77 / 142
77.「不真面目で真面目」
しおりを挟む
翌朝、俺はキッチンで一人奮闘していた。
一先ず、シュタルクさんが置いて行ってくれた食材の中から卵とベーコンに似た肉を焼いて、野菜を切ってサラダを作り、最後に白パンをフライパンで軽く温めながらお湯の準備をして、いつでも紅茶を淹れられるように準備を整えた。
朝食はまだ難易度が低いので何とかなったが、昼食と夕飯は後で様子を見に来てくれるシュタルクさんに相談しようと心に決め、まだ眠っている守護神を起こしに行く。
扉を数回ノックしたが、昨夜は遅かった為に熟睡しているのか反応が無く、部屋に入ると予想通りベッドで寝息を立てていた。
「ヘルマプロディートス神、起きられますか?朝食を作ったんですが…。」
声を掛けても返事が無く、肩を揺すろうとして戸惑う。
釦がやはり面倒なのだろうか、上半身裸で…シュヴァルト様の素肌に勝手に触れるのは抵抗がある。
「守護神、起きて下さい。後、釦は俺が止めますので服は是非、着て寝て下さい。」
後半は何か違う気がするが声を掛けていると唸りながら眉間に皺が寄った。
「おはようございます。ご飯出来ていますよ、お好きな紅茶も入れますので起きて下さい。」
「…ん…?」
そう、食事は嫌いな様子なのだがシュヴァルト様が無類の紅茶好きとあってか、それだけは必ずヘルマプロディートス神も飲んでくれる。
茶葉の種類を増やした方が良いかなと考えていると、特徴的な金の眼が此方をぼんやりと見つめていた。
「…勇…者…?ああ、ここは…そうか…。」
「目が覚めましたか?おはようございます。」
「…おはよう…。」
「っ!て、二度寝しないで下さい!?」
相変わらず、言っている事とやっている事が違う。
もぞもぞと此方に背中を向けながら布団に頭まで潜り込もうとするので、勢い良く上掛けを剥がそうとし、途中で止めた。
何故なら、上半身だけだと思っていたのに、下も履いていない…!
彫刻のように美しい裸体が見えて、逆に思い切り布団に包んでしまった。
「どうして、服を着ていないんですか!?」
「答えても良いが、最後まで聞けるとは思えないな。…夜中、一人になったら我慢出来なく「答えなくて良いですから、服を着て下さい!」」
ふざけないと気が済まないのか、聞こえた声ははっきりとしていて完全に覚醒している様子だ。
可笑しそうに体を起こした守護神は掌を上に向けた左手を差し出す。
「着替えを。汚してしまってね、準備してくれたら着替えるよ。」
「…分かりました。元々、朝食の前か後に着替えて頂く予定でしたし、少し待って下さいね。」
余計な事は口にせず、異空間収納からシュヴァルト様の着替え一式を取り出して手渡すと素直に袖を通し始めた。
「汚れた服はどうしたんですか?」
「ああ、浴室に洗って干して置いた。」
「どうして、洗濯だけはするんですか…。」
「君のそんな顔が見たいからかもしれないね?癖になる。」
頭痛を堪える顔、若しくは怒った顔が何故見たいんだと心の中で思いながらシャツの釦をやはり左手で止める姿に首を傾げる。
もしかして、片腕の調子が悪いのだろうか?心配になって腕を伸ばしたのと、逆に手を取られたのが同時だった。
「どうした?」
「いえ、右腕の調子が悪いのかと思ったのですが、大丈夫ですか?」
「心配してくれるのかい?だが、問題は無い。…それより、君がいる前で下着を穿いても良いのかな?」
俺の手を掴んでいた左手を離したヘルマプロディートス神が徐に立ち上がり掛けたので、急いで回れ右をして扉の方へ向かう。
何故、いちいちそういう言い方をするのだろうか!少し憤慨気味に扉を開けて外に出ると、溜息が背後で聞こえた気がした。
談話室に食事を運び終えた頃に準備を終えた守護神が部屋へと入って来た。
席に促し、紅茶を淹れながら食事を勧めると今までが嘘のように料理を口に運んでくれる。
そこまで手の込んだ物では無いし、食材も別に大きく変わっていない。
