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3章
143話
「傷が……!」
「こんな、奇跡が……!」
……はい、わたしの役目終了。幸い、全員無事のようだ。
「ありがとうございます、ありがとうございます……!」
「そんな、当然のことをしただけだよ。それより、あのレストランでなにが起こったのか、知っている人はいる?」
みんな顔を見合わせていた。知っている人は居ないみたい。それならそれでいいのだけど……。多分、ルーカス兄さまが手を回すだろうし。
「あの、先程ルーカス陛下といらっしゃいましたよね……」
恐る恐る、上目遣いで私を見る人がいた。
「え? ああ、うん……」
「も、もしかして、ルーカス陛下の恋人ですか!?」
こ、恋人ぉっ!? なにをどう考えればそんな結論になるの?
「違うよ、恋人じゃない。わたしについては――……そうね、もう少ししたら、わかると思うから、その時に」
パチン、と茶目っ気たっぷりのウインクをすると、なぜか「おおっ」と拍手された。……いや、なんで?
「……なんというか、モテモテだな」
「モテてるとはいわないと思う、コレ……」
わたしの傍に来たバーナードが小声でつぶやく。肩をすくめて小さく息を吐くと、みんなは……というか、女性たちが「バーナード卿だわ!」と盛り上がっていた。
「……怪しい人は?」
「今のところゼロ。……ああ、ディーンが囲まれているな」
「さすが公爵家次男」
ひそひそと話していると、ディーンと目が合った。困ったように眉を下げて女性たちの相手をしている。……ディーンも人気者ね!
空き店舗の中でルーカス兄さまたちを待つ。たぶん、騎士団の人と一緒に行動しているだろうし。どのくらい待ったかな。突然バンッと扉が開かれて、ルーカス兄さまが姿を現した。
「アクア、頼みがある」
「へ?」
真剣な表情でわたしを見るルーカス兄さま。なにかあったのかな、と不安に思い、彼に近付いて行った。
「頼みとは……?」
「瘴気の浄化だ。……なんだか、おかしい。私でさえ感じられる」
「えっ」
わたしは慌てて外に出た。ずしりと重く、まとわりつくような瘴気を感じて、唖然とした。――今日、大聖堂で祈ったのに?
ルーカス兄さまに顔を向けると、小さくうなずいた。
……わたしは、ルーカス兄さまだけを引っ張り出して、空き店舗の扉を閉めた。
「ルーカス兄さま、手助けをお願いします」
「なにをすればいい?」
「聖剣セイリオスの力を貸してください。これだけの濃い瘴気、浄化したことがないので……」
「……わかった。どうすればいい?」
「わたしが神力をセイリオスに乗せるので、魔物を薙ぎ払った時のようにお願いします!」
「よし、やってみよう」
ルーカス兄さまがセイリオスを鞘から抜き、構えた。
わたしは目を閉じて口元で両手を組む。
――神よ、この瘴気を浄化したまえ――……。
胸元が熱くなる。ぐっとこらえて神力をセイリオスへと流し込む。神力を受け止めたセイリオスは光り輝き、
「瘴気よ、消え失せろ!」
ルーカス兄さまの声と振り下ろされたセイリオスは、瞬く間に浄化の光を辺り一面に広げた。――うーん、さすがルーカス兄さま。
瘴気を払い終えると、わたしはがくんと膝が抜けたようにしゃがみ込んだ。
「アクアさま、大丈夫ですか?」
アルマの心配そうな声が聞こえ……、ってアルマ! いつの間にここに来ていたの!?
わたしが驚いていると、セイリオスを鞘に戻したルーカス兄さまがひょいとわたしを抱き上げた。
「ルーカス兄さまっ、歩けるよ、わたし!」
「いいから」
騎士たちが近付いて来て、わたしの存在に気付くとハッとしたような表情になった。……実はまだ、正式に挨拶していないんだよね、帝国の騎士団……。
「とりあえず、私はアクアを送ってくる。他の者たちは、引き続き現場の検証となぜ爆発したのかを調べること。……それと、ここにいる人たちを家の近くまで送ってやれ」
ちらりと空き店舗にいる人たちに視線を向けたルーカス兄さまは、そのまま浮遊魔法を使って屋敷まで送ってくれた。
ルーカス兄さまは休むことなく戻っていった。……大丈夫かな、ルーカス兄さま……。
「アクアさま、お帰りなさい。……あら、どうしたんですか、そんなに浮かない顔をして……」
「実はね……」
わたしはさっきまでのことをセシリーに話した。セシリーは驚いたように目を丸くしていた。……そりゃ驚くよね、爆発だもん。
「それともうひとつ、報告があるの」
「報告ですか?」
「うん。専属侍女兼護衛ができました」
セシリーは「え?」と首を傾げた。……まあ、そうなるよね。
「ほら、前にアルマ……マクファーソン家に行ったじゃない? 文通してる……、その人よ」
「それは……、また。急に決まりましたね。部屋はどこにしましょう?」
「うーん、きっと来てから決めると思う。みんな、空き部屋まで全部綺麗にしてくれているから、どこでも大丈夫だろうし……」
本当、頭が下がるくらい丁寧に掃除してくれるよね、みんな。
「セシリーはメイド長なのに、ずっとわたし専属のようにさせちゃってごめんね」
「あら、楽しかったですわよ。ですが、少し安心致しました。マクファーソン家のご令嬢なら、護衛としても優秀でしょうから」
……アルマって強いのかなぁ?
戦っているところを見たわけじゃないから、それについてはなんともいえないなぁ、なんて考えていると、なんだか眩暈がした。くらりとしたわたしを、セシリーが慌てて支える。
「アクアさま、部屋で休んでください。顔色が悪くなってきましたよ」
「……うん、ごめん、じゃあ……そうさせてもらう……」
セシリーに支えてもらいながら、なんとか自室に辿りつきベッドに横になる。
……くらくらして、なんだか気持ちが悪いわ……。
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