149 / 153
3章
149話
わたしの考えを伝えると、アルマは真剣な表情で黙り込んでしまった。心配そうにアルマを見上げて……いるであろうシオンに、彼女は視線を落してゆっくりと息を吐いた。
「アクアさま、私、頑張ります。頑張って魔物使いとしての腕を上げて、魔物の言葉を理解出来るようになります!」
「ええっ?」
決意を瞳に宿してそういうアルマに、目を瞬かせた。いや、頑張ることはいいことだよ、うん。でも、魔物使いの腕を上げるってどうやって? とシオンとアルマを交互に見る。
「シオンのことも、もっと理解したいですしね」
シオンは嬉しそうにぴょんと跳ねた。アルマはシオンを撫でる。シオンはすりすりとアルマに擦りついていた。
「……そうだね。互いに知ることから始まるのかも」
人間関係だって、そうだしね。知ることから始めないと、前にも後にもいけないもん。
「まあ、とりあえず、この屋敷にいる間にいろいろ試してみよう?」
「はい!」
――そして、その日からアルマはぴったりと私にくっついて来るようになった。専属侍女だから当然といえば当然なのかもしれないけれど、ここまで誰かと一緒に過ごすことってなかったから、なんだか新鮮。
「アクア! 遊ぼ!」
「ココ! うん、遊ぼう!」
わたしとココが外に出てボールで遊んでいる時も、混ざることなくただ見守るように私たちを眺めている。誘ってみたけれど、少し困惑気味に断られた。シオンも一緒に、と思ったけれど、スライムがボールで遊ぶのは大変かなとも考えて、ためらった。
近くに来ていたディーンとバーナードは巻き込んだ。ふたりは顔を見合わせて、ササとセセも連れてきて「ボールを使って訓練だ!」と遊んでいるんだか、訓練しているんだかわからないことになった。
まあ、それはそれで楽しかったからいいけど!
コボルトたちの反射神経はかなりのもので、最終的にはササとセセ、ココがボールを取り合っていた。ココ、身体が小さいからか、素早いのよね。ササとセセは反対に身体が大きいから、ココよりは素早さが劣るみたい。でも、力は強い!
「うーん、コボルトたちにも個性がたくさんよね……」
「同じ人間だっていないだろ」
「確かに」
バーナードがわたしの呟きを拾った。ちらりとディーンを見ると、彼はコボルトたちを楽しそうに眺めていた。
先王陛下が作らせた『ディーン』という存在。ディーンはそのことを知らないから、自分のことをノースモア公爵家の次男だと思っているだろう。彼に植えられた(?)記憶がどんなものなのか、少し気になるところ。
「どうしたの、アクア。変な顔して」
「わたし、そんなに変な顔をしていた?」
こくりと首を縦に動かすディーンに、わたしは自分の頬を両手でむにむにと揉んだ。そのうちに、遊び疲れたのかココがころんと横になったので、ココの元に向かう。
「ココ、大丈夫?」
「だいじょーぶ! でも、うごけない!」
「たくさん動いたもんね。おいで」
「わーい!」
しゃがんだわたしが手を伸ばすと、ココはむくりと起き上がって抱きついて来た。ひょいとココを抱き上げると、ぎゅうっとしがみつく。ああ、ふわふわ……。この感覚が心地よいのよね。
「アクアさま、私が運びますよ」
「いいのいいの。わたしにやらせて」
ココの毛並みを堪能できるから、こうやって抱っこするのは役得でもあると思う!
