恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

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3章

136話


 わたしが小さい頃に神殿に来たことがある……?

「え、い、いつ?」
「一歳か二歳くらいだったか? 大聖女ステラに、アクアの顔を見せに」
「そうだったんだ、それは覚えていないわ……」

 さすがにそこまで幼い時の記憶はない。一歳か二歳じゃ、記憶がないのもうなずけるわね。

「ただ単にシャーリーさまがアクアを見せたかったみたいだった」

 その当時を思い出したのか、ルーカス兄さまが懐かしそうに目元を細める。心なしか、声も柔らかい気がする。

「そういえば、記憶が戻ったのなら、ウィルモット家をどうする?」
「あの家、ちょっと遠いからなぁ……。でも、機会があれば行ってみたいわ」
「そうか。ならばそのように伝えておく」

 ……わたしがダラム王国に攫われるまで過ごしていた家。その家もあるのよね。まだ行けていない。ドタバタしていたっていうのもあるけれど、多分いろいろ思い出して泣いちゃう。

 ダラム王国の神殿にいた時は泣いたことなかったのに、アルストル帝国に来てから結構頻繁ひんぱんに泣いている気がするわ……。

 そんなことを考えていると、馬車が動きを止めた。どうやらついたらしい。
 防音魔法を解いて、御者が扉を開けた。ルーカス兄さまが先に降りて、わたしへと手を差し伸べる。

 その手を取って、馬車を降りて目の前に広がる光景に、思わず

「わぁ……、すごーい……」

 と言葉をこぼした。
 ディーンとバーナードもわたしたちに近付いて来て、神殿を見上げた。
 屋敷ほどではないけれど、空気が澄んでいる。後でお祈りさせてもらおうっと。

「それでは、行くか」
「はい!」

 神殿の入り口まで歩き、ふと人影が見えた。

「ごきげんよう。いらっしゃいませ」

 にこ、と可愛らしく微笑むのは聖女リリィ。わたしに刺繍を教えてくれた人。

「ごきげんよう、聖女リリィ。今日は時間を作ってくれてありがとう」

 わたしがそういってカーテシーをすると、リリィはふわっと微笑んだ。うーん、やっぱり綺麗。

「他の方々も、今日のことを楽しみにしていたんですよ」

 そういって神殿の扉を開ける。中に入ると、さらに空気が澄んでいる気がした。

「……すごいね……」

 さっきからすごいしかいっていない気がするけれど、本当にすごいのよ。王城とさして変わらないような華美さが。神殿こっちのほうがシンプルだけど、華やかだなぁ……。

「リリィ! そちらの方が?」

 神殿の中を歩いていると、聖職者のローブを着ている人たちが集まって来た。みんな若い。

「ごきげんよう、初めまして!」
「お会いできて光栄です」

 次々に挨拶をされて、わたしは戸惑った。
 リリィがパンパンと両手を叩いて、「アクアさまが困惑しているでしょう」と注意してくれて、そこでようやくわたしの表情を見たのか、ハッとしたように目を見開いて、謝った。

「……ここではなんですから、中庭へ移動しましょう」

 リリィがそう提案して、中庭を案内してくれた。
 そこに集まったのは、この神殿で聖女や聖者をしている人たちだった。

 どうやら、わたしが来るということを知り、一度会ってみたいと思ったらしいのだ。で、集まった、と……。

 みんななぜかわたしに対して友好的な態度だ。

 わたしが会ったことのある聖女と聖者は、リリィとロバートだけ。
 他の人たちとは、今日初めて会う。

 ――だからこそ、なんでこんなに友好的ににこにこしているのかがわからない……。

 中庭はいろんな花が咲いていて、とても綺麗だった。花のあま~い香りが鼻腔をくすぐる。

「良い場所ね」
「ふふ、ありがとうございます。さて、それでは――まずは自己紹介から始めましょうか」

 リリィがここに集まった人たちを見て、全員が椅子に座ったことを確認してから小さくうなずく。

「それじゃあ、まずは私から。シャノンと申します、よろしくお願いします」

 立ち上がり自己紹介をすると、ぺこりと頭を下げるシャノン。
 次はシャノンよりも背の低い女の子が立ち上がる。

「ええと、ライラと申します! 十五歳です!」

 あら、年齢おんなじ。でも、ライラのほうが可愛いと思う!
 女性陣最後の子が立ち上がり、ほんのりと顔を赤らめながら、

「あ、アーシュラです。よろしくお願いします。えっと、十三歳です」

 ……リリィとシャノンの年齢はわからないけれど、十代後半~二十代前半っぽいから、ずいぶん若いんだなぁと思った。
 ライラとアーシュラが椅子に座る。

「では、今度は我々が。フレドリックと申します。お会いできて光栄です、アクアさま」

 聖者、なんだろうな。こっちの人も若そう。キラキラと目を輝かせてわたしを見ている……なぜ……。

「リリィとロバートはお会いしたことがあるようなので、最後はおれですね。ザイラスと申します。みなさま方に会えたこと、心より感激しております」

 ……だからなんでそんなに友好的なの……?
 困惑中のわたしを置いて、まずはディーンが立ち上がった。

「ディーン・ノースモアです。聖女や聖者の方々とこうして話すのは初めてに等しいから、なんだか緊張するなぁ……」

 ……まあ、リリィは聖女や聖者が神殿から離れることはほとんどないって言っていたもんね……。

「バーナード・ピアソン。お会いできて光栄です」

 ……そういえばバーナードはどうしてファーストネームである『ルーファス』は使わないのだろう?

「先日は世話になった。ルーカスだ」

 ルーカス兄さまのことは、全員知っていると思う。
 そして、最後はわたしになったわけだ。

「……アクア・ルックス。本名もあるんだけど、こっちの名前で呼ばれるほうが慣れているから、アクアって呼んでね」

 と、自己紹介をした。

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