16 / 25
16.
しおりを挟む
火曜日。朝六時半に起きて、いつもの通りに家を出る準備をしながら、保温になった炊飯器を見て思い出す。
「……そうだ。豚汁とご飯を食べるんだった」
どうやってガスコンロの火をつけるのか迷った上、あまりに久しぶりすぎて火をつけたまま鍋から目を離すのが何となく怖くなり鍋をじーっと見つめて温まるのを待つ羽目になる。それでも、一人分ちょうどの豚汁はあっという間にぐらぐら沸騰した。
……あれ? お味噌汁って沸騰させちゃダメなんだっけ? 子どもの頃、母がそんなことを言っていた気がする。まあいいや。今更言っても仕方ない。
「いただきます」
手を合わせて、一人で食事。
美味しい。だけど、ご飯も豚汁も昨日の方がずっと美味しかった。きっと、隣に牧村さんがいたからだ。
ふと、十年前のことを思い出す。
そこの小さな台所に母が立っていた日のことを。
「響子、お味噌汁とご飯明日の朝の分まであるから。おかずも冷蔵庫に入れておいたわよ。ちゃんと食べてね」
この部屋だって、最初の二年間は何度か母がやって来て、ご飯を作ってくれたんだ。そんな時は何日分か作り置いてくれたりもした。泊まるのはホテルだったけど、それでも昼間、ここでご飯を作ってくれた。
とても料理上手な母だった。私が家を出る時は、少しでも自炊ができるようにと料理を教えてくれようとしたけど、悲しいことにまったく身につかなかった。今思えば、もっと真面目に教えてもらえば良かった……。
牧村さんの料理は美味しい。……だけど、一人で食べたくなかった。
鼻の奥がツーンと痛む。泣きたくなってきた。
朝からこんな気持ちになるなんて最低だ。仕事前はできるだけ気持ちを落ち着けておきたいのに。
……いや、そうじゃない。
マイナスに傾きそうな思考をどうにか引き戻す。
そうじゃない。問題はそこじゃない。
牧村さんはまた明日の夜来てくれるんだ。母は二度とこの部屋に来ることはできないけど、牧村さんはまた来る。
今日は一人だけど、明日の夜にはまた一緒に食べられるのだから。お試しとはいえ、お付き合いすることになったのだから、明日だけじゃなく別の日にも来るはずだ。
彼に文句を言うのは違うだろ、私。
昨日の夕飯も今日のこれも、それから昨日の手作り弁当も。どう考えても、金曜日に倒れた私の身体を気遣ってのものだ。
感謝するならともかく、文句を言うのは絶対におかしい。
何度か深呼吸を繰り返すと、次第に心は落ち着いてきた。
もう一度、豚汁をゴクリと飲む。さっきより美味しいと感じられてホッとする。
……でも、もし次があるのなら、今度は病院に持って行って、向こうで食べられるようなものがいいな。そんなリクエストをしても大丈夫だろうか?
◇ ◇ ◇
「響子先生、おはようございます」
出勤すると高橋先生が駆け寄ってきた。
「おはようございます。どうしました? 何かありましたか?」
「あ、いえ、何もないです」
それは良かった。
電話も呼び出しもなかったから大丈夫だとは思っていたけど、受け持ち患者に何かあったかとも思うとドキッとする。
「朝ご飯は?」
高橋先生は私の手を見て、そこに何も持っていないのを見て聞いてくる。いつもなら持ってるコンビニおにぎりとかサンドイッチが今日はない。
「え? ……ああ、今日は家で食べてきました」
「珍しい、ですね」
高橋先生は何故かすごく驚いた顔をする。
いや、私だってたまには家で食べるぞ。本当にたまだにだけど。
「えーと、あの、昨日の男の人は……」
「ん? 男の人?」
昨日は急患もなかったし、男の人と言うキーワードで思い浮かぶ患者がいない。
「あの、帰り際に……響子先生をお迎えに来ていた」
「ああ! 牧村さん!」
思わずぽんと手を打った。
そのまま、鞄を自席に置きに行く。で、牧村さんがなんだって?
