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夏の残像
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しおりを挟む夜の公園には、人影がなかった。
街灯の届かない場所では、草むらが不気味にざわめき、風が吹くたびに低い音を立てていた。
陸は膝をつき、荒い息を繰り返していた。
「……っ、はっ……はっ……」
視界がぼやけ、胸が締め付けられる。
肺がうまく空気を取り込めない。
そして。
背後に、気配。
何かが、近づいてくる。
陸は身を縮め、震えた指先を地面につく。
カサッ。
草が揺れる音。
ザッ……ザッ……
重い足音。
陸の背中が冷たい汗でじっとりと濡れる。
叫ぼうとしても、声が出ない。
誰かが、すぐそこにいる。
陸は反射的に身をよじり、暴れた。
腕を振り払おうとする。
しかし、息が続かない。
「……っ!」
呼吸が詰まり、視界が一瞬暗くなる。
その時。
強い腕が、陸を支えた。
陸は必死に振り向く。
目の前にいたのは。
海だった。
陸は驚いたように目を見開き、息を震わせた。
「……陸、大丈夫か?」
海の声は、心配そうに響く。
陸は何も言えなかった。
身体の震えは止まらず、過呼吸のせいでまともに息ができない。
海は陸の肩を支えながら、ゆっくりと促した。
「ゆっくり……息を吸え。」
陸は、海の手のぬくもりを感じながら、小さく頷いた。
公園の片隅、陸はベンチに座っていた。
背もたれに軽く身を預け、肩で息をしている。
まだ胸の奥にわずかなざわめきが残っていたが、ようやく深く息を吸うことができるようになっていた。
海が手に持っていた缶を、陸の膝の上にそっと置く。
陸は視線を缶へと落とし、指先でひんやりとした表面をなぞった。
「……ありがとう。」
小さな声が、夜の空気に溶けていく。
海は何も言わず、自分もベンチに腰を下ろした。
風が吹き抜け、木々の葉がかすかにざわめく。
遠くでは虫の声が途切れ途切れに響き、田舎の静かな夜が広がっていた。
「夜の散歩の時は連絡しろって言ったろ。」
陸は静かに目を伏せる。
「……そう言われた気もしますね。」
「田舎の夜は危ないんだから。」
海がぼそりと言う。
陸は缶を指先で転がしながら、微かに笑う。
「はい、そうですね……お巡りさん。」
海は肩をすくめながら、夜空を見上げた。
ふんわりとしたやり取りが、夜の静けさに包まれる。
風が吹き、潮の匂いが遠くから漂ってくる。
陸は小さく息を吐き、缶を握りしめた。
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