129 / 153
2章
129話
しおりを挟む
翌朝、目が覚めるとベッドにひとりで寝ていた。ユーニスはきっと、客室に案内されたのだろう。ベッドから降りて背伸びをすると、昨日まで旅をしていたことが不思議な感じがした。
わたしはルーカス陛下宛てに連絡鳥を飛ばした。話したいこともあるし、時間を貰おう。きっと、ルーカス陛下は時間を作ってくれると思うから。
「よーし、身支度整えようっと!」
ぐっと意気込むように拳を握ってから身支度を整える。……それにしても、ぐっすり眠れたなぁ。昨日までは眠っていてもちょっと神経が研ぎ澄まされている感じがしたけど……いつの間にか、ここが『一番安全な場所』だと感じていただろう。
「……礼拝堂に行かないとね」
きちんと帰って来たことを報告しないと。わたしは自室から礼拝堂へと向かい、礼拝堂の扉を開けて思わず「あ」と声を上げてしまった。わたしの声に気付いて、バーナードが顔を上げる。
「……おはよう、バーナード」
「……おはよう、アクア。相変わらず早いな」
「そりゃあね。……お祈りの邪魔しちゃった?」
「いや、大丈夫だ」
バーナードに近付いて挨拶をする。彼は、昨日のことなんて忘れたかのように普通の態度だ。……昨日の誓いはなんだったんだろう、と思いつつ、バーナードの態度にちょっとホッとしたのも事実。
わたしは彼の隣に立って、胸元で両手を組んで目を閉じた。
――道中いろいろありましたが、無事に帰ってくることが出来ました。わたしたちを見守っていただきありがとうございます。……いや、本当にいろいろありましたが……。
そんなことを胸の中で呟いて、目を開ける。
「――神よ、我らに祝福をお与えください――……」
わたしがそういうのと同時に、わたしとバーナードの身体が淡く光り輝いた。バーナードが驚いたように目を見開く。
「……アクア?」
「……バーナード、わたしね、……誰かが傷つくところを見るのが嫌いなの。助けられない人を見るのは、イヤなの。……だから、約束して。……あなたは、わたしを置いて行かないって」
――バーナードが傷つけられた時、わたしが襲われた時、どちらもショックを受けたわ。……でも……自分が襲われた時よりも、彼が傷つけられた時のほうがイヤだった。
……『リネット』だったわたしは、誰も助けられなかったし、誰かが傷つくところを見るのは嫌いだ。……自分の無力さを思い出すから。……でも、今のわたしは無力じゃない。
「置いて行くな、ねぇ……」
淡い光はバーナードとわたしの中に吸収されていった。これで少しは加護を得られるだろう。
「……アクアを護るのが、俺らの仕事だ。だから、『絶対に置いて行かない』とは言えない」
「……」
「……だが、努力はする」
「……そっか、努力してくれるのなら、いいや」
わたしが目を伏せて微笑むと、バーナードがぽんとわたしの頭を撫でた。……バーナードにはわたしの弱いところばかり見せている気がする――って、そうだ!
「……ねぇ、バーナードって『ルーファス』がファーストネームなの? なんでみんなにバーナードって呼ばせているの?」
「気になるのはそっちかよ……。俺の故郷が西のほうだって知っているだろ」
「うん。魔王がいるところでしょ?」
「そっちでの風習で、親にもファーストネームじゃなく、バーナードって呼ばれていたんだよ」
「不思議な風習ね」
ファーストネームを名乗っちゃダメっていう風習があるってことよね。謎だ。
「え、じゃあルーカス兄さまやディーンも知らないの……?」
「知らないだろうな」
……そんなことが許されているのか。……いやでも貴族の名前って長いのが普通だっけ。わたしにだってセカンドネームがあるもん。そっか、『バーナード』がファーストネームだと思っていたから、ディーンは『セシル』がセカンドネームだと思っていたのね。なるほど……?
