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不完全な世界の中で
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都内の高速を抜けたバンが山間の旧道に入る頃には、すっかり夜に包まれていた。
舗装の荒れた道を無言で進む車内。
黒川は運転席で口をつぐんだまま、ただハンドルを握っていた。
隣に座る白崎は一言も発さず、目を閉じたまま沈黙していた。
助手席の足元には封筒が二重に重ねられた書類袋がある。
そこには掲示板のスクリーンショット、被害者と加害者の氏名、不起訴記録、簡単なプロファイリングメモがまとめられていた。
ロッジの扉を開けると、埃の匂いがわずかに漂った。
白崎が無言で電源を入れ、地下へと通じる階段を下りていく。
黒川はその後ろを黙って追った。
鉄格子の奥で、拘束された男が目を開ける。
光を嫌うように細めたその視線が、黒川の目とぶつかった。
思わず息をのんだ。
汗が額を伝う。
過去の被害者が投稿した実名と写真、噂に過ぎないとされてきた裏リスト。
不起訴処分の名簿。
それらを照合し、白崎が選別した結果、ここにいる。
何もかもはっきりしている。
はずだった。
無言のまま医療器具が並べられ、拘束具の金属音が地下に響いた。
白崎の手の動きは一貫して静かで、冷たい水面のように乱れがない。
黒川は扉の外でじっと立ち尽くしながら、冷気に包まれた地下の空気に身を委ねた。
その頃、都内、警視庁本庁舎の書類倉庫の一角で、刑部はファイルの束を前に眉をひそめていた。
失踪者リストの中に、一つの共通項が浮かび上がっていた。
事件直前に「ある弁護士」に接触していた者が複数名いたのだ。
依頼の記録はない。
だが相談履歴、立ち寄り先、名刺の証言などが散在していた。
白崎裁。
都内にある弁護士事務所に所属。
犯罪被害者支援の弁護活動歴あり。
年齢二十六歳。
経歴には瑕疵ひとつない。
だが、調べれば調べるほど、その完璧さが際立った。
大学時代の交友関係は希薄。
卒業後も表立った活動歴は少なく、事務所には最低限のプロフィールしか掲載されていない。
まるで、徹底して余白を排除した履歴書のようだった。
刑部は書類の束を一度脇に置き、捜査資料が保管されているデジタル映像の検索画面を開いた。
地方の小さな町のガソリンスタンド。
そこに設置された防犯カメラに映っていたのは、失踪した性犯罪者の男と、間違いなく白崎裁と思われる人物の姿だった。
二人は深夜、給油をしている。
白崎は落ち着いた仕草で車のドアを開け、無言で男に近づいている。
映像はざらつき、時間もわずかに欠けているが、顔の輪郭や服装は一致していた。
刑部はモニターの前で息をのみ、映像を何度も繰り返し再生した。
これまでのわずかな手がかりが、一気に具体的な接触という事実に変わった瞬間だった。
刑部の目が鋭く光った。
揺らいでいた糸が、確実に一本の線となって結びつき始めていた。
舗装の荒れた道を無言で進む車内。
黒川は運転席で口をつぐんだまま、ただハンドルを握っていた。
隣に座る白崎は一言も発さず、目を閉じたまま沈黙していた。
助手席の足元には封筒が二重に重ねられた書類袋がある。
そこには掲示板のスクリーンショット、被害者と加害者の氏名、不起訴記録、簡単なプロファイリングメモがまとめられていた。
ロッジの扉を開けると、埃の匂いがわずかに漂った。
白崎が無言で電源を入れ、地下へと通じる階段を下りていく。
黒川はその後ろを黙って追った。
鉄格子の奥で、拘束された男が目を開ける。
光を嫌うように細めたその視線が、黒川の目とぶつかった。
思わず息をのんだ。
汗が額を伝う。
過去の被害者が投稿した実名と写真、噂に過ぎないとされてきた裏リスト。
不起訴処分の名簿。
それらを照合し、白崎が選別した結果、ここにいる。
何もかもはっきりしている。
はずだった。
無言のまま医療器具が並べられ、拘束具の金属音が地下に響いた。
白崎の手の動きは一貫して静かで、冷たい水面のように乱れがない。
黒川は扉の外でじっと立ち尽くしながら、冷気に包まれた地下の空気に身を委ねた。
その頃、都内、警視庁本庁舎の書類倉庫の一角で、刑部はファイルの束を前に眉をひそめていた。
失踪者リストの中に、一つの共通項が浮かび上がっていた。
事件直前に「ある弁護士」に接触していた者が複数名いたのだ。
依頼の記録はない。
だが相談履歴、立ち寄り先、名刺の証言などが散在していた。
白崎裁。
都内にある弁護士事務所に所属。
犯罪被害者支援の弁護活動歴あり。
年齢二十六歳。
経歴には瑕疵ひとつない。
だが、調べれば調べるほど、その完璧さが際立った。
大学時代の交友関係は希薄。
卒業後も表立った活動歴は少なく、事務所には最低限のプロフィールしか掲載されていない。
まるで、徹底して余白を排除した履歴書のようだった。
刑部は書類の束を一度脇に置き、捜査資料が保管されているデジタル映像の検索画面を開いた。
地方の小さな町のガソリンスタンド。
そこに設置された防犯カメラに映っていたのは、失踪した性犯罪者の男と、間違いなく白崎裁と思われる人物の姿だった。
二人は深夜、給油をしている。
白崎は落ち着いた仕草で車のドアを開け、無言で男に近づいている。
映像はざらつき、時間もわずかに欠けているが、顔の輪郭や服装は一致していた。
刑部はモニターの前で息をのみ、映像を何度も繰り返し再生した。
これまでのわずかな手がかりが、一気に具体的な接触という事実に変わった瞬間だった。
刑部の目が鋭く光った。
揺らいでいた糸が、確実に一本の線となって結びつき始めていた。
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