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2章
129話
翌朝、目が覚めるとベッドにひとりで寝ていた。ユーニスはきっと、客室に案内されたのだろう。ベッドから降りて背伸びをすると、昨日まで旅をしていたことが不思議な感じがした。
わたしはルーカス陛下宛てに連絡鳥を飛ばした。話したいこともあるし、時間を貰おう。きっと、ルーカス陛下は時間を作ってくれると思うから。
「よーし、身支度整えようっと!」
ぐっと意気込むように拳を握ってから身支度を整える。……それにしても、ぐっすり眠れたなぁ。昨日までは眠っていてもちょっと神経が研ぎ澄まされている感じがしたけど……いつの間にか、ここが『一番安全な場所』だと感じていただろう。
「……礼拝堂に行かないとね」
きちんと帰って来たことを報告しないと。わたしは自室から礼拝堂へと向かい、礼拝堂の扉を開けて思わず「あ」と声を上げてしまった。わたしの声に気付いて、バーナードが顔を上げる。
「……おはよう、バーナード」
「……おはよう、アクア。相変わらず早いな」
「そりゃあね。……お祈りの邪魔しちゃった?」
「いや、大丈夫だ」
バーナードに近付いて挨拶をする。彼は、昨日のことなんて忘れたかのように普通の態度だ。……昨日の誓いはなんだったんだろう、と思いつつ、バーナードの態度にちょっとホッとしたのも事実。
わたしは彼の隣に立って、胸元で両手を組んで目を閉じた。
――道中いろいろありましたが、無事に帰ってくることが出来ました。わたしたちを見守っていただきありがとうございます。……いや、本当にいろいろありましたが……。
そんなことを胸の中で呟いて、目を開ける。
「――神よ、我らに祝福をお与えください――……」
わたしがそういうのと同時に、わたしとバーナードの身体が淡く光り輝いた。バーナードが驚いたように目を見開く。
「……アクア?」
「……バーナード、わたしね、……誰かが傷つくところを見るのが嫌いなの。助けられない人を見るのは、イヤなの。……だから、約束して。……あなたは、わたしを置いて行かないって」
――バーナードが傷つけられた時、わたしが襲われた時、どちらもショックを受けたわ。……でも……自分が襲われた時よりも、彼が傷つけられた時のほうがイヤだった。
……『リネット』だったわたしは、誰も助けられなかったし、誰かが傷つくところを見るのは嫌いだ。……自分の無力さを思い出すから。……でも、今のわたしは無力じゃない。
「置いて行くな、ねぇ……」
淡い光はバーナードとわたしの中に吸収されていった。これで少しは加護を得られるだろう。
「……アクアを護るのが、俺らの仕事だ。だから、『絶対に置いて行かない』とは言えない」
「……」
「……だが、努力はする」
「……そっか、努力してくれるのなら、いいや」
わたしが目を伏せて微笑むと、バーナードがぽんとわたしの頭を撫でた。……バーナードにはわたしの弱いところばかり見せている気がする――って、そうだ!
「……ねぇ、バーナードって『ルーファス』がファーストネームなの? なんでみんなにバーナードって呼ばせているの?」
「気になるのはそっちかよ……。俺の故郷が西のほうだって知っているだろ」
「うん。魔王がいるところでしょ?」
「そっちでの風習で、親にもファーストネームじゃなく、バーナードって呼ばれていたんだよ」
「不思議な風習ね」
ファーストネームを名乗っちゃダメっていう風習があるってことよね。謎だ。
「え、じゃあルーカス兄さまやディーンも知らないの……?」
「知らないだろうな」
……そんなことが許されているのか。……いやでも貴族の名前って長いのが普通だっけ。わたしにだってセカンドネームがあるもん。そっか、『バーナード』がファーストネームだと思っていたから、ディーンは『セシル』がセカンドネームだと思っていたのね。なるほど……?
「じゃあファーストネームは知られないほうが良いの?」
「というか、もう『バーナード』のほうが呼びやすいだろ」
それは確かに。出会ってからずっと『バーナード』って呼んでいるからね。
「……どうしてわたしに、教えてくれたの?」
「……俺なりの謝罪と決意の表れ?」
……なんでそこで疑問系なのか教えて欲しいわ……。
「今まで通り『バーナード』で良い?」
「ああ」
一度しか聞いていないのに、ルーファスという名前が頭の中をぐるぐる回っている。……表面上、わたしとバーナードの関係は普通、だよね? ちらりとバーナードに視線を向けると、彼は「ん?」と首を傾げた。その表情が、心なしかいつもよりも穏やかに見える。……いやいや、バーナードが謝罪っていっていたじゃん。だったら、そんなに深い意味の誓いではなかったのかも――……。……でも決意ってなんだろう……。こういうのを聞くのって無粋かな? ああ、考えが纏まらない!
「……表情、くるくる変わってるぞ」
……誰のせいだと!
