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Beyond That Night
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しおりを挟む春の夜、まだ肌寒い風がカーテンの隙間から忍び込んでいた。
部屋には暖房がついているはずなのに、どこか落ち着かない冷たさが漂っている。
窓の外では、遠くに高速道路のオレンジのライトが滲み、点滅する信号が無機質に光っていた。
都会の夜は静かで、それなのに、心の奥ではざわつく何かがある。
ダンボールの山が無造作に積み上げられている。
まだ開封されていない生活用品。
新しいスーツがハンガーにかけられ、その隣には未だシワのついたシャツが置かれている。
後藤はスマホを片手に、ベッドの端に腰を落とす。
「そっか。いい感じなんだ?」
画面の向こうから聞こえる声は、遠く、それでいて親しげだった。
「家はちょっと遠くなるけどさ、次の週末は……」
言いかけた瞬間、違和感が走る。
カーテンが微かに揺れる音。
相手の沈黙。
窓の外を走る車のライトが反射し、一瞬だけ壁に影が揺らぐ。
その小さな変化が、不穏な予兆のように胸にひっかかった。
後藤は、その違和感を振り払うように、スーツを手に取る。
けれど、次の瞬間。
一言。
しかし決定的な言葉。
指先からすべてが滑り落ちる。
スーツの生地が床に落ち、鈍くくしゃりと音を立てる。
何かが崩れるような静けさ。
「えっ?」
問い返す声は、あまりにも掠れていて、自分のものではないように思えた。
「ずっと、言わなきゃとは思ってたんだけど……」
理由を並べる声が聞こえる。
けれど、それが何を意味しているのか、頭では分かっているのに心が追いつかない。
ほんの数秒。
それだけで、すべてが変わる瞬間。
窓の外では、青白い月が浮かんでいる。
静寂が部屋に広がる。
スマホの画面が暗くなる。
夜の空気が、いつもより冷たく感じられた。
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