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恋人ごっこ
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朝の教室。
いつもと同じはずの風景の中で、ひとつだけ違和感があった。
「……あれ?サイコ、今日いないのか?」
隣の席にぽっかり空いた椅子。
いつもはそこに、観察魔が当たり前のように座っていたはずなのに。
「風邪だって。あと、これ担任が放課後にでも届けてやれって。」
そう言って、クラスメイトが不破の机に『ナマモノ』と書かれた小さな袋を置いていった。
「ナマモノ?えっ……なにこれ。」
「さぁ?忘れ物らしいけどナマモノって書いてるから早めに不破が届けてやってくれってさ。」
「……なんで俺?」
「一番、接点ありそうだからだってよ。」
(なんだその雑な理由……)
しかし、放課後に予定もないので仕方なく使いパシリはサイコの家に向かっていった。
放課後。
サイコの家は、駅前にそびえる巨大なタワーマンションだった。
エントランスで部屋番号を伝え、インターホン越しに名乗ると、しばらくして返ってきた声は、いつもより少しかすれていた。
「……どうぞ。」
部屋の中は、息を呑むほど整っていた。
白とグレーを基調にした空間。
まるでモデルルームのような無機質さ。
無駄が一切ない代わりに、どこか人の気配が希薄だった。
来客を出迎えたと同時に、力なく奥のベッドルームに戻っていくサイコ。
広いベッドの上。
毛布に包まり、赤い顔をしたサイコは、目をとろんとさせて横たわる。
「……不破くん。わざわざ、ごくろうさま。」
「無理すんなよ。てか、お前、声まで熱っぽいな。」
「いつも通り喋ってるつもりなんだけどナ……変?」
そう言って笑うサイコだが、顔色は冗談抜きで悪かった。
不破は勝手に台所を借り、水を入れて、棚を開けて薬を探した。
冷蔵庫に入っていた冷却シートを手に戻ると、サイコは毛布の中で目を細めていた。
「……君に看病されるの、変な感じだネ。」
「お前が他人に面倒見られてるとか、確かにレアだな。」
「ん……なんかくすぐったいヨね。」
そう言いながら、サイコは少しだけ目を逸らした。
その仕草は、いつもの完璧な微笑みよりずっと人間らしくて。
不破は、なんとなく……少しだけ、安心したような気がした。
「ほら、冷却シート、貼るぞ」
「うん……。」
額にそっと手を伸ばすと、熱が指先から伝わってきた。
髪をかき分け、慎重にシートを貼ると、サイコはくすぐったそうに目を細める。
「……不破くん、手が冷たい。」
「お前が熱すぎるだけだろ。」
「でも、気持ちいいヨ。」
横になったまま、サイコがぽつりと呟いた。
「こんなふうに、誰かに優しくされたの……久しぶりかも。」
「そういえば……親は?」
「海外。しばらく帰ってこないヨ。」
そっけない口調だったが、言葉の端にわずかに滲んだ寂しさを、不破は聞き逃さなかった。
「じゃあ、お前が治るまで、俺が代わりに優しくしてやるよ。」
「え……?」
サイコの目が、ほんの一瞬揺れた気がした。
「あ、いや、その、必要だったら、な?別に深い意味は……。」
「ありがと。」
言葉を遮るように、サイコは小さく笑った。
「君って、たまにすごく優しいんだネ。」
「……たまに?」
「ん、いつも……かもネ。」
サイコは目を閉じ、静かに毛布に沈んでいく。
不破は、部屋に流れる静かな呼吸を聞きながら、なぜかドキドキが止まらなかった。
この距離感。
この沈黙。
いつもはうざったい観察魔が、なこ何故こんなに近く感じるのだろう。
(この部屋、やけに静かで、あったかい。)
その空気に飲まれるように、不破もまた、黙ったままサイコのそばに座っていた。
僅かに毛布の端が動き、その中から、そっと指先がのぞいた。
まるで、触れてほしいと言っているかのように。
不破は、一瞬だけためらった後、そっと自分の指を添えた。
それだけで、サイコの眉がゆるんだ気がした。
