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夏やで!
番外編・豆乳ドーナツをめぐるじんぎなきたたかい~そして季節は秋へとめぐる~
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秋茜が一匹、繁雄の隣を通り過ぎた。
すい、すい、と軽やかに飛んでいくその姿に、繁雄は思わず足を止める。そして顎から滴る汗を、左手の甲で拭った。全く、九月も半ばになるというのに、八奈結びでは暑さの失せる気配がない。
だがそれでも、盛夏は過ぎたのであろう。いつも決まって十四時には出前の皿を下げに出かける繁雄は、陽の光が投げかけてくる熱が日ごと少しずつ和らいでいるのを感じ取っていた。
が、暑いもんは暑いのである。ふー、とため息を吐いてから、繁雄はおかもちを右から左に持ち替えて、また歩き出そうとした。
「あらぁ、シゲちゃんやないの」
その時、右手の商店から声を掛けられた。
駄菓子屋の小東さん。奥さんの方のサナエさんだ。夫婦そろって老齢だが、足腰はしゃんとしていて、八奈結びの悪ガキどもを毎日相手にしてもお元気そのものである。繁雄も昔はよく通ったし、今でも妹の和希を連れて時折訪れる。小東さんたちが、繁雄のうどん屋に来てくれることもある。
「こんちゃっす、今日も暑いすね」
「ホンマねぇ、ええ加減にしてほしいわ」
サナエさんはハァ、とため息を吐きながら、手にしていたバケツと柄杓で水撒きを始める。そのまま、ひとなつっこい笑顔を繁雄に向けてくる。
「そういえば、アレ。いつまで出してるん? 夏限定やゆうてたけど」
「ああ、夏みかんとポン酢のうどんすか?」
夏バテ防止、と謳って夏季限定として打ち出したサラダ感覚のうどんである。そういえば、小東さんご夫婦はよく頼んでくれとったなぁ、と繁雄は思い出した。
ピシャ、ピシャ、と涼しげな水撒きの音にのせて、奥さんは続ける。
「おとうちゃんもあれならよう腹に入る、ゆうてね。もうしばらくあると嬉しいんやけど」
「ホンマですか? ほしたら涼しなるまで続けますわ」
なるべく表に出さないようにはしたが、繁雄は内心喜びで叫びだしたい気持ちだった。親が亡くなり、高校に行かずその跡を継いでうどん屋になった繁雄にとって、今は毎日が試行錯誤の連続である。お客さんの温かい言葉はなにより活力になるし、それがお世話になっている小東さん夫婦からならなおのことである。
そんな繁雄を見てサナエさんは微笑むと、そや、と言って、バケツを脇に置き店の中に入っていった。そして冷蔵ケースの中から、紙パックを一ダース、持ってくる。
「こんな暑い中ご苦労さん。ほれ、コーヒー牛乳や。持ってき」
「え! いや、貰えませんわそんなん!」
繁雄は手をパタパタ振った。だが勿論サナエさんは問題にしない。なんて言ったって、この八奈結び商店街で昔から子どもを相手に商売してきた、大阪のオバちゃんである。押しの強さは天下一品だ。
「そんなんゆうとったら肝心なときに嫁はんもスルッと逃してまうがな! こういうときはチャチャッともらっとくんがエエ男やで!」
「なんなんすかその理屈!」
いやいやいや! とツッコむ繁雄の右手に、ちゃっかりコーヒー牛乳×十二本セットを持たせるサナエさんであった。こうなってしまってはもらわないわけにはいかない。繁雄は照れて俯いた。
「その…おおきに」
「せやせや、最初からそうゆうたらええねん」
ふふん、と鼻高々なサナエさんを見て、繁雄もくしゃりと笑った。
だが、その安穏とした空気をぶち壊す、騒々しい足音がする。
「し、し、繁雄くん! ここおったんか!」
「北村さん? どないしたんすかそんな慌てて…!」
繁雄の店の常連客にして、文具店を営む北村さんだった。人がいい笑顔に定評がある北村さんは、この時は血相を変えて繁雄の前に駆け込んできた。
「ちょっと来てくれんか、一大事なんや…!」
「わ、わかりました!」
この北村さんの様子は、ただ事でない――繁雄も息を呑んで、来た道を戻る彼の後を追う。が、右手にコーヒー牛乳、左手におかもちを持っているものだから、なんだかまるで不格好である。
あ、と気づき、走りながら繁雄は振り返った。
「ほなサナエさん、また! あの…ホンマおおきに!」
「おう、気ぃつけてなー」
サナエさんは緩く手を振って、また水撒きに戻った。
◇◆◇
繁雄が北村さんに連れられてやってきたのは、存外近くだった。
うどん屋に帰る方とは逆の角に折れて、すぐの場所。その辺りには生鮮食品を扱う店が並んでいて、繁雄もよくお世話になっている。そんなところでいったい何が…という繁雄の疑問は、わずか一秒で解決した。
「……あのー、角井さん。何やってんすか?」
思わず繁雄はそう呟いていた。
騒動の元は一目瞭然だった。《〝おいしく新鮮! いいとうふ〟――角井豆腐店》の前に仁王立ちになる店主・角井さん。それに対峙する妻・みさこさん。両者のにらみ合いはいつから続いているのか、緊迫した空気が漂っている。周りの野次馬も、固唾をのんで見守っている。
(確かにこりゃ、ただ事やないな……)
到着したばかりの繁雄もおかもちを、そしてその上にコーヒー牛乳を置き、ゴクリと喉を鳴らした。
角井さん夫婦はどちらも元プロレスラーという異色の豆腐屋さんだ。
ふたりの今なお逞しい腕から作られる豆腐は、繊細な舌触りと豆乳の味が評判を呼んでいるが、その力がひとたび人間相手に向けられればどうなることか――。
この時交錯する二人の視線は、デス・マッチに臨む者たちのそれであった。どちらかがリングを降りるまで、あらゆる手段を行使し、闘争する――そういう者たちの――…。
