17 / 151
12年目の恋物語
16.羽鳥の気持ち
しおりを挟む
放課後になって、息を切らしてやって来た寺本志穂は泣きそうな顔で言った。
「先輩。……間に合わなかった」
「なにが?」
と聞くと、ギュッと拳を握りしめて、ボクの目をしっかり見てから言った。
「陽菜、倒れて……救急車で運ばれた」
「え!? いつ!?」
「お昼休み」
寺本さんは涙を堪えるように、奥歯を噛みしめた。
「場所、変えようか」
放課後、速効で来るように言い、それを忠実に守った寺本さんが走ってきただけあり、教室にはまだかなりの人数が残っている。こんなところで、女の子を泣かせたとなると大騒ぎだ。
「また、非常口ですか?」
「そうだな。取りあえずそうしようか」
早く詳細も聞きたい。人のいない場所を探しているより、すぐそこの非常口の方が確実だ。万が一、誰かがいたら、そのまま非常階段を降りて外に出ればいい。さすがに、そこまで行けば人気もないに違いない。
「で、何があったの?」
単刀直入に聞く。遠回しに聞く理由はない。
「わたしも、斎藤くんに聞いたくらいの情報しかないんだけど……」
「斎藤?」
広瀬叶太じゃないのか。
「あ。同じクラスの……、陽菜の隣の席の男子です」
「ハルちゃんは教室で?」
気になるのは、やはり、ハルちゃんのこと。情報源が隣の席の男子と言うなら、教室かと思った。
ハルちゃんが倒れたという昼休み、ボクは、目の前の後輩、寺本さんといたから。ボクも、寺本さんも、ハルちゃんが倒れたところも、救急車に乗せられるところも見ていない。
「いえ。保健室の側の校舎裏だったそうです」
保健室の側の校舎裏?
「中等部側の雑木林のある?」
「多分」
「多分?」
「斎藤くん、高等部からの外部生だから、その辺、曖昧なんです」
なるほど。しかし、なんでまたそんなところに? あそこは、図書館の裏のようにベンチがあるわけでもない。ボクが怪訝そうな顔をしていると、寺本さんは続けた。
「なんか、すごく具合が悪そうだった……って言うか、」
寺本さんが、顔をゆがめた。
「意識、なかったって」
ボクも息をのむ。思っていたより、事態は悪い方に転がっていた。
「叶太くんは、多分、もっといろいろ分かっているだろうけど、斎藤くんじゃ、それ以上、分からないって」
……ハルちゃん。
「あの、叶太くんが、陽菜のおじいさんに電話してて、その内容が、意識はない、呼吸はかなり苦しそう、でも、心臓は動いてる……だったって」
心臓は動いてる、そう言わなくてはならないほどの状態。
ハルちゃんのおじいさん。牧村総合病院の院長か。最高の医療は保証されているけど……。
寺本さんの顔を見ると、やはり、今にも泣き出しそうな顔をしていた。だけど、泣かない。この子は強い。
「叶太くんは、すごく落ち着いてて、救急車に一緒に乗って行っちゃったって……」
ああ、だから、情報源が斎藤。
「何していいか分からなかったけど、とにかく先輩には報告しなきゃと思って」
「ありがとう」
さて、何をするか。
一体、ハルちゃんに何が起きたのか? そこにメスを入れるより、ハルちゃんの心のケアの方が大切な気がする。
「先輩、わたし、なにができますか?」
寺本さんがボクの顔を真剣な表情で見てきた。
「それをボクに聞くの?」
他力本願は嫌いだ。
「だって、先輩、わたしたちの知らない陽菜を知ってるじゃないですか」
「なるほど」
「でもって、ぜんぶ、教えてくれる気はないでしょう?」
思わず笑みがもれる。そのまま笑いがこみ上げてきた。
「あはははっ」
「笑うとこですかぁ?」
面白い。面白すぎる。
「じゃ、キミは、ボクの手足になって動くってことでいいの?」
冗談半分に言ってみると、寺本さんは真顔でうなずいた。
「はい。どんどん使ってください」
「……本気?」
心外だと言うように、寺本さんは答えた。
「こんなこと、冗談で言いませんよ」
いや。普通は冗談でしか言わないだろう。
どうやら、ボクには手足として使える部下ができたらしい。さて、どう使うかと考えていると、突っ込みが入った。
「先輩、当たり前ですが、」
「なに?」
「陽菜のためにすることだけですよ」
ビシッと人差し指を立てて、ボクに釘を刺す寺本さん。さっきまで泣きそうな顔をしていたのに、もう元気に前を向いている。
「ははは。ちゃっかりしてるなぁ」
「……ちゃっかり?」
「ボクをただで使おうなんて」
寺本さんは、不思議そうに首を傾げた。
「え? 使われるのは、わたしでしょう?」
ボクは階段の手すりにもたれて、笑いながら言った。
「キミが言ってるのは、自分は頭を使わずにボクに状況を把握させて、最適な施策を考えさせて、道を示せってことだよ」
寺本さんが押し黙るのを見て、どう出てくるかと思ったら、
「……あの、しさくって、どういう意味ですか? 試しに作る……の試作じゃないですよね?」
と真顔で聞いて来るものだから、ボクはまた爆笑する羽目になった。
ハルちゃん、キミの友だちは面白いな。
「先輩。……間に合わなかった」
「なにが?」
と聞くと、ギュッと拳を握りしめて、ボクの目をしっかり見てから言った。
「陽菜、倒れて……救急車で運ばれた」
「え!? いつ!?」
「お昼休み」
寺本さんは涙を堪えるように、奥歯を噛みしめた。
「場所、変えようか」
放課後、速効で来るように言い、それを忠実に守った寺本さんが走ってきただけあり、教室にはまだかなりの人数が残っている。こんなところで、女の子を泣かせたとなると大騒ぎだ。
「また、非常口ですか?」
「そうだな。取りあえずそうしようか」
早く詳細も聞きたい。人のいない場所を探しているより、すぐそこの非常口の方が確実だ。万が一、誰かがいたら、そのまま非常階段を降りて外に出ればいい。さすがに、そこまで行けば人気もないに違いない。
「で、何があったの?」
単刀直入に聞く。遠回しに聞く理由はない。
「わたしも、斎藤くんに聞いたくらいの情報しかないんだけど……」
「斎藤?」
広瀬叶太じゃないのか。
「あ。同じクラスの……、陽菜の隣の席の男子です」
「ハルちゃんは教室で?」
気になるのは、やはり、ハルちゃんのこと。情報源が隣の席の男子と言うなら、教室かと思った。
ハルちゃんが倒れたという昼休み、ボクは、目の前の後輩、寺本さんといたから。ボクも、寺本さんも、ハルちゃんが倒れたところも、救急車に乗せられるところも見ていない。
「いえ。保健室の側の校舎裏だったそうです」
保健室の側の校舎裏?
