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2章
98話
「っと、そうじゃなくて。わたしね、スーザンにお母さまとステラのことを教えて欲しかったの」
「シャーリーさまとステラさまのことですか?」
「うん。お母さまの侍女だったあなたなら、どんな関係だったのか覚えているんじゃないかと思って……」
お母さまを溺愛していたというステラ。……どうしてなのかはわからない。でも、なんか気になるのよね。上のふたりとはなにかが違っていたのか……それとも、ただ単に末っ子だからなのか……。
「……シャーリーさまの侍女になったのは私がまだ十代の頃でしたので、その頃からの話になりますが……」
「構わないわ。わたしが知らないお母さまのこと、教えて?」
笑みを浮かべて小首を傾げてみせると、スーザンはゆっくりと息を吐いて、それからお母さまの侍女になった時のことを話しだしてくれた。
求人募集に応募して、面接で受かったとのこと。……やっぱり面接ってあるよね、普通。ディーンが連れてきたからって面接ぶっ飛ばされたから、この国ではそれが普通なのかと一瞬考えたわ。
「シャーリーさまのほうが年上でした。……とはいえ、五歳ほどでしたが」
「そうなんだ……」
わたしとルーカス陛下くらいの歳の差だったんだ。……っていうか、スーザンのほうが年下だったんだ。……そこまでの記憶はやっぱりないな。
『お嬢さま、隠れてないでこちらへ来ませんか?』
――人に会うのが怖くていろんなところに隠れていたわたしを、スーザンたちは探し出してくれてたのよね。……懐かしいな。
「シャーリーさまはとても明るくて、……そこに居るだけで人の目を奪うような美貌の持ち主でした」
残念ながらその美貌はわたしに受け継がれなかったようだ。残念。
「……ですので、求婚者が絶えず、ステラさまが選んだ方と結婚なされました。リネットさまの父ですね」
「ステラが選んだ……?」
「はい。ひとりひとり、シャーリーさまに求婚した方と話したそうです」
「……え」
わたしは思わず絶句した。ディーンとバーナードも驚いたのか、ひゅっと息を飲んだ音がした。スーザンは眉を下げて微笑む。
「その反応が一番正しいと思います。……私も聞いた時には驚きましたから」
驚くどころの話ではないのでは……? いや、確かにステラは国母。娘の嫁ぎ先を選ぶ権利はあるだろう。……あるだろう、けど……。
「それって上のふたりにもしたの?」
「いいえ、シャーリーさまだけです」
……うわぁ。と思わず声に出してしまった。……お母さまの時だけ結婚する相手を決めたって……。どういうことなんだ……。溺愛、よりは過保護といったほうが正しいのでは? なんて考えていると、スーザンはさらに言葉を続けた。
「いつもステラさまはシャーリーさまの様子を気に掛けていました。……リネットさまを宿してからは、特に」
「……わたし?」
「ええ。事あるごとに、屋敷を訪ねて『あなたの子は希望なのよ』と声を掛けていました」
……希望? わたしが? 困惑して表情を歪め、ぎゅっと膝の上で拳を握る。それに気付いたバーナードの視線を感じた。……でも、大丈夫よ、ともいえなかった。だって、わけがわからない。
「……リネットさまが産まれてからも、ステラさまは良く来ていました。大切な宝物のように、リネットさまを抱っこしたりあやしていましたよ」
当時を思い返してか、スーザンの表情が綻んだ。過去を懐かしむように目を閉じる彼女に、わたしは「……そうなんだ……」としか返せなかった。
だって赤ちゃんの頃の記憶はないもの。
「……リネットさまの五歳の誕生日が近付いてきた日、ステラさまはこう提案されました。『たまには家族水入らずの時間を作ったら?』と」
「……それがダラム王国の国境近くとどう関係が……?」
「ステラさまが、旅行の計画を立てていたのです。『知り合いの宿だから、ここに泊まると良いわ』と。……その当時は、旦那さまの仕事が多くて、中々リネットさまに構えなかったようで、誕生日と数日はリネットさまにたくさん愛情を注ごうと……、そう話しているのを聞きました」
……お父さま……。大きな手に撫でられるのが好きだった。わたしのことをひょいと抱き上げて、頬を合わせて笑っていた。……お父さまの最期の表情は――……。緩やかに首を振り、その表情を思い出さないようにした。笑顔を、覚えていたい。
「……そういえば、ウィルモットの屋敷はどうなったの?」
「……そのまま残っています。今では、当時の執事のひとりだった者が管理しているはずです」
「……たったひとりで?」
「……はい。私たちはシャーリーさまたちが亡くなったという報せを受けて、ステラさまに他の場所を推薦されました……。私はそれで、ノースモア公爵家で働くようになったのです。……まさか、メイド長まで任されることになるとは思いませんでしたが……」
それだけの能力が彼女にあったということなのだから、胸を張ってもいいと思うんだけどなぁ。
「ひとりでは……押しつぶされそうになったので、無我夢中で働くことを選びました。その結果が、今の地位です」
「……スーザン……」
もしもあの日、引き留めていたら、自分がついて行っていれば……。たら、れば、の話を繰り返すスーザンに、わたしは椅子から立ち上がって彼女の元に向かった。
そっと彼女の傍にしゃがみ、彼女の手を取る。包み込むように、両手で。驚いたようなスーザンに、わたしは微笑みを浮かべた。出来るだけ、優しく見えるように気をつけたつもりだ。