「あの人、響子先生の彼氏ですか?」
私の席までくっついてきた高橋先生から思いもかけない言葉が飛び出す。
朝から恋バナ? 高橋先生ってこんなキャラだっけ。
「昨日のお弁当も、もしかして……」
「はい。お弁当、牧村さんが作ってくれたんです」
「え、本当に? でも、男の人でしたよ?」
「牧村さん、ムチャクチャ料理上手ですよ。料理ができる男の人って良いですよね~」
そう言うと、また高橋先生は呆然自失というような表情になる。
え? そんなに驚くこと?
「響子先生、もしかして、料理ができる人とか、好きでしたか?」
「はい。だって、私、自分で料理とかしないですし。作ってもらえるなら、ムチャクチャありがたいですよね?」
高橋先生だって、看護師さんからお弁当もらったって言ってたじゃない。料理が好きで作って食べさせてくれる人を嫌う人なんていないんじゃないかな?
ああ、高橋先生は牧村さんが男性ってところが引っかかってるのか。
そっか。そうだよね。これが普通の反応だよね。
元カレの、料理も後片付けも女がやれ的な態度を思い出す。あーやだやだ。男とか女とか関係ないじゃん。
でも、やっぱ、牧村さんが普通じゃないんだろうなと思い直す。
……普通じゃないのも道理だった。牧村さんは結婚詐欺師だったっけ。
なんで私、お付き合いするのOKしちゃったんだ!? いや、手料理だ。手料理に胃袋を捕まれてしまったんだ。仕方ないじゃないか。
それに、取りあえずのお試しだし。無理だと思ったら、ごめんなさいすれば良い。
だけど、どうしても牧村さんの根っこが変な人とは思えなかった。
だから、きっと、本当は何か事情があるんだろうな、と思えて仕方なかった。
「牧村先生、ちょっと良いですか?」
「はい。どうしました?」
その後、看護師さんがやってきて高橋先生との会話は終了。
休み明けで外来患者も多い上に、昨日の落ち着きようが嘘のように急を要する患者が何人も運び込まれてきた。
緊急手術まで入り、気がつくと夜勤の時間に突入していた。
◇ ◇ ◇
……お腹空いた。
朝ご飯を家で食べたので昼ご飯を買って来るのを忘れてしまった。そして、手元にあるなら五分でかき込むけど買いに行くまでの時間はないまま、既に二十二時。売店はもう閉まってしまった。
忙しくしている間は忘れている空腹に、手が空いた瞬間襲われた。
チョコか飴、持ってなかったっけ?
鞄を漁ってみると、手に当たる冷たい感触。
……あれ? 瓶?
取り出すとビタミンカラーのパッケージに彩られた栄養ドリンク。
何でこんなものが鞄に?
K製薬の新製品。よく見ると「試供品」と書かれている。
試供品、試供品。最近、どっかで聞いた気がする。……あ。牧村さんだ。
出会ったその日、半ばムリヤリ車に乗せられた後、手渡された気がする。あの時はホント微妙な体調で頭がまったく回ってなかった。よく分からないままに受け取ってしまい、鞄に放り込んだのだろう。
……栄養満点で空腹でも飲めるとか何とか言ってたっけ?
これ飲んでみよっかな。
蓋を開けてまずは一口。
美味しい!
