112 / 153
2章
112話
「馬車!」
「速い! 速い!」
コボルトのササとセセが馬車に乗ってその速度にはしゃいでいる。尻尾をブンブン振りながら、窓から流れる景色に感動しているようだった。それに、ふたりはこうして外に出ることがなかったから余計にそう思うのだろう。
「……それにしても、本当について来て良かったんですか?」
「ええ、もちろん。……良いお屋敷でしたね、アクアさまの住んでいるところ」
「うん、わたしも気に入っているの。瘴気が全然ないから落ち着くというか……」
瘴気がない澄んだ空気、あれを一度味わうと、どんなに小さな瘴気でも気になってしまうというか……。
人を妬んだり恨んだりするのは、人としてあってしかるべき感情ではあるのよね。それをバネにして奮闘する人もいるけれど、その感情が負の方向に行き過ぎると瘴気はもっと強くなってその人を飲み込んじゃう。飲み込まれた人は自分を害するか他の人を害するかでわかれるけれど、どっちにしろ誰かに迷惑が掛かることは間違いない。
「とりあえず、寄ることが出来る町や村には寄って行こうと思うの。帝都とはいろいろ違うだろうし……」
「お茶会までには余裕のあるスケジュールだし、万が一の時は転移石もあるからね」
「かしこまりました。私も、あまり他の町や村に行ったことがないので、楽しみです」
ディーンが補足をしてくれて、ユーニスは微笑みを浮かべて小さくうなずいた。
「……視察、のようなものですか?」
「いいえ、ただの観光です。そうだよね、アクア?」
「そうよ! 一緒に楽しもうね、ユーニス」
「はい、アクアさま」
……それにしても、かなり整備されている道ね。走りやすそうだわ。
馬車を走らせて数時間、バーナードが馬車を停めた。どうやら昼食の時間になったみたい。ずっと馬車に乗っていたから、外の空気が吸いたかったし、丁度良いね。そう思って馬車を降りると、ずしっと重苦しい空気を感じた。瘴気だ。
「……本当に帝都を守るだけなのね……」
帝都のほうを振り返って小さく呟く。瘴気を感じるということは、魔物も近くにいるかもしれない。……ふむ。
「ユーニス、まだ降りないで」
「え?」
「わたしが良いと言うまで、わかった?」
彼女は神妙な面持ちになり、「わかりました」といってくれた。
「ササ、セセ。手伝ってくれる?」
「わかった!」
「手伝う!」
ササとセセが降りて、ディーンも降りる。ディーンとバーナードはわたしに近付いてきた。
「ディーンとバーナードは馬車を守ってね」
「魔物?」
「多分、これだけ濃い瘴気なら、近くにいてもおかしくないし……。不安要素は取り除いていこう」
四人はこくりとうなずいた。わたしは杖を取り出してぎゅっと握る。目を閉じて、ゆっくりと深呼吸。
古代語を口にして、杖を天に掲げる。浄化の光が辺りを包み込むのと同時に、それを阻止しようとする魔物たちが現れた。熊のように大きな身体を持ち、鋭い牙と爪で襲ってきた!
「ササ、セセ!」
「守る!」
「戦う!」
馬車のほうにも魔物は襲い掛かったけど……ディーンとバーナードがいるからきっと大丈夫。
魔物の振り下げた爪と、ササの剣がぶつかりキィィン! と金属音が鳴り響いた。
セセは魔物の攻撃をうまく避けているようだ。さぁ、わたしもなにかしないとね!