「シャーリーさまとステラさまのことですか?」
「うん。お母さまの侍女だったあなたなら、どんな関係だったのか覚えているんじゃないかと思って……」
お母さまを溺愛していたというステラ。……どうしてなのかはわからない。でも、なんか気になるのよね。上のふたりとはなにかが違っていたのか……それとも、ただ単に末っ子だからなのか……。
「……シャーリーさまの侍女になったのは私がまだ十代の頃でしたので、その頃からの話になりますが……」
「構わないわ。わたしが知らないお母さまのこと、教えて?」
笑みを浮かべて小首を傾げてみせると、スーザンはゆっくりと息を吐いて、それからお母さまの侍女になった時のことを話しだしてくれた。
求人募集に応募して、面接で受かったとのこと。……やっぱり面接ってあるよね、普通。ディーンが連れてきたからって面接ぶっ飛ばされたから、この国ではそれが普通なのかと一瞬考えたわ。
「シャーリーさまのほうが年上でした。……とはいえ、五歳ほどでしたが」
「そうなんだ……」
わたしとルーカス陛下くらいの歳の差だったんだ。……っていうか、スーザンのほうが年下だったんだ。……そこまでの記憶はやっぱりないな。
『お嬢さま、隠れてないでこちらへ来ませんか?』
――人に会うのが怖くていろんなところに隠れていたわたしを、スーザンたちは探し出してくれてたのよね。……懐かしいな。
「シャーリーさまはとても明るくて、……そこに居るだけで人の目を奪うような美貌の持ち主でした」
残念ながらその美貌はわたしに受け継がれなかったようだ。残念。
「……ですので、求婚者が絶えず、ステラさまが選んだ方と結婚なされました。リネットさまの父ですね」
「ステラが選んだ……?」
「はい。ひとりひとり、シャーリーさまに求婚した方と話したそうです」
「……え」
わたしは思わず絶句した。ディーンとバーナードも驚いたのか、ひゅっと息を飲んだ音がした。スーザンは眉を下げて微笑む。
「その反応が一番正しいと思います。……私も聞いた時には驚きましたから」
驚くどころの話ではないのでは……? いや、確かにステラは国母。娘の嫁ぎ先を選ぶ権利はあるだろう。……あるだろう、けど……。
「それって上のふたりにもしたの?」
「いいえ、シャーリーさまだけです」
……うわぁ。と思わず声に出してしまった。……お母さまの時だけ結婚する相手を決めたって……。どういうことなんだ……。溺愛、よりは過保護といったほうが正しいのでは? なんて考えていると、スーザンはさらに言葉を続けた。
「いつもステラさまはシャーリーさまの様子を気に掛けていました。……リネットさまを宿してからは、特に」
「……わたし?」
「ええ。事あるごとに、屋敷を訪ねて『あなたの子は希望なのよ』と声を掛けていました」
……希望? わたしが? 困惑して表情を歪め、ぎゅっと膝の上で拳を握る。それに気付いたバーナードの視線を感じた。……でも、大丈夫よ、ともいえなかった。だって、わけがわからない。
「……リネットさまが産まれてからも、ステラさまは良く来ていました。大切な宝物のように、リネットさまを抱っこしたりあやしていましたよ」
当時を思い返してか、スーザンの表情が綻んだ。過去を懐かしむように目を閉じる彼女に、わたしは「……そうなんだ……」としか返せなかった。
だって赤ちゃんの頃の記憶はないもの。
「……リネットさまの五歳の誕生日が近付いてきた日、ステラさまはこう提案されました。『たまには家族水入らずの時間を作ったら?』と」
「……それがダラム王国の国境近くとどう関係が……?」
「ステラさまが、旅行の計画を立てていたのです。『知り合いの宿だから、ここに泊まると良いわ』と。……その当時は、旦那さまの仕事が多くて、中々リネットさまに構えなかったようで、誕生日と数日はリネットさまにたくさん愛情を注ごうと……、そう話しているのを聞きました」
……お父さま……。大きな手に撫でられるのが好きだった。わたしのことをひょいと抱き上げて、頬を合わせて笑っていた。……お父さまの最期の表情は――……。緩やかに首を振り、その表情を思い出さないようにした。笑顔を、覚えていたい。
「……そういえば、ウィルモットの屋敷はどうなったの?」
「……そのまま残っています。今では、当時の執事のひとりだった者が管理しているはずです」
「……たったひとりで?」
「……はい。私たちはシャーリーさまたちが亡くなったという報せを受けて、ステラさまに他の場所を推薦されました……。私はそれで、ノースモア公爵家で働くようになったのです。……まさか、メイド長まで任されることになるとは思いませんでしたが……」
それだけの能力が彼女にあったということなのだから、胸を張ってもいいと思うんだけどなぁ。
「ひとりでは……押しつぶされそうになったので、無我夢中で働くことを選びました。その結果が、今の地位です」
「……スーザン……」
もしもあの日、引き留めていたら、自分がついて行っていれば……。たら、れば、の話を繰り返すスーザンに、わたしは椅子から立ち上がって彼女の元に向かった。
そっと彼女の傍にしゃがみ、彼女の手を取る。包み込むように、両手で。驚いたようなスーザンに、わたしは微笑みを浮かべた。出来るだけ、優しく見えるように気をつけたつもりだ。
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