何というか、ビタミンとエネルギーが身体に行き渡るかのようなサッパリした味わいで、後味も良く飲みやすい。そのままゴクゴク一気に飲み干した。
飲み終わった後で改めてパッケージを見ると、牧村さんが言っていた通り色んな栄養素が詰め込まれていた。カロリーが結構入っているのも良い。エネルギー源にしたいのだから。
牧村さん、ありがとう。
心の中でお礼を言いながら、仮眠室に移動しがてら空き瓶をゴミ箱に入れた。
数時間ほど寝た後、急変があり飛び起きて対応したりでバタバタしたし、救急車も何台かやって来たけど、何とか無事、丸一日の長い勤務時間を終えることができた。
朝の引き継ぎ前、出勤した高橋先生がコンビニの袋片手に近寄って来た。
「おはようございます」
「おはようございます。昨日はどうでした?」
「まあ、いつも通りですかね。高橋先生の担当患者さんは皆さん変わりなしです」
「それは良かった」
それから、高橋先生は私に白いビニール袋を差し出した。
「お疲れ様です。朝食にどうぞ」
「え?」
「おにぎりとカップスープです。すみません。コンビニのですが」
「いいんですか?」
そんなものを差し入れてもらうのは初めてで驚いて高橋先生の顔を見上げる。
「はい。こんなもので申し訳ないんですが」
「いえいえ。お腹空いてたんで嬉しいです。帰る前にここで食べてきますね」
早速覗き込むと、私がよく食べてる昆布としぐれのおにぎり二つ。それから、卵とわかめのスープ。
引き継ぎが終わった後、自席でコソッと食べていると、診察室移動前の高橋先生がまたやって来て、今度は小袋に入ったチョコ菓子をバラバラッと五個デスクに置いた。
「こっちは非常食です。引き出しにでも入れとておいてください」
「あ、はい。ごちそうさまです!」
満面の笑顔でお礼を言うと、高橋先生は嬉しそうに笑い返してくれた。
「響子先生は食べ物だったんですね」
「は?」
「いえ、私は料理はできませんが、こんなもので良ければまた持ってきますね」
「あ、いや、大丈夫ですよ?」
そう言ったのに、高橋先生はポンポンと私の頭を撫でるように軽く叩くと、そのまま診察に行ってしまった。
そう言えば、入局してすぐの頃、ミスをしでかしてど叱られた時もこんな風に慰めてもらったっけと思い出す。今でこそ同僚として働いているけど、キャリアは向こうのが上だし先輩づらしたり偉そうにしたりは決してしないのに、面倒見は良い優しい人だ。
自分もああ言う医者になりたいな。ふとそんなことを思った。
もらったおにぎりとあったかいカップスープを飲み終わると眠くなってきた。
大きなあくびをしながら、鞄を肩にかける。
誰もいなくなった医局を出て、
「失礼します」
とナースステーションに一声かけて病棟を後にする。
「お疲れ様でした。お気をつけて」
となじみの看護師さんが顔を出してくれた。
「……そうだ。豚汁とご飯を食べるんだった」
どうやってガスコンロの火をつけるのか迷った上、あまりに久しぶりすぎて火をつけたまま鍋から目を離すのが何となく怖くなり鍋をじーっと見つめて温まるのを待つ羽目になる。それでも、一人分ちょうどの豚汁はあっという間にぐらぐら沸騰した。
……あれ? お味噌汁って沸騰させちゃダメなんだっけ? 子どもの頃、母がそんなことを言っていた気がする。まあいいや。今更言っても仕方ない。
「いただきます」
手を合わせて、一人で食事。
美味しい。だけど、ご飯も豚汁も昨日の方がずっと美味しかった。きっと、隣に牧村さんがいたからだ。
ふと、十年前のことを思い出す。
そこの小さな台所に母が立っていた日のことを。
「響子、お味噌汁とご飯明日の朝の分まであるから。おかずも冷蔵庫に入れておいたわよ。ちゃんと食べてね」
この部屋だって、最初の二年間は何度か母がやって来て、ご飯を作ってくれたんだ。そんな時は何日分か作り置いてくれたりもした。泊まるのはホテルだったけど、それでも昼間、ここでご飯を作ってくれた。
とても料理上手な母だった。私が家を出る時は、少しでも自炊ができるようにと料理を教えてくれようとしたけど、悲しいことにまったく身につかなかった。今思えば、もっと真面目に教えてもらえば良かった……。
牧村さんの料理は美味しい。……だけど、一人で食べたくなかった。
鼻の奥がツーンと痛む。泣きたくなってきた。
朝からこんな気持ちになるなんて最低だ。仕事前はできるだけ気持ちを落ち着けておきたいのに。
……いや、そうじゃない。
マイナスに傾きそうな思考をどうにか引き戻す。
そうじゃない。問題はそこじゃない。
牧村さんはまた明日の夜来てくれるんだ。母は二度とこの部屋に来ることはできないけど、牧村さんはまた来る。
今日は一人だけど、明日の夜にはまた一緒に食べられるのだから。お試しとはいえ、お付き合いすることになったのだから、明日だけじゃなく別の日にも来るはずだ。
彼に文句を言うのは違うだろ、私。
昨日の夕飯も今日のこれも、それから昨日の手作り弁当も。どう考えても、金曜日に倒れた私の身体を気遣ってのものだ。
感謝するならともかく、文句を言うのは絶対におかしい。
何度か深呼吸を繰り返すと、次第に心は落ち着いてきた。
もう一度、豚汁をゴクリと飲む。さっきより美味しいと感じられてホッとする。
……でも、もし次があるのなら、今度は病院に持って行って、向こうで食べられるようなものがいいな。そんなリクエストをしても大丈夫だろうか?
