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2章
115話
「ディーン隊長、バーナードさん、あの……」
困惑したような声が聞こえた。ディーンと同じくらいの青年だ。
「モフモフが歩いているんですが……」
「うん、コボルトなんだ」
「コボルト?」
自分たちのことが話題にされているのを聞いているのか、ササとセセの耳がぴくぴく動いていた。それを興味深そうに眺める人たちが数人。
「魔物……ですか?」
「魔物は魔物だけど……、アクアの護衛なんだ」
「アクア……ああ、新聞で見ました」
ん? わたしのことも話している? わたしはササとセセの間に挟まって、彼らと腕を組んだ。ササとセセは驚いたように身体を硬直させたけど、すぐに「アクア?」と声を掛けてきたので、わたしは「話してみよう!」ってディーンと話している人に近付いていった。
「ディーン、そちらの方は?」
「ああ、この町の警備隊のひとりだよ」
「初めまして、アクア・ルックスと申します。彼らはコボルトのササとセセ。よろしくね!」
わたしがそう声を掛けると、ディーンと話していた青年がぺこりと頭を下げる。
「初めまして、コーディと申します。アクアさまのお噂はかねがね……」
「……噂っ?」
ばっとディーンとバーナードに視線を向ける。彼らはさっと視線を逸らした。知っていたのか! 一体どんな噂が流れているんだろう……。わたしが不安そうな表情を浮かべているのがわかったのか、慌てたようにコーディが両手を振る。
「悪い噂じゃありませんよ!?」
「じゃあどんな噂なの?」
「帝都の瘴気を払ったとか、ルーカス陛下に可愛がられているとか」
前者はともかく後者は……いろんな意味に聞こえるなぁ……。わたしがリネットだということを知っているのかいないのか……。まぁ、どちらでも良いのだけど。
「アルストル帝国のどこまで流れているのかな……?」
「かなり広まっていると思いますが……。ただ、正しく伝わっているかどうかは……」
アルストル帝国はかなり広いから、端から端まで噂が広がるのは時間が掛かるだろう。そしてその分、いろいろな噂がつけ足されるのかも……?
わたしは小さく息を吐いた。一体どこから噂が広まったのか。……考えていても仕方ないか。
「……ところで、その、コボルトたちは……」
「ディーンが言った通り、ササもセセもわたしの護衛よ。可愛くて強い子たちなの」
自慢するように胸を張ると、コーディは「はぁ」と曖昧に微笑んだ。ササとセセは嬉しそうにわたしを見ていた。
「あっ、でも可愛いよりは」
「格好いいがいい!」
ササとセセがそういうと、コーディがふっと目元を和らげた。それから、わたしたちよりも一歩後ろに下がっていたユーニスがコーディに話し掛けた。
「初めまして、私はユーニスと申します」
「あ、初めまして。リックウッド伯爵夫人ですよね?」
「あら、私をご存知で?」
こくりとうなずくコーディ。……うーん、ユーニスも有名人なのかしら?
「はい、以前リックウッド伯爵といらっしゃいましたよね。仲睦まじい姿を見ていたので、覚えています」
「まぁ……」
ユーニスはちょっと頬を赤らめて、その顔を隠すように扇子を広げる。……ユーニス、この町に来たことがあるんだ。みんな結構旅行とかしているのかな?
「リックウッド伯爵夫人が俺……えっと、私を知らないのも無理はありませんが……」
どうやらリックウッド伯爵たちとは一瞬すれ違っただけらしい。……一瞬だけでも、仲睦まじい様子を見て「ああ、あんな結婚したいなぁ」と心から思ったそうで、印象深かったみたい。
「……一体どんな様子だったんだろう……」
ぽつりとわたしが呟くと、コーディが説明しようと口を開いた。でも、ユーニスが慌てて、
「良いじゃありませんか、そんなこと気にしなくても。ほら、アクアさま、食事に行くのでしょう?」
慌てたその様子が可愛らしくて、こんな奥さんをもらったリックウッド伯爵は果報者ね、なんてしみじみ思ったり。
「そうね、お腹空いたし……。どこか美味しいところはあるかしら?」
「……それでしたら、屋台料理はいかがでしょうか。美味しいですよ」
「屋台料理!?」
わたしの目が輝いた。一度も食べたことがないからだ。
幼い頃は外に出ると知らない人ばかりになるのがイヤで家の中にばかりいたし、ダラム王国にいた頃は外で食べること自体が珍しかった。だから、屋台料理って食べたことないのよね! どんな料理があるのだろう。とワクワクしていたら、ユーニスが驚いたような顔をしていた。
「それは、食べ歩く、ということですか?」
「……あ、貴族の女性には難しい、でしょうか」
コーディは慌てて言葉をつけ足す。ユーニスは少し悩んでいるように見えた。貴族の夫人が食べ歩いている姿を見たことはない、かな……? そう考えるとマナー的な意味で躊躇っているのもわかる。
「……アクアさまは食べたい、ですよね……?」
「え、そりゃあもちろん。でも、ユーニスはイヤ……?」
恐る恐る尋ねると、ユーニスは意を決したように顔を上げた。それから「……行きます」とぐっと拳を握った。
