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EP1
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腐臭が、肺を満たす。
廃ビル地下。
外界から完全に閉ざされたこの空間は、空気が澱み、冷え、ねじれていた。
コンクリート壁のひび割れに沿って這う黒い影、天井から垂れ下がる粘着質な瘴気、足元を這い回る悪霊の触手。
視覚には映らないはずのそれらが、まるで生き物のように蠢き、祓嶺イクをじりじりと囲み込んでいく。
「……っ、く、るし……。」
膝をつき、肩を震わせ、イクは浅く息を吐いた。
胸の奥に絡みついた霊気が、体の芯にまで侵食してくる。
冷たい指先のような感覚が、腹の奥、胸元、喉元へと這い上がり、思考を濁らせる。
「っ、……あ……っ、や、だ……っ……。」
影が胸元を這い、乳首をかすめ、シャツ越しに肋骨を撫で、腰の奥へと忍び込む。
羞恥、恐怖、快楽に似た感覚がないまぜになり、細い体は熱を帯び、痙攣するように震えた。
──食われる。
脳裏に、そんな言葉が浮かびかけたとき。
「耐えろ。イク。」
低く鋭い声が、地下室に響いた。
はっとして肩越しに振り向く。
そこに立っていたのは、黒衣の男。
極道封牙だった。
数珠を絡めた指、鋭く光る瞳、掲げられた白い護符。
彼が一歩足を踏み入れた瞬間。
周囲の空気が、わずかに震えた。
影が引いた。
黒い瘴気が、かすかに後ずさった。
「もうすぐ終わる。」
極道は歩み寄る。
「俺を信じろ。」
少年の背後から抱きしめるように腕を回した瞬間、背中に熱が流れ込む。
冷たく染まりかけていた体が、彼の体温に触れた瞬間、じゅ、と音を立てるように影が消し飛んだ。
「……や、ぁ……っ……あっ……!」
肩越しに回された腕が、脇腹を撫で、指先が服越しに腰骨をなぞる。
唇が耳元に触れ、囁きが熱を含んで流れ込むたび、イクの奥に巣食っていた悪霊が、微かに悲鳴を上げる。
「ほら、感じるだろ。」
低く笑む声が、耳朶に触れた。
「もう……お前の中に、奴らは居場所がない。」
「……あ、っ、ああっ……!」
胸元が熱い。
奥が、痺れる。
極道の手が、護符を持ったまま下腹を押さえると、内側の霊気がぷつりと弾けた。
全身を駆け抜ける、甘く、鋭い感覚。
「いい子だ。」
低い声が、喉奥で笑う。
「あと少しだ。全部、出してやる。」
耳元に、唇が寄せられる。
首筋に触れた吐息が、イクの全身を震わせる。
内側に絡みついた霊の影が、溶け出す。
肩、背中、腰、太腿、奥の奥まで潜り込んでいた黒い影が、極道の指先が触れるたび、抜け出していく。
「……極道……さ、ん……っ……!」
涙に滲む瞳が伏せられ、長い睫毛が震える。
羞恥と熱に包まれる体は、浄化の光に晒され、頂点へと駆け上がっていく。
「迷える魂よ。」
極道の声が、耳奥で響く。
「ここに……昇天せよ。」
言葉と同時に、少年の全身が小さく痙攣した。
奥の奥まで絡みついていた影が、悲鳴を上げて抜け出し、白い光に呑まれ、消えていく。
「ギィィィィッ!!」
断末魔の叫び。
視界を裂く白光。
悪霊の影は、イクの体を通じて追い出され、崩れ、吸い込まれていく。
そして、静寂。
くったりと力を抜いた少年を、極道は抱き留めた。
細い肩、熱を帯びた吐息、汗に濡れた髪。
そのすべてを腕の中に受け止め、そっと髪を撫でる。
「お疲れさん。イク。」
少年は胸元に顔を埋め、かすかに笑った。
「……極道さん……ありがと……。」
潤んだ瞳が上向いてくる。
極道は笑みを浮かべ、そっと背中を叩いた。
「バカ。無理すんなって言ったろ。」