ココを抱っこしたまま、屋敷の中へ戻り、ココの使っている部屋まで歩いた。
ココをベッドに横にさせると、いつの間にか眠っていたようで、すやすやと寝息を立てていた。起こさないように、そうっと汗を拭くとくすぐったそうにごろんと寝返りをした。可愛いなぁ。
ココの頭を撫でてから、風邪をひかないようにブランケットを掛ける。お昼寝を邪魔するのもなんだから、音を立てないように静かに静かにココの部屋から出ていく。
ふと、戸棚を見るとわたしがあげたミニゴーレムがちょこんと座っていて、なんだか和んだ。
ゆっくりと扉を閉めて、わたしはアルマと一緒に自室へと戻った。
「アルマたちは本当に参加しなくてよかったの?」
「ええと、その、なんというか、まだどう接したらいいのかわからなくて……」
しょんぼり、という言葉がぴったりなくらい、アルマの気分が沈んでいるのが見えた。
「まあ、いきなり仲良くっていうのは難しいだろうね」
シオンは心配そうにアルマにくっついている。この屋敷で暮らしているコボルトたちはみんないいコボルトたちだと思っているけれど、あまり接したことのないアルマには未知の生物だろうし。
……そう考えると、よくみんなあっさり受け入れていてくれたな、と思った。今じゃあ、屋敷の人気者なのよね、コボルトたち。
最初は怖がっていた、元魔物討伐部隊の家族の人たちも、一ヶ月くらい一緒に生活することであっさりとコボルトを受け入れてくれたし、コボルトたちも自分たちを受け入れてくれるのを待っていたように思う。
やっぱり『知る』って重要だなぁ。
「ま、そのうち慣れるよ、きっと」
「そうですね、きっと」
スライムのシオンを受け入れたくらいだもの。コボルトに慣れるのも、きっとすぐだろう。
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
売られたケンカは高く買いましょう《完結》
アーエル
恋愛
オーラシア・ルーブンバッハ。
それが今の私の名前です。
半年後には結婚して、オーラシア・リッツンとなる予定……はありません。
ケンカを売ってきたあなたがたには徹底的に仕返しさせていただくだけです。
他社でも公開中
結構グロいであろう内容があります。
ご注意ください。
☆構成
本章:9話
(うん、性格と口が悪い。けど理由あり)
番外編1:4話
(まあまあ残酷。一部救いあり)
番外編2:5話
(めっちゃ残酷。めっちゃ胸くそ悪い。作者救う気一切なし)
【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね
との
恋愛
離婚したいのですか? 喜んでお受けします。
でも、本当に大丈夫なんでしょうか?
伯爵様・・自滅の道を行ってません?
まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。
収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。
(父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる)
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
32話、完結迄予約投稿済みです。
R15は念の為・・
夫に欠陥品と吐き捨てられた妃は、魔法使いの手を取るか?
里見
恋愛
リュシアーナは、公爵家の生まれで、容姿は清楚で美しく、所作も惚れ惚れするほどだと評判の妃だ。ただ、彼女が第一皇子に嫁いでから三年が経とうとしていたが、子どもはまだできなかった。
そんな時、夫は陰でこう言った。
「完璧な妻だと思ったのに、肝心なところが欠陥とは」
立ち聞きしてしまい、失望するリュシアーナ。そんな彼女の前に教え子だった魔法使いが現れた。そして、魔法使いは、手を差し出して、提案する。リュシアーナの願いを叶える手伝いをするとーー。
リュシアーナは、自身を子を産む道具のように扱う夫とその周囲を利用してのしあがることを決意し、その手をとる。様々な思惑が交錯する中、彼女と魔法使いは策謀を巡らして、次々と世論を操っていく。
男尊女卑の帝国の中で、リュシアーナは願いを叶えることができるのか、魔法使いは本当に味方なのか……。成り上がりを目論むリュシアーナの陰謀が幕を開ける。
***************************
本編完結済み。番外編を不定期更新中。
婚約破棄の日の夜に
夕景あき
恋愛
公爵令嬢ロージーは卒業パーティの日、金髪碧眼の第一王子に婚約破棄を言い渡された。第一王子の腕には、平民のティアラ嬢が抱かれていた。
ロージーが身に覚えのない罪で、第一王子に糾弾されたその時、守ってくれたのは第二王子だった。
そんな婚約破棄騒動があった日の夜に、どんでん返しが待っていた·····
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」