恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

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2章

122話

 アルマと呼ばれた女性は自ら紅茶を淹れながら、他の人たちとも談笑をしていた。みんなドレス姿だから、とても華やか。お茶の入ったカップを渡されて受け取ると、アルマはにこりと微笑んだ。

「アクアさまとお話しするのは初めてですね」
「そうだね。みんなとても華やかなドレス姿で綺麗だわ」
「ありがとうございます。ふふ、思い切って招待状を出して正解でしたわ」

 アルマの言葉に、他の人たちもうなずいていた。多分、アルマの友人たちなのだろう。

「実は、わたくしたち、アクアさまのお顔もお姿も知りませんでしたの」
「先日のルーカス陛下の誕生日パーティーの噂はすぐに広まりまして、一度お会いしたいと思いましたのよ」

 一体どんな風な噂が流れたのだろう……。

「コボルトたちのことも、耳にしましたわ。アクアさま、実はこのマクファーソン領内にも悪意のない魔物が棲んでいるのです」
「えっ!?」
「むしろ日々の生活を助けられていますわ。珍しい魔物のようで……、つるつるとした丸いボディにひんやりとした感触がたまらなく気持ち良いのです」

 ほぅ、と頬に手を当てて恍惚の表情を浮かべるアルマたちに、わたしとユーニスは顔を見合わせた。気を取り直してお茶を飲んだりお茶菓子を食べたりした。どっちも美味しいのだけど、悪意のない魔物のことが気になって仕方ない。……あの言い方だと、多分スライムよね……?

「熱を出した時に額に乗せると、熱を奪ってくれて助かりましたわ」
「そうなんだ。……でも、悪意のない魔物と一緒に暮らしているのなら、なんだか嬉しいわ」

 そりゃあ襲い掛かって来る魔物は倒さないといけないけど……、敵意がない魔物まで討伐対象にはならないし……。人間を襲う魔物はかなりの数があるけれど、中にはコボルトたちのように悪意のない魔物たちだっているもんね。魔物の数も膨大だろうけど、全部の魔物が同じ思考をしていると思うのは違うだろう。

「――実は、家で一匹、一緒に暮らしているんです。見てみますか?」
「見てみたいわ!」
「私も」
「では、こちらへどうぞ」

 そういって立ち上がり、わたしたちをそこへと案内してくれた。中庭に置いてある噴水の中に、その魔物は暮らしているらしい。水が好きなのかしら? ひょいと覗き込んでみると、想像した通りの魔物――スライムが噴水の中を泳いでいた。
 わたしたちの視線に気付いたのかぴゃっと跳ねあがり、泳ぐのが早くなった。

「……可愛いね」
「でしょう? うふふ、今日ご招待したのは、この子の可愛さを理解している友人だけですの。アクアさまもスライムのことが気に入っていただけましたか?」
「ええ、でもなんだか驚かせてしまったみたいね。ごめんね、ゆっくり泳いでいて良いのよ」

 スライムに向かって謝罪の言葉を紡ぐと、スライムはもう一度跳ね上がって泳ぐのがゆっくりになった。……人間の言葉を理解しているのね。

「他のスライムたちも、こんな風に意思疎通が出来るの?」
「はい、悪意のない魔物はこのように、人間の言葉を理解しているようです」

 ……悪意のある魔物には意思疎通が難しくて、悪意のない魔物には意思疎通がしやすいわけか。……確かに、わたしが遭遇した魔物たちもそんな感じだな。コボルトは人間の言葉を話していたし、ゴースト系の魔物は問答無用で襲い掛かって来たもの。……ええ、ゴースト系は一気に浄化させたけど。たとえ意思疎通出来たとしても、わたしがゴースト系の魔物が苦手な限り話し合うことも出来ない気がする……。話し合う前に気絶しそう。

「――スライムの生息地って近いのかな?」
「はい、恐らく。この子はここに迷い込んでしまったのです」
「迷子だったの……」
「数年前に迷い込んで以来、噴水がお気に入りになったようで、ずっとここで暮らしています」
「そっか。良かったねぇ、良い人に拾われて」

 返事の代わりにぴょんと跳ねたスライムを見て、わたしは思わず笑みを浮かべた。その後、自分たちがどんなスライムを見たのか、一緒に暮らしたことがあるとか、そんな話題で盛り上がった。
 ……そんな話題で盛り上がっていたら日が暮れてきて、他の令嬢たちは迎えが来ていた。名残惜しそうに馬車に乗り帰って行く人たちを、軽く手を振りながら見送る。すると、アルマが「花祭りを見に行きませんか?」と誘ってくれた。
 断る理由もないので、わたしたちは誘いに乗った。行く前にディーンたちに報告しないとね。彼らは護衛なのだから。
 善は急げとばかりに屋敷に入り、ディーンたちの元へ向かう。執事服の男性が彼らの元に連れて行ってくれた。

「ディーン、バーナード、ササ、セセ! お祭りに行こう!」

 わたしがそう誘うと、彼らはあまり驚きもせずに「じゃあ行こうか」とわたしたちの元に来てくれた。

「では、少しお時間をいただけますか?」
「あ、着替えるの?」
「アクアさま、髪をアレンジしましょう。折角のお祭りですもの」

 にこやかにそういわれて、わたしは「えっ」と固まった。その隙を見逃さず、アルマはわたしの手を引いて歩く。ユーニスも一緒について来た。

「準備が終わったら声を掛けてね」

 ディーンの言葉に、ユーニスが「ええ」と答えたのを聞きながら、わたしはぐいぐいと手を引っ張られながら歩いた。

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