初恋〜夏の残像〜

TERRA

文字の大きさ
38 / 38
夏の残像

36

しおりを挟む

 エアコンの音が静かに響く中、陸は床に座り、缶を手に持ったまま視線を落としていた。  
 黒いソファに腰掛けた海が、少し体を前に傾けて陸を見つめる。  

 「なぁ、こっち来ないの?」  

 その言葉に、陸は顔を上げた。  
 「……え?」  

 海はソファの隣を軽く叩きながら、微笑む。  
 「床じゃ落ち着かないだろ。ほら、座れよ。」  

 陸は少し戸惑いながらも、ゆっくりと立ち上がり、海の隣に腰を下ろした。  
 ソファの柔らかさが背中を包み込み、微妙な距離感が二人の間に漂う。  

 海はそんな陸をちらりと見て、ふっと笑った。  
 「ダメじゃん。こんなふうに簡単に男を家に連れ込んだら。」  

 その言葉に、陸は驚いて顔を上げる。  
 「……っ!」  

 海の手がそっと陸の頬に触れた。  
 指先が微かに触れるだけで、陸の体が僅かに跳ねる。  

 「……っ。」  

 その反応に、海は笑い出した。  
 「ごめんごめん、安心してよ。これでも一応、お巡りさんだから。」  

 その言葉に、陸はホッとしたように肩の力を抜いた。  
 「……びっくりしました。」  

 海は缶を机に置き、陸の顔を覗き込む。  
 「てか、聞いても良いのかな?もしかして今、付き合ってる人とか……」  

 陸は少し視線を揺らしながら、小さく呟いた。  
 「……初めてですよ。」  

 「えっ?」  
 海は驚いたように目を見開く。  

 陸は遠慮がちに微笑みながら、言葉を続けた。  
 「この家に……連れ込んだ男の人は。」  

 その言葉に、海の顔が一気に赤く染まる。  
 「……っ。」  

 陸は微笑みながら、缶を手に取る。  
 海は視線を逸らしながら、頭を掻いた。  
 「お前、そういうの……ずるいだろ。」  

 陸は何も言わず、ただ静かに笑っていた。  

 「……んっ」
 どちらともなく寄せ合う唇。

 暗くなった部屋の中に水音が響く。

 窓の向こうに広がる都会の夜景は、静かにその輪郭を滲ませていく。  
 遠くの街灯がぼんやりと輝き、車のライトが闇に溶けるように走り去る。  

 部屋の中はぬるい空気がゆっくりと流れ、エアコンの低い音だけが静寂を切り取る。  
 黒いソファの上で、二人の気配が微かに揺れていた。  

 どこかで時計の秒針が刻む音がするが、それさえも遠い。  

 夜の帷がゆっくりと降り、時間の流れを曖昧にしていく。  
 沈黙は、もはや気まずさではなく、心地よい余韻へと変わっていた。  
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖
BL
☆久田悠人(18)は大学1年生。そそかっしい自分の性格が前向きになれればと思い、ロックバンドのギタリストをしている。会社員の早瀬裕理(30)と恋人同士になり、同棲生活をスタートさせた。別居生活の長い両親が巻き起こす出来事に心が揺さぶられ、早瀬から優しく包み込まれる。 次第に悠人は早瀬が無理に自分のことを笑わせてくれているのではないかと気づき始める。子供の頃から『いい子』であろうとした早瀬に寄り添い、彼の心を開く。また、早瀬の幼馴染み兼元恋人でミュージシャンの佐久弥に会い、心が揺れる。そして、バンドコンテストに参加する。甘々な二人が永遠の誓いを立てるストーリー。眠れる森の星空少年~あの日のキミの続編です。 <作品時系列>「眠れる森の星空少年~あの日のキミ」→本作「海のそばの音楽少年~あの日のキミ」

悋気応変!

七賀ごふん
BL
激務のイベント会社に勤める弦美(つるみ)は、他人の“焼きもち”を感じ取ると反射的に号泣してしまう。 厄介な体質に苦しんできたものの、感情を表に出さないクールな幼なじみ、友悠(ともひさ)の存在にいつも救われていたが…。 ────────── クール&独占欲強め×前向き&不幸体質。 ◇BLove様 主催コンテスト 猫野まりこ先生賞受賞作。 ◇プロローグ漫画も公開中です。 表紙:七賀ごふん

邪魔はさせない

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 病棟で知り合った2人。生まれ変わって異世界で冒険者になる夢を叶えたい!

溺愛王子様の3つの恋物語~第2王子編~

結衣可
BL
第二王子ライナルト・フォン・グランツ(ライナ)は、奔放で自由人。 彼は密かに市井へ足を運び、民の声を聞き、王国の姿を自分の目で確かめることを日課にしていた。 そんな彼の存在に気づいたのは――冷徹と評される若き宰相、カール・ヴァイスベルクだった。 カールは王子の軽率な行動を厳しく諫める。 しかし、奔放に見えても人々に向けるライナの「本物の笑顔」に、彼の心は揺さぶられていく。 「逃げるな」と迫るカールと、「心配してくれるの?」と赤面するライナ。 危うくも甘いやり取りが続く中で、二人の距離は少しずつ縮まっていく。

王弟の恋

結衣可
BL
「狼の護衛騎士は、今日も心配が尽きない」のスピンオフ・ストーリー。 戦時中、アルデンティア王国の王弟レイヴィスは、王直属の黒衣の騎士リアンと共にただ戦の夜に寄り添うことで孤独を癒やしていたが、一度だけ一線を越えてしまう。 しかし、戦が終わり、レイヴィスは国境の共生都市ルーヴェンの領主に任じられる。リアンとはそれきり疎遠になり、外交と再建に明け暮れる日々の中で、彼を思い出すことも減っていった。 そして、3年後――王の密命を帯びて、リアンがルーヴェンを訪れる。 再会の夜、レイヴィスは封じていた想いを揺さぶられ、リアンもまた「任務と心」の狭間で揺れていた。 ――立場に縛られた二人の恋の行方は・・・

龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜

中岡 始
BL
「辰巳会の次期跡取りは、俺の息子――辰巳悠真や」 大阪を拠点とする巨大極道組織・辰巳会。その跡取りとして名を告げられたのは、一見するとただの天然ボンボンにしか見えない、超絶美貌の若き御曹司だった。 しかも、現役大学生である。 「え、あの子で大丈夫なんか……?」 幹部たちの不安をよそに、悠真は「ふわふわ天然」な言動を繰り返しながらも、確実に辰巳会を掌握していく。 ――誰もが気づかないうちに。 専属護衛として選ばれたのは、寡黙な武闘派No.1・久我陣。 「命に代えても、お守りします」 そう誓った陣だったが、悠真の"ただの跡取り"とは思えない鋭さに次第に気づき始める。 そして辰巳会の跡目争いが激化する中、敵対組織・六波羅会が悠真の命を狙い、抗争の火種が燻り始める―― 「僕、舐められるの得意やねん」 敵の思惑をすべて見透かし、逆に追い詰める悠真の冷徹な手腕。 その圧倒的な"跡取り"としての覚醒を、誰よりも近くで見届けた陣は、次第に自分の心が揺れ動くのを感じていた。 それは忠誠か、それとも―― そして、悠真自身もまた「陣の存在が自分にとって何なのか」を考え始める。 「僕、陣さんおらんと困る。それって、好きってことちゃう?」 最強の天然跡取り × 一途な忠誠心を貫く武闘派護衛。 極道の世界で交差する、戦いと策謀、そして"特別"な感情。 これは、跡取りが"覚醒"し、そして"恋を知る"物語。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

処理中です...