静けさの中、ふたりの心臓の鼓動だけが、地下室に残されていた。
廃ビル地下。
外界から完全に閉ざされたこの空間は、空気が澱み、冷え、ねじれていた。
コンクリート壁のひび割れに沿って這う黒い影、天井から垂れ下がる粘着質な瘴気、足元を這い回る悪霊の触手。
視覚には映らないはずのそれらが、まるで生き物のように蠢き、祓嶺イクをじりじりと囲み込んでいく。
「……っ、く、るし……。」
膝をつき、肩を震わせ、イクは浅く息を吐いた。
胸の奥に絡みついた霊気が、体の芯にまで侵食してくる。
冷たい指先のような感覚が、腹の奥、胸元、喉元へと這い上がり、思考を濁らせる。
「っ、……あ……っ、や、だ……っ……。」
影が胸元を這い、乳首をかすめ、シャツ越しに肋骨を撫で、腰の奥へと忍び込む。
羞恥、恐怖、快楽に似た感覚がないまぜになり、細い体は熱を帯び、痙攣するように震えた。
──食われる。
脳裏に、そんな言葉が浮かびかけたとき。
「耐えろ。イク。」
低く鋭い声が、地下室に響いた。
はっとして肩越しに振り向く。
そこに立っていたのは、黒衣の男。
極道封牙だった。
数珠を絡めた指、鋭く光る瞳、掲げられた白い護符。
彼が一歩足を踏み入れた瞬間。
周囲の空気が、わずかに震えた。
影が引いた。
黒い瘴気が、かすかに後ずさった。
「もうすぐ終わる。」
極道は歩み寄る。
「俺を信じろ。」
少年の背後から抱きしめるように腕を回した瞬間、背中に熱が流れ込む。
冷たく染まりかけていた体が、彼の体温に触れた瞬間、じゅ、と音を立てるように影が消し飛んだ。
「……や、ぁ……っ……あっ……!」
肩越しに回された腕が、脇腹を撫で、指先が服越しに腰骨をなぞる。
唇が耳元に触れ、囁きが熱を含んで流れ込むたび、イクの奥に巣食っていた悪霊が、微かに悲鳴を上げる。
「ほら、感じるだろ。」
低く笑む声が、耳朶に触れた。
「もう……お前の中に、奴らは居場所がない。」
「……あ、っ、ああっ……!」
胸元が熱い。
奥が、痺れる。
極道の手が、護符を持ったまま下腹を押さえると、内側の霊気がぷつりと弾けた。
全身を駆け抜ける、甘く、鋭い感覚。
「いい子だ。」
低い声が、喉奥で笑う。
「あと少しだ。全部、出してやる。」
耳元に、唇が寄せられる。
首筋に触れた吐息が、イクの全身を震わせる。
内側に絡みついた霊の影が、溶け出す。
肩、背中、腰、太腿、奥の奥まで潜り込んでいた黒い影が、極道の指先が触れるたび、抜け出していく。
「……極道……さ、ん……っ……!」
涙に滲む瞳が伏せられ、長い睫毛が震える。
羞恥と熱に包まれる体は、浄化の光に晒され、頂点へと駆け上がっていく。
「迷える魂よ。」
極道の声が、耳奥で響く。
「ここに……昇天せよ。」
言葉と同時に、少年の全身が小さく痙攣した。
奥の奥まで絡みついていた影が、悲鳴を上げて抜け出し、白い光に呑まれ、消えていく。
「ギィィィィッ!!」
断末魔の叫び。
視界を裂く白光。
悪霊の影は、イクの体を通じて追い出され、崩れ、吸い込まれていく。
そして、静寂。
くったりと力を抜いた少年を、極道は抱き留めた。
細い肩、熱を帯びた吐息、汗に濡れた髪。
そのすべてを腕の中に受け止め、そっと髪を撫でる。
「お疲れさん。イク。」
少年は胸元に顔を埋め、かすかに笑った。
「……極道さん……ありがと……。」
潤んだ瞳が上向いてくる。
極道は笑みを浮かべ、そっと背中を叩いた。
「バカ。無理すんなって言ったろ。」
静けさの中、ふたりの心臓の鼓動だけが、地下室に残されていた。
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