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3章

135話

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 馬車に乗り込んで、神殿までレッツゴー!
 わたしはルーカス兄さまと一緒に乗っていたから、外の景色を眺めていた。
 王都は人も多いから、瘴気は結構あっという間に溜まっていくみたい。
 わたしが浄化してからも、ちょこちょこと減ったり増えたりを繰り返しているようで、人口の多さを目の当たりにして不思議な感じ。

「……大分慣れたようだな、ここでの暮らしに」
「そりゃあまあ。ルーカス兄さまのおかげで楽しく過ごさせてもらっているわ」

 味方もいるし、屋敷内の雰囲気は良いし、正直に言えばとても楽しく過ごさせてもらっている。
 ここに居る間は、命を狙われる可能性も低い……と思うし。
 あの屋敷に入れる人は限られているし、ルーカス兄さまはなにもいわないけれど、警備を強化してくれているのを知っている。
 なんで知ったかって、ディーンとバーナードがそんなことを話していたからだ。
 彼らは騎士団の人たちとも面識があるから、「あれ、なんでこっちのほうまで来てるんだ?」と声を掛けて、警備の強化を知ったらしい。
 にこにことわたしがルーカス兄さまを見ていると、ルーカス兄さまは「どうした?」と尋ねてきた。

「ううん、ただ……、ルーカス兄さまのおかげで平和だなぁって思って」

 主にわたしの生活が。

「アクアが健やかに過ごせているのならば、それでよい」

 ……本当、わたしに甘いなぁ、ルーカス兄さま。

「ところで、ルーカス兄さま。神殿まではどのくらいかかるんですか?」
「王都の中央から少し外れたところだから、そんなに遠くはないぞ」

 ……そういえばわたし、王都を見回ったことってあんまりないなぁ。行く場所が決まっていたから。
 大体コボルト音楽隊のところ。

「ルーカス陛下は良く神殿に行ったりするの?」
「昔は。今ではあまり行かなくなったな」

 そうなんだ……。まあ、一国の主だし、なかなか自由な時間を確保するのは難しそう……。それなのに、わたしのために時間を割いてくれてありがたいような申し訳ないような……!

「即位してからいろいろあったが、大分落ち着いて来たからな。ここら辺で一息入れるのも良いだろうと宰相と話し合ったのだ」

 わたしの考えていることがわかったのか、ルーカス兄さまがフォローを入れるようにそういった。

「……ルーカス兄さまが過労で倒れないと良いのだけど」
「ちゃんと休んでいるから、心配するな。アクアが来てから、心が楽になったのも事実だからな」
「わたしが来てから?」

 こくりとうなずくルーカス兄さま。
 ちらりと窓を見て、それから防音の魔法をかけた。
 びっくりして目を丸くすると、ルーカス兄さまは足を組んだ。

「ディーンのことを知る人間がひとり増えたからな。私とバーナードでは、接する機会があまりない。だが、アクアが来たことで、接点が増えた。それは恐らく、バーナードにとっても少し気が楽になったことだろう」

 ディーンの事情を知っている人は少ない。
 だからこそ、その秘密を知る人が増えたことで、ほんの少しでも彼らの心が軽くなったのなら良かったとも思う。

「……ディーンのこと、他の人たちは気にならないのかな?」
「突然現れたような子だからな、しかも、父が自らの命を延命するための『道具』として……」
「……前王陛下って、病気でもあったの……?」

 ふるり、と首を横に振ったルーカス兄さま。
 なんでそこまで延命……というか、永遠の命に憧れたんだろう。
 わたしならイヤだなぁ……。だって、自分だけが永遠の命があったとして、仲の良かった友達たちが先に逝っちゃうってことでしょ?
 世界に取り残されたようで、わたしなら耐えらない。

「アクア?」
「……ルーカス兄さまは、……いえ、やっぱりなんでもないです」

 ルーカス兄さまは眉を下げて微笑んだ。

「大丈夫だ、アクア。ディーンは人としての人生をきちんと歩んで行ける。事情を知らない医者が健康だと太鼓判を押しているのだから」

 ……わざと、かな。わたしが聞こうとしたこととは、違う回答が返って来た。
 でもきっと、それがルーカス兄さまの優しさだ。
 あえて触れないこと、そしてディーンの体が普通の『人間』として生きていけることを教えてくれた。

「しかし、そうなるとさらに不思議ではある。あのディーンが深手を負うほどの魔物の存在が……」
「……ディーンは普通の人間と同じなんでしょ?」
「自己治癒力が普通の人間よりも強い。ディーンとバーナードが同時に同じような怪我をしたら、ディーンのほうが先に治る」
「へえ……」

 そんなに差があるものなのか。
 わたしが目を瞬かせていると、ルーカス兄さまがもう一度窓に視線を向けた。

「ほら、アクア。あそこが神殿だ」

 すっと窓の外を指すので、わたしはその指先へと視線を移動させた。

「…………す、すごい……」

 ダラム王国の神殿とは比べ物にならないくらいの大きさ。遠目で見てもそう思うのだから、近くで見たらもっとそう思うんだろうなぁ!
 わたしが窓の外をじっと見ていると、ルーカス兄さまが懐かしそうに言葉を紡いだ。

「アクアがまだ小さい頃、一度だけこの神殿に来たことがある」
「え?」
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