エリートオメガ受佐美の秘密

TERRA

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エリートオメガ受佐美の発情

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オメガ。
診断室の薄暗い蛍光灯の下、紙に記された二文字が、信じられないもののように見えた。

受佐美総一朗。
実業家に、医師、政治家。名だたるエリートばかりを輩出してきた受佐美家の血筋。
親類が一堂に会する場でも、「オメガ」などという存在は、噂にすらのぼらない。
自分がそんなレッテルを貼られるなど、想像したこともなかった。

診断書を握りしめ、しばらくその場を動けなかった。
頭の中が真っ白で、心臓の音だけが妙にうるさく響いている。

数時間後、部屋に戻っても、その衝撃はまるで消えなかった。
ベッドに突っ伏し、震える手で髪をかきむしる。

「クソッ……クソッ……クソッ……!」
込み上げる悔しさが、言葉にならずにこぼれ落ちる。

「何で俺が……オメガなんかに……!」
目尻が熱くなり、ぐっと拳を握りしめる。
いくら努力しても、何もかもを積み重ねてきても、結局自分は、生まれ持った「性」からは逃れられなかった。
その事実が、ただただ悔しかった。

「兄さん。」
不意に扉が開き、弟の小太刀がそっと声をかけてきた。

「診断結果、どうだった?」
ベッドに背を向けたままの兄に問いかけるが、答えはない。
重い沈黙が部屋を支配する。

「……って、聞くまでもないか。」
小太刀はゆっくりと近づき、その背中に手を回す。
抱き寄せると、兄の体がびくりと震えた。

「オメガだったなんてさ……父さんに知られたら、勘当されるかもしれないね?」
耳元でささやくように言う。
その言葉に、受佐美の肩がさらに小さく震える。

「っ……。」

「それに……うちの家系からオメガが出たなんて、絶対に周りには知られたくないでしょ?」
冷静な声が、妙に優しく響く。

「でも、大丈夫。俺が兄さんの秘密は、ちゃんと守ってあげるから。」
ぎゅっと腕に力がこもる。

「……っ。」
受佐美は唇を噛み、込み上げる涙を堪えた。

「俺……嬉しいんだよ。」
小太刀は少し笑みを含ませて続ける。
「何をやっても兄さんには敵わなくて、ずっと足手まといみたいな気分だった。でも……これからは、俺が兄さんを守ってあげる番だから。」

「っ……。」
兄の喉がかすかに震え、声にならない息がこぼれる。

「これは……俺と兄さんだけの秘密にしよう?」
小太刀の声が耳元に落ち、やけに甘く絡みついた。

そうして始まった。
偽りばかりの「アルファ」としての生活が。
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