◇ ◇ ◇
「響子先生、おはようございます」
出勤すると高橋先生が駆け寄ってきた。
「おはようございます。どうしました? 何かありましたか?」
「あ、いえ、何もないです」
それは良かった。
電話も呼び出しもなかったから大丈夫だとは思っていたけど、受け持ち患者に何かあったかとも思うとドキッとする。
「朝ご飯は?」
高橋先生は私の手を見て、そこに何も持っていないのを見て聞いてくる。いつもなら持ってるコンビニおにぎりとかサンドイッチが今日はない。
「え? ……ああ、今日は家で食べてきました」
「珍しい、ですね」
高橋先生は何故かすごく驚いた顔をする。
いや、私だってたまには家で食べるぞ。本当にたまだにだけど。
「えーと、あの、昨日の男の人は……」
「ん? 男の人?」
昨日は急患もなかったし、男の人と言うキーワードで思い浮かぶ患者がいない。
「あの、帰り際に……響子先生をお迎えに来ていた」
「ああ! 牧村さん!」
思わずぽんと手を打った。
そのまま、鞄を自席に置きに行く。で、牧村さんがなんだって?
「あの人、響子先生の彼氏ですか?」
私の席までくっついてきた高橋先生から思いもかけない言葉が飛び出す。
朝から恋バナ? 高橋先生ってこんなキャラだっけ。
「昨日のお弁当も、もしかして……」
「はい。お弁当、牧村さんが作ってくれたんです」
「え、本当に? でも、男の人でしたよ?」
「牧村さん、ムチャクチャ料理上手ですよ。料理ができる男の人って良いですよね~」
そう言うと、また高橋先生は呆然自失というような表情になる。
え? そんなに驚くこと?
「響子先生、もしかして、料理ができる人とか、好きでしたか?」
「はい。だって、私、自分で料理とかしないですし。作ってもらえるなら、ムチャクチャありがたいですよね?」
高橋先生だって、看護師さんからお弁当もらったって言ってたじゃない。料理が好きで作って食べさせてくれる人を嫌う人なんていないんじゃないかな?
ああ、高橋先生は牧村さんが男性ってところが引っかかってるのか。
そっか。そうだよね。これが普通の反応だよね。
元カレの、料理も後片付けも女がやれ的な態度を思い出す。あーやだやだ。男とか女とか関係ないじゃん。
でも、やっぱ、牧村さんが普通じゃないんだろうなと思い直す。
……普通じゃないのも道理だった。牧村さんは結婚詐欺師だったっけ。
なんで私、お付き合いするのOKしちゃったんだ!? いや、手料理だ。手料理に胃袋を捕まれてしまったんだ。仕方ないじゃないか。
それに、取りあえずのお試しだし。無理だと思ったら、ごめんなさいすれば良い。
だけど、どうしても牧村さんの根っこが変な人とは思えなかった。
だから、きっと、本当は何か事情があるんだろうな、と思えて仕方なかった。
「牧村先生、ちょっと良いですか?」
「はい。どうしました?」
その後、看護師さんがやってきて高橋先生との会話は終了。
休み明けで外来患者も多い上に、昨日の落ち着きようが嘘のように急を要する患者が何人も運び込まれてきた。
緊急手術まで入り、気がつくと夜勤の時間に突入していた。
◇ ◇ ◇
……お腹空いた。
朝ご飯を家で食べたので昼ご飯を買って来るのを忘れてしまった。そして、手元にあるなら五分でかき込むけど買いに行くまでの時間はないまま、既に二十二時。売店はもう閉まってしまった。
忙しくしている間は忘れている空腹に、手が空いた瞬間襲われた。
チョコか飴、持ってなかったっけ?
