恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

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3章

151話


 ココを抱っこしながら歩き、部屋についた。先に着替えを済ませてしまおうと考えていたら、アルマがさっと扉を開けてくれた。そして、私たちが入ると自分が最後に入り、ぱたんと扉を閉めた。

 ベッドの上にココを座らせてから、アルマに着替えを手伝ってもらった。ドレスをひとりで着替えるのは難しい。コルセットを外すと、ようやく呼吸が楽になったような気がした。

 聖職者のローブに袖を通すと、気持ちがシャキッとする。……まあ、気分の問題かもしれないけれど。この服はわたしが作ったものだしね。最初はダラム王国の前神官長が用意してくれたけれど、わたしが『聖女』としてやっていくためには、自分で作る必要があるといったのは今の……というのも少しおかしいか。ヒューイ神官長が懇切丁寧に教えてくれたのだ。ええ、そりゃあもう、丁寧に……。過去を思い出して、少しだけ息を吐くとアルマが「お疲れですか?」と聞いてきた。

「ううん、違うの。ちょっとこれを作ったときを思い出しただけ」

 これ、といいながらひょいとローブを持ち上げる。

「ご自分で作られたのですか?」
「うん。聖職者のほとんどは自分で作っていると思うよ」
「……知りませんでした」

 意外そうに目をパチパチと瞬かせるアルマに、こういう情報ってあんまり出ていないのかな? と思った。

「アルマ、セシリーを呼んで来てくれないかな? 相談したいことがあるの」
「かしこまりました。少々お待ちください」

 わたしがアルマに頼みごとをすると、彼女はぱっと表情を輝かせる。専属侍女になってから、アルマはこうしてわたしをくれる。普段はあまり頼みごとなんてしないから、こういうときにすると嬉しいみたい。それに気付いてから、軽い用事を頼むことにした。

 ……自分で出来ることは自分で、と教え込まれたわたしだから、あまり彼女を頼ることがなかったもんね。それが少し……かなり? 寂しかったみたい。

「セシリー、来るの?」
「そうよ。ココとお揃いのドレスのことで相談したいからね」
「おそろい!」

 パタパタと尻尾を振るココを見ると、なんだか和むわ。わたしもベッドの上に座ってココを撫でている間に、アルマはセシリーを呼びにいってくれた。

 数分もしないうちに戻ってきた。セシリーと一緒にお茶とお茶菓子も用意してくれたみたい。紅茶のいい香りがした。

「お呼びですか、アクアさま」
「うん、仕事中にごめんね。お茶とお茶菓子も用意してくれてありがとう」

 ココを抱っこしてから彼女たちに近付いた。用意されたお茶菓子はクッキーだった。真ん中にイチゴジャムが乗っているやつ。美味しそう!

「いいえ、先程までダンスのレッスンでしたよね。お疲れと思い用意いたしました」
「うん、疲れた! だから甘いもの、とても嬉しいわ!」
「ココ、クッキー、好き!」
「よかったねぇ、ココ」
「うん!」

 わたしを見ながら目をキラキラとさせるココに声を掛けると、何度もコクコクとうなずいた。それじゃあ、早速いただきましょうかね、と椅子に座る。

「アルマとセシリーも座って。一緒に食べよう」

 クッキーの量は多いし、ふたりにも食べて欲しかったから、そういった。彼女たちはわたしの考えを知っているから、すぐに椅子に座ってくれた。

 アルマがお茶を淹れて配り、お茶会……といっていいのかな? が始まった。

「セシリー、最近の調子はどう?」

 本題に入る前にセシリーに尋ねた。彼女はわたしに顔を向けて、微笑んだ。

「おかげさまで、楽しく過ごせています」
「そう? ならよかった」

 ほっと安堵したように息を吐くと、セシリーがふふ、と笑う。わたしがお茶を一口飲むと、ココが「クッキー食べていい?」と聞いて来たので、「いいよ」と答えた。

「セシリーにはいろいろお世話になってるから、ちょっと気になっていたの。本当にわたしについて来てよかったのかなって」

 セシリーは有能だと思う。メイドの世界はよくわからないけれど、十日間くらいとはいえ、わたしもメイドだったから、仕事の大変さを少しは理解できる、つもり。

 メイド長として、メイドをまとめてくれるセシリー。きっと大変だと思う。

「もちろんですわ、アクアさま。私は、アクアさまに恩も感じております」
「……甥っ子を助けたから?」
「それもありますが……。……ああ、ルーカス陛下から聞いていないのですね」

 不思議そうに首を傾げるわたしに、セシリーは目を丸くしてそれから納得したように呟いた。

 ルーカス兄さま? とますます不思議に思って彼女を見ると、セシリーはすっと紅茶を飲んでからカップを戻し、柔らかく目尻を下げた。

「アクアさまの屋敷にいるメイドたちは、私を含めて上の人に恵まれなかったのです」
「え、どういうこと?」
「メイドには主がいるでしょう? その人たちに恵まれなかったのです。私はとある貴族に仕えていましたが、……まあ、いろいろありまして。王宮のメイドになってからも一悶着ありましたし……」

 淡々とした口調で語るセシリーに、一体なにがあったの? と聞きたくなったけれど、悪い記憶を呼び起こすようなことはしたくないしなぁ……とちょっと悩み、彼女の言葉を待った。

「ですが、ルーカス陛下からアクアさまのお話をいただき、妹から甥っ子の恩人という話も聞いていたので、どんな方なのかしら、と考えました。とにかく、お会いしてみようと思い、アクアさまにお会いしたのです。……アクアさまは、私たちにとても親切にしてくださいましたでしょう?」

 セシリーたちと初めて会ったときのことを思い出す。親切というか、人として当然のことをしただけだと思うのだけど……?

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