(なんなんだよ、お前。……そんな顔すんなよ)
けれど、不破はその手を離さなかった。
いつもと同じはずの風景の中で、ひとつだけ違和感があった。
「……あれ?サイコ、今日いないのか?」
隣の席にぽっかり空いた椅子。
いつもはそこに、観察魔が当たり前のように座っていたはずなのに。
「風邪だって。あと、これ担任が放課後にでも届けてやれって。」
そう言って、クラスメイトが不破の机に『ナマモノ』と書かれた小さな袋を置いていった。
「ナマモノ?えっ……なにこれ。」
「さぁ?忘れ物らしいけどナマモノって書いてるから早めに不破が届けてやってくれってさ。」
「……なんで俺?」
「一番、接点ありそうだからだってよ。」
(なんだその雑な理由……)
しかし、放課後に予定もないので仕方なく使いパシリはサイコの家に向かっていった。
放課後。
サイコの家は、駅前にそびえる巨大なタワーマンションだった。
エントランスで部屋番号を伝え、インターホン越しに名乗ると、しばらくして返ってきた声は、いつもより少しかすれていた。
「……どうぞ。」
部屋の中は、息を呑むほど整っていた。
白とグレーを基調にした空間。
まるでモデルルームのような無機質さ。
無駄が一切ない代わりに、どこか人の気配が希薄だった。
来客を出迎えたと同時に、力なく奥のベッドルームに戻っていくサイコ。
広いベッドの上。
毛布に包まり、赤い顔をしたサイコは、目をとろんとさせて横たわる。
「……不破くん。わざわざ、ごくろうさま。」
「無理すんなよ。てか、お前、声まで熱っぽいな。」
「いつも通り喋ってるつもりなんだけどナ……変?」
そう言って笑うサイコだが、顔色は冗談抜きで悪かった。
不破は勝手に台所を借り、水を入れて、棚を開けて薬を探した。
冷蔵庫に入っていた冷却シートを手に戻ると、サイコは毛布の中で目を細めていた。
「……君に看病されるの、変な感じだネ。」
「お前が他人に面倒見られてるとか、確かにレアだな。」
「ん……なんかくすぐったいヨね。」
そう言いながら、サイコは少しだけ目を逸らした。
その仕草は、いつもの完璧な微笑みよりずっと人間らしくて。
不破は、なんとなく……少しだけ、安心したような気がした。
「ほら、冷却シート、貼るぞ」
「うん……。」
額にそっと手を伸ばすと、熱が指先から伝わってきた。
髪をかき分け、慎重にシートを貼ると、サイコはくすぐったそうに目を細める。
「……不破くん、手が冷たい。」
「お前が熱すぎるだけだろ。」
「でも、気持ちいいヨ。」
横になったまま、サイコがぽつりと呟いた。
「こんなふうに、誰かに優しくされたの……久しぶりかも。」
「そういえば……親は?」
「海外。しばらく帰ってこないヨ。」
そっけない口調だったが、言葉の端にわずかに滲んだ寂しさを、不破は聞き逃さなかった。
「じゃあ、お前が治るまで、俺が代わりに優しくしてやるよ。」
「え……?」
サイコの目が、ほんの一瞬揺れた気がした。
「あ、いや、その、必要だったら、な?別に深い意味は……。」
「ありがと。」
言葉を遮るように、サイコは小さく笑った。
「君って、たまにすごく優しいんだネ。」
「……たまに?」
「ん、いつも……かもネ。」
サイコは目を閉じ、静かに毛布に沈んでいく。
不破は、部屋に流れる静かな呼吸を聞きながら、なぜかドキドキが止まらなかった。
この距離感。
この沈黙。
いつもはうざったい観察魔が、なこ何故こんなに近く感じるのだろう。
(この部屋、やけに静かで、あったかい。)
その空気に飲まれるように、不破もまた、黙ったままサイコのそばに座っていた。
僅かに毛布の端が動き、その中から、そっと指先がのぞいた。
まるで、触れてほしいと言っているかのように。
不破は、一瞬だけためらった後、そっと自分の指を添えた。
それだけで、サイコの眉がゆるんだ気がした。
(なんなんだよ、お前。……そんな顔すんなよ)
けれど、不破はその手を離さなかった。
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