恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

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3章

146話

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 噂をすればなんとやら、アルマが食堂に来た。

「アクアさま!」

 わたしの姿を見るとぱぁっと明るい表情になって、近付いて来た。

「アルマ、昨日はごめんね。無事について良かった」

 アルマは緩く首を振る。そして、微笑みを浮かべて、ぎゅっとわたしの手を握った。

「頭が痛いと聞きましたけれど、もう平気なのですか?」
「うん、昨日薬も飲んだから。えーっと、セシリーたちには会ったんだっけ?」
「はい、お会いしました。ディーンさまとバーナードさまが案内してくださいまして……。本当にありがとうございました」

 ディーンとバーナードに向けて頭を下げるアルマに、彼らは「気にするな」とばかりに手を左右に振った。

「アルマもシオンもゆっくり休めたかな?」

 呼ばれたと思ったのか、シオンがアルマの傍に出てきた。……出てきた? どこにいたの、シオン。

「はい、ゆっくり休めました。ねえ、シオン?」

 ぴょんぴょん飛び跳ねるシオンを見て、この屋敷を気に入ってくれたのかな? と思ってなんだか和んだ。

「ええと、じゃあ、今日はゆっくり休むつもりだから、みんな好きに過ごしていてね。なんだったら休みにしてもいいし」

 自分のことは自分で出来るからそういうと、三人とも……いや、ディーンとアルマは困ったように眉を下げ、バーナードは呆れたように息を吐いた。

「俺らの仕事を勝手に休みにするなって」
「えー、でもみんな働き過ぎてない? 大丈夫?」
「平気だよ。アクアはあんまり外出しないから……」

 わたしが外出しないから? と首を傾げると、ぽんっと頭を撫でられた。

「アルマ嬢、アクアのことをお願いします」
「はい! では、行きましょうか、アクアさま」

 シオンがぴょんとアルマの肩に乗った。スライムの跳躍すごいね!

「じゃあ、ディーンとバーナード、またね」
「ああ」
「ゆっくり休んで」

 ふたりに顔を向けると、なんというか、慈しむようなまなざしでわたしを見ていた。ぺこりとアルマがふたりにもう一度頭を下げてから、わたしと一緒に歩き出す。

「とりあえず、わたしの部屋に行こうか」
「はい。……その、本当に大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。とりあえず、いろいろと喋ろうよ」

 そう提案すると、アルマはこくりとうなずいた。その表情がちょっと嬉しそうに見えた。

 わたしの部屋につき、扉を開けて中へ入る。アルマとシオンも一緒に。ベッドの近くに置いてある鈴を鳴らすと、すぐにメイドが顔を見せた。

「お呼びですか、アクアさま」
「お茶とお茶菓子をお願いしたいの」
「かしこまりました、少々お待ちください」

 メイドが去って行くと、「私が……」とアルマが口を開く。首を左右に振って、座るように促した。

「座って座って。今日はアルマの歓迎会よ」
「え?」

 目をぱちくりと瞬かせる姿は幼く見えた。

「昨日ちゃんと歓迎出来なかったしね」

 なんせ寝込んでいたから。新人が来た時は出来るだけ歓迎の意を込めて出迎えたいのだけど……。それが出来なかったから。

 すぐにメイドがお茶とお茶菓子を用意して持って来てくれた。わたしがそれを受け取り、
「ありがとう」とお礼を言うと、彼女は微笑んで小さく頭を下げてから「ごゆっくりお休みください」と一言声を掛けて去って行った。

 わたしが寝込むとね、こういうことになるからね……!

 ぱたんと扉が閉められて、とりあえずトレイをテーブルの上に置いた。

 あ、ジャムクッキーだ。やった、美味しいんだよね、これ。なんて思いながらお茶を淹れて、アルマに渡す。

「あ、ありがとうございます……」
「シオンも飲めるのかな?」
「あ、はい。飲めると思います。うちにいた時、結構いろんなものを飲んでいましたから……」

 メイドが渡してくれたトレイの上には、シオン用にちょっと深めの小皿があった。スライムってどうやって飲むのかわからないから、シオンに「これにお茶を淹れていい?」と聞いた。

 シオンはぴょんとテーブルに着地し、お茶が淹れられるのを待っているようだった。

 深めの小皿にお茶を注ぐと、シオンはとても嬉しそうに身体を震わせた。……ぷ、ぷるぷるボディ……。撫でたらひんやりしそう。

 自分の分もお茶を淹れると、アルマが緊張しているのかカチンコチンになっているのに気付いた。

「どうしたの?」
「いえ、あの、アクアさまにお茶を淹れていただくなんて……と」

 ああ、自分が専属侍女だから気にしているのか、と思った。

「気にしなくていいよ。主従関係というより、わたしはアルマと友達のような関係になりたいもん」

 驚いたように顔を上げる彼女に、わたしはカップを持って息を吹きかけた。そして、一口飲む。温かいものを飲んだ後の、このじんわりと身体が温まる感じが好き。ホッとするというかなんというか。とりあえず、この感覚が好きってことだけはわかる。

「飲んでみて。おいしいよ」
「あ、ありがとうございます。いただきますね」

 アルマも一口飲み込んだ。そして、緊張の糸が切れたかのように、表情を綻ばせた。

「……緊張してた?」
「……少し、いえ、かなり。みなさん身分の高い方々ですし……」

 男爵家であるアルマには、そう見えたんだろうなぁ……。
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