継ぐマホウ 〜曇り所により片頭痛、気がついたら異世界〜

パキ・パキ

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動いた運命、王都までの道程

6話 クライシス・フライト

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「……?」

 死を覚悟したエウレナ。

 しかし、先程まで感じていた浮遊感はすぐに消えた。変わって手のひらに伝わった暖かさに、心が言いようのない安堵感を感じているのがわかる。

 ――私はまだ死んでいない?

 彼女のこれから来る死を見て固く閉ざした瞳を、未だ途絶えない現実の中に開かせたのは歯を食いしばるコウトの声だった。

「エウレナさんッ! まだ終わってません」

 エウレナが見つめる彼の瞳には四角い模様が浮かんでいた。

「俺の魔法で貴方を――掬い上げる!!」

 亀裂の底には海を思わせるほどのマナ。今にも地獄の業火を召喚せしめんとするこれを全て――。

「風に変えるッ!!」

 瞬間、底に溜まっていたマナの全てが風に変わり、エウレナの体を浮かせる。しかし、エウレナの手を離すまいと強く握っていたコウトも自らの起こした風に彼女と共にさらわれてしまう。

「クッ――」
「え? わ、うぉあ~~~!!」

 空に打ち上げられるエウレナとコウト。風は亀裂に行き渡ったマナをふんだんに使い2人を舞い上げた。


―――――――――


 エウレナは近づく空と遠のく大地を眺めながら幼少期の記憶を思い起こしていた。
 風の魔法を使いこなし、空を自由に飛ぶ次姉じしとそれを見て卒倒する母、降りてきてと必死に叫ぶメイド長。

 そんなの知ったことかと楽しそうに笑う姉を何度羨ましいと思ったか。操ることのできる魔法は生まれながらに決められているとはいえ、風魔法を使うことのできない自分を何度呪ったか。今となってはなんてことのない可愛い、懐かしい思い出だが――。

「フフッ、アハハハハハッ」

 不意に笑いがこぼれた。

「何笑ってんですか、やってみたはいいけど着地わかんないんですけど!!」
「あぁ悪い、1度こうして空を飛んでみるのが夢でな」

 エウレナは目尻にうっすらと涙を浮かべながら心底愉快そうに笑っている。コウトが慌てている様に更に笑いがこみ上げてくる。
 こんなに笑ったのはいつぶりだろうか。最後にこんなにも心から楽しいと思えた出来事があったのはいつだっただろうか。

「どうするんですかこんなに高くまで来ちゃいましたよ!!」
「おー、すごいな。ここら一体すべてが見渡せる」

 山を軽々と超えて、向こうに見える夕日よりも高い。2人は雲にすら届くのではないかと思うほど空高くに舞い上がっていた。

 互いを離さないよう強く握った手を意識すると心臓がバクバクと鳴って止まらない。

 ふと、このままどこまででも行けそうだ!とはしゃいでいたエウレナの表情が険しいものに戻る。

「ほぅ、――成程、そういうことか」
「? 何が成程なんですか?」
「いや、なんでもないさ。それよりも今はこの空の旅を楽しもう」
「いや、楽しもうっていうか、落ち始めてるんですけど!?」

 コウトは体が吸い込まれていくような、凄まじい感覚を覚える。コウトは落ちていく恐怖からエウレナの手を握る力を無意識に強める。
 エウレナはそれに気づいて手を握り返し、優しく声をかける。

「大丈夫、さっきと同じだ。この世界に満ちているマナを想像して」
「想像っていうかはっきり見えます……」
「そうだったな。ではそのマナを使い、もう一度風を起こすんだ」

 そう言われたコウトの瞳に黒い四角形が出現する。

「あのー、エウレナさん?」
「なんだ?」
「いや、手を繋いだままだと魔法を使うイメージがしにくいなーって」

 風を操るということを意識するため手を離そうとするが、エウレナの手はコウトの手を掴んで離そうとしない。コウトはドギマギしながら答える。

「おっと、これはすまない」

 エウレナはいたずらっぽい笑いを浮かべてから、いつの間にかがっしりと「恋人繋ぎ」にされていた手を離す。

「行きますよ」
「ひゃっ……!」

 コウトはそう言ってエウレナの腰に手を回して体を寄せる。もちろん、2人まとめて風に乗るためでありそれ以上の他意はないが、エウレナは耳を赤く染めている。

「3、2、1。ハァァァァッ!!」

 コウトは下に向けて突き出していた腕から風を起こすイメージを作る。瞬間、強風が地面に叩きつけられる。

 地面から少し離れた位置で発動された魔法は無事に二人を亀裂が届いていない場所に着地させた。

 地上に残っていた6人が駆け寄ってくる。2人が空を飛んでいる間に無事避難していたようだ。

 コウトは全身の力が抜けてその場にへたり込んでしまった。
 傍らにいる、少女のようだった女性がコウトにだけ聞こえるように調節された小さい声で言う。

「終わってしまったな」
「最大限楽しみました、これ以上は無理です。それにアイツをどうにかしないと」
「そうだな。でも少し惜しい……」

「なんか、最初に思ってた印象と違いますね。もう少しとっつきにくい人なのかと」
「そうか……実際の私はどうだ」
「……素敵だと思います」

「君、名前は?」
「……美坂コウトです」

 夕日の沈む大地に頬を赤く染めた男女が一組。
 おおよそ、戦場には似つかわしくない光景であった。

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