恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

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3章

138話

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「それってどういう……?」

 わたしが首を傾げて問うと、モーリスさんはすっと目元を細めた。

「『大聖女ステラ』は神殿が作り上げた偶像ですから」

 その言葉に、すべてが詰まっている気がした。

 リリィから『大聖女ステラ』のことに関して聞いていたから、『大聖女ステラ』が神殿でどんな存在だったのかは想像がつく。

「……それにしても、本当にそっくりですね。こうして見比べると本当に……」

 リリィが感心したように頬に手を添えながら呟く。うん、わたしも驚いた。
 こんなに似ているとは思わなかったし……。

「王族は水色に近い銀髪、なんですよね。『大聖女ステラ』も王族だったってことですか?」
「はい。王族に近い……いえ、正確には、『末っ子王女の子』だったそうです」

 げほっ、と思わず咳き込んだ。ど、どういうこと……?

「父はとある女性と知り合い、恋に落ちました。ですが、彼女のお腹には、別の男の子が宿っていたそうです。当時、その女性には婚約者がいて、その男性の子、だったらしいのですが……妊娠がわかると逃げられたそうで。それが末っ子王女だったらしいのです」

 モーリスさんが淡々と、でも、ちょっと困ったように眉を下げて説明した。

 ……いやうん、王族の歴史狂ってるなって前から思っていたけど、これはいろいろひどい……。

「あ、略奪ではありませんよ。婚約者に逃げられてから知り合ったそうですから」

 慌てたようにモーリスさんがつけ足す。……いや、うん。……よく恋に落ちたな……。きっと美人だったのだろう。

「婚約者に逃げられた娘などいらない、と城から追い出されたようで、そこで知り合ったそうです。そして、彼女は……難産の末に、自分の命と引き換えにステラを産んだのです」

 目を大きく見開いた。
 前にリリィに聞きそびれていた、大聖女ステラの母親のこと。

「……ちなみに、その女性の名は?」
「ファーストネームだけしか知りませんが、アンジェリカ、と」
「ちなみにアクアの本名のセカンドネームをつけたのは祖母だ」

 さらっと情報が追加された。

 アンジェリカって一般的な名前だけど、(なんせバカ……オーレリアン元殿下が連れてきた女性もアンジェリカって名前だった)こうして聞くとなにか裏がありそうな気がして怖いわ……。

「そして、父曰く、ステラは母にそっくりだと」
「つまり、わたしもその『アンジェリカ王女』に似ているってこと……?」

 こくり。
 ……肯定のうなずきを返されて、わたしは重々しくため息をついた。

「末っ子王女だったこともあり、国民はあまりアンジェリカ王女殿下のことを知りませんでした。表に立つのは陛下や王太子ですからね。彼女のことを気に掛ける人も少なかったようです」

 ……リリィが前に話してくれた、神殿が王族のことを牛耳っていたって話……、もしかして……想像するのもアレだけど……、『アンジェリカ王女』をないがしろにしたっていう……復讐ふくしゅうでもあったのでは……?

「『大聖女ステラ』のおかげで、神殿はとても重要視されるようになりました。その頃ですね、私が父に養子になって欲しいと言われたのは」

 わたしは腕を組んで考えた。

 ステラが十歳の頃に魔物を退ける力を手に入れたこと、王太子と婚約させたこと、彼女がひとりで子どもを産んだこと……。

「……なんか、復讐に利用された感じがあって複雑だわ……」
「――そうだろうな」

 ルーカス兄さまが呟く。……ルーカス兄さま、このことを知っていたのね……?

「……神殿と王族、どちらも手を引けなかったのが理由でしょうね」

 末っ子王女、『アンジェリカ』を見捨てた王族。
 その子どもである『ステラ』が強い神力しんりょくを持って生まれた。

 当時の国王陛下はどう思ったのかしらね、そのこと。

 そして、(恐らく)言葉巧みに王族との結婚を取り付けたステラの父。……まさかの血の繋がりはなかったみたいだけど!

 彼は、ステラのことをどう思っていたんだろう?

「闇が深いわぁ……」
「いろいろ知りたくない情報があったような……」
「人間って怖い」

 わたし、バーナード、ディーンの順に独り言をつぶやく。
 神よ、これも試練ですか……?

 まあ、でも、大聖女ステラと似ている理由もよぉーくわかったし……ちょっと、いやかなり、心情としては複雑なんだけど……。

「……そういえば、ここの聖女や聖者って随分若い人が多いんですね」

 とりあえず、別の話題にしたくて話を切り替えた。
 すると、モーリスさんはちらりとリリィに視線を向けた。リリィはただ微笑む。

「入れ替え制ですから」

 にっこりと微笑むモーリスさんに、もうちょっと詳しく、と説明をねだった。

「聖女や聖者が結婚出来ることはご存知でしょうか?」
「さっき教えてもらいました」

 ちなみに肖像画を見に行く時にリリィ意外とは別れた。
 ぞろぞろと連れ歩いていたら、何事かと思うだろうし……。

「神力を持っているとはいえ、彼らはひとりの『人間』。好きな人と結婚し、子を持てるように、と大聖女ステラが決めたのです。……姉の結婚は、父が強引に決めたものですから……」

 ……もしかしたらステラは、好きな人がいたのかな……?

 もう一度、肖像画に視線を向ける。

 変わらず優しい笑みを浮かべる彼女の肖像画に、わたしは本当に、いろいろと複雑な気持ちになった。
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