裏切られた英雄を救うのは俺な件

七曜

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65.「進む先」

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 眼前を覆い尽くすような白が、ざあっと風に吹き飛ばされるように開ける。
 思わず目を閉じて瞬きながら開いた先には、白い花が群生する幻想的な花畑があった。
 包みこまれるような柔らかい陽射しに澄んだ空気、淡く発光しているようにさえ見える幻想的で儚い、けれども何処までも穏やかな景色の中、少年が漆黒の鎧を纏った黒髪の剣士に泣きながら縋っていた。

『どうしても、貴方が良い…っ…!!貴方で無ければ、絶対に嫌だ!!!!』

 剣士とは対照的な白い騎士服に身を包んだ茶髪の青年は、同色の瞳を涙に濡らしながら必死に縋っている。

『貴方の事だけを想っている!!!!他の者なんて考えられない…っ!!!!』

 じっと静かに青年を見つめ続ける剣士の顔が マーレス愛しい人に似ている気がする。
 瞳も彼と同じ黒曜石のようで、違うのは少し長い髪と苦悩に満ちたせいだろうか…酷く重い表情だ。

『子が出来れば……そなたは聖剣を失い、やがて朽ちゆく…。その身が、尊き魂が、永遠に失われることに私は何よりも耐えられない。諦めては…くれぬか…?』

 男の返答に青年が驚き、そして、酷く苦しそうに泣き笑う。

『ノクス…。それって、俺が貴方以外無理だって分かって言っているじゃないか。俺は貴方以外と絶対に結ばれない。そして…貴方はこの地を去り、残された俺は民を未来永劫守らなくては成らない。世界から、多くの者から見れば…狡いって分かっている、それでも…っ、そんな歪な在り方は、どうせ…いつか破綻する…っ!!!!』

『それは…』

 否定出来ないのだろう。実際に俺は知っている。聖剣を継承した勇者様がこの世界から忽然と消えたことをー…。

 もし、この方・・・が存命であったとしても同じ事が起こったのではないかと…。

 そして、その未来があったとしたら、この黒き剣士・・・・は一体どうしたのだろうか…………?

 ぞくりと酷い寒気を覚える悪寒。
 そんな俺の嫌な予感を吹き飛ばすように青年は泣いたまま笑った。

『…大丈夫。必ず…、俺は…っ』

『…良い、分かった。ヴィアが望むのであれば…私は…』

 二人の傍から急速に距離が離れて行く。
 これは夢なのか、それとも先祖の記憶なのか。
 分からない。けれども、また、聴こえる…涼やかな音がー…。







「ソル…?」

「っ…、マー…レス…?」

「大丈夫か?なんだか、魘されていたような…?少し違うようだったけれど。」

 白い天蓋を背景に、覗き込むようにして見下ろしてくるマーレスの顔を見つめ返しながら、柔らかで滑らかな肌触りの寝具の感触に眠っていた事を思い出す。
 昨日はある程度の質疑応答を済ませてから客室へと案内され、約束通り夕食には豪華な肉料理を共されると気が張っていたせいか早々にマーレスと床に就いたんだった。
 深く眠ったせいか少し頭が重たい。何か結んだ糸が解けないような引っ掛かりを覚えつつも、マーレスの頬へ半ば無意識に手を伸ばす。
 相変わらず鋭い爪に、肌を傷つけないようそっと触れてから撫でると嬉しそうにマーレスの目が細まった。

「なんだか懐かしい夢でも見てたようなで…、どちらかと言うと気分が良いな。」

「そうか、それならば良かった。もう直ぐ、朝食を運んで来れるそうだ。トリウィが先程、伝言に来ていた。」

「分かった。それにしても…トリウィには悪い事をしたな…。」

 昨日の事情説明が一段落ついて、部屋を出ようと立ち上がった時に視界に映った哀れな子羊トリウィは顔面蒼白で小刻みに震えていた。倒れこそしていなかったが卒倒一歩手前な様子にぎょっとし、メラムに断ってから椅子に座らせて話を聞くと…。

 しがない一兵卒である自分が機密に触れる話を聞いてしまいましたが、この後どうなるのでしょうかと、何処か焦点の定まらない瞳で虚ろに質問されてそれはそうだと納得した。
 立場が逆なら俺も物理、ないしは立場的に首を飛ばされるかどうかの確認は一応するだろう。

 世話になった手前、このままにはして置けないとメラムに掛け合った所、それならばと世話付き、侍従の一人としてその場で抜擢してくれた。そして、侍従とは言ったものの元は警備兵にあたる衛兵なので周囲の警備や伝令が主な仕事で問題ないそうなので、涙ながらに礼を言われた後はめちゃくちゃ真摯に職務に従事してくれているせいかマーレスもトリウィには態度が軟化した。

「まぁ、俺達が滞在してる間だけだろうし、旅立った後も無下にされないように一応頼んでも行くから少しの間だけ我慢して貰おう…。」

 俺の呟きにマーレスも頷いてくれたんだが、何故だろうか、出会ってからここまでの怒涛であったろうトリウィの運命に一抹の不安も覚えた。
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