鞄を漁ってみると、手に当たる冷たい感触。
……あれ? 瓶?
取り出すとビタミンカラーのパッケージに彩られた栄養ドリンク。
何でこんなものが鞄に?
K製薬の新製品。よく見ると「試供品」と書かれている。
試供品、試供品。最近、どっかで聞いた気がする。……あ。牧村さんだ。
出会ったその日、半ばムリヤリ車に乗せられた後、手渡された気がする。あの時はホント微妙な体調で頭がまったく回ってなかった。よく分からないままに受け取ってしまい、鞄に放り込んだのだろう。
……栄養満点で空腹でも飲めるとか何とか言ってたっけ?
これ飲んでみよっかな。
蓋を開けてまずは一口。
美味しい!
何というか、ビタミンとエネルギーが身体に行き渡るかのようなサッパリした味わいで、後味も良く飲みやすい。そのままゴクゴク一気に飲み干した。
飲み終わった後で改めてパッケージを見ると、牧村さんが言っていた通り色んな栄養素が詰め込まれていた。カロリーが結構入っているのも良い。エネルギー源にしたいのだから。
牧村さん、ありがとう。
心の中でお礼を言いながら、仮眠室に移動しがてら空き瓶をゴミ箱に入れた。
数時間ほど寝た後、急変があり飛び起きて対応したりでバタバタしたし、救急車も何台かやって来たけど、何とか無事、丸一日の長い勤務時間を終えることができた。
朝の引き継ぎ前、出勤した高橋先生がコンビニの袋片手に近寄って来た。
「おはようございます」
「おはようございます。昨日はどうでした?」
「まあ、いつも通りですかね。高橋先生の担当患者さんは皆さん変わりなしです」
「それは良かった」
それから、高橋先生は私に白いビニール袋を差し出した。
「お疲れ様です。朝食にどうぞ」
「え?」
「おにぎりとカップスープです。すみません。コンビニのですが」
「いいんですか?」
そんなものを差し入れてもらうのは初めてで驚いて高橋先生の顔を見上げる。
「はい。こんなもので申し訳ないんですが」
「いえいえ。お腹空いてたんで嬉しいです。帰る前にここで食べてきますね」
早速覗き込むと、私がよく食べてる昆布としぐれのおにぎり二つ。それから、卵とわかめのスープ。
引き継ぎが終わった後、自席でコソッと食べていると、診察室移動前の高橋先生がまたやって来て、今度は小袋に入ったチョコ菓子をバラバラッと五個デスクに置いた。
「こっちは非常食です。引き出しにでも入れとておいてください」
「あ、はい。ごちそうさまです!」
満面の笑顔でお礼を言うと、高橋先生は嬉しそうに笑い返してくれた。
「響子先生は食べ物だったんですね」
「は?」
「いえ、私は料理はできませんが、こんなもので良ければまた持ってきますね」
「あ、いや、大丈夫ですよ?」
そう言ったのに、高橋先生はポンポンと私の頭を撫でるように軽く叩くと、そのまま診察に行ってしまった。
そう言えば、入局してすぐの頃、ミスをしでかしてど叱られた時もこんな風に慰めてもらったっけと思い出す。今でこそ同僚として働いているけど、キャリアは向こうのが上だし先輩づらしたり偉そうにしたりは決してしないのに、面倒見は良い優しい人だ。
自分もああ言う医者になりたいな。ふとそんなことを思った。
もらったおにぎりとあったかいカップスープを飲み終わると眠くなってきた。
大きなあくびをしながら、鞄を肩にかける。
誰もいなくなった医局を出て、
「失礼します」
とナースステーションに一声かけて病棟を後にする。
「お疲れ様でした。お気をつけて」
となじみの看護師さんが顔を出してくれた。
1
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる