乙女ゲームに迷い込んだみたいです

青井りか

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クリスマスです 恋人つなぎしましょ

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SIDE-L
 はい、クリスマスです。12月のイベントといえばこれしかありません。
 ゲームでは、主人公は攻略対象にサブゲームでGETしたプレゼントを送り、それなりに好感度が高くなってる攻略対象からクリスマスプレゼントをもらいます。

 ラフを落とすには学園内の教会の掃除をして、左側2列目の椅子の下の聖書をGET、その本に挟まれてるカードの言葉をラフに伝えるのである。
 なんでも手に入る王太子のラフだから、ものじゃなくて言葉なのよね。
 ラフからのプレゼントは手を握ってもらうのです。初めての接触。あのゲーム、お子様向けでピュアだわー。
 私とラフ?手は何度も繋いでるね。次のステップのキスは・・・・・・先月、拒否られた。
 うん。振られる運命なの分かってます。


 うちのクラスは教会掃除担当だから、私がミューを左側2列目の椅子の掃除当番に割り当てた。
 が、
 ミューは掃除に現われなかったらしい。
 聖書もない。
 どういうこと!?

 ミューを探し出して掃除をするよう注意すると
「えー、だって『こたえ』知ってるんだもん。掃除なんてかったるいー。」
 と逃げた。
『こたえ』を知っていても、聖書がないとラフと会うフラグ立たないじゃない。
 あ、聖書を先にとって、掃除しなかったのね。あのこはもうーー!
 自爆した気分。

 私も『こたえ』覚えてるけど・・・・・・
 私からラフへのクリスマスプレゼントはハンカチにした。
 先月、公爵領にある本邸からお母様が私の様子を見にきた時に、刺繍をすすめてきた。2人で毎夜、いろいろな話をしながら刺繍をした。
「リリーは殿下のことが好きなのね。でもその態度はダメよ。好かれるように努力しなきゃ。」
「でも殿下は他の方のことがお好きなんです。だから婚約も解消になる予定なんです。」
「まだ決まってないのでしょ。私は婚約解消でもいいわよ。リリーが公爵領にずっと私達と一緒にいてくれても嬉しいわ。もちろん、殿下とリリーが愛し合って一緒になってもね。」
 お母様のひとことで心がだいぶ落ちついた。振られても私には居場所があるじゃない。同じ振られるなら「リリが嫌いだから」じゃなく、「ミューの方がいいから」にしなきゃね。
 でも――体ごとこの世界にきたミューはどうなるのかしら。元の世界に戻れるのかしら。まだ高校生なのに・・・・・・
 最後に、ラフへのクリスマスプレゼントに刺繍をしたハンカチはどうか、と提案されて、お母様の指導のもと、ハンカチに刺繍をしたのだ。
 でも、下手なの。お針子さんならもっといいの作れるよ。ラフには物じゃない方がいいよね。

 ラフと待ち合わせの生徒会室に向かっていたら、ガブと遭遇した。
「リリー嬢、探しましたよ。」
「こんにちは。ガブリエル殿下。何か御用でしょうか?」
「あなたにお渡ししたいものがあるのです。」
 ガブが手に持ってた大きな箱をあけると、織物が入っていた。取り出してそれを広げて私を包む。帝国製の大判のカシミヤのショールだ。
 え、これ、ゲームじゃ主人公にあげたやつよね。
「メリークリスマス。リリ。」
 優しい笑みとその言葉にドキッとした。
 でも
「いただけませんわ。こんな高級なもの。私、婚約者がおりますので。」
 脱ごうとしたら、その手をとめられた。
「私が寂しく食事をしていた時に声をかけて下さったお礼ですよ。受け取って下さい。」
 こちらから贈るプレゼントは何だったっけ?・・・・・・ごめん、タイプじゃないから覚えてない。でも私は主人公じゃないから、決まったプレゼントじゃなくてもいいのか。
 まごまごしてたら、
「ラファエル殿下とは仲直りされたのですか?」
 と聞かれたので、
「はい。今からデートなんです。」
 そう。今日は夕方からデートなのだ。遅い時間なのにお父様が許して下さった。久しぶりなので楽しみだわ。
「・・・・・・あれをご覧なさい。」
 ガブが中庭の大樹を指した。
 告白ポイントと名高い大樹の下にラフとミューがいる。
「気持ちが変わるのを待ってますよ。」
 と言って、ガブは去っていった。


 生徒会室に着いて、窓から中庭を見下ろすと、大樹の下にまだ二人はいた。
 うまくいってるのね・・・・・・
 生徒会室に置かれてる楕円形のテーブル。窓際に位置するいわゆるお誕生日席に生徒会長のラフはいつも座っている。
 その席に座って、大理石の天板に頬をつけた。ひんやりして気持ちいい。
 わびしい
 シナリオ通り進んでるから仕方ないよね。それは分かってる。ちゃんと受け入れないと。先月、書庫でキスしてもらえなかったことを思い出し、恥ずかしくて情けなくて卑しい自分に気持ちが沈んでいった。