心理的な物でここまで変化するだろうかと、紅茶を置いてからずっと見つめていると可笑しそうにヘルマプロディートス神の口端が少し上がった。
「不真面目な話と真面目な話、どちらが聞きたい?」
「真面目な話でお願いします。」
即答すると、益々笑みが深くなったのだが紅茶を一口飲んでから希望通りの真面目な話をしてくれた。
「食事と言うのは生物に取って必要不可欠である点は認めよう。しかし、私は一般的な生物に当て嵌らない。」
「はい、それは勿論ですね。」
「そして、料理というのは他の生物の『死体』を食べる行為だ。鮮度がどうとかでは無く、私にとっては等しく死肉を食らっている感覚だ。それを口にするのは余り愉快な行為では無い、だから嫌いなんだ。」
「それは…。」
思っていたより重い理由に固まっていると、守護神が紅茶をまた一口飲む。
「これはシュヴァルトの体が特別に好んでいるから、まぁマシだ。そして、『君』が作ってくれた料理もまた別だ。心理的な作用もあるが、作る過程で『聖気』を帯びたのか不快感が驚く程に無くなる。人の子が感じる『料理』として食べられる、と言う事だ。何か質問はあるかい?」
説明を聞いて正直呆気に取られ、悔しさも滲む。
確かに、互いに直接的な関わりを持って間もないが初日に相談してくれれば良かったのに…。
「どうして、早く言ってくれなかったんですか?空腹だったでしょう?」
「シュヴァルトの体に慣れていなかったし、生命維持に猶予は有ったからね。何より私は捻くれている。」
「いえ、はい…それは感じていましたが…他に隠している事はありませんか?困っている事でも良いですから、何かあれば早めに言って下さい。」
半ば、懇願するような言い方になってしまったからかヘルマプロディートス神が少し目を見開いた。
「予想以上に心配されて驚いているぐらいだよ。また、対処に困る事があれば言うさ。」
「約束ですよ。絶対に話して下さい。」
「分かった、本当に困れば言うからそんな顔をするな。」
肩を竦め、誤魔化すようにおどけたような言い方をされたが、大抵何でも自分の力で叶えられるから一人で抱え込む性分なのかもしれない。
なんだか、色んな意味で放置していてはいけない気がする神様だと改めて思ったー…。
一先ず、シュタルクさんが置いて行ってくれた食材の中から卵とベーコンに似た肉を焼いて、野菜を切ってサラダを作り、最後に白パンをフライパンで軽く温めながらお湯の準備をして、いつでも紅茶を淹れられるように準備を整えた。
朝食はまだ難易度が低いので何とかなったが、昼食と夕飯は後で様子を見に来てくれるシュタルクさんに相談しようと心に決め、まだ眠っている守護神を起こしに行く。
扉を数回ノックしたが、昨夜は遅かった為に熟睡しているのか反応が無く、部屋に入ると予想通りベッドで寝息を立てていた。
「ヘルマプロディートス神、起きられますか?朝食を作ったんですが…。」
声を掛けても返事が無く、肩を揺すろうとして戸惑う。
釦がやはり面倒なのだろうか、上半身裸で…シュヴァルト様の素肌に勝手に触れるのは抵抗がある。
「守護神、起きて下さい。後、釦は俺が止めますので服は是非、着て寝て下さい。」
後半は何か違う気がするが声を掛けていると唸りながら眉間に皺が寄った。
「おはようございます。ご飯出来ていますよ、お好きな紅茶も入れますので起きて下さい。」
「…ん…?」
そう、食事は嫌いな様子なのだがシュヴァルト様が無類の紅茶好きとあってか、それだけは必ずヘルマプロディートス神も飲んでくれる。
茶葉の種類を増やした方が良いかなと考えていると、特徴的な金の眼が此方をぼんやりと見つめていた。
「…勇…者…?ああ、ここは…そうか…。」
「目が覚めましたか?おはようございます。」
「…おはよう…。」
「っ!て、二度寝しないで下さい!?」
相変わらず、言っている事とやっている事が違う。
もぞもぞと此方に背中を向けながら布団に頭まで潜り込もうとするので、勢い良く上掛けを剥がそうとし、途中で止めた。
何故なら、上半身だけだと思っていたのに、下も履いていない…!