「じゃあファーストネームは知られないほうが良いの?」
「というか、もう『バーナード』のほうが呼びやすいだろ」
それは確かに。出会ってからずっと『バーナード』って呼んでいるからね。
「……どうしてわたしに、教えてくれたの?」
「……俺なりの謝罪と決意の表れ?」
……なんでそこで疑問系なのか教えて欲しいわ……。
「今まで通り『バーナード』で良い?」
「ああ」
一度しか聞いていないのに、ルーファスという名前が頭の中をぐるぐる回っている。……表面上、わたしとバーナードの関係は普通、だよね? ちらりとバーナードに視線を向けると、彼は「ん?」と首を傾げた。その表情が、心なしかいつもよりも穏やかに見える。……いやいや、バーナードが謝罪っていっていたじゃん。だったら、そんなに深い意味の誓いではなかったのかも――……。……でも決意ってなんだろう……。こういうのを聞くのって無粋かな? ああ、考えが纏まらない!
「……表情、くるくる変わってるぞ」
……誰のせいだと!
「あ」
連絡鳥がわたしのもとに来た。ルーカス陛下からだ。早起きだなぁ……。しみじみそう思いながら連絡鳥に触れる。内容は、わたしが帰って来たことに『おかえり』と、話がしたいということに許可を出してくれた。午前中においで、と書かれていたから、朝食を食べたらすぐに向かおう。
「ルーカス陛下からか?」
「うん。話したいことがあるっていったから、時間を作ってくれたみたい。朝食を食べたらすぐに向かうわ」
「わかった、ディーンにも伝えておく」
「お願いね」
パタパタと礼拝堂を出て、セシリーを探す。すぐ近くにいたから、セシリーを呼び止めて、朝食後にルーカス陛下の元に向かうと話すと、「では、準備を致しますね」と微笑んだ。
――ルーカス陛下に、わたしも戦うって伝えるんだ。
わたしはルーカス陛下宛てに連絡鳥を飛ばした。話したいこともあるし、時間を貰おう。きっと、ルーカス陛下は時間を作ってくれると思うから。
「よーし、身支度整えようっと!」
ぐっと意気込むように拳を握ってから身支度を整える。……それにしても、ぐっすり眠れたなぁ。昨日までは眠っていてもちょっと神経が研ぎ澄まされている感じがしたけど……いつの間にか、ここが『一番安全な場所』だと感じていただろう。
「……礼拝堂に行かないとね」
きちんと帰って来たことを報告しないと。わたしは自室から礼拝堂へと向かい、礼拝堂の扉を開けて思わず「あ」と声を上げてしまった。わたしの声に気付いて、バーナードが顔を上げる。
「……おはよう、バーナード」
「……おはよう、アクア。相変わらず早いな」
「そりゃあね。……お祈りの邪魔しちゃった?」
「いや、大丈夫だ」
バーナードに近付いて挨拶をする。彼は、昨日のことなんて忘れたかのように普通の態度だ。……昨日の誓いはなんだったんだろう、と思いつつ、バーナードの態度にちょっとホッとしたのも事実。
わたしは彼の隣に立って、胸元で両手を組んで目を閉じた。
――道中いろいろありましたが、無事に帰ってくることが出来ました。わたしたちを見守っていただきありがとうございます。……いや、本当にいろいろありましたが……。
そんなことを胸の中で呟いて、目を開ける。
「――神よ、我らに祝福をお与えください――……」
わたしがそういうのと同時に、わたしとバーナードの身体が淡く光り輝いた。バーナードが驚いたように目を見開く。
「……アクア?」
「……バーナード、わたしね、……誰かが傷つくところを見るのが嫌いなの。助けられない人を見るのは、イヤなの。……だから、約束して。……あなたは、わたしを置いて行かないって」
――バーナードが傷つけられた時、わたしが襲われた時、どちらもショックを受けたわ。……でも……自分が襲われた時よりも、彼が傷つけられた時のほうがイヤだった。
……『リネット』だったわたしは、誰も助けられなかったし、誰かが傷つくところを見るのは嫌いだ。……自分の無力さを思い出すから。……でも、今のわたしは無力じゃない。
「置いて行くな、ねぇ……」
淡い光はバーナードとわたしの中に吸収されていった。これで少しは加護を得られるだろう。
「……アクアを護るのが、俺らの仕事だ。だから、『絶対に置いて行かない』とは言えない」
「……」
「……だが、努力はする」
「……そっか、努力してくれるのなら、いいや」
わたしが目を伏せて微笑むと、バーナードがぽんとわたしの頭を撫でた。……バーナードにはわたしの弱いところばかり見せている気がする――って、そうだ!
