恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

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2章

112話

「馬車!」
「速い! 速い!」

 コボルトのササとセセが馬車に乗ってその速度にはしゃいでいる。尻尾をブンブン振りながら、窓から流れる景色に感動しているようだった。それに、ふたりはこうして外に出ることがなかったから余計にそう思うのだろう。

「……それにしても、本当について来て良かったんですか?」
「ええ、もちろん。……良いお屋敷でしたね、アクアさまの住んでいるところ」
「うん、わたしも気に入っているの。瘴気が全然ないから落ち着くというか……」

 瘴気がない澄んだ空気、あれを一度味わうと、どんなに小さな瘴気でも気になってしまうというか……。
 人を妬んだり恨んだりするのは、人としてあってしかるべき感情ではあるのよね。それをバネにして奮闘する人もいるけれど、その感情が負の方向に行き過ぎると瘴気はもっと強くなってその人を飲み込んじゃう。飲み込まれた人は自分を害するか他の人を害するかでわかれるけれど、どっちにしろ誰かに迷惑が掛かることは間違いない。

「とりあえず、寄ることが出来る町や村には寄って行こうと思うの。帝都とはいろいろ違うだろうし……」
「お茶会までには余裕のあるスケジュールだし、万が一の時は転移石もあるからね」
「かしこまりました。私も、あまり他の町や村に行ったことがないので、楽しみです」

 ディーンが補足をしてくれて、ユーニスは微笑みを浮かべて小さくうなずいた。

「……視察、のようなものですか?」
「いいえ、ただの観光です。そうだよね、アクア?」
「そうよ! 一緒に楽しもうね、ユーニス」
「はい、アクアさま」

 ……それにしても、かなり整備されている道ね。走りやすそうだわ。
 馬車を走らせて数時間、バーナードが馬車を停めた。どうやら昼食の時間になったみたい。ずっと馬車に乗っていたから、外の空気が吸いたかったし、丁度良いね。そう思って馬車を降りると、ずしっと重苦しい空気を感じた。瘴気だ。

「……本当に帝都を守るだけなのね……」

 帝都のほうを振り返って小さく呟く。瘴気を感じるということは、魔物も近くにいるかもしれない。……ふむ。

「ユーニス、まだ降りないで」
「え?」
「わたしが良いと言うまで、わかった?」

 彼女は神妙な面持ちになり、「わかりました」といってくれた。

「ササ、セセ。手伝ってくれる?」
「わかった!」
「手伝う!」

 ササとセセが降りて、ディーンも降りる。ディーンとバーナードはわたしに近付いてきた。

「ディーンとバーナードは馬車を守ってね」
「魔物?」
「多分、これだけ濃い瘴気なら、近くにいてもおかしくないし……。不安要素は取り除いていこう」

 四人はこくりとうなずいた。わたしは杖を取り出してぎゅっと握る。目を閉じて、ゆっくりと深呼吸。
 古代語を口にして、杖を天に掲げる。浄化の光が辺りを包み込むのと同時に、それを阻止しようとする魔物たちが現れた。熊のように大きな身体を持ち、鋭い牙と爪で襲ってきた!

「ササ、セセ!」
「守る!」
「戦う!」

 馬車のほうにも魔物は襲い掛かったけど……ディーンとバーナードがいるからきっと大丈夫。
 魔物の振り下げた爪と、ササの剣がぶつかりキィィン! と金属音が鳴り響いた。
 セセは魔物の攻撃をうまく避けているようだ。さぁ、わたしもなにかしないとね!
 ぐっと杖を握り直して、わたしは一番得意な水の魔法を使う。水の球を作り上げる。魔物の数だけ作りあげ、魔物の顔をめがけて放つ。顔に纏わりついて息が出来ないハズなんだけど、そんなこと気にしないとばかりに攻撃の手を弱めない。

「これなら、どうっ?」

 わたしはその水の球を火の魔法を使い沸騰させた。さすがに熱かったのか、よろけたのを見て、

「今よ、ササ、セセ!」
「終わらせる!」
「倒れろーっ!」

 そう叫んで、ササとセセが魔物を斬りつける。急所にヒットしたのか、魔物が倒れた。わたしがホッとしていると、「終わった?」と後ろから声を掛けられた。

「うん、ディーンたちのほうは大丈夫だった?」
「うん、アクアのおかげで戦いやすかった」
「……ところで、どこで思いつくんだ、このやり方……」
「……戦闘狂だった神官から……?」

 とはいえ、魔物と戦うことなんて滅多にないことだし……うまく出来て良かったわ。
 今回の旅の目的はお茶会に無事に辿り着くことと、観光、それからササとセセがどれくらいの強さを持っているのかを感じるためだ。

「神官が……」
「戦闘狂……」

 わたしはふっと笑みを浮かべて顔を逸らす。血気盛んな人はどこにでもいるものだ。

「魔物ってこのままにしているの?」
「いや、素材になる部分は剥ぐから、ちょっと待ってて?」

 ディーンとバーナードはササとセセに素材の剥ぎ取りを教える。すべての素材を剥ぎ取ってから、「どうする?」と聞かれたので、わたしは杖を魔物たちに向けて祈る。
 ――どうか、安らかな眠りを――……。こん、と杖を地面につけると、魔物たちの身体は淡い光に包まれて、姿を消した。――うん、これで大丈夫。

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