恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

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3章

140話


 アルマの言葉に、私は目を大きく見開いた。

「じ、侍女?」
「はい。私はアクアさまのもとで働きたいのです」

 ちょっと頭が混乱してきた。

 どうしてわたしのもとで働きたいと思ったのだろう?

「文通をして、アクアさまの人柄がよくわかったつもりです。それに、アクアさまに女性の護衛が必要だとも思いました」

 女性の、護衛?

 ――って、まさか、アルマがその護衛になろうとしている!?

「ディーンさまやバーナードさまよりも弱いことは自覚しております。ですが、どうか、私を使っていただきたいのです」
「え、えええ……?」

 わたしは困惑した。

 そりゃあこんな提案されるとは思っていなかったからね!

 アルマの真剣な表情に、どう答えれば良いのかわからない。

 ……でも、きちんと彼女と向き合って、答えを出さなくては。

「……いつから、考えていたの?」
「アクアさまの手紙が二回目に届いたときには……」

 ってことは、結構前から考えていたってことだよね。

「アルマのご両親はそのことを……」
「存じております。両親からは、『あなたの好きなようになさい』と」

 良いのかマクファーソンのご両親!

 断る理由はないけれど、わたしは結構危険な立ち位置にいる、と思う。

「危ないことがあるかもしれないよ?」

 できるだけ、そういう危険からは遠ざけたいとは思う。でも、わたしの侍女ってことは、きっとずっと一緒にいるつもりなのだろう。

 ――巻き込むことになるのが、怖い。

「そのときは、必ずお守りします。……私たちで」
「え?」

 アルマの服から、ぴょこんとスライムが飛び出た。

 つるつるボディのスライム。マクファーソン家で見た魔物。一緒に来ていたんだ。

「……ん? たちっていった?」
「はい。私はこの子を従魔テイムにしました」

 あまり聞かない言葉を聞いてきょとんとした顔をすると、アルマは簡単に説明してくれた。

 魔物と契約を交わすことで、自分と一緒に戦ってくれるらしい。

 で、その契約を交わした魔物のことを従魔テイムと呼ぶそうだ。契約を交わした人間のことは魔物使いテイマーと呼ぶらしい。

 ……わたしたちとコボルトとは関係性が違うみたいね。

「そっかぁ……。はぐれスライムがアルマの仲間になったのね」
「はい」

 つるつるぷにぷにのスライムを愛しそうに撫でて、アルマは笑う。

「そして、出来ればアクアさまに真名マナの誓いをしたいと考えております」
「ええっ!?」

 まさかアルマに真名の誓いといわれるとは思わなくて、大きな声を上げてしまった。

 同性同士の真名の誓い。

 それは決して裏切りませんというか……親友になりましょう、って感じだったハズ……!

 わ、わたしとアルマが親友に?

「……ダメ、でしょうか……?」
「えっと、待って。混乱しているの。嬉しいけれど、真名の誓いはもうちょっとあとでもいいのでは……?」
「いえ、是非、いまここで。この神聖な場所で誓いたいと思い、ここまで来たのです」

 アルマはにっこりと微笑んでそういった。

 彼女は、どんな気持ちでここまで来たのだろう……?

「ええと……、わたしと親友になりたいって考えてくれたんだよね?」

 こくり、と彼女の首が動く。

「……嬉しいけれど、困惑が勝っているの。文通をして、アルマの人柄はわかっているつもりだけど、本当にだから……。でも、ええと、本当にアルマがそれを望むのなら、――いいよ」

 ぱぁっとアルマの表情が明るくなった。心なしか、スライムも。ぴょんと跳ねて、着地する。弾力のある体がぷるるんと揺れた。

 ――どうやらスライムも一緒に真名の誓いをするみたいだ。

 アルマはわたしに向かい、カーテシーをした。

「アルマ・エメライン・サラ・マクファーソン。我が真名に掛けて、アクア・ルックスさまの良き友になることを誓います」

 それに同調するようにスライムが跳ねた。

「シオンもアクアさまのことが好きになったようです」
「……そっかぁ。よろしくね、シオン。そして、アルマ」
「はい」

 わたしはそっと手を差し出した。

 ぎゅっと握り返されて、ぴょんとスライム――シオンが跳ねて、わたしたちの手に乗った。ぷにぷにのボディはひんやりとしていて、心地よかった。

「それでは、アクアさまの侍女になりますね」
「今日から!?」

 もしかして、アルマが大きな荷物を持っているのは、そのためだったの? と目を丸くして驚いていると、アルマはくすくすと笑った。

 その姿を見て、まあいいか、なんて思っちゃったりもして。

「……でも、本当に良かったの?」
「はい。アクアさまのお役に立ちたくて、ここまで来たのですから。それに、……アクアさまなら、シオンを受け入れてくれるでしょう?」

 スライムがじっとこっちを見ている……気がする。

「……受け入れるというか、敵意がないなら魔物とも戦う理由はないし……」

 人間を襲う魔物たちは瘴気をまとっている。

 見ればすぐにわかるほどに。

 でも、このスライムにも、コボルトたちにもそれは見えない。

 ――人間を襲う魔物と、共存を求める魔物の違いって、なんだろう……?

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