しかし同時にこの夫婦は、仲睦まじいことでも有名である。しかも角井さんはみさこさんに首ったけで、温和な人柄だ。そのふたりの間に一体何があったというのか…ともかく聞いてみようと、繁雄が意を決して一歩前に出た、その時。
「だからァ! 置かんゆうとるやろがァ!!」
ダン! と地を踏み、角井さんの怒声が弾けた。
ビリビリと空気を震わせるほどの気迫にギャラリーは身を小さくしたが、みさこさんは動じず、
「ちょっとは話聞けやァ! このアホんだらァッ!!」
負けじと猛る。
そのあまりのプレッシャー、まさに一触即発。なんとか二人を止めようと繁雄は走って近寄ろうとした。が、
「やからこの豆乳ドーナツ店に置いたらバカ売れやぁゆうてんねん!」
「せやからんな女々しいもん店におけるかぁゆうてんねん!」
とふたりが言い合いだしたので、ずしゃあ、とズッコケた。
「だ、大丈夫か繁雄くんっ!」
北村さんが慌てて駆け寄ってくる。立ち上がりながら、繁雄は返す。
「…俺、帰ってええですか……」
「いやいやいや、角井くん抑えられるのは繁雄くんくらいしかおらんねん! 頼むわ!」
「勘弁してくださいよ! 角井さんにはかないませんて!」
おじいちゃんおばあちゃんが多い八奈結び商店街には、確かに角井さんに敵うような体格をしているのは繁雄のみであった。北村さんのような中年の方もいらっしゃるが、もともといいガタイを中学野球で鍛えた繁雄にはやはり劣る。確かに北村さんの言うことはもっともだったが…
「理事長どこ行ったんすか、あの人なら抑えられるでしょ」
商店街理事長、久保田壱之助。中肉中背、おまけに頭頂部がややコンプレックスのおじいちゃんではあるが、商店街の人間は彼に頭が上がらない。それほどに厳しくも優しい、親分肌のおじいちゃんだった。
壱之助であればこの場を治めるのも容易なはず…そんな繁雄の楽観は、北村さんに一蹴される。
「いやなぁ、朝から末武商店街の理事長さんと会議やゆうて出かけてるねんて」
「クッソ…! 絶対囲碁ダラダラやっとるんやわあのおっさん!」
思わず本音が漏れる繁雄であった。結局、自分がどうにかするしかないようである。
「なんや繁雄か、なんの用や」
さっきズッコケたので気づいたらしく、角井さんが臨戦態勢を解かないまま視線を投げてきた。レーザービームがごとき鋭い眼光。あ、いつも豆腐買いに行った時の笑顔って営業スマイルやったんや。殺気漲る角井さんの眼差しから逃げたくて、繁雄はそんなことを考えた。
が、無論逃げられるわけもない。北村さんが「後生や!」というように手を合わせて繁雄を見ていた。いつもお世話になっている北村さんの頼みを無下には出来ないし、こんな真昼間の商店街で元プロによる興行をおっ始めさせるわけにもいかない。繁雄は再度意を決し、対峙しあう角井さんご夫婦に歩み寄っていった。
「いや、それこっちのセリフっすよ、角井さん。みんなこない集まってもうてるやないですか…ちょお、落ち着きましょうよ」
まるで虎でもなだめる飼育員のような心境になりながら、繁雄はじりじりと近づいて行った。だが角井さんはフン、と鼻を鳴らしまるで取り合わない。
「これが下らんこと言わんようなったらそうしたるわ」
「コレ?!」と、叫んだのはみさこさんだ。「女房をコレ呼ばわりかクサレ亭主! 顎ガツンゆわせたろか?!」
「あーもー! だから、落ち着いて! いったい何が始まりなんすか!!」
破れかぶれになりながら繁雄が叫んでそう言うと、みさこさんがずいっと手にしていたそれを突き出してきた。
可愛らしいカゴに入った、豆乳ドーナツである。
「…あ、やっぱこれが原因なことにまちがいはないんすね…」
脱力して、また本音が出る繁雄だった。こんな怖い思いをしているのに、その大元を辿れば、まぁるいかわいい豆乳ドーナツ。そういえばもうじきおやつ時であるのを思い出して、繁雄は腹が減るのを感じた。そこにすかさず、みさこさんがずい、と寄ってくる。
「おいしそうやろ?」
「はぁ、確かにええ感じすね」
「やろ? こんなん一個五十円でうちの豆腐屋のカウンターんとこ置いとったら、あんたどない思う?」
「え、五十円すか! そりゃ買わんと!」
「せぇーーーやぁーーーろぉーーー?!」
そこで挑発するようにぐりん、とみさこさんは角井さんを見返した。
「ほれみい! 男の子もほしいゆうとるやないの!」
「ぐぬぬ…」
思わずこれには角井さんもたじろぐ。
が、
「負けんといて、角井さん!」
そこにさらなる乱入者が登場した。
「置いたらあかん…その豆乳ドーナツは、置いたら――…あ」
ズッシャアァ! と、繁雄の時より盛大な音を立て、その乱入者はリング・インした。
何もないところでズッコケることで有名な女子高生、なずなであった。
「な、なず…大丈夫か?」
「し、シゲちゃん…!」
繁雄がいることに気付いたなずなは慌てて起き上がり、ずれた眼鏡を直し、スカートのほこりをパタパタ払った。理事長の孫娘にして幼馴染である彼女が、なぜこんなにあちこちでコケ続けるのか、付き合いが長い繁雄にもよくわからない。
一方のなずなは咳払いをすると、角井さんの方を見た。珍しくきりっとした彼女は開戦寸前の夫妻の放つ威圧感を前に敢然と意を述べる。
「お願いや、角井さん! その豆乳ドーナツはお店に置いたらあかん! そいつはうちらを陥れるアクマや! 絶対置かんといて!!」
「お、おう?」
想定外の援護ではあったが、なぜなずながそんな必死なのかよくわからず、角井さんは素直に受け取ってもいいものかわからない様子だった。
それは繁雄も同様だった。いつも気弱な彼女があんな断固として豆乳ドーナツを拒むのはどうしてなのか。
状況がよくわからない方向に転がり始めているところに、カラン、と下駄の音がする。繁雄はそれに、嫌な予感がした。
「だめだよ、なっちゃん。豆乳ドーナツのせいにしちゃ」
案の定だった。そう言うそいつの涼しい声が、状況を更にしっちゃかめっちゃかにする――繁雄にはその未来がありありとわかった。
