111 / 153
2章
111話
しおりを挟む
それからはお茶会のこととか、お母さまたちに捧げる花のこととかをみんなで相談した。いけるのなら、ウィルモット家にもいってみたい。ディーンがいうには、ウィルモット家の家令が屋敷を維持してくれているとかいないとか、魔物討伐隊でいろんなところに遠征していたから、詳しくはないと申し訳なさそうに表情を曇らせた。
屋敷のことはセシリーたちに任せて大丈夫だと思う。ココもついていきたそうにしていたけど、今回はお留守番をお願いした。コボルト音楽隊やフィロメナたちにもちょっとの間出掛けて来るね、と挨拶をしたり――旅の準備をして過ごしていると、あっという間に出発日になった。
朝起きて、身支度を整えてから礼拝堂へ向かう。最前列まで歩き、ステンドグラスを見上げるように顔を上げる。
「――今日から少し、出掛けてきます。屋敷の人たちのことを、どうぞよろしくお願いいたします」
そういってから手を組んで目を閉じた。いつものお祈りをしていると、礼拝堂の扉が開いた。起床してきた人たちが集まって来た。どうやら今日は屋敷の人たちが全員見送りのために起きてきたらしい。……ありがたいことよね。
「みんな、おはよう!」
「おはようございます、アクアさま」
「ああ、またアクアさまに負けた……」
「一体何時に起きていらっしゃるんですか……」
ちょっと悔しそうな人たちを見て、わたしは小さくクスクスと笑った。
「何時とは決まっていないわ、だって陽が昇るのと同時に起きちゃうから」
「……なんでまた、そんなに早く起きるようになったのですか?」
「朝が好きだからってことで!」
朝日を見るのが好きだった。元ダラム王国の神殿は森の中に建てられていたから、その光景を見るのが日課になっていた。……今思えば、ある意味逃避だったんだろうなぁ……山のようにある仕事からの。
「それじゃあ、みんなはお祈りしていってね。わたしは荷物を取りに行って来るから」
「はい」
みんなに手を振ってから礼拝堂を出る。……みんな結構神妙な顔をしていたけど、どうしたのだろう? ディーンとバーナードの姿も見えたけど、後でたくさん話せるから今は良いかな。ユーニスはどうやらここまで来るみたいだし……ええと、時間はまだあるのよね。
「ん~……と?」
自室に戻り荷物を手に取る。いろいろ入る鞄だから、たくさん持っていこう。なにがあるかわからないのが旅なのだし。……わたしは鞄の中から杖を取り出した。長いものでも空間収納のおかげでしまえる。
「……もしもの時はよろしくね」
きゅっと杖を握って目を閉じる。返事のように、杖から柔らかい風が吹きふわりとわたしの頬を撫でた。七歳の頃に初めて結界を張り直す作業の時に渡された杖だ。この杖にも、たくさんの思い出が詰まっている。結界を張り直す時だけではなく、使っていた杖だから。……とはいえ、あの日わたしが持って来たものは自分で手に入れたものばかりだから、杖は置いてきたのよね……。次の聖女が使うかもしれないし……と。
まったくそんなことはなかったようだけど!
「花祭り、か。どんなお祭りなんだろうね」
ぽつりと呟いて、それから杖を鞄に入れる。それと同時に扉がノックされた。
「アクアさま、リックウッド伯爵夫人がいらっしゃいました」
「はーい、今行きます!」
ユーニスには悪いけれど、集合時間は早朝にしてもらった。ユーニスの元に向かうと、彼女はわたしに気付いてにこりと微笑んだ。
「ごきげんよう、ユーニス!」
「ごきげんよう、アクアさま」
「まだ出発まで時間あるから、食事にしよう」
「あら、私もご一緒してよろしいのですか?」
「もちろんよ!」
こっち! と彼女を案内し始める。食堂まで向かうと、今日から一緒に旅をするメンバーが待っていた。
「知っている人もいるかもだけど、改めて紹介するわ。ディーンとバーナード、それから、コボルトのササとセセよ」
「今日から少しの間、よろしくお願いしますね」
「なにかあったらすぐに教えてください」
「ササはササ! よろしく!」
「セセもよろしく!」
上から順にディーン、バーナード、ササ、セセだ。コボルトを見たユーニスは一瞬目を見開いたが、すぐに優しく微笑んで「お世話になります。よろしくお願いしますね」とカーテシーをした。
「簡単に食べられるものを用意してもらったの」
「ありがとうございます」
食堂に入り椅子に座ると、すぐに出てきた。サンドウィッチとサラダ、それからスープ。それらを食べて、セシリーからバスケットを渡された。
「昼食にどうぞ」
「ありがと! それじゃあ、屋敷のことお願いね。行ってきまーす!」
見送りは断った。そこまで長期間屋敷を離れるわけでもないし、大袈裟にしたくなかったから。食堂で別れて、馬車を用意してくるというバーナードを待つことに。すぐに馬車が来たから乗り込んだ。今日の馬車は人数が多いから大き目の馬車だった。
御者はバーナード、途中でディーンに代わるみたい。
「それじゃあ、出発!」
わたしがそう宣言するのと同時に、連絡鳥がやってきた。
『旅を楽しめるように祈っている。気をつけて行っておいで。土産話を楽しみにしている』
……まさかルーカス陛下から出発前に言葉を贈られるとは思わなかった。わたしはすらすらと空中に文章を書いて、連絡鳥を作り……ルーカス陛下の元へと送った。
『たくさん楽しんで来ます! 行ってきます!』
こうして、わたしたちの旅が始まった――……。
屋敷のことはセシリーたちに任せて大丈夫だと思う。ココもついていきたそうにしていたけど、今回はお留守番をお願いした。コボルト音楽隊やフィロメナたちにもちょっとの間出掛けて来るね、と挨拶をしたり――旅の準備をして過ごしていると、あっという間に出発日になった。
朝起きて、身支度を整えてから礼拝堂へ向かう。最前列まで歩き、ステンドグラスを見上げるように顔を上げる。
「――今日から少し、出掛けてきます。屋敷の人たちのことを、どうぞよろしくお願いいたします」
そういってから手を組んで目を閉じた。いつものお祈りをしていると、礼拝堂の扉が開いた。起床してきた人たちが集まって来た。どうやら今日は屋敷の人たちが全員見送りのために起きてきたらしい。……ありがたいことよね。
「みんな、おはよう!」
「おはようございます、アクアさま」
「ああ、またアクアさまに負けた……」
「一体何時に起きていらっしゃるんですか……」
