継ぐマホウ 〜曇り所により片頭痛、気がついたら異世界〜

パキ・パキ

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動いた運命、王都までの道程

7話 召喚

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 ドラゴンは依然としてその強大な力を振るっている。1つの国を攻め落としたことで消耗していた連合軍は、突如現れた圧倒的な生物に対して全くの無力だった。

 ドラゴンに対抗する術を用意していなかった連合軍はジリジリと着実に撤退まで追い込まれていた。

「クソッ! 何故伝説の幻獣がここにいるんだ!?」

 ある兵士が怪我をした仲間の一人に肩を貸しながら悪態をつく。

「はは……。僕もノン・フォンジオーナをこの目で拝む日が来るとは夢にも思ってませんでした。なんせ、子供の頃母親に読み聞かせてもらった物語の主役ですから」
「えぇい、うるさい! 気の抜けた事を言うんじゃない、それどころではないだろうが!!」

 兵士は再びクソッ!と呟いて空を見上げる。サークを落としてから一体どれほどの時間が経ったのだろうか。

 気づけば、青く澄んでいた空は真っ赤に染まっていた。


――――――


「無事か!?」

 満身創痍のコウトのもとに鏡達が駆け寄る。

「そっちこそ。大丈夫だった?」
「あぁ、クリウルさんの案内もあって無事避難できたんだ」

 鏡がクリウルを見やる。このような状況でも大勢を連れて避難できるとは、クリウルの兵士としての判断力は本物なのだろう。

「にしても凄いわね。魔法っていうのであんなこともできるなんて」

 森立が感心したようにして言うと、エウレナがそれに答える。

「魔法というのはマナを使い武具に纏わせ強化したり、相手にダメージを与えられるものに変えたりできる。魔法を使う時は個人がコントロールできる量のマナを世界から汲み取っているんだ」

 エウレナはコウト向いて言う。

「個人が扱えるマナの量には個人差があるんだが、彼はなかなか多くのマナを扱えそうだな」

 コウトは自分の掌を見つめる。先程エウレナが言っていた、「君達の体はこの世界で生きられるように変えられている」という言葉を反芻する。

 魔法が使えること、元の世界ではありえなかった動きが可能になっていること、そのどれもがコウトに空想のような現実を突きつける。彼はまだそれを受け入れることができていない。

 いや、コウトだけではなく、七篠達も思い詰めた顔をしている。
 そんな彼らに気を使ってか、エウレナが話し出す。

「元の世界に帰った前例があるんだ」

 その言葉に、その場にいた全員がエウレナの方を向いた。

「先程話した異世界人であったとされる勇者のことなんだが、彼は突如として姿を消したんだ。連合軍の捜索によって勇者が使用していた聖剣が発見された。

聖剣は持ち主に不死性を与える。勇者が死ぬことはありえない。そして聖剣は元来所蔵されてきた神殿で発見されたんだ」

 つまり、と一呼吸おいてから言う。

「聖剣の所有者の消失を条件に再び眠りにつくという伝説を加味すると、勇者はこの世界には居らず、また元の世界に帰る方法を模索していた事から、我々は勇者が元の世界に帰ったのだと結論付けた」

「じゃあ、帰ることができるかもしれないんだな!」

「あぁ。君達を元の世界に返す方法が存在するということだ。勇者の屋敷を探せば手がかりが見つかるかもな」

 嬉しそうに言う鏡とは裏腹にコウト以外の4人の表情は暗いままだ。

「あたしさ」

 どこか沈んだような雰囲気の中、森立が言う。

「あたし帰らないでいいかなって思ってるんだよね」
「……何か理由があるのか?」

 鏡が聞く。

「元の世界に彼氏がいるんだけどさ、なんか最近おかしくて。束縛ひどいし、腕引かれるときとか痛いぐらい力入れてくるときあるし。大声でまくしたててきたり、暴力とかも……なんか怖くて」

 前はそんなことなかったんだけどねと寂しそうに言う。

「だから元の世界に帰りたくないなって。親とも上手く行ってないし」

 彼女は自分が今、住んでいた世界ではない“どこか”にいると知ったとき、不安だけではなく安堵もおぼえていた。

 森立の話が終わっても誰も何も言わない。鏡も黙ってしまっている。
 どこか居た堪れない空気を吹き飛ばしたのはひと吼えの咆哮だった。

「ノン・フォンジオーナ!? 来るぞ!」

 翼で空を覆うようにして飛来するドラゴンはコウト達を見据えている。ドラゴンの目が光り、生まれた火球がコウトたちに向けて放たれた。

 轟音とともに叩きつけられる火球。圧倒され動けなかったコウト達を守ったのは眼前に広がる紫電だった。

「先程は助けられたからな。次は私の番だ」

 声のした方を見たコウトの目に、舞い上がる土埃の中に閑雅かんがな佇まいのエウレナの姿が映る。
 なおも続くドラゴンの攻撃のすべてを防ぐ紫電に誰もが魅入っている。

「早くここから離れてくれ。コイツの攻撃は全て防いでみせるさ」

 余裕そうに笑む顔にはしかし、冷や汗が浮かんでいた。

「でも――」

 エウレナをめがけてドラゴンの両腕の爪が次々と去来する。

「クッ!!」

 打ち込まれる乱打を受け止める紫電は少しずつ弱まっているように見える。

「おい誰かあのデカブツなんとかできねぇのか! あんなやつから逃げても潰されるだけだぞ!」

 谷嶋の責め立てるような声から全員に焦りが伝染する。

「そういう君はどうなんだ。使える魔法を忘れたなんて嘘だろう? 何か隠しているんじゃないのか!?」
「俺ができるのは鍵開けと鎖を作ることだけだ! でもあんなでかいやつを縛り上げられるほどのは無理だよ!!」
「あたしも無理よッ! 魔法とか言われてもそんなのよくわからないし!」

 焦りが冷静な判断を奪い、理不尽に迫る死が怒りをかき立て、その場にいる全員に影響する。

 矛先が柳葉に向く。

「お前はどうなんだよ、モンスター召喚できんだろ? あいつを倒せるようなのは召喚できないのかよ!」
「……俺は――」

 谷嶋の語気は強くなる一方だ。柳葉は言葉に詰まっている。

「俺は……ダメだ。ダメなんだ」

 柳葉の声は震えている。コウトはその姿を見ていられなくて、でもやめろとは言えなかった。皆一様に怖いのだ。

 そのかわりにでもするようにふと、周りを見ると、視線が柳葉に集まっているのがわかった。戸崎は縋るような声でポツリと言う。

「柳葉君……」
「――!! そんなにか……そんなに!!」

 生きたいのか。柳葉は鏡を見ると悔しそうに声を荒げた。その声に谷嶋が答える。

「あー、そうだよ!! こんな訳のわかんねぇトコにほっぽりだされて死ねるかよ!!」

 谷嶋は柳葉に詰め寄り、胸ぐらを掴む。

「いいから早くしろ! 出来るんだろう?」
「あぁできるよ、やれるよ! 今見せてやる!」

 柳葉は谷嶋を殴って自分から引き離すと、クソッ、と一言悪態をついてパーカーを脱ぎ捨てる。

「見てろ、これが俺の――!!」

 パーカーの下に着ていた服の長袖をまくり、腕を空に付き上げる。その右腕には竜が描かれていた。

 彼を起点に青い魔法陣が形成されていく。天へと伸ばした腕にマナが集まり、そのあまりに大量のマナはコウトのマナ知覚を誘発する。

 誰もの視線が集中している。向かいで舞っていたドラゴンすらもが柳葉と魔法陣を見つめている。
 ――どこからともなく風が吹く。

 刹那。まるでそこに始めからいたかのように、ただ超然的に、竜がまたたきの間に現れた。

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