繁雄の背後から下駄を鳴らしてやってきたのは、古本屋の代理店主であり、また、なずな同様繁雄の幼馴
染である千十世だった。
「ち、ちぃくん…」
「僕知ってるんだ、なっちゃん」
生まれも育ちも八奈結び(おおさか)のくせして、いつものよう
に訛りのない言葉で千十世は言う。
「この前なっちゃんが友達と歩いてるときの話、たまたま聞いちゃったからね」
残暑厳しい今日この頃だというのに、千十世は汗一つかかず悠々と歩いてやってきた。
その嫌味なくらい爽やかな笑顔に対して、なずなは暑さ以外の原因でダラダラと冷や汗を流してる。そしてハッと繁雄の方を見てから、慌てて千十世に言った。
「待って、ちぃくん! お願い、言わ――」
「プラス三キロ、確かにこれは一大事だよね」
サラッと放たれた千十世の言葉に、なずなは「うわぁん!!」、と泣いてしゃがみこんだ。
話に置いて行かれている繁雄及び野次馬のみなさんを余所に、千十世はこれまたいつもどおり、ニヤニヤと人の悪い笑い顔を浮かべて続ける。
「そう、なっちゃん――君はみさこさんの作る豆乳ドーナツの試作品を毎日食べていた。時にはチョコチップ入れたらどうだろうか、なんて提案に見せかけた私欲丸出しのリクエストをしたりもしていた。そして君はある時、体重計に乗ったんだ――」
「う…うう………!」
「三キロ増えてた、と君は友達に言っていたけど、会話中の様子を見るにウソをついてたね? いやいや、でもそれは仕方ない。だって女の子だもん。美味しいドーナツの試食があったら食べちゃって当然さ。体重が増えてたら、サバだって読みたくなるだろう。でも君はそれをドーナツのせいにし、あまつさえアクマとまで蔑んだ――いけない娘だ…」
「いやっ…いやぁ…っ!」
一方的に喋る千十世に、気弱ななずなは反抗することなどできない。いかにも性格の悪そうな千十世の垂れ目にランランとした光が宿る。ノってきてしまったようである。
反撃しようなど思いもしない無抵抗のなずなを更に弄ぶべく千十世が口を開いたそのとき、
「えーかげんにせんか、アホ」
と、繁雄のチョップがその頭上に炸裂する。
「もう、いいとこなのに…相変わらずヤボだね、シゲ」
「うっさいわボケ。お前こそ相変わらず何言いたいか一個もわからんやんけ」
普段千十世の口撃の標的にされる繁雄は、露骨に嫌な顔をして見せた。対する千十世はどこ吹く風で、気取って人差し指をピッと立てる。
「簡単だよ、僕は豆乳ドーナツ置くのに賛成ってだけ」
「なんや、お前知っとったんかいな」
「せや! そもそも千十世ちゃんは発案者やからな!」
みさこさんが声を明るくして割って入ってきた。そして千十世と二人して、「ねー♪」と笑いあう。繁雄には全く理解できないのだが、千十世はなぜだか商店街のマダムたちの人気者だ。一見すると病弱な文学少年風なのがウケているのだろうか。いつも目つきと顎が鋭いと揶揄される(下手すれば泣き出される)繁雄は、格差社会の冷たさを感じざるを得ない。
そんな繁雄の心境を知ってか知らずか、千十世はまたニヤニヤと笑いながら説明しだした。
「シャッター通りなんて言葉が定着したこのご時世、守ってばっかじゃなくて攻めていかなきゃね。毎日の売上を維持する定番商品のバリエーションを増やしたうえで、キャッチーな商品を別に設けて集客力を上げるってのは、まぁベタな手だけど。豆乳ドーナツなら豆腐を普段買わない層にも訴求できるし、一個から買
えるともなれば飛びつくお子様(おきゃくさま)方がうちの商店街に
は多いから、施策としてはまずまずでしょ。そんな感じ」
「お、おう。せやな」
実のところ繁雄はよくわかってなかったが、とりあえず頷いておいた。とにかく、ドーナツを置くことで角井豆腐店がより繁盛する、ということらしい。
「なんや、ええ話やないですか。あかんのですか角井さん、カウンターにちょこっと置いとくだけでしょ?」
ドーナツの話ばかりしているものだから繁雄はお腹が空いて、そろそろ本気で帰りたくなってきたのでまとめに走った。
が、角井さんはそのいかつい肩を震わせている。また、当初漂っていたピリピリとした空気が場を満たし、弛緩していた雰囲気をピンと張る。
「なにも、ドーナツ置くくらいやったら俺かてこない文句言わん…やけどなぁ!」
ずぁ! と角井さんの太い腕が、宙を切った。
ヒッと一同は身を縮こめたが、角井さんの腕――というか指が差したのは角井豆腐店で、
「こんなデコレーション勝手にされたら、黙ってられるわけないやろがっ!」
とは、半分泣き声が混じっているような、角井さんの弁である。
えっ、と繁雄が見てみると、そこには――
「……………うわぁ」
対峙する角井夫妻が凄まじすぎて、気が付かなかった。いや、気が付いてしまえば、こっちの方がはるかに衝撃的だった。
渋い木目がよく映えていた従来の看板の周囲を囲う、ラメ入りモール。
ビビッドカラーの画用紙を切り抜いて作られた手製のPOPがあちこちに貼られ。
飾り気がなかったはずのショーウィンドーには統一性のないレースとリボンのトッピング。
戦後間もない頃から八奈結び商店街にあるという老舗豆腐屋は今や、DIY精神溢れる手作りデコレーションで痛々しいまでに縁取られていた。
「なんでよ! ドーナツ置くんやったら内装も可愛いほうがええやんか!」
「可愛い!? アホ抜かせ、ただケバイだけやろがこれ!」
夫妻は口論を再開するが、繁雄はただただ痛い頭を押さえていた。隣で千十世が、口に手を当てて笑いをこらえている。それを繁雄はジト目で睨みつけた。
「……お前こうなるてわかっとったやろ」
「さぁ、なんのことだか? …ぷっ」
くく、と笑いをもらす千十世の頭にもう一度チョップを食らわせて、繁雄は大きくため息を吐いた。そして、腹に力を入れて、
「もうやめましょ、角井さん! みさこさんも!」
大きく声を張り上げた。
取っ組み合い一歩手前だった夫妻はその声に思わず動きを止めて、繁雄を見やる。
そこには若年ながら、商店街の一員としての自負を両眼に鋭く灯した繁雄がいる。
「こんなんラチあきませんやん。要するに、みさこさんはドーナツおきたいんでしょ? それ自体に角井さんは反対してないんでしょ?」
「まぁ、そうやが…」
「ええやないですか、置きましょうよ。その代わりみさこさん、デコレーションは諦めるゆうことで」
「なにゆうとんの、シゲちゃん!」
「いや、これ、実際入りにくいですから…」
繁雄は横目で変貌した角井豆腐店を見た。
が、毒々しい色彩が目を刺し、一瞬で逸らした。みさこさんは可愛らしい、というが、どう考えてもこの装飾を司る美的センスは、レスラーが着る衣装のソレである。古き良き時代を忍ばせる佇まいだった角井豆腐店は今や、安穏とした八奈結びにただ一つ浮かび上がる特異点と化してしまっていた。
「……おじいちゃんおばあちゃんが見たら腰抜かしますよ、これ」
言うのはためらわれたが、みさこさんのために心を鬼にした。それでも、なんとか苦心してオブラートに包む繁雄であった。
その想いが届いたのか、盲目気味だったみさこさんも流石に押し黙った。「えー…なんでよ、これいいやん…」と呟きながら自作デコレーションを眺めるその目にも、若干の冷静さが戻っている。その妻の様子を見て、角井さんも手を顎に当てて繁雄の提案を考慮し始める。
「はい、おわりおわりー。かいさんかいさーん」
と、繁雄が両手を上げて振りながら言うと、野次馬のみなさんはゾロゾロとそれぞれの買い物に戻っていった。角井夫妻によるガチプロレスを観てみたかったような、そうでないような、微妙な笑い顔を浮かべながら。
北村さんが泣き笑いのような顔を浮かべながら繁雄に何度も頭を下げる。逆に申し訳ない気分になってしまった繁雄はこちらもペコペコ頭を下げながら、携帯に呼び出しの着信が掛ってその場を後にする北村さんを見送った。
残るはつまらなさそうな顔をしている千十世と、うずくまってブツブツ言ってるなずなである。
繁雄は千十世を無視し、頭をボリボリ掻きながら、彼女に歩み寄っていく。
「なんでまだそないな格好してんねん、なず」
「シゲちゃん…ほっといて、ブタになったうちを見んといて……」
そのまま地中に沈みゆきたい――そんな感じで顔を上げようともしない彼女に、繁雄は首を傾げる。
「はぁ? 何ゆうてんねん、別に大して変わってへんやろ」
「…! ほんま?!」
「こんなとこでウソついて何になんねん」
なんら気負いの見られない繁雄の言葉に、なずなはすぐさま立ち上がった。顔がいきいきと、明るく輝いている。「えへへ…そっか…えへへ…」と、もそもそ呟きながら、パタパタスカートの裾をはたいている。
繁雄は幼馴染のこの変わりようがさっぱり理解できなかったのだが、千十世がニヤニヤからかうような笑いを向けてくるのを見て、無性に腹が立った。ので、即座にチョップをかましたが、これは避けられてしまう。
そんなこんなでそれなりに時間が経っているのに、角井夫妻はいまだこう着状態である。どうしたものか…と繁雄はポリポリ頬を掻いた。
その時、角井豆腐店のガラス戸がガラッと乱暴に開き、
「おばちゃぁん! 出来たでー!」
中から繁雄の妹である和希が、うるさいくらいの声でそう言った。
「あれ、アニキなんでおるん?」
「いや、それこっちのセリフや。おまえ角井さんちで何してんねん」
突然登場した妹に目をぱちくりさせながら、繁雄は言う。それに答えたのは和希でなく、その隣からひょっこり顔を見せた千十世の妹・美也だった。
「かずねぇとみやな、お手伝いやねん」たどたどしい言葉で、美也は言う。「もりもりやねん」
そう言って美也が差し出したのは、上がりたてのドーナツがてんこ盛りに載った大皿だった。揚がりたてなのがよくわかる、鮮やかなきつね色をした豆乳ドーナツ。無意識に、繁雄の腹がぐう、と鳴る。
和希が両手を頭の後ろにやって、いたずらっぽく唇を突き出す。
「あーあ、あとで驚かしたろー思てナイショにしとったのに。タイミングぶち壊しか」
「アホ抜かせ、お前ヨソ様のうち上がるときはちゃんと言えゆうとるやろ!」
すかさず、繁雄のデコピンが和希のおでこを直撃する。そこにみさこさんが慌てて入ってきた。
「ああ、許したってやシゲちゃん。めっちゃ助かってんねんで、二人とも小学生やのにしっかりしてて」
「せやせや! アホアニキ!」
「調子のるな和希! いや、みさこさん、そういう話やなくてですね…」
そこで、ぐううう、とさらに大きく繁雄の腹が鳴った。さすがに恥ずかしくて、口ごもる。
角井さんが苦笑しながら言った。
「……まぁ、なんや。上がってきぃや。揚がりたて摘まんでき」
「あ、いや、でも…」
遠慮しようとする繁雄の意に反し、もう一度、ぐううう、と鳴る腹。
それを抑えているすきに、千十世もなずなも意気揚々と角井豆腐店に入っていく。夫妻に続いて美也も入り、和希が戸のところで振り返った。
「うちが揚げたドーナツ、めっちゃおいしいからな!」
満面のドヤ顔で、そう言って奥に入っていく。
観念して、繁雄はおかもちを持った。そうだ、貰ったコーヒー牛乳は、きっとよく豆乳ドーナツに合うだろう。苦笑しながら溜め息をひとつついてから、いかんいかんと顔を引き締める。
「待たんかい、和希!」
その怒鳴り声も、ピシャン、と閉じられた戸の音とともに消えた。
八奈結び商店街のなんてことない、いつもどおりの昼下がりである――
「…ふん、相変わらずシけた商店街やな」
――人気がまばらになった通りに、ぽつりとその呟きは小さく響き、すぐ消えた。
ブレザー姿の少年が、憮然とした面持ちで立っている。左手はズボンのポケットにつっこみ、右手は何かを持って弄んでいる。
少年は手の中のそれ――野球の硬球を軽く放り上げ、慣れた手つきでパシッとまた握った。
前髪に少し隠れた眼差しは鋭く、通りを串射すように、見通す。
「どこにおんねん、繁雄のアホが」
不機嫌さを露わにそうこぼし、彼はぶらりと歩き出した。
その様子を見ていた黒猫――日なた窓は、しっぽをピンと立て、黄色い両眼をまんまるにして、遠ざかる少年の背をじっと見ていた。
季節は秋。
天高く、馬は肥え――そして八奈結びにはまたも新たな騒動が起こりそうな、そんな気配が漂っている。
すい、すい、と軽やかに飛んでいくその姿に、繁雄は思わず足を止める。そして顎から滴る汗を、左手の甲で拭った。全く、九月も半ばになるというのに、八奈結びでは暑さの失せる気配がない。
だがそれでも、盛夏は過ぎたのであろう。いつも決まって十四時には出前の皿を下げに出かける繁雄は、陽の光が投げかけてくる熱が日ごと少しずつ和らいでいるのを感じ取っていた。
が、暑いもんは暑いのである。ふー、とため息を吐いてから、繁雄はおかもちを右から左に持ち替えて、また歩き出そうとした。
「あらぁ、シゲちゃんやないの」
その時、右手の商店から声を掛けられた。
駄菓子屋の小東さん。奥さんの方のサナエさんだ。夫婦そろって老齢だが、足腰はしゃんとしていて、八奈結びの悪ガキどもを毎日相手にしてもお元気そのものである。繁雄も昔はよく通ったし、今でも妹の和希を連れて時折訪れる。小東さんたちが、繁雄のうどん屋に来てくれることもある。
「こんちゃっす、今日も暑いすね」
「ホンマねぇ、ええ加減にしてほしいわ」
サナエさんはハァ、とため息を吐きながら、手にしていたバケツと柄杓で水撒きを始める。そのまま、ひとなつっこい笑顔を繁雄に向けてくる。
「そういえば、アレ。いつまで出してるん? 夏限定やゆうてたけど」
「ああ、夏みかんとポン酢のうどんすか?」
夏バテ防止、と謳って夏季限定として打ち出したサラダ感覚のうどんである。そういえば、小東さんご夫婦はよく頼んでくれとったなぁ、と繁雄は思い出した。
ピシャ、ピシャ、と涼しげな水撒きの音にのせて、奥さんは続ける。
「おとうちゃんもあれならよう腹に入る、ゆうてね。もうしばらくあると嬉しいんやけど」
「ホンマですか? ほしたら涼しなるまで続けますわ」
なるべく表に出さないようにはしたが、繁雄は内心喜びで叫びだしたい気持ちだった。親が亡くなり、高校に行かずその跡を継いでうどん屋になった繁雄にとって、今は毎日が試行錯誤の連続である。お客さんの温かい言葉はなにより活力になるし、それがお世話になっている小東さん夫婦からならなおのことである。
そんな繁雄を見てサナエさんは微笑むと、そや、と言って、バケツを脇に置き店の中に入っていった。そして冷蔵ケースの中から、紙パックを一ダース、持ってくる。
「こんな暑い中ご苦労さん。ほれ、コーヒー牛乳や。持ってき」
「え! いや、貰えませんわそんなん!」
繁雄は手をパタパタ振った。だが勿論サナエさんは問題にしない。なんて言ったって、この八奈結び商店街で昔から子どもを相手に商売してきた、大阪のオバちゃんである。押しの強さは天下一品だ。
「そんなんゆうとったら肝心なときに嫁はんもスルッと逃してまうがな! こういうときはチャチャッともらっとくんがエエ男やで!」
「なんなんすかその理屈!」
いやいやいや! とツッコむ繁雄の右手に、ちゃっかりコーヒー牛乳×十二本セットを持たせるサナエさんであった。こうなってしまってはもらわないわけにはいかない。繁雄は照れて俯いた。
「その…おおきに」
「せやせや、最初からそうゆうたらええねん」
ふふん、と鼻高々なサナエさんを見て、繁雄もくしゃりと笑った。
だが、その安穏とした空気をぶち壊す、騒々しい足音がする。
「し、し、繁雄くん! ここおったんか!」
「北村さん? どないしたんすかそんな慌てて…!」
繁雄の店の常連客にして、文具店を営む北村さんだった。人がいい笑顔に定評がある北村さんは、この時は血相を変えて繁雄の前に駆け込んできた。
「ちょっと来てくれんか、一大事なんや…!」
「わ、わかりました!」
この北村さんの様子は、ただ事でない――繁雄も息を呑んで、来た道を戻る彼の後を追う。が、右手にコーヒー牛乳、左手におかもちを持っているものだから、なんだかまるで不格好である。
あ、と気づき、走りながら繁雄は振り返った。
「ほなサナエさん、また! あの…ホンマおおきに!」
「おう、気ぃつけてなー」
サナエさんは緩く手を振って、また水撒きに戻った。
◇◆◇
繁雄が北村さんに連れられてやってきたのは、存外近くだった。
うどん屋に帰る方とは逆の角に折れて、すぐの場所。その辺りには生鮮食品を扱う店が並んでいて、繁雄もよくお世話になっている。そんなところでいったい何が…という繁雄の疑問は、わずか一秒で解決した。
「……あのー、角井さん。何やってんすか?」
思わず繁雄はそう呟いていた。
騒動の元は一目瞭然だった。《〝おいしく新鮮! いいとうふ〟――角井豆腐店》の前に仁王立ちになる店主・角井さん。それに対峙する妻・みさこさん。両者のにらみ合いはいつから続いているのか、緊迫した空気が漂っている。周りの野次馬も、固唾をのんで見守っている。
(確かにこりゃ、ただ事やないな……)
到着したばかりの繁雄もおかもちを、そしてその上にコーヒー牛乳を置き、ゴクリと喉を鳴らした。
角井さん夫婦はどちらも元プロレスラーという異色の豆腐屋さんだ。
ふたりの今なお逞しい腕から作られる豆腐は、繊細な舌触りと豆乳の味が評判を呼んでいるが、その力がひとたび人間相手に向けられればどうなることか――。
この時交錯する二人の視線は、デス・マッチに臨む者たちのそれであった。どちらかがリングを降りるまで、あらゆる手段を行使し、闘争する――そういう者たちの――…。
しかし同時にこの夫婦は、仲睦まじいことでも有名である。しかも角井さんはみさこさんに首ったけで、温和な人柄だ。そのふたりの間に一体何があったというのか…ともかく聞いてみようと、繁雄が意を決して一歩前に出た、その時。
「だからァ! 置かんゆうとるやろがァ!!」
ダン! と地を踏み、角井さんの怒声が弾けた。
ビリビリと空気を震わせるほどの気迫にギャラリーは身を小さくしたが、みさこさんは動じず、
「ちょっとは話聞けやァ! このアホんだらァッ!!」
負けじと猛る。
そのあまりのプレッシャー、まさに一触即発。なんとか二人を止めようと繁雄は走って近寄ろうとした。が、
「やからこの豆乳ドーナツ店に置いたらバカ売れやぁゆうてんねん!」
「せやからんな女々しいもん店におけるかぁゆうてんねん!」
とふたりが言い合いだしたので、ずしゃあ、とズッコケた。
「だ、大丈夫か繁雄くんっ!」
北村さんが慌てて駆け寄ってくる。立ち上がりながら、繁雄は返す。
「…俺、帰ってええですか……」
「いやいやいや、角井くん抑えられるのは繁雄くんくらいしかおらんねん! 頼むわ!」
「勘弁してくださいよ! 角井さんにはかないませんて!」
おじいちゃんおばあちゃんが多い八奈結び商店街には、確かに角井さんに敵うような体格をしているのは繁雄のみであった。北村さんのような中年の方もいらっしゃるが、もともといいガタイを中学野球で鍛えた繁雄にはやはり劣る。確かに北村さんの言うことはもっともだったが…
「理事長どこ行ったんすか、あの人なら抑えられるでしょ」
商店街理事長、久保田壱之助。中肉中背、おまけに頭頂部がややコンプレックスのおじいちゃんではあるが、商店街の人間は彼に頭が上がらない。それほどに厳しくも優しい、親分肌のおじいちゃんだった。
壱之助であればこの場を治めるのも容易なはず…そんな繁雄の楽観は、北村さんに一蹴される。
「いやなぁ、朝から末武商店街の理事長さんと会議やゆうて出かけてるねんて」
「クッソ…! 絶対囲碁ダラダラやっとるんやわあのおっさん!」
思わず本音が漏れる繁雄であった。結局、自分がどうにかするしかないようである。
「なんや繁雄か、なんの用や」
さっきズッコケたので気づいたらしく、角井さんが臨戦態勢を解かないまま視線を投げてきた。レーザービームがごとき鋭い眼光。あ、いつも豆腐買いに行った時の笑顔って営業スマイルやったんや。殺気漲る角井さんの眼差しから逃げたくて、繁雄はそんなことを考えた。
が、無論逃げられるわけもない。北村さんが「後生や!」というように手を合わせて繁雄を見ていた。いつもお世話になっている北村さんの頼みを無下には出来ないし、こんな真昼間の商店街で元プロによる興行をおっ始めさせるわけにもいかない。繁雄は再度意を決し、対峙しあう角井さんご夫婦に歩み寄っていった。
「いや、それこっちのセリフっすよ、角井さん。みんなこない集まってもうてるやないですか…ちょお、落ち着きましょうよ」
まるで虎でもなだめる飼育員のような心境になりながら、繁雄はじりじりと近づいて行った。だが角井さんはフン、と鼻を鳴らしまるで取り合わない。
「これが下らんこと言わんようなったらそうしたるわ」
「コレ?!」と、叫んだのはみさこさんだ。「女房をコレ呼ばわりかクサレ亭主! 顎ガツンゆわせたろか?!」
「あーもー! だから、落ち着いて! いったい何が始まりなんすか!!」
破れかぶれになりながら繁雄が叫んでそう言うと、みさこさんがずいっと手にしていたそれを突き出してきた。
可愛らしいカゴに入った、豆乳ドーナツである。
「…あ、やっぱこれが原因なことにまちがいはないんすね…」
脱力して、また本音が出る繁雄だった。こんな怖い思いをしているのに、その大元を辿れば、まぁるいかわいい豆乳ドーナツ。そういえばもうじきおやつ時であるのを思い出して、繁雄は腹が減るのを感じた。そこにすかさず、みさこさんがずい、と寄ってくる。
「おいしそうやろ?」
「はぁ、確かにええ感じすね」
「やろ? こんなん一個五十円でうちの豆腐屋のカウンターんとこ置いとったら、あんたどない思う?」
「え、五十円すか! そりゃ買わんと!」
「せぇーーーやぁーーーろぉーーー?!」
そこで挑発するようにぐりん、とみさこさんは角井さんを見返した。
「ほれみい! 男の子もほしいゆうとるやないの!」
「ぐぬぬ…」
思わずこれには角井さんもたじろぐ。
が、
「負けんといて、角井さん!」
そこにさらなる乱入者が登場した。
「置いたらあかん…その豆乳ドーナツは、置いたら――…あ」
ズッシャアァ! と、繁雄の時より盛大な音を立て、その乱入者はリング・インした。
何もないところでズッコケることで有名な女子高生、なずなであった。
「な、なず…大丈夫か?」
「し、シゲちゃん…!」
繁雄がいることに気付いたなずなは慌てて起き上がり、ずれた眼鏡を直し、スカートのほこりをパタパタ払った。理事長の孫娘にして幼馴染である彼女が、なぜこんなにあちこちでコケ続けるのか、付き合いが長い繁雄にもよくわからない。
一方のなずなは咳払いをすると、角井さんの方を見た。珍しくきりっとした彼女は開戦寸前の夫妻の放つ威圧感を前に敢然と意を述べる。
「お願いや、角井さん! その豆乳ドーナツはお店に置いたらあかん! そいつはうちらを陥れるアクマや! 絶対置かんといて!!」
「お、おう?」
想定外の援護ではあったが、なぜなずながそんな必死なのかよくわからず、角井さんは素直に受け取ってもいいものかわからない様子だった。
それは繁雄も同様だった。いつも気弱な彼女があんな断固として豆乳ドーナツを拒むのはどうしてなのか。
状況がよくわからない方向に転がり始めているところに、カラン、と下駄の音がする。繁雄はそれに、嫌な予感がした。
「だめだよ、なっちゃん。豆乳ドーナツのせいにしちゃ」
案の定だった。そう言うそいつの涼しい声が、状況を更にしっちゃかめっちゃかにする――繁雄にはその未来がありありとわかった。
繁雄の背後から下駄を鳴らしてやってきたのは、古本屋の代理店主であり、また、なずな同様繁雄の幼馴
染である千十世だった。
「ち、ちぃくん…」
「僕知ってるんだ、なっちゃん」
生まれも育ちも八奈結び(おおさか)のくせして、いつものよう
に訛りのない言葉で千十世は言う。
「この前なっちゃんが友達と歩いてるときの話、たまたま聞いちゃったからね」
残暑厳しい今日この頃だというのに、千十世は汗一つかかず悠々と歩いてやってきた。
その嫌味なくらい爽やかな笑顔に対して、なずなは暑さ以外の原因でダラダラと冷や汗を流してる。そしてハッと繁雄の方を見てから、慌てて千十世に言った。
「待って、ちぃくん! お願い、言わ――」
「プラス三キロ、確かにこれは一大事だよね」
サラッと放たれた千十世の言葉に、なずなは「うわぁん!!」、と泣いてしゃがみこんだ。
話に置いて行かれている繁雄及び野次馬のみなさんを余所に、千十世はこれまたいつもどおり、ニヤニヤと人の悪い笑い顔を浮かべて続ける。
「そう、なっちゃん――君はみさこさんの作る豆乳ドーナツの試作品を毎日食べていた。時にはチョコチップ入れたらどうだろうか、なんて提案に見せかけた私欲丸出しのリクエストをしたりもしていた。そして君はある時、体重計に乗ったんだ――」
「う…うう………!」
「三キロ増えてた、と君は友達に言っていたけど、会話中の様子を見るにウソをついてたね? いやいや、でもそれは仕方ない。だって女の子だもん。美味しいドーナツの試食があったら食べちゃって当然さ。体重が増えてたら、サバだって読みたくなるだろう。でも君はそれをドーナツのせいにし、あまつさえアクマとまで蔑んだ――いけない娘だ…」
「いやっ…いやぁ…っ!」
一方的に喋る千十世に、気弱ななずなは反抗することなどできない。いかにも性格の悪そうな千十世の垂れ目にランランとした光が宿る。ノってきてしまったようである。
反撃しようなど思いもしない無抵抗のなずなを更に弄ぶべく千十世が口を開いたそのとき、
「えーかげんにせんか、アホ」
と、繁雄のチョップがその頭上に炸裂する。
「もう、いいとこなのに…相変わらずヤボだね、シゲ」
「うっさいわボケ。お前こそ相変わらず何言いたいか一個もわからんやんけ」
普段千十世の口撃の標的にされる繁雄は、露骨に嫌な顔をして見せた。対する千十世はどこ吹く風で、気取って人差し指をピッと立てる。
「簡単だよ、僕は豆乳ドーナツ置くのに賛成ってだけ」
「なんや、お前知っとったんかいな」
「せや! そもそも千十世ちゃんは発案者やからな!」
みさこさんが声を明るくして割って入ってきた。そして千十世と二人して、「ねー♪」と笑いあう。繁雄には全く理解できないのだが、千十世はなぜだか商店街のマダムたちの人気者だ。一見すると病弱な文学少年風なのがウケているのだろうか。いつも目つきと顎が鋭いと揶揄される(下手すれば泣き出される)繁雄は、格差社会の冷たさを感じざるを得ない。
そんな繁雄の心境を知ってか知らずか、千十世はまたニヤニヤと笑いながら説明しだした。
「シャッター通りなんて言葉が定着したこのご時世、守ってばっかじゃなくて攻めていかなきゃね。毎日の売上を維持する定番商品のバリエーションを増やしたうえで、キャッチーな商品を別に設けて集客力を上げるってのは、まぁベタな手だけど。豆乳ドーナツなら豆腐を普段買わない層にも訴求できるし、一個から買
えるともなれば飛びつくお子様(おきゃくさま)方がうちの商店街に
は多いから、施策としてはまずまずでしょ。そんな感じ」
「お、おう。せやな」
実のところ繁雄はよくわかってなかったが、とりあえず頷いておいた。とにかく、ドーナツを置くことで角井豆腐店がより繁盛する、ということらしい。
「なんや、ええ話やないですか。あかんのですか角井さん、カウンターにちょこっと置いとくだけでしょ?」
ドーナツの話ばかりしているものだから繁雄はお腹が空いて、そろそろ本気で帰りたくなってきたのでまとめに走った。
が、角井さんはそのいかつい肩を震わせている。また、当初漂っていたピリピリとした空気が場を満たし、弛緩していた雰囲気をピンと張る。
「なにも、ドーナツ置くくらいやったら俺かてこない文句言わん…やけどなぁ!」
ずぁ! と角井さんの太い腕が、宙を切った。
ヒッと一同は身を縮こめたが、角井さんの腕――というか指が差したのは角井豆腐店で、
「こんなデコレーション勝手にされたら、黙ってられるわけないやろがっ!」
とは、半分泣き声が混じっているような、角井さんの弁である。
えっ、と繁雄が見てみると、そこには――
「……………うわぁ」
対峙する角井夫妻が凄まじすぎて、気が付かなかった。いや、気が付いてしまえば、こっちの方がはるかに衝撃的だった。
渋い木目がよく映えていた従来の看板の周囲を囲う、ラメ入りモール。
ビビッドカラーの画用紙を切り抜いて作られた手製のPOPがあちこちに貼られ。
飾り気がなかったはずのショーウィンドーには統一性のないレースとリボンのトッピング。
戦後間もない頃から八奈結び商店街にあるという老舗豆腐屋は今や、DIY精神溢れる手作りデコレーションで痛々しいまでに縁取られていた。
「なんでよ! ドーナツ置くんやったら内装も可愛いほうがええやんか!」
「可愛い!? アホ抜かせ、ただケバイだけやろがこれ!」
夫妻は口論を再開するが、繁雄はただただ痛い頭を押さえていた。隣で千十世が、口に手を当てて笑いをこらえている。それを繁雄はジト目で睨みつけた。
「……お前こうなるてわかっとったやろ」
