恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

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2章

130話(2章・完)

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 朝食も食べ終えて、ドレスに着替えてハイヒールを履いて、ディーンとバーナードと一緒にルーカス陛下の元に向かう。ルーカス陛下は、執務室に来るようにいっていたから、わたしたちも執務室へ。
 執務室の扉をノックすると、すぐに「入れ」と言葉が返って来た。
 扉を開けて中に入ると、ルーカス陛下が椅子から立ち上がり、わたしの元に近付いて抱き着いて来た!

「る、ルーカス兄さま?」
「ディーンから話は聞いた。無事でよかった……」

 ……わたしのことを、こうして案じてくれる人がいる。それがとても嬉しくて、心が温かくなった。わたしはぎゅっとルーカス陛下に抱き着いて、「ありがとうございます」と目を閉じた。彼の鼓動の音を聞いて小さく笑みを浮かべる。

「……そのことで、お話があります」
「……聞こう」

 わたしから離れたルーカス陛下は、ソファに座るようにうながした。そして、ララを呼んでお茶とお茶菓子を用意させた。どうやらララは王城に溶け込んでいるようだ。賢いし、可愛いし、当然かもしれない。……それでもきっと、いろいろなことがあったのだろう。

「それでは、失礼します」

 ぺこりと頭を下げて執務室から出て行き、ぱたんと扉を閉める。すると、ルーカス陛下が魔法を使った。この会話が聞かれないように。

「……わたしを襲撃して来た人たちは、全員亡くなりました。呪術者が絡んでいるのは間違いないと思います」

 神の鎖があれほど黒に染まっていたのだ。呪術者が任務を失敗した人たちを始末するために呪いを掛けていたのだろう。

「……呪術、か。それはまた……面倒だな」
「……呪術者に関しては誰なのかわかりませんが……、わたしを嫌っている人には心当たりがあります」
「元老院か?」
「はい。元老院の中でも、浄化の力が効かなかった人……その人がわたしを狙ったと思います。ただ、証拠がないので動けません」
「なるほど。……こちらでも彼らのことを見張っておこう」
「お願いします。……それと、もうひとつ、ルーカス兄さまにお願いしたいことがあります」
「……お願い?」
「はい。……わたしが成人したら、この国に関わることをしたいです。例えば、救援や浄化を必要としている街に行くとか……」
「……国に関わる仕事がしたい、と?」
「そうです。わたしも、この国に役立つことをしたい。……そして、ルーカス兄さまがひとりで背負っているものを、少しわけてもらいたいの」

 ルーカス陛下の目が大きく見開かれた。彼がひとりで国を背負っていることを知っている。即位して五、六年。信頼できる側近なんてごくわずかなはずだ。それでも彼は国を支えてきた。

「――本気か?」
「……本気じゃないように見えますか?」
「……いや。……それが、アクアのしたいことなら無下に拒むことは出来ない」
「ふふ、ルーカス兄さまならそう言うと思っていました」

 そういってわたしはお茶をひと口飲んだ。喉が渇いていたから、とても美味しく感じる。ついでにお茶菓子もいただく。マドレーヌはしっとりとしていて美味しかった。

「……味方が増えるのは嬉しいが、危険を伴うぞ?」
「構いません。わたし、戦うって決めたの。わたしが決めたの。理不尽に命を狙われるのもイヤだし……それなら、真っ向から立ち向かうって決めたの」
「……そうか」
「だから、わたしを上手に使ってね、ルーカス兄さま」
「そうさせてもらおう」

 ふっと表情を緩めたルーカス陛下に、わたしも笑みを浮かべた。

「それと、遅くなったけれどお茶会に参加させてくれてありがとう」
「楽しめたか? ちょうど花祭りの時期だったろう」
「……やっぱり知っていたんだ……?」

 こくりと首を縦に動かすルーカス陛下に、あっさりと許可をくれたのはその花祭りがどういうものか知っていたからだろう。

「シャーリーさまたちの墓もあるが……、そうだな、成人の儀が終わったら共に行くか」
「はい」

 十六歳で成人だ。その時にはもう少し立派な人間になっているかな? 成人した姿を、お母さまたちに見てもらいたい。だから、ルーカス陛下の提案にすぐに乗った。

「……では、アクアが国中を自由に動けるような職業を考えないといけないな」
「是非、お願いします」

 わたしの決意を聞いてもらって、なんだかホッとした。命の危険はあるかもしれないけれど、このまま怯えて暮らすのもイヤだ。

「……ディーン、これからのことを話し合いたい。バーナード、アクアを頼む」
「かしこまりました」

 ディーンはそのまま執務室に残り、わたしとバーナードは執務室から出た。屋敷に戻り、わたしはバーナードの服の袖をぎゅっと掴む。

「どうした?」
「ちょっと、上まで付き合ってくれない?」
「上? って、まさか!」

 返事を聞かずにわたしはバーナードに浮遊魔法を使った。自分にも使って、屋敷の屋根へと向かう。屋根の上に立つと、浮遊魔法を解く。そこに座って、高いところから帝都を見渡した。

「……本当、時々突拍子もないことをするよな」
「それがわたしよ。……ちょっとね、話がしたくて」
「それでここを選ぶのがお前らしいというかなんというか……」
「いいじゃない、高いところにいて、周りを見渡すと……ああ、世界はこんなに広いんだって思えて好きなのよ」

 ダラム王国にいた頃から高いところが好きだった。高いところから空を見るのも、周りの景色を見るのも好きだったから。

「……話って?」
「……ディーンとバーナードはわたしの騎士なのよね?」

 確認するように尋ねると肯定のうなずきが返って来た。

「……この屋敷に働いている人たちを、危険に晒すことにならないかな?」
「ああ、気にしてんのそこか……。……どっちかって言うと、魔物たちと戦っているほうが危険だったと思うけど。メイドたちだって、それなりの覚悟は出来ているハズだぜ?」
「……どうして、そう言い切れるの?」
「王族に仕えるってことは、そういうことだからな。……だから、お前はお前のままで助けを求めているやつを助ければいい。それが巡り巡って、お前の糧になるだろうから」
「……バーナードって……本当に年上なのね……」
「どういう意味だ、それは」

 あ、ちょっと怒っちゃったかも? 素直な感想だったのだけれど……。ちらりと彼の表情を確認すると、呆れているだけで怒ってはいないみたい。

「……ありがとう」
「は? なんだ、急に」
「なんか、言いたい気分だったの。バーナードには弱い部分をいっぱい見られちゃっているのに、一緒にいてくれるし……」
「……? 俺はお前の騎士だぞ、当たり前だろ」

 ……そういうことをさらっといえちゃうんだよなぁ……。貴族だからか騎士だからか……。どっちもかな?

「……うん、だからさ、これからもよろしくねってことで!」

 わたしが笑顔でそういうと、バーナードは表情を緩めて「こちらこそ」とわたしの手を掴んで握手した。手を離して、代わりに近いほうの手を握って、しばらく屋根の上から帝都を見ていた。……ドキドキと胸の鼓動が早くなっているのは、きっと気のせいじゃない。
 だけどまだ――わたしはこの感情に名前を付けることはないだろう。いろいろな問題が解決して、バーナードときちんと向かい合えるようになるまで――そっと、心の奥底に隠しておこう。
 その日はきっと、遠くない。そう考えながら、ただただ帝都を見つめていた――……。
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