「……ねぇ、バーナードって『ルーファス』がファーストネームなの? なんでみんなにバーナードって呼ばせているの?」
「気になるのはそっちかよ……。俺の故郷が西のほうだって知っているだろ」
「うん。魔王がいるところでしょ?」
「そっちでの風習で、親にもファーストネームじゃなく、バーナードって呼ばれていたんだよ」
「不思議な風習ね」
ファーストネームを名乗っちゃダメっていう風習があるってことよね。謎だ。
「え、じゃあルーカス兄さまやディーンも知らないの……?」
「知らないだろうな」
……そんなことが許されているのか。……いやでも貴族の名前って長いのが普通だっけ。わたしにだってセカンドネームがあるもん。そっか、『バーナード』がファーストネームだと思っていたから、ディーンは『セシル』がセカンドネームだと思っていたのね。なるほど……?
「じゃあファーストネームは知られないほうが良いの?」
「というか、もう『バーナード』のほうが呼びやすいだろ」
それは確かに。出会ってからずっと『バーナード』って呼んでいるからね。
「……どうしてわたしに、教えてくれたの?」
「……俺なりの謝罪と決意の表れ?」
……なんでそこで疑問系なのか教えて欲しいわ……。
「今まで通り『バーナード』で良い?」
「ああ」
一度しか聞いていないのに、ルーファスという名前が頭の中をぐるぐる回っている。……表面上、わたしとバーナードの関係は普通、だよね? ちらりとバーナードに視線を向けると、彼は「ん?」と首を傾げた。その表情が、心なしかいつもよりも穏やかに見える。……いやいや、バーナードが謝罪っていっていたじゃん。だったら、そんなに深い意味の誓いではなかったのかも――……。……でも決意ってなんだろう……。こういうのを聞くのって無粋かな? ああ、考えが纏まらない!
「……表情、くるくる変わってるぞ」
……誰のせいだと!
「あ」
連絡鳥がわたしのもとに来た。ルーカス陛下からだ。早起きだなぁ……。しみじみそう思いながら連絡鳥に触れる。内容は、わたしが帰って来たことに『おかえり』と、話がしたいということに許可を出してくれた。午前中においで、と書かれていたから、朝食を食べたらすぐに向かおう。
「ルーカス陛下からか?」
「うん。話したいことがあるっていったから、時間を作ってくれたみたい。朝食を食べたらすぐに向かうわ」
「わかった、ディーンにも伝えておく」
「お願いね」
パタパタと礼拝堂を出て、セシリーを探す。すぐ近くにいたから、セシリーを呼び止めて、朝食後にルーカス陛下の元に向かうと話すと、「では、準備を致しますね」と微笑んだ。
――ルーカス陛下に、わたしも戦うって伝えるんだ。
13
あなたにおすすめの小説
最初からここに私の居場所はなかった
kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。
死なないために努力しても認められなかった。
死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。
死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯
だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう?
だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。
二度目は、自分らしく生きると決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。
私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~
これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m
これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。
亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。
だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。
婚約破棄をされたアニエル。
だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。
ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。
その相手とはレオニードヴァイオルード。
好青年で素敵な男性だ。
婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。
一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。
元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる