恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

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2章

117話

 ――深夜に、目が覚めた。なにか、胸騒ぎがした。わたしは息を殺して神経を集中させる。
 ドアノブをガチャガチャと動かしている音が聞こえる。やがて諦めたのか、バァン! と大きな音を立て扉が蹴破られた。……レディの部屋に入り込むなんて、無礼なヤツ! そう思ってそいつが近付いて来る足音を確かめ――……。

「悪いな、これも依頼なんだ」

 ぼそりと呟いた瞬間、わたしはバッと起き上がって毛布をそいつに投げつけた。

「な――……」
「神よ、この者を拘束して!」

 毛布ごとグルグル巻きにした。神の鎖はそう簡単にちぎれないだろう。しかし、この部屋に入って来たのはひとりだけではなかったようで、まだ数人、ナイフや剣を持っている人たちが見えた。わたしが起きていることに驚いたのか、その人たちは一斉にわたしに襲い掛かる。

「目を閉じろ!」

 バーナードの声が聞こえて、思わず目を閉じる。金属のぶつかり合う音が聞こえて、ふわりと頭からなにかを掛けられた。

「すぐ終わるから」

 ディーンの声だ。ササとセセの声も聞こえる。どのくらいそうしていたのかはわからない。金属のぶつかり合う音と、なにかを縛っているような音が聞こえた。すべて終わったのか、わたしに被せられたなにかが取られた。

「……なに、この人たち……」

 バーナードたちにコテンパンにされたであろう人たちが数人、床に転がっていた。
 わたしがぽつりと呟くと、「大丈夫だった?」とディーンに聞かれたので「うん」と答えた。

「な、何事ですか!?」

 多分、宿屋の主人が起きてきたのだろう、そしてわたしの部屋の中に転がっている人たちを見て「ひぃ!」と短い悲鳴を上げた。

「ど、どうなっているんですか、ディーンさん」
「こっちが聞きたいよ……」

 肩をすくめてみせるディーンに、彼は戸惑ったようにわたしたちを見渡して……。

「とりあえず、空いている部屋がありますので、部屋を移動されますか?」
「そうしてくれるとありがたいわ。あと、この人たち扉蹴破って入って来たから、修理代請求してね」
「……そうします」

 とほほ、とばかりに肩を落とす宿屋の主人に、わたしはちらりと襲い掛かって来た人たちを見渡した。わたしが捕らえた人を除いて、気絶しているようだ。……手加減がうまいのだろう。

「この人たちどうするの?」
「とりあえず、危険なものを持っていないか確認してからどうしてアクアを襲ったのかを聞かないと。アクアは眠っていて良いよ」
「……いや、眠れる気がしないわ」
「……だろうね」

 困ったな、とばかりにディーンが眉を下げる。

「……わたしが襲われそうだって、どうしてわかったの?」
「コボルトたちの嗅覚と耳のおかげ、かな」
「多分誰よりも先に気付いていたと思うぜ」

 バーナードがつけ足した。……ってことは、わざとわたしを襲わせたのね。じろりと睨むと、ディーンが降参とばかりに手を上げる。

「狙われているのがアクアだったから、ヤツラが踏み込んだ後にしようと思って。それと、どっちの意味で襲うのかも知りたかったし」
「ディーン……」

 わたしの命を狙うか、神力しんりょくを狙うかって考えていたのね……。全員わたしの命を狙ってきたようだけど。ナイフと剣を持っているってことは、そういうことよね?

「一歩遅かったらどうするつもりだったのよ……」

 呆れたように尋ねると、「それはない」とバーナードが首を振る。

「最初にお前を殺そうとしたヤツ、お前がどうにかしなくても俺らがやっていた」
「あの距離でー?」
「あの距離でも。だろ、ディーン」
「そうだね、魔法使えばすぐだね。ただ……まぁ、相手は死んじゃうかもしれないけど!」
「そうなると誰に依頼されたのかわからなくなるからな……。まぁ、見たところ下っ端っぽいし、そんなに情報持っていないと思うけど」

 ……魔法のほうがコントロール、難しいってことかしら? 重々しくため息を吐いてから肩をすくめると、ぽんぽんとディーンとバーナードから頭を撫でられた。

「お前の強さはわかっていたから、その方法を取った、悪い」
「……ごめんね。次からはすぐに助けるから」
「……ねえ、もしかして……。魔物と戦ってばかりいたから、対人間の力加減がわからないってことなの……?」

 すっと頭から手が離れた。恐らく、肯定。……そうか、彼らも人と戦うのは慣れていない。……そして、わたしは人が傷つくところを見たくない。……きっとそれも考慮したのだろう。だからわたしの視界を塞いだのね……。

「……今度からは、すぐに助けてよね」
「そうする」
「わかった」
「約束するよ」

 ササとセセが心配そうにわたしたちを見ているのに気付いて、わたしはゆっくりと呼吸を整えてから笑みを浮かべて彼らに手を振った。
 ササもセセも、ホッとしたような顔をして、わたしに近付いてきた。

「アクア、大丈夫?」
「ちゃんと、気絶させた!」
「うん、大丈夫。ササもセセもしっかり護衛として頑張ってくれてありがとう」
「だって、それが」
「護衛の仕事!」

 腰に手を当ててエッヘンと誇らしげに胸を張るササとセセを見て、わたしは小さく笑みを浮かべた。

「コーディを呼んでいるから、こいつらはコーディに任せよう」
「ああ、警備隊のところで預かってもらえるなら安心ね」

 そんな話をしていると、宿屋の主人と共にコーディが部屋に来た。

「アクアさま、大丈夫ですか!?」
「あ、コーディ、お疲れさま~」
「挨拶が軽い!?」

 一体どんな想像をしながらここまで来たのだろうか……。ぜぃぜぃと息を切らしているのを見ると、急いで駆けつけてくれたようだ。

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