ぐっと杖を握り直して、わたしは一番得意な水の魔法を使う。水の球を作り上げる。魔物の数だけ作りあげ、魔物の顔をめがけて放つ。顔に纏わりついて息が出来ないハズなんだけど、そんなこと気にしないとばかりに攻撃の手を弱めない。
「これなら、どうっ?」
わたしはその水の球を火の魔法を使い沸騰させた。さすがに熱かったのか、よろけたのを見て、
「今よ、ササ、セセ!」
「終わらせる!」
「倒れろーっ!」
そう叫んで、ササとセセが魔物を斬りつける。急所にヒットしたのか、魔物が倒れた。わたしがホッとしていると、「終わった?」と後ろから声を掛けられた。
「うん、ディーンたちのほうは大丈夫だった?」
「うん、アクアのおかげで戦いやすかった」
「……ところで、どこで思いつくんだ、このやり方……」
「……戦闘狂だった神官から……?」
とはいえ、魔物と戦うことなんて滅多にないことだし……うまく出来て良かったわ。
今回の旅の目的はお茶会に無事に辿り着くことと、観光、それからササとセセがどれくらいの強さを持っているのかを感じるためだ。
「神官が……」
「戦闘狂……」
わたしはふっと笑みを浮かべて顔を逸らす。血気盛んな人はどこにでもいるものだ。
「魔物ってこのままにしているの?」
「いや、素材になる部分は剥ぐから、ちょっと待ってて?」
ディーンとバーナードはササとセセに素材の剥ぎ取りを教える。すべての素材を剥ぎ取ってから、「どうする?」と聞かれたので、わたしは杖を魔物たちに向けて祈る。
――どうか、安らかな眠りを――……。こん、と杖を地面につけると、魔物たちの身体は淡い光に包まれて、姿を消した。――うん、これで大丈夫。
「速い! 速い!」
コボルトのササとセセが馬車に乗ってその速度にはしゃいでいる。尻尾をブンブン振りながら、窓から流れる景色に感動しているようだった。それに、ふたりはこうして外に出ることがなかったから余計にそう思うのだろう。
「……それにしても、本当について来て良かったんですか?」
「ええ、もちろん。……良いお屋敷でしたね、アクアさまの住んでいるところ」
「うん、わたしも気に入っているの。瘴気が全然ないから落ち着くというか……」
瘴気がない澄んだ空気、あれを一度味わうと、どんなに小さな瘴気でも気になってしまうというか……。
人を妬んだり恨んだりするのは、人としてあってしかるべき感情ではあるのよね。それをバネにして奮闘する人もいるけれど、その感情が負の方向に行き過ぎると瘴気はもっと強くなってその人を飲み込んじゃう。飲み込まれた人は自分を害するか他の人を害するかでわかれるけれど、どっちにしろ誰かに迷惑が掛かることは間違いない。
「とりあえず、寄ることが出来る町や村には寄って行こうと思うの。帝都とはいろいろ違うだろうし……」
「お茶会までには余裕のあるスケジュールだし、万が一の時は転移石もあるからね」
「かしこまりました。私も、あまり他の町や村に行ったことがないので、楽しみです」
ディーンが補足をしてくれて、ユーニスは微笑みを浮かべて小さくうなずいた。
「……視察、のようなものですか?」
「いいえ、ただの観光です。そうだよね、アクア?」
「そうよ! 一緒に楽しもうね、ユーニス」
「はい、アクアさま」
……それにしても、かなり整備されている道ね。走りやすそうだわ。
馬車を走らせて数時間、バーナードが馬車を停めた。どうやら昼食の時間になったみたい。ずっと馬車に乗っていたから、外の空気が吸いたかったし、丁度良いね。そう思って馬車を降りると、ずしっと重苦しい空気を感じた。瘴気だ。
「……本当に帝都を守るだけなのね……」
帝都のほうを振り返って小さく呟く。瘴気を感じるということは、魔物も近くにいるかもしれない。……ふむ。
「ユーニス、まだ降りないで」
「え?」
「わたしが良いと言うまで、わかった?」
彼女は神妙な面持ちになり、「わかりました」といってくれた。
「ササ、セセ。手伝ってくれる?」
「わかった!」
「手伝う!」
ササとセセが降りて、ディーンも降りる。ディーンとバーナードはわたしに近付いてきた。
「ディーンとバーナードは馬車を守ってね」
「魔物?」
「多分、これだけ濃い瘴気なら、近くにいてもおかしくないし……。不安要素は取り除いていこう」
四人はこくりとうなずいた。わたしは杖を取り出してぎゅっと握る。目を閉じて、ゆっくりと深呼吸。
古代語を口にして、杖を天に掲げる。浄化の光が辺りを包み込むのと同時に、それを阻止しようとする魔物たちが現れた。熊のように大きな身体を持ち、鋭い牙と爪で襲ってきた!
「ササ、セセ!」
「守る!」
「戦う!」
馬車のほうにも魔物は襲い掛かったけど……ディーンとバーナードがいるからきっと大丈夫。
魔物の振り下げた爪と、ササの剣がぶつかりキィィン! と金属音が鳴り響いた。
セセは魔物の攻撃をうまく避けているようだ。さぁ、わたしもなにかしないとね!