困惑したような声が聞こえた。ディーンと同じくらいの青年だ。
「モフモフが歩いているんですが……」
「うん、コボルトなんだ」
「コボルト?」
自分たちのことが話題にされているのを聞いているのか、ササとセセの耳がぴくぴく動いていた。それを興味深そうに眺める人たちが数人。
「魔物……ですか?」
「魔物は魔物だけど……、アクアの護衛なんだ」
「アクア……ああ、新聞で見ました」
ん? わたしのことも話している? わたしはササとセセの間に挟まって、彼らと腕を組んだ。ササとセセは驚いたように身体を硬直させたけど、すぐに「アクア?」と声を掛けてきたので、わたしは「話してみよう!」ってディーンと話している人に近付いていった。
「ディーン、そちらの方は?」
「ああ、この町の警備隊のひとりだよ」
「初めまして、アクア・ルックスと申します。彼らはコボルトのササとセセ。よろしくね!」
わたしがそう声を掛けると、ディーンと話していた青年がぺこりと頭を下げる。
「初めまして、コーディと申します。アクアさまのお噂はかねがね……」
「……噂っ?」
ばっとディーンとバーナードに視線を向ける。彼らはさっと視線を逸らした。知っていたのか! 一体どんな噂が流れているんだろう……。わたしが不安そうな表情を浮かべているのがわかったのか、慌てたようにコーディが両手を振る。
「悪い噂じゃありませんよ!?」
「じゃあどんな噂なの?」
「帝都の瘴気を払ったとか、ルーカス陛下に可愛がられているとか」
前者はともかく後者は……いろんな意味に聞こえるなぁ……。わたしがリネットだということを知っているのかいないのか……。まぁ、どちらでも良いのだけど。
「アルストル帝国のどこまで流れているのかな……?」
「かなり広まっていると思いますが……。ただ、正しく伝わっているかどうかは……」
アルストル帝国はかなり広いから、端から端まで噂が広がるのは時間が掛かるだろう。そしてその分、いろいろな噂がつけ足されるのかも……?
わたしは小さく息を吐いた。一体どこから噂が広まったのか。……考えていても仕方ないか。
「……ところで、その、コボルトたちは……」
「ディーンが言った通り、ササもセセもわたしの護衛よ。可愛くて強い子たちなの」
自慢するように胸を張ると、コーディは「はぁ」と曖昧に微笑んだ。ササとセセは嬉しそうにわたしを見ていた。
「あっ、でも可愛いよりは」
「格好いいがいい!」
ササとセセがそういうと、コーディがふっと目元を和らげた。それから、わたしたちよりも一歩後ろに下がっていたユーニスがコーディに話し掛けた。
「初めまして、私はユーニスと申します」
「あ、初めまして。リックウッド伯爵夫人ですよね?」
「あら、私をご存知で?」
こくりとうなずくコーディ。……うーん、ユーニスも有名人なのかしら?
「はい、以前リックウッド伯爵といらっしゃいましたよね。仲睦まじい姿を見ていたので、覚えています」
「まぁ……」
ユーニスはちょっと頬を赤らめて、その顔を隠すように扇子を広げる。……ユーニス、この町に来たことがあるんだ。みんな結構旅行とかしているのかな?
「リックウッド伯爵夫人が俺……えっと、私を知らないのも無理はありませんが……」
どうやらリックウッド伯爵たちとは一瞬すれ違っただけらしい。……一瞬だけでも、仲睦まじい様子を見て「ああ、あんな結婚したいなぁ」と心から思ったそうで、印象深かったみたい。
「……一体どんな様子だったんだろう……」
ぽつりとわたしが呟くと、コーディが説明しようと口を開いた。でも、ユーニスが慌てて、
「良いじゃありませんか、そんなこと気にしなくても。ほら、アクアさま、食事に行くのでしょう?」
慌てたその様子が可愛らしくて、こんな奥さんをもらったリックウッド伯爵は果報者ね、なんてしみじみ思ったり。
「そうね、お腹空いたし……。どこか美味しいところはあるかしら?」
「……それでしたら、屋台料理はいかがでしょうか。美味しいですよ」
「屋台料理!?」
わたしの目が輝いた。一度も食べたことがないからだ。
幼い頃は外に出ると知らない人ばかりになるのがイヤで家の中にばかりいたし、ダラム王国にいた頃は外で食べること自体が珍しかった。だから、屋台料理って食べたことないのよね! どんな料理があるのだろう。とワクワクしていたら、ユーニスが驚いたような顔をしていた。
「それは、食べ歩く、ということですか?」
「……あ、貴族の女性には難しい、でしょうか」
コーディは慌てて言葉をつけ足す。ユーニスは少し悩んでいるように見えた。貴族の夫人が食べ歩いている姿を見たことはない、かな……? そう考えるとマナー的な意味で躊躇っているのもわかる。
「……アクアさまは食べたい、ですよね……?」
「え、そりゃあもちろん。でも、ユーニスはイヤ……?」
恐る恐る尋ねると、ユーニスは意を決したように顔を上げた。それから「……行きます」とぐっと拳を握った。
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