恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

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2章

125話

 ――晴天だった。澄み渡る雲ひとつない青空。

「アルマ、またね」
「はい、アクアさま」

 マクファーソン家の人たちに見送られて、わたしたちは馬車へ乗り込む。馬車の中からアルマに手を振ると、アルマも手を振り返してくれた。

「昨日の魔法、とても綺麗でした」
「そう? みんなが喜んでくれるのなら良かったけど」

 ユーニスが淡々とした口調で、それでも口角はちょっとだけ上げてそういった。わたしはそんなユーニスの様子に内心首を傾げつつ、にこりと笑ってみせた。
 馬車が動き出した。今日の御者はバーナードだ。半日もすれば目的地にたどり着くらしい。わたしが浄化したことで、魔物たちも滅多に現れないだろうとのこと。浄化するつもりはなかったんだけどなぁ……。これも力をコントロール出来ない部類に入るのかもしれない……。

「……あれだけ多くの魔力を使って、お身体は大丈夫なのですか?」

 問われて、心配してくれているのだと思った。わたしは「大丈夫よ」と答えると、ユーニスは心底不思議そうにわたしを見た。

「……アクアさまは、神力しんりょくだけではなく魔力も相当のようですね……」
「考えたことはないなぁ」

 土魔法がなんでこんなに苦手なのかは考えたことあるけれど。ダラム王国にいた頃、必死に魔法を覚えた。わたしと一番相性の良い属性は水だった。他の属性も使えたけれど、土魔法だけどうやってもあのミニゴーレムしか作れなかった。

「自分で言うのもなんだけど、そういうのを考える暇がなかったというか……」

 今でもたまにダラム王国の神殿で書類作業に追われている夢を見るくらいだしね……。その後目が冴えて、それに気付いた誰かがホットミルクを作ってくれたりした。……なんでわかるのだろう。全員寝ていたんじゃないのかな……? と思ったけど、まぁホットミルクは美味しかったのでありがたかった。二度寝の贅沢感も悪くない。

「こっちに来てからも怒涛の日々が始まったし……、そうね、なんでわたしに強い神力と魔力が宿っているのか、考えてみるのもいいかもしれない!」

 パンっと両手を合わせてそういうと、ユーニスは肩をすくめた。

「でしたら、是非、成人してからにしてくださいませ。アクアさまの誕生日までに淑女レディとしての教育をビシバシしますので」

 わぉ、スパルタな予感。
 くつくつとディーンは喉を震わせて笑っているし……。そして相変わらず、馬車から流れる風景が珍しいのかササとセセは窓の外に夢中だ。

「週に一回でしたが、陛下にお願いしてもっと増やしましょう。そうすれば、気品ある振る舞いが出来るでしょう」
「……どこに行っても?」

 目を瞬かせて問うと、ユーニスは「……え?」と言葉を止めた。そして、ユーニスは首を傾げて言葉を紡ぐ。

「ええ、貴族としての振る舞いが出来るのなら、ルーカス陛下も安心でしょうし……」
「ルーカス兄さまが安心って?」
「……アクアさま、貴族には敵がいるものです。……もちろん、味方もいますが……。そうですね、例えば……同じ貴族でも気品ある人とない人、どちらを貴族として信用できますか?」
「え、それは……、深く知り合っていなければ、やっぱり前者?」

 気品のない人がとてつもなく良い人だという可能性もあるけれど、ぱっと見だったら穏やかで気品ある人のほうが貴族っぽい気がする。……あと、悪い意味で傲慢な人も貴族っぽい。平民たちのことを考えない……自分の暮らししか考えない人。……それこそ、ダラム王国の貴族たち。もちろん、そうじゃない人たちもいたのかもしれないけれど……、わたしが知る限り、ダラム王国の貴族たちはそういう人たちだった。
 あ、思い出したらちょっとイラっと来た。イラっと。

「……ダラム王国の平民たちはみんな元気かなぁ……」

 ぽつり、と言葉をこぼすと、ディーンが「元気だと思うよ」と励ますようにいってくれた。

「家族は一緒に暮らせるように手配したし、仕事を与えたし……。そりゃあまぁ、ひとつのところに滞在させるわけにもいかないから、国中に散ってはいるけど……それを受け入れたのは彼らだから」
「……そうなの?」
「たまに陛下の元に感謝の手紙が届くそうだよ」
「そっか! なら良かった」

 ……うん? 平民が手紙を書く?

「……平民たちが、字を書けるの?」
「きちんと教えているハズだからね」

 なるほど……。文字も教えられて、仕事も与えられているのなら安心、かな。

「元々、この帝国っていろんな人たちが寄せ集めて出来た国だから、移住者にも優しいよ」

 わたしが安堵したことに気付いたのか、ディーンがくすくすと笑う。ユーニスも微笑んでいた。

「……ダラム王国で思い出しました。貴族たちのほうは無事に東部についたのですか?」
「さぁ? そこまではわからないな」

 一瞬、ディーンの目が鋭く光った。その鋭さにびくりと肩が震えてしまった。

「あ、ごめん。……ちょっと、思い出して」
「……聞いても良い? それとも、聞かないほうが良い?」
「……アクアの耳には入れたくないな」

 ……それだけの言葉でわたしは理解した。ダラム王国の貴族は、わたしのことを悪くいったのだろう。あの日、寝込んでいた時間に一体なにがあったのだろう……。……わざわざ自分の悪口を聞いても、自分が傷つくだけよね、と肩をすくめた。

「……それより、そろそろだよ。元ダラム王国との国境付近」
「……うん」

 十年前と大きく違いはないみたい。窓の外を眺めていると、十年前の記憶がじわじわとよみがえった。

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