恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

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2章

124話

 ステージの上には老若男女問わずに頭に花冠を乗せていたり、髪のアレンジをしている人たちがたくさんの花が入った籠を持っていた。そして、その花々を風に乗せるように籠に入っている花を掴んでは飛ばしている。なるほど、アレを取るのは大変そうだ。
 ステージの上に乗っている人たちも、落ちて来る花を掴もうとする人たちもとても楽しそうだ。パラパラと降り注ぐ花に手を伸ばしている人たちを見て、小さく笑みがこぼれた。

「みんな楽しそう」
「年に一度の花祭りですからね。こういう時にはしゃがないと!」

 アルマが手を伸ばして花を掴もうとするけれど、残念ながら下に落ちてしまった。
 ユーニスも珍しくはしゃいでいるように見えた。家庭教師としていろいろお世話になっている彼女に、少しでも幸福が訪れるといいな。そう考えながらわたしも落ちて来る花々に手を伸ばした。
 その瞬間、ぶわっと風が吹いた。落ちていく花々が舞い上がり、空へと昇っていく。どこまでもどこまでも、澄んでいる空へと――……。

「アクアさま?」
「――ううん、なんでもない、なんでもないの……」

 ただ、……昔にも、こんなことがあったなって思っただけ。ダラム王国にいた頃、前神官長と一緒に……こんな風に花で遊んでいたことがあるのを思い出した。なにも思い出せないわたしを、前神官長が外へと連れ出してくれた。結界内だから外で遊んでみよう、と。そこで前神官長は花冠を作ってくれたりして、わたしと遊んでくれた。
 その時にも、こんな風に吹いたなと懐かしむ。……目元を細めて空を見上げた。……懐かしい思い出。まだちゃんと思い出せる。

「ステージってわたしも上って良いのかな」
「大丈夫ですよ。一緒に行きましょうか?」
「うん、一緒に行こう!」

 アルマに手を差し出されて、わたしは迷いなくその手を取ってステージへと向かう。ステージの上に立って、もう一度空を見上げた。籠を持っている人たちの後ろに向かい、杖を取り出す。不思議そうに見ているアルマに微笑みかけて、パチンとウインクするとわたしは深呼吸を繰り返して目を閉じた

「――神よ、我が願いを聞き給え――……」

 浄化の言葉ではない。ただ――この町の人たちがずっと笑い合えるようにお願いした、だけ……なんだけどなぁ……。
 返事のように杖が温かくなるのと同時に、この辺りを一気に浄化したようだ。……びっくりして目を丸くしてしまった。

「い、今のは……?」
「神さまのサービス、かな?」

 まさかここでもサービスされるとは……。神さまはサービス精神豊富らしい。……なんてね。

「……アルマ、ありがとうね、招待状をくれて」
「え?」

 お礼を伝えられるとは思わなかったのか、アルマはびっくりしたように目を丸くした。
 誘ってもらわなかったら、こんなに綺麗な花祭りを見ることはなかっただろう。だからお礼を伝えた。

「これは、わたしからのお礼の気持ちよ」

 すっと杖を上に翳す。わたしが一番得意な魔法――水魔法を使って、いろいろな動物の形を作り、その中に花を埋めた。……うん、愛らしいじゃない?

「みんなにも届きますように――……!」

 目を閉じて杖をぎゅっと握る。この花祭りを見ている人たちを楽しませたい。それだけの理由で使った魔法は、歓声を受けた。わたしはその歓声を聞きながら、ステージの上から空を見上げる。
 きっと、お母さまもお父さまも……前神官長も空から見ているだろう。
 魔法の効果が切れるのはもう少し後にして、わたしたちはステージを降りた。すると、ディーンとバーナードがわたしを見て、ふっと表情を和らげた。

「とても綺麗な魔法ですね」

 ユーニスもそういって褒めてくれた。

「――平和な使い方だよなぁ……」

 ぽつり、とバーナードが呟く。そうね、魔法は使う人によって用途が違うからね。
 戦闘に使うこともあれば、こうやってみんなの心を和ませるために使うことだってできる。……それはきっと、剣も同じだ。

「剣だってそうじゃない? 戦うためじゃない剣だってあるもの」

 誰かを守るために剣を抜いたりもするし、剣舞だってみんなの心を鼓舞させるものだから。

「魔法も剣も、使い方次第ってことだね」
「そういうこと!」

 そして花祭りは、夜遅くまで続いた。……けれど、花祭りを最後まで見ることはなかった。マクファーソン家に一泊させてもらい、翌日、わたしたちは最終目的地に向かう。
 ――そう、元ダラム王国との国境付近――……。
 わたしの家族が、亡くなった場所へ――……。

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