「さぁ、なんのことだか? …ぷっ」
くく、と笑いをもらす千十世の頭にもう一度チョップを食らわせて、繁雄は大きくため息を吐いた。そして、腹に力を入れて、
「もうやめましょ、角井さん! みさこさんも!」
大きく声を張り上げた。
取っ組み合い一歩手前だった夫妻はその声に思わず動きを止めて、繁雄を見やる。
そこには若年ながら、商店街の一員としての自負を両眼に鋭く灯した繁雄がいる。
「こんなんラチあきませんやん。要するに、みさこさんはドーナツおきたいんでしょ? それ自体に角井さんは反対してないんでしょ?」
「まぁ、そうやが…」
「ええやないですか、置きましょうよ。その代わりみさこさん、デコレーションは諦めるゆうことで」
「なにゆうとんの、シゲちゃん!」
「いや、これ、実際入りにくいですから…」
繁雄は横目で変貌した角井豆腐店を見た。
が、毒々しい色彩が目を刺し、一瞬で逸らした。みさこさんは可愛らしい、というが、どう考えてもこの装飾を司る美的センスは、レスラーが着る衣装のソレである。古き良き時代を忍ばせる佇まいだった角井豆腐店は今や、安穏とした八奈結びにただ一つ浮かび上がる特異点と化してしまっていた。
「……おじいちゃんおばあちゃんが見たら腰抜かしますよ、これ」
言うのはためらわれたが、みさこさんのために心を鬼にした。それでも、なんとか苦心してオブラートに包む繁雄であった。
その想いが届いたのか、盲目気味だったみさこさんも流石に押し黙った。「えー…なんでよ、これいいやん…」と呟きながら自作デコレーションを眺めるその目にも、若干の冷静さが戻っている。その妻の様子を見て、角井さんも手を顎に当てて繁雄の提案を考慮し始める。
「はい、おわりおわりー。かいさんかいさーん」
と、繁雄が両手を上げて振りながら言うと、野次馬のみなさんはゾロゾロとそれぞれの買い物に戻っていった。角井夫妻によるガチプロレスを観てみたかったような、そうでないような、微妙な笑い顔を浮かべながら。
北村さんが泣き笑いのような顔を浮かべながら繁雄に何度も頭を下げる。逆に申し訳ない気分になってしまった繁雄はこちらもペコペコ頭を下げながら、携帯に呼び出しの着信が掛ってその場を後にする北村さんを見送った。
残るはつまらなさそうな顔をしている千十世と、うずくまってブツブツ言ってるなずなである。
繁雄は千十世を無視し、頭をボリボリ掻きながら、彼女に歩み寄っていく。
「なんでまだそないな格好してんねん、なず」
「シゲちゃん…ほっといて、ブタになったうちを見んといて……」
そのまま地中に沈みゆきたい――そんな感じで顔を上げようともしない彼女に、繁雄は首を傾げる。
「はぁ? 何ゆうてんねん、別に大して変わってへんやろ」
「…! ほんま?!」
「こんなとこでウソついて何になんねん」
なんら気負いの見られない繁雄の言葉に、なずなはすぐさま立ち上がった。顔がいきいきと、明るく輝いている。「えへへ…そっか…えへへ…」と、もそもそ呟きながら、パタパタスカートの裾をはたいている。
繁雄は幼馴染のこの変わりようがさっぱり理解できなかったのだが、千十世がニヤニヤからかうような笑いを向けてくるのを見て、無性に腹が立った。ので、即座にチョップをかましたが、これは避けられてしまう。
そんなこんなでそれなりに時間が経っているのに、角井夫妻はいまだこう着状態である。どうしたものか…と繁雄はポリポリ頬を掻いた。
その時、角井豆腐店のガラス戸がガラッと乱暴に開き、
「おばちゃぁん! 出来たでー!」
中から繁雄の妹である和希が、うるさいくらいの声でそう言った。
「あれ、アニキなんでおるん?」
「いや、それこっちのセリフや。おまえ角井さんちで何してんねん」
突然登場した妹に目をぱちくりさせながら、繁雄は言う。それに答えたのは和希でなく、その隣からひょっこり顔を見せた千十世の妹・美也だった。
「かずねぇとみやな、お手伝いやねん」たどたどしい言葉で、美也は言う。「もりもりやねん」
そう言って美也が差し出したのは、上がりたてのドーナツがてんこ盛りに載った大皿だった。揚がりたてなのがよくわかる、鮮やかなきつね色をした豆乳ドーナツ。無意識に、繁雄の腹がぐう、と鳴る。
和希が両手を頭の後ろにやって、いたずらっぽく唇を突き出す。
「あーあ、あとで驚かしたろー思てナイショにしとったのに。タイミングぶち壊しか」
「アホ抜かせ、お前ヨソ様のうち上がるときはちゃんと言えゆうとるやろ!」
すかさず、繁雄のデコピンが和希のおでこを直撃する。そこにみさこさんが慌てて入ってきた。
「ああ、許したってやシゲちゃん。めっちゃ助かってんねんで、二人とも小学生やのにしっかりしてて」
「せやせや! アホアニキ!」
「調子のるな和希! いや、みさこさん、そういう話やなくてですね…」
そこで、ぐううう、とさらに大きく繁雄の腹が鳴った。さすがに恥ずかしくて、口ごもる。
角井さんが苦笑しながら言った。
「……まぁ、なんや。上がってきぃや。揚がりたて摘まんでき」
「あ、いや、でも…」
遠慮しようとする繁雄の意に反し、もう一度、ぐううう、と鳴る腹。
それを抑えているすきに、千十世もなずなも意気揚々と角井豆腐店に入っていく。夫妻に続いて美也も入り、和希が戸のところで振り返った。
「うちが揚げたドーナツ、めっちゃおいしいからな!」
満面のドヤ顔で、そう言って奥に入っていく。
観念して、繁雄はおかもちを持った。そうだ、貰ったコーヒー牛乳は、きっとよく豆乳ドーナツに合うだろう。苦笑しながら溜め息をひとつついてから、いかんいかんと顔を引き締める。
「待たんかい、和希!」
その怒鳴り声も、ピシャン、と閉じられた戸の音とともに消えた。
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