「中等部側の雑木林のある?」
「多分」
「多分?」
「斎藤くん、高等部からの外部生だから、その辺、曖昧なんです」
なるほど。しかし、なんでまたそんなところに? あそこは、図書館の裏のようにベンチがあるわけでもない。ボクが怪訝そうな顔をしていると、寺本さんは続けた。
「なんか、すごく具合が悪そうだった……って言うか、」
寺本さんが、顔をゆがめた。
「意識、なかったって」
ボクも息をのむ。思っていたより、事態は悪い方に転がっていた。
「叶太くんは、多分、もっといろいろ分かっているだろうけど、斎藤くんじゃ、それ以上、分からないって」
……ハルちゃん。
「あの、叶太くんが、陽菜のおじいさんに電話してて、その内容が、意識はない、呼吸はかなり苦しそう、でも、心臓は動いてる……だったって」
心臓は動いてる、そう言わなくてはならないほどの状態。
ハルちゃんのおじいさん。牧村総合病院の院長か。最高の医療は保証されているけど……。
寺本さんの顔を見ると、やはり、今にも泣き出しそうな顔をしていた。だけど、泣かない。この子は強い。
「叶太くんは、すごく落ち着いてて、救急車に一緒に乗って行っちゃったって……」
ああ、だから、情報源が斎藤。
「何していいか分からなかったけど、とにかく先輩には報告しなきゃと思って」
「ありがとう」
さて、何をするか。
一体、ハルちゃんに何が起きたのか? そこにメスを入れるより、ハルちゃんの心のケアの方が大切な気がする。
「先輩、わたし、なにができますか?」
寺本さんがボクの顔を真剣な表情で見てきた。
「それをボクに聞くの?」
他力本願は嫌いだ。
「だって、先輩、わたしたちの知らない陽菜を知ってるじゃないですか」
「なるほど」
「でもって、ぜんぶ、教えてくれる気はないでしょう?」
思わず笑みがもれる。そのまま笑いがこみ上げてきた。
「あはははっ」
「笑うとこですかぁ?」
面白い。面白すぎる。
「じゃ、キミは、ボクの手足になって動くってことでいいの?」
冗談半分に言ってみると、寺本さんは真顔でうなずいた。
「はい。どんどん使ってください」
「……本気?」
心外だと言うように、寺本さんは答えた。
「こんなこと、冗談で言いませんよ」
いや。普通は冗談でしか言わないだろう。
どうやら、ボクには手足として使える部下ができたらしい。さて、どう使うかと考えていると、突っ込みが入った。
「先輩、当たり前ですが、」
「なに?」
「陽菜のためにすることだけですよ」
ビシッと人差し指を立てて、ボクに釘を刺す寺本さん。さっきまで泣きそうな顔をしていたのに、もう元気に前を向いている。
「ははは。ちゃっかりしてるなぁ」
「……ちゃっかり?」
「ボクをただで使おうなんて」
寺本さんは、不思議そうに首を傾げた。
「え? 使われるのは、わたしでしょう?」
ボクは階段の手すりにもたれて、笑いながら言った。
「キミが言ってるのは、自分は頭を使わずにボクに状況を把握させて、最適な施策を考えさせて、道を示せってことだよ」
寺本さんが押し黙るのを見て、どう出てくるかと思ったら、
「……あの、しさくって、どういう意味ですか? 試しに作る……の試作じゃないですよね?」
と真顔で聞いて来るものだから、ボクはまた爆笑する羽目になった。
ハルちゃん、キミの友だちは面白いな。
0
あなたにおすすめの小説
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました!
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
自信家CEOは花嫁を略奪する
朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」
そのはずだったのに、
そう言ったはずなのに――
私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。
それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ?
だったら、なぜ?
お願いだからもうかまわないで――
松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。
だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。
璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。
そしてその期間が来てしまった。
半年後、親が決めた相手と結婚する。
退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
32歳、恋愛未経験の私に彼氏ができました。お相手は次期社長で完璧王子なのに、なぜか可愛い。
さくしゃ
恋愛
32歳、恋愛未経験の私に彼氏ができました。お相手は次期社長で完璧王子なのに、なぜか可愛い。
「甘酒って甘くないんだ!」
ピュアで、
「さ、さお…ふしゅうう」
私の名前を呼ぼうとして呼べなくて。
だけど、
「し、しゅ…ふしゅうう」
それは私も同じで。
不器用な2人による優しい恋愛物語。
果たして私たちは
「さ…ふしゅぅぅ」
下の名前で呼び合えるのでしょうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる