溺愛エルフの禁忌魔法

TERRA

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溺愛エルフの禁忌魔法

深夜の冒険

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師匠の不在——それはエイダンにとって、静かな夜ではなく、不安な夜の始まりだった。

オズリックは定期的に帝都のマジックアカデミーに出向かなければならず、今回も数日間は戻れないかもしれないと言い残して旅立っていった。エイダンは見送りの際、少し寂しげに尻尾を揺らしていたが、師匠が行ってしまった後、家の中がいつもよりも広く感じた。

「部屋の鍵はかけないでおくからね。鍵のついた魔導書と、一番上の棚にある薬品は、危険だから触っちゃダメだよ?」  

そう言って出かけたオズリックの言葉が、エイダンには優しい気遣いに感じられた。


夜が更け、エイダンは静かな師匠の部屋へと足を踏み入れた。いつもと同じ、けれど今日はどこか違う。  

「師匠の匂い……。」  
シーツに包まれながら深く息を吸い込む。薬草の香りにほんのり甘い、落ち着く匂いが染みついている。  

しかし、布団にくるまりながらも、夜の闇がじわじわと広がるように感じていった。  

壁のシミが、まるでうごめく影に見えた。木の模様が歪み、怪物の輪郭を作り出す。  

「……っ!」  

エイダンのケモミミが不安げに垂れ下がる。風が外で唸るたび、まるでモンスターの息遣いのように聞こえた。  

「師匠ぉ……。」  
薄く開いた窓がカタカタと揺れる。その音すら、何かが忍び寄るようで、冷たい汗が背中を伝う。  

ベッドの中で小さく縮こまりながら、エイダンは目を閉じた。しかし、まぶたの裏にまで恐怖が忍び込んでくる。  

「こんなの、へっちゃら……!」  
強がるように呟くが、その声は震えていた。  


朝。微かな光が窓から差し込む頃、師匠が玄関を開けた。オズリックは、静まり返った室内を一瞥すると、違和感を覚えた。  
「あれ?」  

テーブルの上には倒れたランプ。床には雑に積まれた椅子や小物——まるで即席のバリケードのように見える。  

エイダンの姿が見当たらず、奥の部屋のドアを開けてみると……師匠のベッドの中で布団を頭から被り、隠れるように丸まっているエイダンの姿があった。  

「おはよう、エイダン。」  
師匠の声に、布団の中で小さな耳がピクッと動いた。  

「師匠っ!」  
エイダンは飛び出すように起き上がると、勢いよく師匠に飛びついた。  

オズリックはエイダンの背中を軽く撫でながら、部屋の様子を見渡す。  
「……お留守番中に、怖いことでもあったのかい?」  

「そ、そんなことないよ!僕、ひとりでもちゃんとお留守番できたもん!」  

エイダンは尻尾をぱたぱたさせながら慌てて答える。しかし、師匠の落ち着いた視線は、すべてを見抜いているようだった。  

「ふふ……そうかい。」  
オズリックは微笑みながら、エイダンの頭を優しく撫でた。その温かな手に、エイダンは安心して頬をゆるめる。  


二人は一緒に荒れた室内を片付け始めた。昨日はあんなに恐ろしく感じた壁のシミや木の模様も、今はただの静かな部屋の景色に戻っていた。  

「……あれ?昨日はモンスターみたいに見えたのに。」  

「それは君が怖がっていたからだよ。恐れは、何気ないものを恐ろしく変えてしまうからね。」  

オズリックの言葉に、エイダンは「ふーん」と頷く。しかし、師匠がそばにいるだけで、昨日とは全く違う世界になっているような気がした。  

「ねえ、師匠。次はいつ帝都に行くの?」  

「……しばらくはないかな。」  

「よかった!師匠がいない夜は、つまらないんだもん!」  

オズリックはエイダンの無邪気な言葉に、ただ穏やかに微笑んだ。  

こうして、ささやかな深夜の冒険は、朝の光の中でゆっくりと終わりを迎えたのだった。  
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