136 / 153
3章
136話
しおりを挟むわたしが小さい頃に神殿に来たことがある……?
「え、い、いつ?」
「一歳か二歳くらいだったか? 大聖女ステラに、アクアの顔を見せに」
「そうだったんだ、それは覚えていないわ……」
さすがにそこまで幼い時の記憶はない。一歳か二歳じゃ、記憶がないのもうなずけるわね。
「ただ単にシャーリーさまがアクアを見せたかったみたいだった」
その当時を思い出したのか、ルーカス兄さまが懐かしそうに目元を細める。心なしか、声も柔らかい気がする。
「そういえば、記憶が戻ったのなら、ウィルモット家をどうする?」
「あの家、ちょっと遠いからなぁ……。でも、機会があれば行ってみたいわ」
「そうか。ならばそのように伝えておく」
……わたしがダラム王国に攫われるまで過ごしていた家。その家もあるのよね。まだ行けていない。ドタバタしていたっていうのもあるけれど、多分いろいろ思い出して泣いちゃう。
ダラム王国の神殿にいた時は泣いたことなかったのに、アルストル帝国に来てから結構頻繁に泣いている気がするわ……。
そんなことを考えていると、馬車が動きを止めた。どうやらついたらしい。
防音魔法を解いて、御者が扉を開けた。ルーカス兄さまが先に降りて、わたしへと手を差し伸べる。
その手を取って、馬車を降りて目の前に広がる光景に、思わず
「わぁ……、すごーい……」
と言葉をこぼした。
ディーンとバーナードもわたしたちに近付いて来て、神殿を見上げた。
屋敷ほどではないけれど、空気が澄んでいる。後でお祈りさせてもらおうっと。
「それでは、行くか」
「はい!」
神殿の入り口まで歩き、ふと人影が見えた。
「ごきげんよう。いらっしゃいませ」
にこ、と可愛らしく微笑むのは聖女リリィ。わたしに刺繍を教えてくれた人。
「ごきげんよう、聖女リリィ。今日は時間を作ってくれてありがとう」
わたしがそういってカーテシーをすると、リリィはふわっと微笑んだ。うーん、やっぱり綺麗。
「他の方々も、今日のことを楽しみにしていたんですよ」
そういって神殿の扉を開ける。中に入ると、さらに空気が澄んでいる気がした。
「……すごいね……」
さっきからすごいしかいっていない気がするけれど、本当にすごいのよ。王城とさして変わらないような華美さが。神殿のほうがシンプルだけど、華やかだなぁ……。
「リリィ! そちらの方が?」
神殿の中を歩いていると、聖職者のローブを着ている人たちが集まって来た。みんな若い。
「ごきげんよう、初めまして!」
「お会いできて光栄です」
次々に挨拶をされて、わたしは戸惑った。
リリィがパンパンと両手を叩いて、「アクアさまが困惑しているでしょう」と注意してくれて、そこでようやくわたしの表情を見たのか、ハッとしたように目を見開いて、謝った。
「……ここではなんですから、中庭へ移動しましょう」
リリィがそう提案して、中庭を案内してくれた。
そこに集まったのは、この神殿で聖女や聖者をしている人たちだった。
どうやら、わたしが来るということを知り、一度会ってみたいと思ったらしいのだ。で、集まった、と……。
みんななぜかわたしに対して友好的な態度だ。
わたしが会ったことのある聖女と聖者は、リリィとロバートだけ。
他の人たちとは、今日初めて会う。
――だからこそ、なんでこんなに友好的ににこにこしているのかがわからない……。
中庭はいろんな花が咲いていて、とても綺麗だった。花のあま~い香りが鼻腔をくすぐる。
「良い場所ね」
「ふふ、ありがとうございます。さて、それでは――まずは自己紹介から始めましょうか」
リリィがここに集まった人たちを見て、全員が椅子に座ったことを確認してから小さくうなずく。
「それじゃあ、まずは私から。シャノンと申します、よろしくお願いします」
立ち上がり自己紹介をすると、ぺこりと頭を下げるシャノン。
次はシャノンよりも背の低い女の子が立ち上がる。
「ええと、ライラと申します! 十五歳です!」
あら、年齢おんなじ。でも、ライラのほうが可愛いと思う!
女性陣最後の子が立ち上がり、ほんのりと顔を赤らめながら、
「あ、アーシュラです。よろしくお願いします。えっと、十三歳です」
……リリィとシャノンの年齢はわからないけれど、十代後半~二十代前半っぽいから、ずいぶん若いんだなぁと思った。
ライラとアーシュラが椅子に座る。
「では、今度は我々が。フレドリックと申します。お会いできて光栄です、アクアさま」
聖者、なんだろうな。こっちの人も若そう。キラキラと目を輝かせてわたしを見ている……なぜ……。
「リリィとロバートはお会いしたことがあるようなので、最後はおれですね。ザイラスと申します。みなさま方に会えたこと、心より感激しております」
……だからなんでそんなに友好的なの……?
困惑中のわたしを置いて、まずはディーンが立ち上がった。
「ディーン・ノースモアです。聖女や聖者の方々とこうして話すのは初めてに等しいから、なんだか緊張するなぁ……」
……まあ、リリィは聖女や聖者が神殿から離れることはほとんどないって言っていたもんね……。
「バーナード・ピアソン。お会いできて光栄です」
……そういえばバーナードはどうしてファーストネームである『ルーファス』は使わないのだろう?
「先日は世話になった。ルーカスだ」
ルーカス兄さまのことは、全員知っていると思う。
そして、最後はわたしになったわけだ。
「……アクア・ルックス。本名もあるんだけど、こっちの名前で呼ばれるほうが慣れているから、アクアって呼んでね」
と、自己紹介をした。
11
あなたにおすすめの小説
最初からここに私の居場所はなかった
kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。
死なないために努力しても認められなかった。
死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。
死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯
だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう?
だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。
二度目は、自分らしく生きると決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。
私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~
これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m
これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。
亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。
だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。
婚約破棄をされたアニエル。
だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。
ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。
その相手とはレオニードヴァイオルード。
好青年で素敵な男性だ。
婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。
一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。
元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる