
でも、本当に大丈夫なんでしょうか?
伯爵様・・自滅の道を行ってません?
まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。
収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。
(父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる)
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
32話、完結迄予約投稿済みです。
R15は念の為・・
夫に欠陥品と吐き捨てられた妃は、魔法使いの手を取るか?
里見
恋愛
リュシアーナは、公爵家の生まれで、容姿は清楚で美しく、所作も惚れ惚れするほどだと評判の妃だ。ただ、彼女が第一皇子に嫁いでから三年が経とうとしていたが、子どもはまだできなかった。
そんな時、夫は陰でこう言った。
「完璧な妻だと思ったのに、肝心なところが欠陥とは」
立ち聞きしてしまい、失望するリュシアーナ。そんな彼女の前に教え子だった魔法使いが現れた。そして、魔法使いは、手を差し出して、提案する。リュシアーナの願いを叶える手伝いをするとーー。
リュシアーナは、自身を子を産む道具のように扱う夫とその周囲を利用してのしあがることを決意し、その手をとる。様々な思惑が交錯する中、彼女と魔法使いは策謀を巡らして、次々と世論を操っていく。
男尊女卑の帝国の中で、リュシアーナは願いを叶えることができるのか、魔法使いは本当に味方なのか……。成り上がりを目論むリュシアーナの陰謀が幕を開ける。
***************************
本編完結済み。番外編を不定期更新中。
婚約破棄の日の夜に
夕景あき
恋愛
公爵令嬢ロージーは卒業パーティの日、金髪碧眼の第一王子に婚約破棄を言い渡された。第一王子の腕には、平民のティアラ嬢が抱かれていた。
ロージーが身に覚えのない罪で、第一王子に糾弾されたその時、守ってくれたのは第二王子だった。
そんな婚約破棄騒動があった日の夜に、どんでん返しが待っていた·····
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」