「あ」
連絡鳥がわたしのもとに来た。ルーカス陛下からだ。早起きだなぁ……。しみじみそう思いながら連絡鳥に触れる。内容は、わたしが帰って来たことに『おかえり』と、話がしたいということに許可を出してくれた。午前中においで、と書かれていたから、朝食を食べたらすぐに向かおう。
「ルーカス陛下からか?」
「うん。話したいことがあるっていったから、時間を作ってくれたみたい。朝食を食べたらすぐに向かうわ」
「わかった、ディーンにも伝えておく」
「お願いね」
パタパタと礼拝堂を出て、セシリーを探す。すぐ近くにいたから、セシリーを呼び止めて、朝食後にルーカス陛下の元に向かうと話すと、「では、準備を致しますね」と微笑んだ。
――ルーカス陛下に、わたしも戦うって伝えるんだ。
わたしはルーカス陛下宛てに連絡鳥を飛ばした。話したいこともあるし、時間を貰おう。きっと、ルーカス陛下は時間を作ってくれると思うから。
「よーし、身支度整えようっと!」
ぐっと意気込むように拳を握ってから身支度を整える。……それにしても、ぐっすり眠れたなぁ。昨日までは眠っていてもちょっと神経が研ぎ澄まされている感じがしたけど……いつの間にか、ここが『一番安全な場所』だと感じていただろう。
「……礼拝堂に行かないとね」
きちんと帰って来たことを報告しないと。わたしは自室から礼拝堂へと向かい、礼拝堂の扉を開けて思わず「あ」と声を上げてしまった。わたしの声に気付いて、バーナードが顔を上げる。
「……おはよう、バーナード」
「……おはよう、アクア。相変わらず早いな」
「そりゃあね。……お祈りの邪魔しちゃった?」
「いや、大丈夫だ」
バーナードに近付いて挨拶をする。彼は、昨日のことなんて忘れたかのように普通の態度だ。……昨日の誓いはなんだったんだろう、と思いつつ、バーナードの態度にちょっとホッとしたのも事実。
わたしは彼の隣に立って、胸元で両手を組んで目を閉じた。
――道中いろいろありましたが、無事に帰ってくることが出来ました。わたしたちを見守っていただきありがとうございます。……いや、本当にいろいろありましたが……。
そんなことを胸の中で呟いて、目を開ける。
「――神よ、我らに祝福をお与えください――……」
わたしがそういうのと同時に、わたしとバーナードの身体が淡く光り輝いた。バーナードが驚いたように目を見開く。
「……アクア?」
「……バーナード、わたしね、……誰かが傷つくところを見るのが嫌いなの。助けられない人を見るのは、イヤなの。……だから、約束して。……あなたは、わたしを置いて行かないって」
――バーナードが傷つけられた時、わたしが襲われた時、どちらもショックを受けたわ。……でも……自分が襲われた時よりも、彼が傷つけられた時のほうがイヤだった。
……『リネット』だったわたしは、誰も助けられなかったし、誰かが傷つくところを見るのは嫌いだ。……自分の無力さを思い出すから。……でも、今のわたしは無力じゃない。
「置いて行くな、ねぇ……」
淡い光はバーナードとわたしの中に吸収されていった。これで少しは加護を得られるだろう。
「……アクアを護るのが、俺らの仕事だ。だから、『絶対に置いて行かない』とは言えない」
「……」
「……だが、努力はする」
「……そっか、努力してくれるのなら、いいや」
わたしが目を伏せて微笑むと、バーナードがぽんとわたしの頭を撫でた。……バーナードにはわたしの弱いところばかり見せている気がする――って、そうだ!
「……ねぇ、バーナードって『ルーファス』がファーストネームなの? なんでみんなにバーナードって呼ばせているの?」
「気になるのはそっちかよ……。俺の故郷が西のほうだって知っているだろ」
「うん。魔王がいるところでしょ?」
「そっちでの風習で、親にもファーストネームじゃなく、バーナードって呼ばれていたんだよ」
「不思議な風習ね」
ファーストネームを名乗っちゃダメっていう風習があるってことよね。謎だ。
「え、じゃあルーカス兄さまやディーンも知らないの……?」
「知らないだろうな」
……そんなことが許されているのか。……いやでも貴族の名前って長いのが普通だっけ。わたしにだってセカンドネームがあるもん。そっか、『バーナード』がファーストネームだと思っていたから、ディーンは『セシル』がセカンドネームだと思っていたのね。なるほど……?
「じゃあファーストネームは知られないほうが良いの?」
「というか、もう『バーナード』のほうが呼びやすいだろ」
それは確かに。出会ってからずっと『バーナード』って呼んでいるからね。
「……どうしてわたしに、教えてくれたの?」
「……俺なりの謝罪と決意の表れ?」
……なんでそこで疑問系なのか教えて欲しいわ……。
「今まで通り『バーナード』で良い?」
「ああ」
一度しか聞いていないのに、ルーファスという名前が頭の中をぐるぐる回っている。……表面上、わたしとバーナードの関係は普通、だよね? ちらりとバーナードに視線を向けると、彼は「ん?」と首を傾げた。その表情が、心なしかいつもよりも穏やかに見える。……いやいや、バーナードが謝罪っていっていたじゃん。だったら、そんなに深い意味の誓いではなかったのかも――……。……でも決意ってなんだろう……。こういうのを聞くのって無粋かな? ああ、考えが纏まらない!
「……表情、くるくる変わってるぞ」
……誰のせいだと!
「あ」
連絡鳥がわたしのもとに来た。ルーカス陛下からだ。早起きだなぁ……。しみじみそう思いながら連絡鳥に触れる。内容は、わたしが帰って来たことに『おかえり』と、話がしたいということに許可を出してくれた。午前中においで、と書かれていたから、朝食を食べたらすぐに向かおう。
「ルーカス陛下からか?」
「うん。話したいことがあるっていったから、時間を作ってくれたみたい。朝食を食べたらすぐに向かうわ」
「わかった、ディーンにも伝えておく」
「お願いね」
パタパタと礼拝堂を出て、セシリーを探す。すぐ近くにいたから、セシリーを呼び止めて、朝食後にルーカス陛下の元に向かうと話すと、「では、準備を致しますね」と微笑んだ。
――ルーカス陛下に、わたしも戦うって伝えるんだ。
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