彫刻のように美しい裸体が見えて、逆に思い切り布団に包んでしまった。
「どうして、服を着ていないんですか!?」
「答えても良いが、最後まで聞けるとは思えないな。…夜中、一人になったら我慢出来なく「答えなくて良いですから、服を着て下さい!」」
ふざけないと気が済まないのか、聞こえた声ははっきりとしていて完全に覚醒している様子だ。
可笑しそうに体を起こした守護神は掌を上に向けた左手を差し出す。
「着替えを。汚してしまってね、準備してくれたら着替えるよ。」
「…分かりました。元々、朝食の前か後に着替えて頂く予定でしたし、少し待って下さいね。」
余計な事は口にせず、異空間収納からシュヴァルト様の着替え一式を取り出して手渡すと素直に袖を通し始めた。
「汚れた服はどうしたんですか?」
「ああ、浴室に洗って干して置いた。」
「どうして、洗濯だけはするんですか…。」
「君のそんな顔が見たいからかもしれないね?癖になる。」
頭痛を堪える顔、若しくは怒った顔が何故見たいんだと心の中で思いながらシャツの釦をやはり左手で止める姿に首を傾げる。
もしかして、片腕の調子が悪いのだろうか?心配になって腕を伸ばしたのと、逆に手を取られたのが同時だった。
「どうした?」
「いえ、右腕の調子が悪いのかと思ったのですが、大丈夫ですか?」
「心配してくれるのかい?だが、問題は無い。…それより、君がいる前で下着を穿いても良いのかな?」
俺の手を掴んでいた左手を離したヘルマプロディートス神が徐に立ち上がり掛けたので、急いで回れ右をして扉の方へ向かう。
何故、いちいちそういう言い方をするのだろうか!少し憤慨気味に扉を開けて外に出ると、溜息が背後で聞こえた気がした。
談話室に食事を運び終えた頃に準備を終えた守護神が部屋へと入って来た。
席に促し、紅茶を淹れながら食事を勧めると今までが嘘のように料理を口に運んでくれる。
そこまで手の込んだ物では無いし、食材も別に大きく変わっていない。
心理的な物でここまで変化するだろうかと、紅茶を置いてからずっと見つめていると可笑しそうにヘルマプロディートス神の口端が少し上がった。
「不真面目な話と真面目な話、どちらが聞きたい?」
「真面目な話でお願いします。」
即答すると、益々笑みが深くなったのだが紅茶を一口飲んでから希望通りの真面目な話をしてくれた。
「食事と言うのは生物に取って必要不可欠である点は認めよう。しかし、私は一般的な生物に当て嵌らない。」
「はい、それは勿論ですね。」
「そして、料理というのは他の生物の『死体』を食べる行為だ。鮮度がどうとかでは無く、私にとっては等しく死肉を食らっている感覚だ。それを口にするのは余り愉快な行為では無い、だから嫌いなんだ。」
「それは…。」
思っていたより重い理由に固まっていると、守護神が紅茶をまた一口飲む。
「これはシュヴァルトの体が特別に好んでいるから、まぁマシだ。そして、『君』が作ってくれた料理もまた別だ。心理的な作用もあるが、作る過程で『聖気』を帯びたのか不快感が驚く程に無くなる。人の子が感じる『料理』として食べられる、と言う事だ。何か質問はあるかい?」
説明を聞いて正直呆気に取られ、悔しさも滲む。
確かに、互いに直接的な関わりを持って間もないが初日に相談してくれれば良かったのに…。
「どうして、早く言ってくれなかったんですか?空腹だったでしょう?」
「シュヴァルトの体に慣れていなかったし、生命維持に猶予は有ったからね。何より私は捻くれている。」
「いえ、はい…それは感じていましたが…他に隠している事はありませんか?困っている事でも良いですから、何かあれば早めに言って下さい。」
半ば、懇願するような言い方になってしまったからかヘルマプロディートス神が少し目を見開いた。
「予想以上に心配されて驚いているぐらいだよ。また、対処に困る事があれば言うさ。」
「約束ですよ。絶対に話して下さい。」
「分かった、本当に困れば言うからそんな顔をするな。」
肩を竦め、誤魔化すようにおどけたような言い方をされたが、大抵何でも自分の力で叶えられるから一人で抱え込む性分なのかもしれない。
なんだか、色んな意味で放置していてはいけない気がする神様だと改めて思ったー…。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
339
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる