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CHAPTER2
しおりを挟む陽射しの強い中東のバザールは、色とりどりの商品と活気あふれる人々で賑わっていた。
幼い五十鈴は、興奮した様子で人混みの中を駆け回りながら、いたずらっぽく笑っている。
乾いた空気と香辛料の香りが漂う露天商の通りに、彼の足は自然と引き寄せられた。
そこには不思議な輝きを放つ石が並べられており、彼の視線はその中のひとつに吸い寄せられる。
石は小さく丸みを帯びた形をしており、表面には微かな模様が刻まれている。
「ママ、この石が欲しいな!」
興奮した五十鈴が手に取った石を見て、母親は少し困惑した表情を浮かべた。
露天商は微笑みながら、母親に向けて石の伝説を語り始めた。
「この石は古代の伝説に基づいています。願いを叶える力があると言われているのです。」
その響きに五十鈴はますます目を輝かせた。
「本当に願いが叶うの?じゃあ僕の夢も叶うかな?」
母親は露天商の言葉に半信半疑ながらも、面倒くさそうに財布を取り出してお金を払った。
薄暗い部屋の中、五十鈴は目を覚ました。
かつて手に入れたその石が今もテーブルの上に置かれている。
サーバーの機械音が微かに響く中、彼はぼんやりと石を眺めながら過去の記憶に思いを馳せる。
彼はゆっくりと立ち上がり、アパートの窓を開けた。
街のネオンが煌めき、忙しそうに行き交う人々の姿が映り込む。
どこか冷えた空気が漂う都会の風景に目を留めながら、五十鈴はパソコンを立ち上げた。
「ドリームイーター」の管理画面を開く。
新しい投稿が一件、彼の目に飛び込んでくる。
「大好きな人に近づけない。どうしても会いたいんです。」
五十鈴は投稿内容をじっと見つめた。
しばらくの沈黙の後、口元に軽い笑みが浮かんだ。
「へぇ、恋の願いか。さて、どうやって手伝おうかな?」
彼は投稿者の情報を調べる。
名前は奈月。
大学生の女性で、片思いの相手は有名な画家であることが分かった。
画家は孤独を好む性格で、奈月が直接会うのは難しい状況だ。
五十鈴はそのデータをもとに、画家についてさらに調べを進める。
五十鈴は画家の作品展を訪れた。
ギャラリーの中は静かで、展示された絵画には深い悲しみや孤独が表現されていた。
彼はその絵を一枚ずつ眺めながら、画家自身の内面を感じ取った。
「なるほど、絵に隠された心の傷か…。さて、この恋の橋渡しをするには、まず彼に触れる手段を考えないとね。」
その夜、五十鈴は軽い足取りで画家のアトリエへ向かった。
月明かりに照らされた道を進み、石を手にしてアトリエの鍵を開ける。冷たい空気が漂う室内には、未完成の作品と画家の使い込まれた道具が並んでいる。
「こういう時、僕の異能が役に立つんだよね。」
五十鈴は石を手のひらで転がしながら、その力を使って画家の心を覗き込む。
そこには孤独や過去の後悔が渦巻いていた。
それを基に、彼は奈月の思いを言葉に変え、画家への手紙を慎重に書き上げた。
そしてその手紙をアトリエの机に置き、静かにその場を後にした。
数日後、奈月は画家からの返信を受け取る。
手紙にはこう書かれていた。
「あなたの言葉に救われました。会ってみたいと思っています。」
その内容を読んだ瞬間、奈月の目には涙が浮かんだ。
五十鈴はアパートで「ドリームイーター」の画面を眺めながら軽く呟いた。
「あの時……ボクは何を願ったんだっけ………?」
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