初恋〜夏の残像〜

TERRA

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夏の残像

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 夏の夜風が、ふんわりと街を包んでいた。  

 港町の神社の境内は、提灯の明かりに照らされ、昼間とは違う幻想的な空気をまとっている。屋台の匂いが入り混じり、焼きそばやたこ焼きの香ばしい湯気が夜の空気に溶けていった。  

 人の流れに紛れて歩く陸の浴衣は、涼しげな薄藍色。腰紐が細く結ばれ、軽やかに動く布の揺れがどこか儚さを感じさせる。  

 黒髪は結わえられず、長いまま背中を流れていた。  

 「金魚すくい、やってみる?」  

 海がふと問いかける。  

 陸は少し迷いながら、ポイを手に取った。  

 水面に光が反射し、金魚がゆらりと泳ぐ。  

 慎重に手を動かしながら、水の中の赤い影をすくおうとしたその瞬間。

 「……あっ。」  

 紙が破れる。  

 陸は小さく肩を落としながら、海に視線を向ける。  

 「難しいね……。」  

 「まあ、一回目だしな。」  

 海は笑いながら、自分のポイを手にする。  

 陸が見守る中、海は流れるような手つきで一匹の金魚をすくい上げた。  

 「ほら。」  

 差し出された袋の中で、小さな金魚がゆっくりと尾を揺らしている。  

 「……すごい。」  

 陸が微笑んだ。   


 祭りの喧騒が、夜の静けさに溶けていく。  

 屋台の灯りがゆらめき、人の流れがゆったりと続く。  

 射的の屋台の前で、陸はふと足を止めた。  

 台の奥に並ぶ景品の中に、一つだけ目を引くものがあった。  

 蒼いクリスタルのようなネックレス。  

 淡い光を反射しながら、小さな輝きを放っていた。  

 陸はしばらくそれを見つめた後、ゆっくりと視線を落とす。  

 「……それ、欲しいの?」  

 海が隣で問いかける。  

 「え……いや、ただ綺麗だなって思っただけ。」  

 陸はそう言いながらも、もう一度そのネックレスを見た。  

 海は口元に笑みを浮かべながら、屋台の店主に声をかけた。  

 「一回。」  

 銃を手に取り、狙いを定める。  

 景品の並ぶ棚の奥。  

 海は静かに息を整え、引き金に指をかけた。  

 乾いた音が夜に響き、弾がまっすぐ標的へと向かう。  

 カタン

 ネックレスの箱がわずかに動く。  

 「……お、惜しいな!」  

 店主が笑いながら言う。  

 海は眉をひそめながら、もう一度銃を構えた。  

 二度目の弾が放たれ、景品の箱がゆらりと揺れる。  

 そして

 ポトン。  

 陸が驚いたように目を丸くする。  

 海は淡々と銃を置き、店主からネックレスを受け取った。  

 「ほら。」  

 差し出された蒼いクリスタル。  

 「え……?」  

 陸は戸惑いながら、それを受け取る。  

 海は軽く笑った。  

 陸は言葉を失いながら、ネックレスをそっと握りしめた。  

 その光は、夜の祭りの灯りに反射し、微かに揺れている。  

 今も、それは陸の首元で静かに輝いていた。  
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