ちょっと悔しそうな人たちを見て、わたしは小さくクスクスと笑った。
「何時とは決まっていないわ、だって陽が昇るのと同時に起きちゃうから」
「……なんでまた、そんなに早く起きるようになったのですか?」
「朝が好きだからってことで!」
朝日を見るのが好きだった。元ダラム王国の神殿は森の中に建てられていたから、その光景を見るのが日課になっていた。……今思えば、ある意味逃避だったんだろうなぁ……山のようにある仕事からの。
「それじゃあ、みんなはお祈りしていってね。わたしは荷物を取りに行って来るから」
「はい」
みんなに手を振ってから礼拝堂を出る。……みんな結構神妙な顔をしていたけど、どうしたのだろう? ディーンとバーナードの姿も見えたけど、後でたくさん話せるから今は良いかな。ユーニスはどうやらここまで来るみたいだし……ええと、時間はまだあるのよね。
「ん~……と?」
自室に戻り荷物を手に取る。いろいろ入る鞄だから、たくさん持っていこう。なにがあるかわからないのが旅なのだし。……わたしは鞄の中から杖を取り出した。長いものでも空間収納のおかげでしまえる。
「……もしもの時はよろしくね」
きゅっと杖を握って目を閉じる。返事のように、杖から柔らかい風が吹きふわりとわたしの頬を撫でた。七歳の頃に初めて結界を張り直す作業の時に渡された杖だ。この杖にも、たくさんの思い出が詰まっている。結界を張り直す時だけではなく、使っていた杖だから。……とはいえ、あの日わたしが持って来たものは自分で手に入れたものばかりだから、杖は置いてきたのよね……。次の聖女が使うかもしれないし……と。
まったくそんなことはなかったようだけど!
「花祭り、か。どんなお祭りなんだろうね」
ぽつりと呟いて、それから杖を鞄に入れる。それと同時に扉がノックされた。
「アクアさま、リックウッド伯爵夫人がいらっしゃいました」
「はーい、今行きます!」
ユーニスには悪いけれど、集合時間は早朝にしてもらった。ユーニスの元に向かうと、彼女はわたしに気付いてにこりと微笑んだ。
「ごきげんよう、ユーニス!」
「ごきげんよう、アクアさま」
「まだ出発まで時間あるから、食事にしよう」
「あら、私もご一緒してよろしいのですか?」
「もちろんよ!」
こっち! と彼女を案内し始める。食堂まで向かうと、今日から一緒に旅をするメンバーが待っていた。
「知っている人もいるかもだけど、改めて紹介するわ。ディーンとバーナード、それから、コボルトのササとセセよ」
「今日から少しの間、よろしくお願いしますね」
「なにかあったらすぐに教えてください」
「ササはササ! よろしく!」
「セセもよろしく!」
上から順にディーン、バーナード、ササ、セセだ。コボルトを見たユーニスは一瞬目を見開いたが、すぐに優しく微笑んで「お世話になります。よろしくお願いしますね」とカーテシーをした。
「簡単に食べられるものを用意してもらったの」
「ありがとうございます」
食堂に入り椅子に座ると、すぐに出てきた。サンドウィッチとサラダ、それからスープ。それらを食べて、セシリーからバスケットを渡された。
「昼食にどうぞ」
「ありがと! それじゃあ、屋敷のことお願いね。行ってきまーす!」
見送りは断った。そこまで長期間屋敷を離れるわけでもないし、大袈裟にしたくなかったから。食堂で別れて、馬車を用意してくるというバーナードを待つことに。すぐに馬車が来たから乗り込んだ。今日の馬車は人数が多いから大き目の馬車だった。
御者はバーナード、途中でディーンに代わるみたい。
「それじゃあ、出発!」
わたしがそう宣言するのと同時に、連絡鳥がやってきた。
『旅を楽しめるように祈っている。気をつけて行っておいで。土産話を楽しみにしている』
……まさかルーカス陛下から出発前に言葉を贈られるとは思わなかった。わたしはすらすらと空中に文章を書いて、連絡鳥を作り……ルーカス陛下の元へと送った。
『たくさん楽しんで来ます! 行ってきます!』
こうして、わたしたちの旅が始まった――……。
13
あなたにおすすめの小説
最初からここに私の居場所はなかった
kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。
死なないために努力しても認められなかった。
死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。
死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯
だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう?
だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。
二度目は、自分らしく生きると決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。
私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~
これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m
これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。
亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。
だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。
婚約破棄をされたアニエル。
だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。
ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。
その相手とはレオニードヴァイオルード。
好青年で素敵な男性だ。
婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。
一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。
元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる