黄泉ノ彼岸葬儀店

TERRA

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EP.7幕が下りる時Curtain Call

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目の前に広がるのは、華やかな洋風の劇場の舞台。  
客席は闇に沈み、スポットライトだけが真紅の絨毯を照らしている。  

中心には、一人の女性。  

彼女は赤いドレスを纏い、堂々とした姿で舞台に立っていた。  
その背筋はまっすぐで、美しい顔に自信と誇りを宿している。  

柴崎妃。  

彼女は、まるで観客に語るようにゆっくりと口を開く。  

「で、未練を聞きに来たんでしょう?」  

黄泉は軽く笑いながら客席に腰を下ろし、棺は彼女の視線を受け止めながら頷いた。  

「貴女は舞台稽古中……照明の事故で死んだ。まだ事件か事故かもわからないそうです。」  

棺の言葉に、彼女はすこし目を細めた。  
だが、それは哀しみでも怒りでもない。ただの興味の薄い表情だった。  

「ふぅん。」  

淡々とした声。  

「それがどうしたの?」  

「いや、もし誰かに狙われていたのなら、それを調べることもできますけど……。」  

棺の言葉を遮るように、柴崎妃は唇を歪めて笑った。  

「死んだ理由を欲しがるのは死者ではなく生者よ。」  

舞台のスポットライトが彼女の輪郭をくっきりと映し出す。  
赤いドレスの裾がゆるやかに揺れた。  

「それは生者を慰める為のもの。私は別に、殺人だろうが事故だろうがどうでもいいの。分かったところで生き返りゃしないんだから。」  

サバサバとした物言いに、棺はあっけにとられた。  

「……そう…なんですか?」  

「そんなものよ。」  

柴崎妃は目を閉じ、指先でドレスの布を軽くなぞる。  

「私が気にしているのは、それじゃない。」  

黄泉はその言葉に、興味深そうに片眉を上げた。  

「なら、何だ?」  

「最後の舞台を演じられなかったこと。」  

棺は沈黙した。  

「私は、あの日。殺陣の難しいシーンを、もう少しで掴めそうだった。」  

柴崎妃は目を開き、スポットライトの光を見上げる。  

「なのに、照明が落ちてきたせいで、舞台に立つ事は叶わなかった。」  

彼女は、ゆっくりと黄泉と棺を見た。  

「最後に舞台に立ちたかった。それだけよ。」  

黄泉は頷き、微笑を浮かべた。  

「なるほどねぇ。」  

柴崎妃の飾らない物言いと竹を割ったような性格を、黄泉はすっかり気に入ったらしい。  

棺はそんな彼を横目に、ふと考える。  
彼女の未練をどう解決するのか。舞台の上に立たせる方法が、果たしてあるのだろうか?  

それが、次の謎だった。
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