 うとうとしてたら、ラフに肩をゆすられて起こされた。
「待たせてごめんね。」
「ううん、そんなに待ってませんわ。」
 肩からズレたショールを巻き直す。
「そのショール、どうしたの?」
「ガブリエル殿下から頂きました。前に親切にしたお礼ですって。」
「でも、君は私の婚約者だからもらうべきじゃないよ。私から返すから脱いで。」
 と言われてしまったので、ショールをラフに渡した。
「リリ、私の婚約者だということを忘れないでね。他の男性と、それも帝国の男性と話してるところを誰かに見られて、また根も葉もない噂をたてられたら困るでしょ。」
「・・・・・・はい。」
 ラフもミューからもらったでしょ、って言いたかったけど、ラフが言ってることももっともなので反論しなかった。
「じゃあ、行こうか。」
 ラフが私の手をとる。
「どこに行くの?」
「町外れの教会さ。歩いていってもすぐだよ。」

 ラフに連れられて、学園のそばにある小さな教会に行った。
 そこにはキリスト誕生を模したオブジェがあった。木とわらで作られた馬小屋の中に、ガラスで作られたマリア様がイエス様を抱いている。ただそれだけの小さなオブジェ。
「可愛い。」
「今からがいいんだよ。ちょっと見ててね。」
 傾いてた陽が落ちた時、神父が火を灯した蝋燭を持ってきた。ガラスの像のイエス様の後ろに穴があいてるようで、神父はそこに燭台を置いた。
 暗い中、イエス様が神々しく光かがやいて、幻想的で心がひきつけられた。
「きれい・・・・・・」
 繋いだ手を強く握りしめ、ラフの肩に身を寄せた。
「ありがとうございます。」
『こたえ』だ。
 私は主人公じゃないけどいいよね。
 卒業式に振られるシナリオなのは分かってる。だから、これが一緒に過ごす最後のクリスマスになる。終わりに近づいてるのを受け入れながら、大好きなラフとの思い出を胸に刻んだ。





SIDE-R
 今日は終業式でクリスマスでもある。
 シャテロール公爵夫人が公爵領にある本邸から王都の別邸にきて、リリを落ち着かせてくれた。今月から今まで通りに過ごしてる。
 今日は夜のデートをしたかったので、シャテロール公爵に予め許可をもらいにいった。あっさり了承して下さったのには驚いたけど、長い時間リリと過ごせるのを楽しみにしてた。

 ミュー嬢から聖書を拾ったのでお返ししたいから中庭の大樹まで来て欲しい、とのメッセージカードをもらった。私有物の管理はしっかりしてるつもりだったが、いつ落としたのやら。※それがよく言われる強制力です。そして、カードじゃなく、聖書を持ってきて欲しかった。
 ミュー嬢は倉庫事件のこともあって距離を置きたいのだが、ぐいぐいやって来る。気づいてないとでも思ってるのか。

 大樹の下まで聖書をとりに行くと、ミュー嬢が
「ラファエル様!いつもありがとうございます!」
 そこから今まであったいろいろなことを「ありがとうございます!」と何度も何度も言ってきて、うるさいなあ、としか思えなかった。
 急いでるから早く聖書を渡して、と言ってるのに、返してもらえるまでかなり時間がかかった。

 リリ、待っててくれてるかなあ。
 生徒会室につくと、リリはいつも私が座っている席に座ってうたた寝していた。
 リリの肩をゆすって起こした。
「待たせてごめんね。」
「ううん、そんなに待ってませんわ。」
 リリは肩からズレたショールを巻き直す。初めて見る品だ。
「そのショール、どうしたの?」
「ガブリエル殿下から頂きました。前に親切にしたお礼ですって。」
 ガブリエル。私の婚約者に余計なことを・・・・・・
「でも、君は私の婚約者だからもらうべきじゃないよ。私から返すから脱いで。」
 ショールを取り上げた。リリにまかせると言いくるめられて返せないだろうから、確実に返せるように。
「リリ、私の婚約者だということを忘れないでね。他の男性と、それも帝国の男性と話してるところを誰かに見られて、また根も葉もない噂をたてられたら困るでしょ。」
「・・・・・・はい。」
 自分でもこれはやきもちだって分かってる。
 婚約者という言葉でリリを縛るのもみっともないと思う。
 けど、リリを帝国に、他の男にとられたくない。

 陽が傾いてきた。そろそろ学園を出ないと間に合わなくなる。
「じゃあ、行こうか。」
 リリの手をとった。
「どこに行くの?」
「町外れの教会さ。歩いていってもすぐだよ。」

 リリと手を繋いで学園のそばにある小さい教会まで歩いた。そこにはキリスト誕生を模したオブジェがあるのだ。馬小屋の中でマリア様がイエス様を抱いている。
「可愛い。」
 リリがつぶやいた。そのリリの声が可愛い。
「今からがいいんだよ。ちょっと見ててね。」
 暫くして、傾いてた陽が落ちた時、イエス様に明かりが灯った。
「きれい・・・・・・」
 リリが繋いだ手を強く握りしめ、私の肩に身を寄せてきた。
「ありがとうございます。」
 ああ、やっぱり、リリは可愛いいなあ。連れてきて良かった。

 学園への帰り道、リリが繋いだ手を上げて
「あのね、殿下、手を開いて下さい。」
 私に握られるのが嫌なのかと戸惑ったが、願い通り手を開いた。リリが開いた私の手の指を広げて、リリの指を絡めてきた。
 えへへ、と砕けた笑みを浮かべるリリが一段と可愛く見えて――

 学園に着いて、リリからハンカチをもらった。刺繍が入ってる。ひと針ひと針、私を想いながら刺してくれたことを思うと愛おしくてたまらなかった。
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