恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

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3章

133話

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「さあ、ルーカス陛下がいらっしゃるまでに仕上げましょう」

 メイド長となったセシリーが、両手をパンパンと叩き、張り切って指示を出していた。

「……早朝から、なんかごめんね?」
「いえ、良い刺激になるでしょう。普段あまり顔を見ない方がいらっしゃるのですもの」

 ……それもそうか。ルーカス兄さまに会えるのってごく一部だろうからね。
 だからかなあ? みーんなの表情がきりっとしている割にはそわそわしているというか……。

「ルーカス陛下にお会いする機会って滅多にないからね、したは」
「下っ端……」
「馬車! 音、聞こえた!」

 お手伝いしようと食堂に来ていたココが耳をピン! と反応させた。
 ココはコボルト。元々ダラム王国の森の中でひっそりと暮らしていたのよね。コボルトの肉球は一度触れると忘れられない魅力があるわ……!
 そしてココはそう言うとわたしの前に来て、手をきゅっと握ると「早く行こ!」と玄関まで行く気満々のようだ。

「うん、行こう! たぶん、ルーカス兄さまだろうから、出迎えに行くね!」

 食堂を抜けて玄関へと向かうわたしとココ――そして、それを追うようにディーンとバーナードも。
 そして、ココがぱっとわたしの手を離すと、玄関の扉を開けた。

「ほら! ココの言ったとおり!」

 扉の向こうに視線を向けると、馬車が一台止まっていた。
 馬車の扉が開くと、ルーカス兄さまが降りてきた。
 顔を上げたルーカス兄さまがわたしたちに気付くと、ココがダッシュで一目散に駆けてゆく。尻尾をブンブン振りながら。すっかりルーカス兄さまのことが大好きになったようだ。

「おはよ!」
「ああ、おはよう。今日も元気なようだな」
「うん、ココ、元気!」

 自慢気に胸を張るココの頭を、ルーカス兄さまが優しく撫でる。ココは嬉しそうに
「くぅん」と鳴いた。

「おはよう、ルーカス兄さま。朝早くから来てもらってありがとう。みんな張り切って用意しているから、楽しみにしていてね」
「おはよう、アクア。わざわざ出迎えてもらって悪いな」
「そんなことないよ」

 なんて会話を繰り広げていると、ディーンとバーナードも挨拶をして、それから食堂へと向かった。
 食堂にはこの屋敷で働いている人たちがずらりと並んでいた。ちょっとびっくりした。
 ……まあ、うん。
 ルーカス兄さまに会えるって結構珍しいもんね……?
 ルーカス兄さまは大体王城にいるから、こうして顔を合わせる機会なんて滅多にないだろうし……。

「おはようございます、ルーカス陛下」

 代表者としてセシリーが挨拶をしてから頭を下げる。わたしとディーン、バーナードを除く全員がルーカス兄さまに向けて挨拶をしてから頭を下げる。
 ルーカス兄さまは驚いていたけれど、すぐにこほんと咳払いをした。

「……ああ、おはよう。こんな早朝から用意をしてくれてありがとう」

 お礼の言葉を聞いて、思わずというように顔を上げるみんな。そして、ふるふると首を横に振った。
 ――こうして見ていると、ルーカス兄さまって結構フレンドリーだよね……?
 それを知っているからか、みんなの表情は穏やかだ。
 この国を統治してから六年、になるのかな? 信頼関係を目に見ている感じ!

「それでは、ええと、温かいうちに……」

 料理長が緊張した面持ちでそう言った。ルーカス兄さまは「いただこう」と席につく。
 もちろん、わたしも。すると、ディーンとバーナード、セシリーと料理長、あとココだけが残って、他の人たちは一礼して食堂から出ていった。
 ……どうやら本当に挨拶だけしたかったみたいね……。
 わたしたちは朝食を摂り(気合が入っているからか余計に美味しく感じた)、お茶を飲みながら今日の予定を話し合った。

「アクアが神殿に行きたがる日が来るとは思わなかったな……」

 ぽつり、とそう呟くルーカス兄さま。
 わたしはお茶を一口飲んでから「行きたがっているわけでは……」と目元を細める。

「ただ、聖女リリィに会いに行くだけよ?」
「呼べばよいだろうに」
「そんなぽんぽん呼び出しちゃ迷惑でしょ?」

 ……刺繍を習っていた時は結構呼び出しちゃったし……。
 だからこそ、お礼を伝えに行く時は必ず自分が行こうと思っていたのだ。
 ――神殿に行って、聖女リリーと会いたい。
 そう言った時のルーカス兄さまの顔! あまりにも驚かれ過ぎてこっちが驚いた!
 そして、考えるように顎に手を掛けて、

『ならば、共に行こう』

 ――と。
 この言葉に驚かない人がいるだろうか。いや、きっといない。
 だってちゃんとディーンとバーナードと一緒に行くと伝えたもの!

「どうした、そんなに見つめて」
「いやぁ……、ルーカス兄さまがついていくって言った時は驚いたなぁって……」

 本心を口に出すと、キョトンとした顔をされた。

「そんなに意外か?」

 こくり。首を縦に動かした。

「……記憶を失っていた時に神殿に行けば、そのまま丸め込まれてしまいそうな予感がしていたからな……」
 記憶を取り戻したから大丈夫だと判断したってこと?
 最初、わたしに神殿に行くことを提案した人とは思えないわ……。

「この国での聖女や聖者は貴族と同等の『』がある」
「……あんまり好きじゃない言葉だわ」
「だろうな」

 そう言いながらも言葉を続ける。

「瘴気を浄化し、結界を保つ聖女や聖者を慕う者は多い」
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