ぐっと杖を握り直して、わたしは一番得意な水の魔法を使う。水の球を作り上げる。魔物の数だけ作りあげ、魔物の顔をめがけて放つ。顔に纏わりついて息が出来ないハズなんだけど、そんなこと気にしないとばかりに攻撃の手を弱めない。
「これなら、どうっ?」
わたしはその水の球を火の魔法を使い沸騰させた。さすがに熱かったのか、よろけたのを見て、
「今よ、ササ、セセ!」
「終わらせる!」
「倒れろーっ!」
そう叫んで、ササとセセが魔物を斬りつける。急所にヒットしたのか、魔物が倒れた。わたしがホッとしていると、「終わった?」と後ろから声を掛けられた。
「うん、ディーンたちのほうは大丈夫だった?」
「うん、アクアのおかげで戦いやすかった」
「……ところで、どこで思いつくんだ、このやり方……」
「……戦闘狂だった神官から……?」
とはいえ、魔物と戦うことなんて滅多にないことだし……うまく出来て良かったわ。
今回の旅の目的はお茶会に無事に辿り着くことと、観光、それからササとセセがどれくらいの強さを持っているのかを感じるためだ。
「神官が……」
「戦闘狂……」
わたしはふっと笑みを浮かべて顔を逸らす。血気盛んな人はどこにでもいるものだ。
「魔物ってこのままにしているの?」
「いや、素材になる部分は剥ぐから、ちょっと待ってて?」
ディーンとバーナードはササとセセに素材の剥ぎ取りを教える。すべての素材を剥ぎ取ってから、「どうする?」と聞かれたので、わたしは杖を魔物たちに向けて祈る。
――どうか、安らかな眠りを――……。こん、と杖を地面につけると、魔物たちの身体は淡い光に包まれて、姿を消した。――うん、これで大丈夫。
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
売られたケンカは高く買いましょう《完結》
アーエル
恋愛
オーラシア・ルーブンバッハ。
それが今の私の名前です。
半年後には結婚して、オーラシア・リッツンとなる予定……はありません。
ケンカを売ってきたあなたがたには徹底的に仕返しさせていただくだけです。
他社でも公開中
結構グロいであろう内容があります。
ご注意ください。
☆構成
本章:9話
(うん、性格と口が悪い。けど理由あり)
番外編1:4話
(まあまあ残酷。一部救いあり)
番外編2:5話
(めっちゃ残酷。めっちゃ胸くそ悪い。作者救う気一切なし)
【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね
との
恋愛
離婚したいのですか? 喜んでお受けします。
でも、本当に大丈夫なんでしょうか?
伯爵様・・自滅の道を行ってません?
まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。
収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。
(父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる)
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
32話、完結迄予約投稿済みです。
R15は念の為・・
夫に欠陥品と吐き捨てられた妃は、魔法使いの手を取るか?
里見
恋愛
リュシアーナは、公爵家の生まれで、容姿は清楚で美しく、所作も惚れ惚れするほどだと評判の妃だ。ただ、彼女が第一皇子に嫁いでから三年が経とうとしていたが、子どもはまだできなかった。
そんな時、夫は陰でこう言った。
「完璧な妻だと思ったのに、肝心なところが欠陥とは」
立ち聞きしてしまい、失望するリュシアーナ。そんな彼女の前に教え子だった魔法使いが現れた。そして、魔法使いは、手を差し出して、提案する。リュシアーナの願いを叶える手伝いをするとーー。
リュシアーナは、自身を子を産む道具のように扱う夫とその周囲を利用してのしあがることを決意し、その手をとる。様々な思惑が交錯する中、彼女と魔法使いは策謀を巡らして、次々と世論を操っていく。
男尊女卑の帝国の中で、リュシアーナは願いを叶えることができるのか、魔法使いは本当に味方なのか……。成り上がりを目論むリュシアーナの陰謀が幕を開ける。
***************************
本編完結済み。番外編を不定期更新中。
婚約破棄の日の夜に
夕景あき
恋愛
公爵令嬢ロージーは卒業パーティの日、金髪碧眼の第一王子に婚約破棄を言い渡された。第一王子の腕には、平民のティアラ嬢が抱かれていた。
ロージーが身に覚えのない罪で、第一王子に糾弾されたその時、守ってくれたのは第二王子だった。
そんな婚約破棄騒動があった日の夜に、どんでん返しが待っていた·····
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について
夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。
ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。
しかし、断罪劇は予想外の展開へ。