恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

文字の大きさ
99 / 153
2章

99話

しおりを挟む
「ありがとう。ごめんね、つらいこと、思い出させちゃったね」
「……いえ、こちらこそ、ありがとうございます。生きていてくれて……」

 そっとわたしと視線を合わせるスーザン。彼女の目には涙が浮かんでいた。だけど、それをこぼしもせず、耐えるようにゆっくりと上を向く。そして、静かに息を吐くともう一度わたしを見た。

「……このことを、奥さまは気付いているのですか?」
「さぁ? 話してはいないけれど……」

 奥さま……って、ディーンのお母さんのことよね。伝えたほうが良かったりするのかな? 会ったのってあの一回きりだけど……。

「いえ、必要ならルーカス陛下が手筈を整えるでしょう。不思議な気持ち、ですね。ステラさまの子よりも、孫であるリネットさまのほうが強い力を秘めているの……」
「別にわたし、力を隠したことはないけどね?」

 それにわたしにだって苦手な部類はある。土魔法とかおばけとか。……本当、なんで土魔法だけは小さいゴーレムしか作れないんだろう、謎だ。

「アクアの力は大聖女ステラよりも強いようだし……。確かに、不思議だね」
「力が遺伝するなら、血の繋がりが濃いほうに行きそうだけどな……」

 ぽつりぽつりとそんな会話を繰り返すわたしたち。その日は結局、別のことの話題になってしまい、結局ステラとシャーリーの関係がどのようなものだったのかは、よくわからなかった……いや、過保護気味だということはわかったけど!

「ディーン、スーザンを送って行ってね。スーザン、今日は来てくれてありがとう。話せて嬉しかったわ」
「こちらこそ、ありがとうございました。……また、訪問してもよろしいですか?」
「歓迎するわ。そしたら、今度はスーザンとお母さまのことを聞かせてね」

 こくりとうなずくスーザンを見送る。玄関まで見送ろうかと思ったら、スーザンに「名残惜しくなるので」と止められた。そういわれちゃったら、応接間で別れるしかない。バイバイ、と手を振ってスーザンを見送った。
 パタン、と扉が閉まる。それと同時に、わたしは「はぁぁああ~」と大きな息を吐いた。

「……おい、大丈夫か?」
「わたしのキャパ不足を感じるわ……!」

 記憶を取り戻して、ディーンのことを聞いたり、リリィにステラのことを聞いたりと中々に情報量が多くてわたしの頭の中は混乱中だ。結婚相手って親が決めるもの? いや、確かに王族ならあれだ、政略結婚があるだろうけど、わざわざひとりひとりと話すか? 普通はないよね、多分。

「……俺、よくわからないけど……。お前の家族ってどうなってんの……?」
「わたしが知りたい。ねぇ、貴族って結婚相手選ぶときってどんな風に選ぶの?」
「……家柄が釣り合うとか、互いに利益をもたらすとか……」
「夢がない……」
「貴族で恋愛結婚しているヤツラなんざ一握りだぞ……」
「ひ、一握り……」

 ……神殿で暮らしていたからかな、わたし、多分、いやきっと、そういうことに対して疎いとは思うけれど……、結婚してから恋愛するって考え方がよくわからない……!

「……でも、一握りでも最初から好きな人と結ばれるのね……」

 貴族の結婚が義務なら、王族の結婚はもっと強い義務だろう。誰がどこに嫁ぐか、迎え入れるかで国としての矜持を保つのだから。

「……なんか複雑ね……、結婚って……」
「王族ともなればさらに複雑だろうけど……。ステラの溺愛の理由がわからないな」

 首を縦に動かして同意した。本当にわからない。ステラには未来でも見えていたんだろうか。わたしが希望ってどういう意味なのかさっぱりだ。

「……気にはなるけど、気にしすぎちゃダメだよね」
「そうだな。考え出すと止まらないだろうし、今は目の前のことから考えればいいと思う。……陛下の誕生日までは、陛下のことを考えていればいいさ」
「……そうね、そうする……。あ、でも今日はちょっとひとりになりたいから、このまま部屋に戻るわ……。ごはんも要らないって、伝えておいて」
「……わかった、伝えておく」
「ありがとう」

 わたしはそれだけいうと、応接間から自室まで戻った。自室まで戻り、混乱する頭を整理するためにベッドに横になる。目を閉じて浮かんできたのは、幼い頃の記憶だった。幸せそうに笑うお父さまとお母さまの姿を思い出して、深呼吸を数度繰り返した。
 ――絶対に、あの場所に行こう。あの場所に行って、気持ちの整理をするんだ。
 そう決意した途端に、睡魔が襲ってきた。……わたしはそのまま眠ってしまい、気が付けば早朝になっていた。

「……今日からルーカス陛下の誕生日までは、誕生日プレゼントを完成させることだけを考えよう……!」

 起き上がってぐっと拳を握り、自分に言い聞かせるようにそう口にする。
 その日からは延々と刺繍を始めた。……そのおかげで、ルーカス陛下の誕生日までには納得のいく刺繍が出来た。たまにリリィが来てくれた。そのたびに、アドバイスをしてくれたから、より上手に出来たのかもしれない。
 ――そして、ついにルーカス陛下の誕生日当日となった。
 誘われているので、わたしも出席する。まぁ、主役はルーカス陛下だからわたしは添えるだけの存在になるはず。セシリーたちは張り切ってメイクしてくれているけど、ね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最初からここに私の居場所はなかった

kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。 死なないために努力しても認められなかった。 死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。 死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯ だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう? だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。 二度目は、自分らしく生きると決めた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。 私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~ これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

処理中です...